静かな夜の愛し方

ため息兄さん



 あ、こんにちは、アルフォンス・エルリックです。
 年は14。年齢に合わないサイズの鎧姿のぼくだけど、格好の理由を話すと長くなるので割愛します。
 ぼくの兄さんはエドワード・エルリック。「鋼の錬金術師」と呼ばれて世間ではなにかと有名です。悪名でないだけマシだとぼくは兄によく言います。いつか「破壊の錬金術師」と呼ばれるのではないかと心配します。
 兄さんは元気がいいです。有り余っていつも弾みで爆発しちゃいます。でも最近の兄さんは元気がありません。
「ちょっと行ってくる」と言って宿を出て、すぐに帰ってくるけど浮かない顔をしてます。兄さんは自分が辛気くさい表情をしてるとは思っていないようだけど、兄さんは元気がない。
 前に溜まりかねてどこへ行ってたのか聞いたら、大佐のところに報告をしてきのだと返事がきたんだけど、おかしい。
 大ざっぱな兄さんが、頻繁に大佐へ報告なんてありえない。よしんば義務に目覚めたとしても、大佐と話した兄さんが怒ることはあっても項垂れるなんてない!
「兄さんはなにか任務でも頼まれてるんですか?」
 ぼくは大佐の部下のホークアイ中尉に電話でこっそり聞いてみた。本当に任務があるとは思ってないけど、「兄さんから大佐に連絡がいってるのは本当ですか?」と面とむかって聞けないし。
『なにもないわよ』
 電話越しの声でも中尉の声は穏やかだ。
『どうかしたの?』
 優しく尋ねてくれたけど、ぼくは言葉が見つからなかった。
 兄さんにため息が増えました。大佐と電話をした後は元気がありません。
「な、なにもありません」
 中尉との電話を終えるとぼくは宿に帰った。兄さんは小さなテーブルいっぱいに紙を広げて資料をまとめている。軍に提出する報告書みたいだ。
「そろそろ東方司令部に行くの?」
 聞くと、兄さんの左手の動きが止まった。
「別に・・・」
 兄さんにしては歯切れが悪い。
「ぼくたち何ヶ月も東方司令部に顔をだしてないんじゃないの?」
 いろいろあって、マスタング大佐やホークアイ中尉、ヒューズ中佐とは会うけど、東方司令部には行ってない。
「そうだけど・・・」
「急用もないし、今の内に行かない? ぼく、ホークアイ中尉のブラックハヤテ号に会いたいな」
 ぼくの提案に兄さんは黙った。なにか悪いことを言ったのかと思うぐらい兄さんの空気は重い。
「おまえは行きたいのか?」
 軍のことはぼくより兄さんの問題なのに、兄さんはぼくに念を押すような聞き方をした。
「行きたいよ、東方司令部のひとたちに会いたい」
「行きたいんだな?」
 聞く声が唸るように低いよ、兄さん。
「ぼくの意見はいいから」
「よし、行ってやろうじゃないか」
 喜べよ、と恩着せがましい台詞まで言われて、ぼくは頭が痛くなる。鎧の体に神経は通ってないのに精神的な感覚があるなんて変な話だ。
「・・・どうしても嫌だと言うなら行かなくてもいいぞ」
 そして、意地悪でなくかなり本気な声の兄さんに、ぼくは叫んだ。
「どうしちゃったの、兄さん?!」
 前言をあっさり撤回するのはあまりに兄さんらしくない。
 兄さんは「別に」と気のない返事をすると、報告書の続きを再開した。紙とペンを擦る音。途切れた合間に聞こえたため息。
 どことなく淋しそうなのに、なんとなく嬉しそうで、たまに苦しそうな顔をする兄さんは、本当に変だ。
 なにがあったのか聞いてこたえてくれる兄さんじゃないから聞かないけど、早く元気になってね、兄さん。


 窓から見える満月は、湿気を含んだ空気のせいでぼやけた感じだ。冷え冷えとした冬の月を懐かしく思う。



ため息兄さん 終


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