原告第32準備書面(義務付け訴訟)
1 被告は、平成17年12月5日付答弁書において原告が提起した被処分者溝口チエの認定処分の義務付を求める訴えに対し、本件訴えは訴訟要件を欠き、不適法であるから却下されるべきである旨述べる。
原告は、被告の主張が法令の解釈を誤り根拠のないものと考えるので、以下反論を行う。
2 すなわち被告は、申請型義務付け訴訟のうち『申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきもの』であるときに限り提起することができる(行政事件訴訟法第37条の3第1項2号)との規定について「本件訴えに併合される処分の取消請求が認容されることが訴訟要件となるものと解される」という解釈論を示した上で、「本件申請を棄却した本件処分は、現在係属中の本件取消訴訟における被告の主張のとおり適法であるから、本件処分が取り消されるべきものに当たらない」。従って、本件訴えは訴訟要件を欠き不適法であるから却下されるべきであると主張する。
こうした論旨は、以下の理由から失当である。
3 まず、行訴法第37条3第1項2号にいう当該処分が「取り消されるべきもの」について、被告は当該処分の取消請求が認容されることが訴訟要件となると解しているが、処分が「取り消されるべきもの」であるか否かは、本案審理を経てはじめて決定される以上、「取り消されるべきもの」という規定は訴訟要件と解するのは妥当ではなく、本案の勝訴の要件と解するのが妥当である。
学説上も『なお、拒否処分型の場合、処分が「取り消されるべきもの」であること等は訴訟要件ではなく、本案の問題ではないのか、という疑義が呈されている。条文の趣旨は、申請拒否処分につき義務付け訴訟による救済まで認めるのであれば、いわば「当然の前提」として当該処分が「取り消されるべきもの」等々でなければならない、ということであろうが、当該処分に係る義務付けの請求は、取消訴訟・無効等確認訴訟と併合しなければならないという仕組みになっている以上、これは訴訟の出口のレベルの問題であって、訴訟要件の問題ではないのではないか、とも思われる。』(詳解 改正 行政事件訴訟法 橋本博之解説)との見解が有力である。
4 次に、当該処分が「取り消されるべきもの」とは、当該処分の取消請求が認容されることを意味し、これが義務付け訴訟を提起するにあたっての訴訟要件であると解するのは、行政事件訴訟法改正の根本趣旨に反する。
つまり、当該処分の取消請求が認容されるときに限り義務付け訴訟を提起できるという考えかたによれば、義務付け訴訟を提起しようとする者は、まず前段に取消訴訟を起こし、それに勝訴して勝訴判決を手にした上ではじめて義務付け訴訟を提起することができるという仕組みにならざるを得ない。この取消訴訟前置主義は、義務付け訴訟と取消請求の併合を義務づけた行訴法第37条の3第3項の規定と明らかに矛盾する。
ところで、行政事件訴訟法を改正するにあたり、行政訴訟検討会が平成16年1月6日に発表した「行改訴訟制度の見直しのための考え方」によれば、今回の改正の目的は、「行改訴訟制度につき、国民の権利利益のより実行的な救済を図るため、その手続を整備する」ことにある。そして、その実現のために4つの基本的な方策(@救済範囲の拡大 A審理の充実・促進 B行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み C本案判決の前の仮の救済制度の整備)が示された。こうした行政事件訴訟法改正の目的に照らしても、被告のいう取消請前置主義という考えかたは、その根本趣旨を否定する不当なものと言わねばならない。
5 よって、被告の本訴を不適法として却下を求める答弁は失当であり、本件義務付け訴訟に於ける本案審理はそれ自体として審理を尽くさなければならない。
1 原告は、いわゆる52年判断条件が(旧)公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(以下「旧法」という)の趣旨に反する違法無効なものであったことを正面から主張立証する予定である。
すなわち、旧法はメチル水銀によって健康に被害が生じたか否か、ただそれだけの判断を求めているものであるのであるから、その判断は、正しい医学的見地に基づいて為されるべきところ、52年判断条件の前提となったいわゆる抹消神経説が医学的にも誤りであったことは、水俣病関西訴訟で既に明らかになったところである。
従って、溝口チエが水俣病であったか否かについて、行政認定においても52年判断条件を用いることは、明らかに誤りであり、水俣関西訴訟大阪高裁の判断基準が行政認定においても妥当する基準となるのである。そして、その基準からすれば、溝口チエは明らかに水俣病であった。
2 以上の観点から、原告として予定している主張の骨組みはおおよそ以下のとおりであり、原告はこの主張立証計画に従って、現在書証の提出、証人の申請を鋭意準備中である。
@ 旧法の制定経緯
A 旧法の構造(目的、地域と疾病の指定 認定制度)
B 旧法の趣旨や目的から求められる認定基準とは
C 認定基準の設定 その1
・46年事務次官通知の意味するもの
・その通知発布の契機となった行政不服審査に関する裁決書
D 認定基準の設定 その2
・52年判断条件が示された経緯
・52年判断条件と組み合わせの医学的根拠
E 46年次官通知と52年判断条件の関係
F 水俣病に関する医学的知見の変遷とその誤謬
G 52年判断条件の果たした役割と違法性
H 水俣病関西訴訟大阪高裁判決の内容と判断基準が行政認定の基準として妥当すること
I この基準からすれば、溝口チエは明らかに水俣病であること
1 原告は、原告提出の第29準備書面の第1において、被告の本訴訟の争点についての主張、すなわち「本件申請者が水俣病であったかどうかにつきるべきである。」という見解について批判を加えた。
被告は、その後の証人申請についての意見書でも同様の意見を述べていて、本件の争点を強引に病像論だけにしようとする意図を感ずる。
しかし原告は、第29準備書面をはじめとして一貫して本件処分が、被告の未検診死亡者への違法な行政対処の結果であると主張してきた。ところが被告がこれらの論点については何らまともな反論をなさず、上記のとおり溝口チエ(以下、「チエ」という)病状のみを主張することは、本件行政処分の本質をすり替えるものである。
2 しかし、本件原処分が水俣病認定棄却処分である以上、チエが水俣病に罹患していたかどうかについて重要な問題であることは論をまたない。
原告は当然この争点についても、原告提出の第4準備書面・第20準備書面で主張し、チエの水俣病罹患と水俣病像について主張してきた。
そして津田医師の証言と証言を補充する意見書(甲第161号証)によってもこの争点について厳密・明確に主張立証してきた。
3 そして今回、原告は前述の主張立証計画に従って、義務付け訴訟の趣旨をより強く主張立証するために、熊本大学医学部生体微細構築学教室二宮正医師にこれまでのチエの医学資料を精査してもらい、二宮正医師が作成した意見書(甲第164号証)を提出するものである。
以上