静かな夜の愛し方

天下無敵のラブコール



 電話とは用件を済ませたら切るものだ。ましてここは軍の回線。妻子自慢の電話だけでも充分頭痛の種だったロイ・マスタングに、近頃新たな悩みが追加された。
『という訳、じゃあな、愛してるぜ大佐』
 一方的に言い放つと少年は電話を切った。
 受話器を置いたロイの背中は「ようやく解放された」という言葉が見えそうなぐらい憔悴している。
「お疲れさまです」
 信頼すべき部下のねぎらいの、続く一言に29才の年齢にして大佐の地位にまでのぼりつめた男は撃沈した。
「今日もお熱い電話でしたね」
 本気か冗談か、ホークアイの表情に変化はない。
 今日も、という冠がつくぐらいエドワードからの連絡は多い。毎日とまではいかないが、場所を移動するごとに、事件が起きるごとに連絡がくる。以前は思い出したようにしか連絡をいれなかった少年にしては信じられないほど頻繁にかかる電話だ。
しかも会話の出だしは、「元気だったか?」にはじまり「声が聞きたかったぜ」「会いたいな」「忘れた日はないから」最期の言葉は決まって「愛してるぜ」。
(なんの嫌がらせだ)
 ロイ自身が常に女性に向けて言う言葉の数々だが、同性の、しかも未成年から堂々と言われるとは思ってもいなかった。
「勘弁してくれ・・・」
 自分の恋心に開き直ったエドワードのアタックは、ロイに疲労しか与えなかった。
「大佐が楽しんでいるように見えたのは気のせいでしょうか」
 控えめには聞こえないホークアイの表現は、上司の肩から力を奪う。
「冗談はやめてくれたまえ」
「冗談を抜きにしても・・・大佐」
 一旦言葉を区切ったホークアイは、意味ありげな間を取って上司を見た。
「最近の大佐は富に明るくなったように見受けられます」
 表情を見せない彼女が和らいだ物言いをするのは珍しい。だがロイは彼女の言葉を否定した。
「私がそのような面を見せてはまずいだろう」
 的を突いたロイの言葉に、ホークアイは僅かな沈黙の後にうなずく。
 部下が部屋から退出すると、ロイは背もたれに身を沈めた。そしてイスを反転させて窓の外を見る。
「さて、どうしたものかな」
 ひとの好意をあしらうの簡単だが、向こうは自分の手の内を多少なりとも知っている。相手をするのは厄介だ。
 愛してる。
 簡単に口にしたくなるほどに必死なのだろう。エドワードの心情が手に取るように伝わってくる。
 ロイの口の端が緩やかに上がった。
「無駄だよ、鋼の」
 静かな口調は、わかる者しかわからない程度の響きが潜む。
「私を相手にするには十年早い」
 それは、なにかを楽しむような響きだった。
 見上げた空のむこうにいるだろう、若き錬金術師を思ってロイは、静かに瞳を閉じた。
『愛してるぜ大佐』
 最期に聞いた声がリフレインする。



天下無敵のラブコール 終


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