Title:MilkAge

遠慮/あるホームパーティでの出来事
悠澄がどうにか歩けるようになってから、友人宅でパーティがあった。我 家を含め、数家族が招待されていた。

食事も終り、皆んな好き勝手な場所で談笑している時、私の足元で悠澄が 数メートル先にオモチャを見つけた。

じっと視線を投げ掛けているので気付いたのだが、その目標物までの間に 友人達が5〜6人立ち話をしている。直線ルートでは、彼らの足を踏み越 えなければならない。迂回路では、少し遠くなる。

どうするつもりだろうと、ニヤニヤしながら観察することにした。悠澄 は、しばらく上を見上げ、立ち話をしている友人達にサインを送る。しか し、そんなサインに気付く友人は居なかった。無視されたことが判ると、 さっさとお情けルートは放棄して、迂回路を選んだ。ヨッチヨッチと友人 の後ろを回って行く。「おーっ、日本人だなぁ」などと感心してしまう。

ようやく、目標に到達した瞬間、他の子がそのオモチャを取り上げてしま った。多分その子は、悠澄が長い旅をしてきたものとは知らないし、悠澄 が狙っていたことすら知らないかもしれない素振りだ。

目標を、目の前でかすめ取られた悠澄は、一瞬哀しい表情で天を見上げ、 それからややうな垂れながら、帰路についた。同じ迂回路で私の足元まで 戻ってきた。

なんとも、いじらしい。この子も、こうやって人知れず忍耐を経験して行 くのだ。とても、貴重な時間を目撃した気がする。少し間を置いてから、 足元の悠澄を抱き上げた。

男好き
アパートに慣れてきてから最初にしたことは、教会探しだった。クリスチ ャンであるので、日曜日に教会に集わないことになにかしら抵抗があっ た。

電話帳で調べた教会は、日曜だけ小学校の体育館を借りている所であり、 総勢30人にも満たない小さなものだった。もちろん日本からの来客は初 めてではあったが、暖かく迎えてくれて、その後帰国までの3ヶ月は毎日 通うようになる。

悠澄は、礼拝の間じっと座ってなどいられないので、幼児室(といって も、単なる廊下だったが)に預けた。ここで、面白いことに気付かされ た。幼児室の担当は、交代で色々な人がやるのだが、悠澄は決まって、男 の人の所に行く。遊び相手も、世話好きの優しい女の子より、特に世話も 焼いてくれない男の子を選んで追いかける。

悠澄は、よく笑う子で、人見知りも殆どしない。初対面では、時に恥ずか しがっているように親の陰に隠れようとするが、先ず、誰彼となくにこや かに接する。そのおかげで、特にお母さん達に人気があったが、本人は女 性を避けて、お父さんや活発な少年にひっつく。もったいないなぁ...な どと訳の判らない感想を持って、私は見つめていたものだ。

しかし、1才程度で、ちゃんと相手の性別を認識するのである。人間の認 識力は、複雑で難しいものである。

アメリカの子役
出張中は言葉の壁があるのであまりテレビを見なかったが、子供が主役の ものは何とかついて行けるので何本かは決まって見ていた。

そこで気付かされるのが、子役の巧みさである。もともと身体中で感情を 表現する国民だし、人口も多い、ハリウッドもある。役者人口も多いだろ うし、その層の厚さも相当なものだろう。しかし、うまい子役が結構目に とまる。役者にとって泣く演技はそれほど難しいものではないらしいが、 涙をこらえて何かを訴える子の表情に何度ジーンとさせられたことか。言 葉が判らなくても、見入ってしまう。

しかし、あの彫りの深さと鼻の高さはずるいよなぁ。父親似と言われる息 子のどちらかというとのっぺりした顔をじっと見る。「がんばれよ」、思 わず声にだしてしまった。

家族写真
アメリカ人の家を訪ねたことがあるだろうか、初めての家では大抵はツア ーが始まり、トイレの中まで案内して、色々と説明をしてくれる。話を半 ばいい加減に聞きながらも、所々に家族の写真が連なっていることに気付 かされる。

その写真は、日本のものとはひと味違う。明らかにスタジオでプロが撮っ たもので、皆が笑っている。

妻の卒業写真も笑っている。笑わないと撮ってくれないのだそうだ。妻の アメリカ時代の大学などの正式な写真は、どれも少し斜めを向いて笑って いる。日本のような、そのまま指名手配の写真に使えそうなものは1枚も ない。

そんなアメリカで家族写真を撮ろうと言うことになった。キッカケは、近 くの何でも屋で、安く家族写真を撮るサービスをしていると知ったことだ った。

一応おめかしして、3人で出かけた。親は常に笑っていて下さいと注意さ れて、カメラマンは息子を笑わせるのに集中する。私達が少しでも、しゃ がんだりして息子の方を見ると、怒られる。「子供だけ笑って、親が下向 いた写真になるよ」と。簡単なスクリーンの前に、木馬や椅子など小道具 を並べて、何種類か撮って行く。そして2〜3日後、サンプルを見せてく れる。ここまでにかかる費用は6ドル。見せられたモノは、写真屋が勝手 に選んだ数枚の写真。ここで、それが気にいると何ドルか余計に払って、 色々なサイズの100枚程の1セットを手にすることになる。結局、モデ ルの出来も手伝って、全体的には気にいらなかった。そうなると、1枚だ けB4サイズほどの写真をくれる。これがかの6ドル分である。もちろ ん、その場に1セット分は既に現像されて置いてある。あんなので、採算 が取れるらしい。

という訳で、にこやかに悠澄だけが笑う家族写真は、我家の押し入れに眠 っている。

テレビのボリューム
アメリカのアパートで、悠澄は「ひねる」ことを覚える。相手は、テレビ のボリュームであった。

とことことテレビに近づいては、一気にまわしてくれる。突然大音量が飛 び出し、それに驚いて泣き出す。そんなことを何度も何度も繰り返えし た。何度も何度も飛んで行って、小さくする。

何故か、小さくする方にはまわせない。必ず大きくなる方にまわしてくれ る。しかし、アメリカで良かったのかもしれない。防音は日本よりよさそ うだ。

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