原告第9準備書面
本書面では被告による溝口チエの民間病院資料(カルテ)収集に重大な不備、過失があったことを示す。
1 被告は第1準備書面 第4「本処分の適法性について」において資料収集活動について以下の通り答弁している。
「水俣市立病院については、平成6年6月13日付けで、文書照会したところ、『保存期間経過等によってカルテがない』との回答であった。
また、S医院、I医院については、いずれも廃院になっていたため、資料を得ることが出来なかった。」
なお同院の廃院を確かめた日時について明記されていないが、平成6年6月頃であると思われる。
2 ところが原告側の調査によると、S医院の廃院は平成4年3月頃ではあるが、同医師は医師法もあって、廃院後もカルテを自宅同院の倉庫に整理して保管していたのであり、法定保存期間の5年を過ぎた平成9年か10年に焼却したということである。
3 なお、同院に当時勤務していたK子氏も、「S医院は県側が水俣病の患者について、いつ調べに来てもいいように、水俣病を疑われる人のカルテはいつもキチンと整理して保管してあり、廃院の時もそのまま整理して、段ボールに入れて倉庫に保管した。従っていつでもすぐ、カルテを見せることができた。」と、S医師と同趣旨の陳述をしている。
4 つまり、被告側は、これほどまでに整理してあったS医院のカルテを、同医院が開院している期間中も、まったく収集することがなかったのである。
しかも廃院後も、被告側は、同院の廃院状況を現地に行って調べるでもなく、ただ行政上の関係書類を見て、廃院と知り、その途端に収集調査を打ち切ったのである。
即ち、被告側は、S医師へ直接の電話はもとより、現場の調査、カルテの有無の確認すらしていなかったのである。
5 このように平成6年6月の時点では、溝口チエのカルテはS医師宅の倉庫に確実に保管されていたのである。
これを現地調査どころか電話一本すら確認していないのは、資料収集義務を負った被告の重大な過失であり、重要資料の散逸・破棄を期待していたという意図的なものを感じる。
6 行政不服審査請求の手続き過程の中で、原告側の再三の要請に応じて環境庁(現 環境省)の係官がようやく、S医師宅を訪れたのは平成12年であり、上記の通りカルテは既に焼却処分されたあとであった。
7 以上の通り、被告は、これまで準備書面で詳述したとおり未検診死亡者に対する認定制度の総合的施策の欠如に加え、溝口チエに対する審査の異常な長期間放置があり、その上に本件で指摘したとおり、未検診死亡者にとっては決定的な資料であるカルテの収集の努力を怠るという重大な怠慢・過失を犯しているのである。
よって被告の認定制度上の行為の違法性はあまりに重大であって、もはや溝口チエを棄却する権限は存しないのである。
以上