原告意見陳述書030627
この間、被告は第2・第3・第4準備書面を提出し、原告の第6乃至第10準備書面に対して反論している。
原告は、これら被告の準備書面の反論に対していずれも到底納得できるもの、ではないので、詳細な再主張の準備書面及び書証等を次回期日直前に提出するものである。
しかし、再主張するにあたり、現段階でどうしても整理しておかなければならぬ点を数点陳述する。
1 被告第2準備書面は、原告第6準備書面の反論である。
原告第6準備書面の主張の骨子は、水俣病認定制度の歴史と、その違法な運用実態を較べたものであった。
2 これに対して被告は認定制度の歴史と実態は本件に関連性が無いとして反論する。
しかしおよそ物事の適否を判断するについて哲学と(この場合は法)と歴史の考察なくして為されることは考えられぬことである。被告のこれらを無視する姿勢にこそ、水俣病認定制度の全ての誤りであり、原因である。
まして被告側は一貫して患者切り捨ての意図のもとに水俣病認定制度を悉意的に運用してきたものであり、法と歴史を確証することにより本件がその一角であることが裁判所に理解されるのである。
次に、被告は救済法の立法趣旨は公害の発生責任者による賠償等が行われるまで対応のつなぎの措置として健康被害の救済を図るものと、迅速かっ幅広い範囲にわたる救済であると、被告自身がはっきり認めている。
従って、被告は本件において応急のつなぎの措置として迅速広範な手続きをしたか否かである。
被告は、溝ロチエが申請から21年間、死亡から18年間手続きを放置したものであって、救済法の趣旨に明確に反していることを、被告が認めているに等しい。
3 被告は救済法の趣旨には公衆衛生の観点が全くなく、副次的に杜会保障的性格を併合する制度であると反論する。
しかし、公衆衛生は住民の健康維持増進を窮極の目標とする為にまず住民の健康被害の可能性の調査、予防対策、被害が発生してからはその確認、治療、救護、経済的支援等多種の対策手続きを要するものであり、被告が水俣病認定制度をこの意味での公衆衛生の観点を含まぬものと考えていたのであるから、水俣病事件において全て行政が後手後手にまわり、認定制度が公衆衛生の目的をまったく果たさず、逆に患者数の隠蔽の結果をもたらしたのである。
4 被告は、認定制度の違法運用実態をほぼ認めながらも、認定基準はあくまでも「高度の学識と豊富な経験と基づく医学的判断にゆだねられている」と反論する。
原告は、その要件こそ、まさに、水俣病認定に「疫学」を活用すべきことと主張するが、被告はこの抽象的な言葉の要件の具体的内容をどのようなものと主張するのか。
この具体的主弓長がなければ被告の反論はまやかしの言葉遊びである。
5 被告は22頁で民事訴訟と行政での水俣病被害者の判断方法が違うことを力説している。
この違いについて、原告は次回提出する準備書面で、理論的・法的の分析を展開する。
この点はおき、仮に被告の主張のように違いを認めたとして、水俣病を認定制度としてどちらが蓋然性として高度なものを要求されるのか。
無論、行為者の特定と、責任の特定のために行う民事訴訟の方が高度であろう。
ところが水俣病認定制度の歴史の実際は行政で棄却されたものが民事訴訟で認められている例が多数ある。
この点こそ問題であり、娃告が明らかにすべきことは、過去に行政が否定した被害者が司法で認められた例を全部列挙すべきである。
このとき、被告のこの反論が、いかに欺嚇であるか明確になる。
6 被告は32頁で精神神経学会見解は、現時医学界の大方のコンセンサスを得たものではないと反論する。
しかし、精神神経学会は、水俣病の主要症状である病状に関する、日本一の研究団体である。この日本精神神経学会の見解が水俣病の判断についてコンセンサスが得られていないというのであれば、被告は具体的にどのような状況になったときに「大方のコンセンサスが得られた」というのか、具体的に明らかにして頂きたい。
7 被告は33頁において、あろうことか救済法の水俣病と、損害賠償請求事件の「メチル水銀中毒症」は別の医学的概念であると主張する。
被告のこの準備書面の前半の主張にも明らかに反する主張で、不節操であり論理矛盾もはなはだしい。
それでは具体的にどのように異なる概念なのか科学的・医学的論理をもって、具体的に主張されたい。
1 被告の第3準備書面は原告の第8、第9、第10準備書面に対する反論である。
原告第8準備書面は溝ロチエの水銀曝露歴につき詳述したものであった。
被告はこれに対して、同一家族だからといって必ずしも同じものを食べていたとは言えぬし、同じように発症するとは限らない、と主張する。
被告のこの反論は、公害被害の実態を無視し、認定手法を無視した大欺嚇である。
公害被害実態としては、同等生活様式をとる住民は同等摂取、同等発症の蓋然性がある。
問題は、同一と同等の差であり、これが公害被害、曝露歴上無視するに足りるか、個別に調査しなければならぬ程かの調査、判断が被害者の認定には必要なのである。
これを意図的に抜かし「同一」でないと主張することでは、迅速・幅広い救済など実現しようがないではないか。
被告の反論は公害被害の捕らえ方で、まず、大きな誤りを犯している。
2 溝ロチエの孫の胎毛の水銀値の検査につき、被告は検体自身を疑ってかかっているが、他の主張では被害者・申請者の努力を要求しながら、このように実際に申請者が認定の努力をした途端にこれを無視する態度である。
この検査の反論についても次回詳しく分析するが、被告が水俣病事件の初期において組織的に住民毛髪などの水銀値調査をせず、また、存在する調査データを放置しておきながら、何という反論であろうか。
50年近く経過して、住民の孫の毛髪が発見されたのであるから、被告は貴重な検体として、これから多くのことを学ばねばならぬはずである。
3 原告第9準備は、溝ロチエのカルテが、最近までS医院に存在していたことを主張したものであった。
これに対して被告は勝手に、同院廃院時にはカルテは保存されていなかったと推認する。
同院長の報告書がありながら、何故にカルテは保存されていなかったと「推認」するのか、原告にはまったく理解出来ない。
このような場合は「独断・偏見による」と表現するのであろう。
それはともかく、被告側は認定制度の歴史において公式にカルテ等の収集を公務としていたのであり、同医院の廃院前に、いや、申請後約21年間、死亡後18年間、電話を一本架ける機会も無かったというのであれば、何故同院にカルテを確かめる努力が出来なかったのか、具体的に釈明願いたい。
4 被告は、本件手続遅滞に関して種々の弁解をするが、溝ロチエに対する検診以外に、溝ロチエを迅速・幅広く認定する為にどのような努力をしたのか明らかにして頂きたい。
この釈明なくして、申請者が多数存在したとか、溝ロチエが死亡したなどと弁解しても、まったく弁解にすらならない。
5 原告第10準備書面の前半は、被告が手続きを適正に為してさえいれば、溝ロチエが認定されることは明らかであったことを詳述している。
これに対して被告は、溝ロチエの検診所見が少ないことや、その少ない残された症状では水俣病と認定できぬ、と主張する。
この点についても原告は、次回、医学的に詳しく再主張するが、検診所見が少ないことの責任は、全て被告側にあることを無視した反論は疑問である。
申請者の症状所見をとることは、通常の医師で十分に対応できるものであるから、被告の、申請者が多数であったことを理由にするこの弁解は、責任転嫁である。
6 被告は10頁で、疫学が個人患者には適用できないという反論を行っている。
これも原告は疫学専門家の協力得て、被告の誤謬、欺嚇を徹底的に反論する。
しかし被告は14頁で、感覚障害はありふれた症状であるから、これもって水俣病と認めることは出来ない、と30年前の主張を恥ずかしげもなく続けている。
ところで、疫学の知識については司法の方が被告よりもずっと進んでおり、疫学の適用範囲は、個人にも及ぶことは常識として認識されていることは、過去の多くの公害裁判判決で明らかである。
被告はこれら過去の判決をどのように分析しているのか、まったく知識の積み重ねの努力をしていないのか。
1 被告第4準備書面は、原告の第7準備書面と第10準備書面の後半に対する反論である。
原告は、これらの準備書面で溝ロチエの手続きは「極度の遅滞」であり、この場合は単なる認定手続きの違法にとどまることなく、被告が処分を棄却することが出来なくなる法的効果が発生することを主張した。
これに対して被告は、このような法的効果は法定されていないし、「待てば認定する」と申請者に告げた訳ではないから、認められないと反論する。
しかし、救済法が迅速かつ幅広い救済の立法としている以上、「待てば認定する」と申請者に告げたのと同様である。
また、もし本件のような異常・極度の遅滞に対して、認定手続き上の救済が為されなかったからこそ、被告は30年以上も違法を続けてきたのである。
2 被告は、立証責任について原爆被爆者に関する最高裁判例を引用するが、原告の主張は本件につき、異常・極度の遅滞状況を理由とするものであるから、事案がまったく異なるのである。
これらの点についても次回の準備書面で詳述し反論する。
被告の反論は今回の第3準備書面まででほぼ完結した、と原告は考えているがこの理解でよいか。
被告の今回の反論準備書面は、これまで述べたとおり根拠に基づかない主張が目立つ。
そこで、原告は被告に対して、次回期日までに求釈明事項或いは文書提出などを求めるが、是非8月末日を目処に回答して欲しい。