静かな夜の愛し方
「謎」のひと
「容姿端麗、頭脳明晰、有言実行、地位は大佐、29才。私ほどわかりやすいひとはいないと思うがな」
「自分で言うか?」
自身を誉めるロイ・マスタングに、呆れたような台詞を返したのはエドワード・エルリックだ。しかしロイの発言に対して否定はしないところをみると、エドワード自身も認めているという意味になる。
変わったな、とロイは思った。以前は「ばっかじゃねーの」と反論した少年だ。
定期報告のため東方司令部に訪れたエドワードが、話のついでのように言ったのが、
『わからないひとだって、もっぱらの噂だぜ』
どこでそんな噂を仕入れてきたか知らないが、気になるから質問してきたのだろう。他人の言葉に左右される性格でもないのに、相手が好意を寄せるひとだと勝手が違うらしい。
そしてエドワードの言葉に対しての返事が冒頭のものだ。
ロイはエドワードに気づかれないよう笑みを浮かべる。14才も年下の少年と寝たのは記憶に新しい。取引でしたセックスはロイにとって過ぎた話だが、エドワードにとってまだ生々しい記憶として残っているのは想像できる。
「わかりやすい、とはよく言われるぞ」
フォローのように言えば、誰から? と聞き返される。
「ヒューズだ」
「同じひとから何回も言われてるだけじゃん」
適切なつっこみにロイは苦笑する。
「きみには敵わんな」
物怖じしないエドワードの口の聞き方は、堅苦しい軍部にいるせいか清々しく感じるほどだ。
「なにが敵わないー、だ。ホラよ」
エドワードは報告書を提出した。次に鞄から新聞紙をロイに渡す。
「なんだね、これは」
「8面見ろよ」
新聞だ。などと無駄口を叩かないエドワードに促されロイは見る。
ロイが先月警護に赴いた地で、身元不明の焼死体が発見されたと書いてあった。
「おもしろいものを持ってきてくれるね」
ロイは新聞を畳むとエドワードに返した。
「あれ? もしかして知ってた」
一瞬エドワードが意地悪で持ってきたのかと思ったが、金色の目を丸くする様子に、自分の思い違いと知る。
「いや、知らなかった」
正直にこたえると、エドワードはおもしろくなさそうな顔をした。
「大佐は自信家だよな」
そして両手を合わせ新聞に触れる。錬成陣なしの錬成だ。新聞紙はメモ用紙に変わり、エドワードの鞄に収められた。
「明日にはイーストシティをでるぜ。じゃあな」
言いたいことだけ言ってエドワードはロイの前から去っていった。
小さな台風のような来訪だ。少年が去った後はいつも室内が静かに感じる。
「わからないのはきみの方だ」
だがロイは疑問符をエドワードに告げるつもりはなかった。返答はわかりきっている。
『わかりやすいと思うぜ?』
納得いかない返事はお互いさまだと、胸の内でロイは呟く。
春はもうそこまできていた。
「謎」のひと 終