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被告第1準備書面

第1 はじめに

 被告は、本準備書面により、被告が平成7年8月18日付けでした本件申請者溝口チエの昭和49年8月5日付の水俣病認定申請を棄却する旨の処分(以下「本件処分」という。)が、適法なものであることを主張する。
 本準備書面の構成は、以下のとおりである。
 すなわち、まず、前提として、水俣病の病像(第2)及び認定業務の概要(第3)を説明した上で、本件処分の適法性(第4)を明らかにし、最後に、原告の2002年3月15日付け第1準備書面(以下「原告第1準備書面」という。)「第3章 求釈明」に対する回答(第5)を行う。

第2 水俣病の病像について

1 水俣病の病像

(1)水俣病の意義
 水俣病は、工場排水に含まれるメチル水銀が魚介類が蓄積され、それを大量に経口摂取することによって起こる神経系疾患である。

(2)水俣病の病理
 経口摂取されたメチル水銀は、主に腸管から体内に吸収されるが、体内に取り込まれたメチル水銀は体内の様々な組織を一様に傷害するのではなく、主に中枢神経系を中心とする神経系の特定部位を強く傷害することが病理解剖学的に確認されている(水俣病の主な病変部位についての図−1参照)。
 すなわち、大脳で主として傷害される部位は、後頭葉の線野とくに鳥距溝の前半部(周辺部視野の中枢)、頭頂葉の中心後回領域(感覚の高次中枢)及び中心前回領域(随意運動の中枢)並びに側頭葉の側脳溝に面する横回領域(感覚の中枢)である。また、小脳(運動の円滑さや身体の平衡をつかさどる。)では、虫部及び半球が傷害される。さらに、脊髄末梢神経では、知覚神経(末梢の感覚受容器から中枢方向へ刺激を伝える)に変性所見が認められている。なお、傷害の程度は症例により異なり、同一人の中でも部位ごとに多少の差があり、一定したものではない(荒木淑郎「神経内科学」第2班〔乙第1号証〕736ページ、737ページ、744ページ、武内忠男[メチル水銀中毒の病理学的研究」〔乙第2号証〕、武内忠男ら「水俣病の病理総論−とくに人の水俣病病理について−」有馬澄雄編・水俣病−20年の研究と今日の課題−〔乙第3号証〕465ページ)。

(3)水俣病の発症について
 このように、水俣病においては、神経系の特定部位が等しく傷害されるため、これらの傷害部位に対応する症候が出現することとなるが、傷害の程度によっては、傷害を受けた部位に対応する症候が必ず出現するとは限らない(なお、臨床医学においては、患者が自覚する病的状態(いわゆる自覚的症状)を「症状」、他覚的に認められる病的状態(いわゆる他覚的所見)を「徴候」「所見」、これらを合わせて「症候」と呼び、区別している。)。
 また、同程度のメチル水銀を吸収蓄積しても万人が等しく水俣病になるわけではない。メチル水銀に対する感受性には個人差があり、水俣病を発症するメチル水銀量にも個人差が認められるからである。

(4)水俣病の主要症候について

ア 水俣病にみられる症候としては、四肢末端の感覚障害、運動失調、平衡機能障害、求心性視野狭窄、歩行障害、構音障害、筋力低下、振戦、眼球運動異常、聴力障害など挙げることができる。そこで、以下において、そのいくつかについて具体的に説明する。

イ 感覚障害
 人の感覚は、視覚、聴覚等の特殊感覚や内臓感覚を除くと、大きく分けて表在感覚(触覚、痛覚、温度覚等の皮膚あるいは粘膜の感覚)、深部感覚(関節位置覚、振動覚、圧痛覚等の骨膜、筋肉、関節等から伝えられる感覚)及び複合感覚(皮膚の二点を同時に触れて、これを識別できるという感覚=二点識別覚、閉眼させた状態で使いなれた物体、例えば鍵やマッチ箱等を触れただけでその物品名を当てることができるという感覚=立体覚、皮膚に書かれた数字等を当てることができるという感覚=皮膚書字覚、等)の別がある(田崎義昭ほか「ベッドサイドの神経のみかた」第15版所収の「感覚の診かた」〔乙第4号証〕91ページないし98ページ)
 水俣病にみられる感覚障害は、左右対称性に四肢の末端部ほど強く現れ、表在感覚、深部感覚及び複合感覚のいずれもが低下(鈍化)するものであるが、その程度はほとんど感覚の脱失に近いものからごく軽度のものまで様々である。
 この症候は、大脳頭頂葉の中心後回領域及び脊髄末梢神経(知覚神経)の傷害に起因するものである。

ウ 運動失調
 円滑な運動の遂行には、多くの筋肉が調和を保って作用することが必要である。運動失調は、運動の命令を出す大脳の中枢、それを伝える神経及び運動の原動力である筋肉のいずれにも異常がなく、振戦(不随意に生じる小刻みな震え)などの不随意運動もないにもかかわらず、意図した運動が円滑にできず、運動の方向や程度が変わってしまう協調運動障害、さらに、体位や姿勢を保持する(まっすぐにじっとしている)のに必要な、随意的あるいは反射的な筋の収縮が損なわれることによる起立時、座位時の姿勢の異常や歩行障害などの体幹運動失調として出現する(田崎義昭ほか「ベットサイドの神経の診かた」第15版所収の「小脳機能の診かた」〔乙第5号証〕139ページ)
 水俣病にみられる運動失調は、一側に偏位することなく両側性に現れる。
 この症候は、主として小脳の傷害に起因するものである。

エ 平衡機能障害
 身体の平衡は、身体の位置に関する情報が入力器官である各種感覚器(内耳前庭、視器、深部感覚器)より中枢神経系(脳幹、小脳等)に伝達され、そこで処理されて出力器官である筋の緊張の変化を引き起こすという反射機構によって保持されている(切替一郎原著・野村恭也編著「新耳鼻咽喉科学」第9版〔乙第6号証〕40ページ参照)。平衡機能障害は、前述のような神経内科的所見(体幹運動失調)として認められるものと、視刺激によって誘発される異常眼球運動等の神経耳科的所見として認められるものがある。
 水俣病にみられる平衡機能障害は、主として小脳及び脳幹の傷害に起因するものである。

オ 視野狭窄
 外界から眼に入ってくる光線は、角膜、瞳孔、水晶体を経て、硝子体に入り、網膜の視細胞を刺激する。網膜視細胞に与えられた刺激は視神経を経て大脳後頭葉に達して初めて視覚を生じる(丸尾敏夫「エッセンシャル眼科学」第6版〔乙第7号証〕14ページ)。
 視野とは、視線を固定した状態で見える範囲、いわゆる視覚の広がりである。視覚の広がりを単なる平面的な広さとして把握するのではなく各部位の視覚感度分布を調べることによって詳細な情報を得ることができるが、これを量的視野という。眼の中心部と周辺部とでは視覚感度がが異なり、中心部は視覚感度がよく、周辺部は悪い(所敬ほか編「現代の視科学」第8版〔乙第8号証〕42ページ及び43ページ)。
 水俣病にみられる視野の異常は、視野の周辺部が見えなくなる求心性視野狭窄〔同号証47ページ〕であり、両側性に出現し、中心部の視力はよく保たれている。
 この症状は、大脳後頭葉の鳥距溝前半部の傷害に起因するものである。

カ 眼球運動障害
 視線を右から左、上から下へ移動させると、左右の両眼球はほぼ並行して同方向に移動する。このような眼球運動を共同性眼球運動と呼び、滑動性眼球運動、衝動性眼球運動などがある。滑動性眼球運動は滑らかに動く視標を追従する。比較的遅く滑らかな連続性の眼球の動きであり、衝動性眼球運動は急速な視線の変更に伴う瞬間的、急激な眼球の動きである(小松崎篤ほか「眼球運動の神経学」〔乙第9号証〕2ページないし4ページ)。
 水俣病にみられる眼球運動障害には、眼球が視標の動きにつられて滑らかに動かず、小刻みに動いたり、ある一点で停止して、しばらくしてから大きく動くといった滑動性眼球運動障害と、急速に視線を移したときに眼球の動きが行き過ぎたり、行き足りなかったりする衝動性眼球運動障害があり、いずれも、左右対称性(左右両方向の運動異常が出現すること)かつ左右共同性(右眼と左眼に同じような異常が出現すること)の眼球運動障害である。
 この症候は、大脳の眼球運動中枢及び小脳の傷害に起因するものである(筒井純「水俣病の視科学的所見について」有馬澄雄・水俣病−20年の研究と今日の課題−〔乙第10号証〕434ページないし437ページ)。

キ 難聴
 聴覚には、音を振動として伝える系と、伝えられた振動を電気的な信号に換え、神経を介して聴覚中枢に伝える系があり(図−2参照)、前者の傷害を伝音性難聴、後者のそれを感音性難聴と呼んでいる。そして、感音性難聴は、さらに迷路(内耳)が傷害されることによって起こる迷路(内耳)性難聴と、内耳で変換された電気的な信号を伝達し、音として認識する聴神経から中枢(脳)までのいずれかの部位が傷害されることによって起こる後迷路性難聴とに区別されている。
 水俣病にみられる難聴は、後迷路性難聴であり、大脳側頭葉の側脳溝に面する横回領域の傷害に起因するものと考えられている。

2 水俣病の臨床診断方法

(1)診断基準について
 臨床医学においては、個人の有する症状の原因は診断によって明らかにされる。診断とは、医師が接する患者について、その患者に生じている異常事態を正確に把握し、これによって適切な処置を行うための根拠を得る手続きである。診断という手続又は過程には、技術を用いて情報を集める部分と、それらの情報の持つ意味を医師が自らの知識、経験によって判断する部分とがあり、これにより患者に生じている異常を評価する。
 診断の過程において、ある疾患に特異な所見(その疾患にしかみられない所見)が得られるならば、その所見を検出する客観的な検査(血液検査、X線検査等)のみで診断が可能となる。例えば、生検によって癌細胞が確認されれば、癌に罹患していることを確定的に診断できる。
 一方、疾患によっては特異な所見がもともと存在しない場合があり、そのような場合には、患者の訴える症状を把握した上、これと各種の臨床検査の所見を総合して、いかなる疾患に罹患しているかを判断することになる。特に臨床検査の所見によって有力な情報が得られない場合には、症候(症状及び徴候)の組合せによる症候群的診断によらざるを得ないのである。
 すなわち、一つひとつの症状や徴候、所見はそれだけでは一つの疾患に対応するとは限らない。例えば、肺癌患者は比較的高頻度に咳をするが、咳の症状を呈する疾患は多数存在するから、咳の症状を有するからといってそれだけで肺癌と診断することはできない。X線写真は、有力な手がかりとなるが、それでもX線写真だけから肺癌の診断を下すことはできない。
 しかし、いくつかの症候が同時に出現し、その組合せに肺癌患者特有の一定の規則性が認められるときには、そのような諸症候は臨床診断上重要な意味を有することになる。このような症候の組合せを症候群といい、症候群を基にした診断が症候群的診断といわれるものであり、臨床診断における最も基本的な手法である(吉利和監訳「ハリソン内科書1」第9版〔乙第11号証〕7ページ及び8ページ参照)。
 ところで、症候の組合せに基づいて症候群的診断を行う場合、症候には出現頻度の差や他の疾患では通常みられない特異的なものかどうかといった違いがあるから、どのような組合せであっても診断価値が等しいというものではない。その中でも診断上の価値の最も高い組合せが診断基準とよばれるものである。(鈴木秀郎「診断基準の意義とその功罪」内科第55巻第6号〔乙第12号証〕1006ページないし1008ページ参照)

(2)水俣病の診断について
 前記のとおり、水俣病は、メチル水銀が神経系を傷害することにより、主要症候として掲げた各種の神経症状を呈する疾患である。これらの主要症候がみられる場合に、直接に生検などの方法によって、メチル水銀による傷害を証明できれば、水俣病の診断は明確であるが、傷害部位(神経系)の性質上生存中にそのような検査を行うことは実際上不可能である。
 さらに前記の主要症候は、それぞれ単独では非特異的であり、他の疾患によってもそれらの症候を来す場合がある。
 具体的には、四肢末端ほど強く現れる感覚障害は主なものを挙げただけでも、急性感染症、栄養障害(脚気等)、内分泌障害(糖尿病等)、代謝障害(尿毒症等)、重金属・有機溶剤中毒、薬剤の副作用及び悪性腫瘍に伴う感覚障害があるほか、原因不明のものも多い。運動失調、平衡機能障害、眼球運動障害及び難聴は、腫瘍、多発性硬化症等の脱髄性疾患、各種中毒、血管障害、各種の変性疾患等の疾患で認められ、また、求心性視野狭窄は網膜色素変性症や緑内障等の疾患で認められ、いずれも水俣病に特異な症候とはいえない。
 したがって、水俣病の診断は、メチル水銀によって引き起こされる各種の症候の組合せから、メチル水銀による神経系の傷害を推定するという症候群的診断によらざるを得ないのである。
 また、前述のとおり、メチル水銀による神経系の傷害では、傷害を受けた部位に対応する症候が必ずしもすべて出現するとは限らないのであるから、前記の主要症候のすべてがそろうことを求めることも相当ではなく、どのような症候の組合せがあれば、メチル水銀の影響が推定できるかが検討されなければならないのである。
 そこで、昭和50年に環境庁は、熊本県、鹿児島県、新潟県及び新潟市の認定審査会の委員等、水俣病に関して造詣の深い各分野の専門家17名からなる水俣病認定検討会を設置し(乙第13号証)、水俣病の範囲に含めて考えられる症候の組合せを整理し、臨床上の診断基準に当たる、具体的な水俣病の判断条件を定め、その結果を、昭和52年7月1日付で発出された環境庁企画調整局環境保健部長通知「後天性水俣病の判断条件について」(甲第9号証。以下「52年判断条件」又は「52年通知」という。)によって示している(内容については口述する。)
 また、昭和60年に環境庁は「水俣病の判断条件に関する医学専門家会議」を設け、52年判断条件についての医学の専門家の意見を求めたが、医学専門家会議の意見は「・・・現時点では、現行の判断条件により判断するのが妥当である。」とするものであった(「水俣病の判断条件に関する医学専門家会議の意見」〔乙第14号証〕)
 このように、52年判断条件は医学的知見に基礎を置き、適切かつ妥当であることは医学の専門家の間でコンセンサスが得られている。

第3 認定業務の概要

1 救済法の目的・内容

 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和44年法律第90号。以下「救済法」という。)は公害対策基本法(昭和42年法律第132号)の精神にのっとり、事業活動その他の人の活動に伴って相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病にかかっている者が多数に及んでいる地域がある実情にかんがみ、当該疾病にかかった者の健康被害の救済を図ることを目的として制定されたものである(救済法1条)
 救済法においては、事業活動その他の人の活動に伴って相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じ、その影響による疾病が多発している地域がある場合において、政令をもって、当該地域(以下「指定地域」という。)及びその地域に係る疾病(以下「指定疾病」という。)を指定し(同法2条)、指定疾病にかかっている者について、その者の申請に基づき、都道府県知事等が公害被害者認定審査会の意見を聴いて、その者の該当疾病が当該指定地域にかかる大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものである旨の認定を行うこととされており(同法3条)、同法の委任を受けた公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法施行例(昭和44年政令第319号)1条及び別表において指定地域及び指定疾病が定められている。このうち本件申請者に関するものは、同表6欄の「熊本県の区域のうち、水俣市及び葦北郡の区域並びに鹿児島県の区域のうち、出水市の区域」における「水俣病」である。
 認定を受けた者に対しては、医療費、医療手当及び介護手当が支給される(同法4条、7条及び9条)。
 この給付の性質について若干付言すると、救済法による給付は原因者による損害賠償がされるまでの応急的な行政上の特別措置として緊急に救済を必要とする健康被害者に対して医療費等を支給するという社会保障的性格を加味したものである。
 そして、救済法は、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和48年法律第111号。ただし、昭和62年法律第97号による改正により法律の名称を変更。以下「補償法」という。)附則10条によって廃止されたが、それ以前に救済法の認定申請をしていた者に対しては、従前の例によりその認定をすることができるとされており、この場合においては、その認定を受けた者は、補償法による認定を受けた者とみなされる措置が講じられている(同法附則12条)
 したがって、救済法3条1項に基づき水俣病認定申請をしていた本件申請者に対する本件処分は、救済法の定める水俣病認定手続により行われたものである。
 なお、救済法に基づく認定業務は、本件申請者処分当時、機関委任事務であった(平成11年法律第87号による改正前の地方自治法150法)。

2 処分手続

 本件申請者に対する処分手続が進められた当時の熊本県における水俣病にかかる認定申請から処分に至る手続の概要は、次のとおりである。

(1)申請の受付
 認定を受けようとする者(認定申請者)は、申請書を熊本県衛生部公害対策局公害保健課(以下「公害保健課」という。なお、平成9年度以降は熊本県環境生活部水俣病対策課。)に提出し、これを受けた同課では、申請書及び診断書等の添付書類について形式的審査を行った上、不備がなければこれを受理するとともに、申請者に対して受理通知を行う。
 なお、認定申請に際しては救済法施行規則2条1項により「認定を受けようとする疾病についての医師の診断書」を認定申請書に添えなければならないところ、診断書の中には、当該疾病に関する記載が不十分なもののみならず、当該疾病に関する記載が全くないものも少なからずあるが、被告は広く救済するという精神から診断書に何ら水俣病様症状の記載のない者についてもその申請を受理し他の申請者と同様にすべての検診を行った上審査している。

(2)疫学的調査及び医学的検査
 次に、申請者に対し、県職員等による疫学的調査(病歴、職歴、生活歴、魚介類の入手方法及びし好性、家族の状況等についての調査。原則として戸別訪問して調査する。)及び専門医師による医学的検査である検診を行う。具体的な検診の内容は次のとおりである。
 まず、予備的検査として視力検査(裸眼視力及び必要に応じて矯正視力の検査)、視野測定(ゴールドマン視野計を用いて求心性視野狭窄の有無等を調べる検査)、眼球運動検査(眼電図により眼球運動の障害を調べる検査)、純音聴力検査及び語音聴力検査並びに聴覚異常順応検査(オージオメーター等を用いて難聴の程度及び鑑別を行う検査)、視運動性眼振検査(回転ドラムを用いて誘発される眼振異常により平衡機能障害を調べる検査)等を行う。
 これらの予備的検査の後、感覚障害、運動失調、平衡機能障害、構音障害、振戦、痙攣、筋力低下、精神症状、視野狭窄、眼球運動異常等の症候があるか否か、また、これらの症候が有機水銀の影響によるものであるか否か、あるいは他の疾病との関連はどうかなど調べるために、神経内科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科等の専門医師による検診を行うほか、血圧測定、尿の一般検査、梅毒血清学的検査、頸部(腰部)のX線検査を行う。また、医師の指示により必要に応じて、各種血液検査、脳波検査、筋電図検査、末梢神経伝達速度検査、四肢の骨、関節、頭蓋等のX検査等を行う。
 以上の疫学的調査及び検診で得られた資料に基づき、県の職員及び熊本県公害被害者認定審査会(以下「審査会」という。)委員等(以下、後記の審査会員と専門委員をわせて「審査会委員会等」という。)により審査会に提出する資料が作成される。
 これら審査会において水俣病に罹患しているか否かを判断するために直接使われる公害被害者認定審査会審査資料(病理所見、後述の医療機関調査結果が加わる場合もある。以下「審査会資料」という。)が整備された認定申請者について、知事は審査会に対し、審査会資料を提出し、諮問する。

(3)審査会での審査

ア 設置の根拠・構成
 救済法においては、認定等の行政処分そのものは都道府県知事等が行うが、処分を行うに当たって都道府県知事等は公害被害者認定審査会の意見を聴かなければならず(救済法3条1項)、公害被害者認定審査会は医学に関し学識経験を有する者のうちから、都道府県知事等が任命した委員10人以内で組織し、組織、運営その他公害被害者認定審査会に必要な事項については、条例で定めるものとしているため(同法20条)、熊本県では熊本県公害被害者認定審査会条例(昭和44年条例第67号〔乙第16号証〕)により廃止されたが、救済法に申請者については、従前の例により審査審議することができる者とされている。
 熊本県公害被害者認定審査会条例では、審査会は委員10人で組織されることになっており(同条例3条1項)、昭和49年からは、専門の事項を調査させるための専門委員も置くことができることとなっている(同条例6条)。熊本県では、審査会員等の選任については特に慎重を期して、水俣病に関する学識、経験ともに豊かな医師に委託している。

イ 審査方法
 審査会の審査の方法は、次のとおりである。
 審査会では、各審査会委員に、審査会資料が配付される。審査会資料は、前記(2)のとおり県が実施した疫学的調査及び検診の結果得られた資料を基に、申請者の生活歴等に関する部分は県職員が、病歴等に関する部分及び検診結果に関する部分は審査会委員等が、それぞれ整理して記載(要約転記)したのも等である。
 なお、認定申請書に添付された診断書の写しは、各審査会委員等に配布され、いつでも参照できるようになっている。
 審査は、審査会資料に沿って、まず、担当の県職員が疫学的調査の結果を説明し、次いで、神経内科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科等の審査会委員等が、各科の検査所見を説明した後、これらを基礎として審査会で討議を行い、水俣病に関する医学上の知見に照らして、認定申請者が水俣病に罹患しているか否かを医学的に総合判断する。
 審査会では、総合判断の結果を、@「水俣病である。」、A「水俣病の可能性がある。」、B「水俣病の可能性は否定できない。」、C「水俣病でない。」、D「わからない。」の5つの場合に分けて判断し、その内容にしたがって知事に答申(意見)する。

ウ 審査基準
 審査会では、52年判断条件に基づいて審査が行われている。
 これは、第2の2(2)で述べたとおり、環境庁から52年通知(甲第9号証)によって次のとおり示されたものである。

「1 水俣病は、魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起る神経系疾患であって、次のような症候を呈するものであること。
 四肢末端の感覚障害に始まり、運動失調、平衡機能障害、求心性視野狭窄、歩行障害、筋力低下、振戦、眼球運動異常、聴力障害などをきたすこと。また、味覚障害、嗅覚障害、精神症状などをきたす例もあること。
 これらの症候と水俣病との関連を検討するに当たって考慮すべき事項は次のとおりであること。

(1)水俣病にみられる症候の組合せの中に共通してみられる症候は、四肢末端ほど強い両側性感覚障害であり、時に口のまわりでも出現するものであること。
(2) (1)の感覚障害に合わせてよくみられる症候は、主として小脳性と考えられる運動失調であること。また、小脳、脳幹傷害によると考えられる平衡機能障害も多くみられる症候であること。
(3)両側性の求心性視野狭窄は、比較的重要な症候と考えられること。
(4)歩行障害及び構音障害は、水俣病による場合には小脳障害を示す他の症候を伴うものであること。
(5)筋力低下、振戦、眼球の滑動性追従運動異常、中枢性聴力障害、精神症状などの症状は、(1)の症候及び(2)又は(3)の症候がみられる場合にはそれらの症候と合わせて考慮される症候であること。

2 1に掲げた症候は、それぞれ単独では一般に非特異性であると考えられるので、水俣病であることを判断するに当たっては、高度の学識と豊富な経験に基づき総合的に検討する必要があるが、次の(1)に掲げる曝露歴を有する者であって、次の(2)に掲げる症候の組合せのあるものについては、通常、その者の症候は、水俣病の範囲に含めて考えられるものであること。

(1)魚介類に蓄積された有機水銀に対する曝露歴
 なお、認定申請者の有機水銀に対する曝露状況を判断するに当たっては、次のアからエまでの事項に留意すること。
ア 体内の有機水銀濃度(汚染当時の頭髪、血液、尿、臍帯などにおける濃度)
イ 有機水銀に汚染された魚介類の摂取状況(魚介類の種類、量、摂取時期など)
ウ 居住歴、家族歴及び職業歴
エ 発病の時期及び経過
(2)次のいずれかに該当する症候の組合せ
ア 感覚障害があり、かつ、運動失調が認められること。
イ 感覚障害があり、運動失調が疑われ、かつ、平衡機能障害あるいは両側性の求心性視野狭窄が認められること。
ウ 感覚障害があり、両側性の求心視野狭窄が認められ、かつ、中枢性傷害を示す他の眼科又は耳鼻科の症候が認められること。
エ 感覚障害があり、運動失調が疑われ、かつ、その他の症候の組合せがあることから、有機水銀の影響によるものと判断される場合であること。

3 他疾患との鑑別を行うに当たっては、認定申請者に他疾患の症候のほかに水俣病にみられる症候の組合せが認められる場合は、水俣病と判断することが妥当であること。また、認定申請者の症候が他疾患によるものと医学的に判断される場合には、水俣病の範囲に含まないものであること。なお、認定申請者の症候が他疾患の症候でもあり、また、水俣病にみられる症候の組合せと一致する場合は、個々の事例について曝露状況などを慎重に検討のうえ判断すべきであること。

4 認定申請後、審査に必要な検診が未了のうちに死亡し、剖検も実施されなかった場合などは、水俣病であるか否かの判断が困難であるが、それらの場合も曝露状況、既往歴、現疾患の経過及びその他の臨床医学的知見についての資料を広く集めることとし、総合的な判断を行うこと。」

 52年判断条件は、水俣病に関する学識経験豊かな医師による検討を経て成立したものであって、医学的に水俣病と診断し得る限り、申請者を広く認定の対象とする基準である。

(4)知事による処分
 前記(3)イの答申(意見)を受けた知事は、@ないしBの答申の場合には、水俣病と認定する旨の処分を行い、Cの場合には、水俣病認定申請を棄却する処分を行う。

3 指定医療機関における検診の必要性

 前記2(2)で述べた医学的検査(検診)は、「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法の施行について」(昭和45年1月26日厚生省環境衛生局通知〔乙第17号証〕)の第1の2(1)及び「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法による認定に際しての医学的検査の実施について」(昭和45年1月26日厚生省環境衛生局公害庶務課長通知〔乙第18号証〕)に基づいて行われている。さらに、検診内容等の詳細については、前述の通知等により国から示されており、具体的には、審査会が協議して決定している。
 救済法に基づき認定申請を行う場合、認定申請書に認定を受けようとする疾病についての医師の診断書を添付しなければならないとされている(救済法施行規則2条1項)。しかしながら、前記2(1)で述べたように、診断書には該当疾病に関する記載が不十分なものや全くないものも少なからずあることから、審査会で高度な医学的判断を行うためには、通常この診断書だけでは不十分であり、また、判断の公正さを確保するため、都道府県知事等は、審査会の意見を聴いて定めた医療機関(指定医療機関)に委託し、又は知事等が特に委託した医師により、申請者に対して所要の医学的検査を実施し、その上で審査会に諮問する必要がある。
 このことを水俣病についてみれば、水俣病は神経系疾患であるところ、神経症候の把握は患者の応答を介して行わざるを得ないことが多いため、その把握には専門的熟練を必要とする。例えば、感覚障害のうち表在感覚については、触覚の検査は筆、綿、紙片を皮膚の表面にそっとあてるようにして、また、痛覚の検査は通常ピンや針で皮膚に触れ、患者の応答ないし反応を確認して行う。さらに、水俣病の症候は他の疾患にも同様に認められる非特異性なものであるため、類似症候をもたらす他疾患との鑑別には高度の神経学的知識が要請される。したがって、水俣病の症候について医学的に有効な一定の所見を得るためには、技術的熟練や解剖学、生理学等の医学的専門知識が要求されるのはもちろん、患者の応答に対する深い洞察力が要請される。
 したがって、審査会において、水俣病が否かを判断するためには、豊富な知識、経験を有している医師により、公正に検診が行われることが必要不可欠であり、このような検診が行われることなくして適正な審査は全く期待できない。
 そこで、熊本県においては、熊本大学の各科講座から推薦を受けた、主として同大学各医局に在籍する神経内科、精神科、眼科、耳鼻科等の豊富な知識、経験を有している専門医師に検診医を委託し、これらの検診医によって検診が行われている。

4 未検診死亡者の取り扱いについて

 水俣病であるかどうかを判断するには判断するための資料が必要であり、そのために検診が必要であることは前記3で述べた。したがって、認定申請後、検診が未了のうちに死亡し、剖検も実施されなかった者(以下「未検診死亡者」という。)は、水俣病であるか否かの判断が困難である。
 未検診死亡者については52年判断条件(甲第9号証)の記の4において示されているが、平成6、7年当時は、熊本県では次のような手続により処分が行われていた。

(1) 知事は、未検診死亡者に係る医療機関調査要領(乙第19号証)に基づき、未検診死亡者が生前受診していた医療機関に対して、医療機関調査を行う。
 尚、医療機関調査は、次の手順により行う。

ア 調査対象とする医療機関を選定する(同要領第3条)。
 調査対象とする医療機関の範囲は、次のa)〜c)のうち知事が知り得る医療機関で、かつ、検診未了の科目名に応じる科名を受診当時掲げていた医療機関とする。ただし、必要と認められる場合にあっては当該科目を掲げていない医療機関についても調査を行うことができる。
a)未検診死亡者が初回申請で検診未了の場合は生前に受診した医療機関
b)未検診死亡者が再申請で検診未了の場合は再申請日以降に受診した医療機関
c)未検診死亡者が答申保留の場合は検診未了の科目について最後の検診を受けた日以降に受診した医療機関
イ 選定した医療機関に対して文書照会を行う(同要領第4条前段)。
ウ 文章照会の回答を受けて県の職員又は県の委託を受けた医師がその医療機関を訪問して調査を行う(同条後段)。

(2) 知事は、医療機関調査結果のうち、審査に関係する所見が記載されているものを参考資料として、検診結果や疫学的調査結果を要約転記した資料(公的資料)とともに審査会に提出し、諮問する。未検診死亡者については、公的資料及び参考資料を審査会資料として審査を行う。

(3) 審査会は、総合判断の結果を、T「公的資料により判断条件に相当する所見があると判断できる。」、U「公的資料によって水俣病でないと判断できる。」、Va「公的資料による所見のみでは不十分であるが、参考資料による所見で補うならば、判断条件に相当する所見の記載があった。」、Vb「公的資料(疫学資料は除く)はない(あっても所見がとれていない場合も含む)が、参考資料によれば判断条件に相当する所見の記載があった。」、Vc「参考資料によっても(公的資料による所見を補う場合も含む)判断条件に相当する所見の記載はなかった。」、Vd「判断条件に相当する所見があるかないか判断できない。」、W「判断できる資料が揃っていない。」、の7つの場合に分けて判定し、その内容に従って知事に答申(意見)する。

(4) 知事による処分
 答申(意見)を受けた県知事は、上記T、Va、Vb、の答申の場合には、水俣病と認定する旨の処分を行い、U、Vc、Wの場合には、水俣病認定申請を棄却する処分を行う。

第4 本件処分の適法性について

1 本件申請から本件処分に至るまでの経緯

 本件申請者は、昭和49年8月1日付で、公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法3条1項の規定に基づき、水俣病認定申請(以下「本件申請」という。)を行い、被告は昭和49年8月5日付けでこれを受理し(甲第1号証)、以下のとおり、検診及び疫学的調査を実施した。

昭和50年9月9日 耳鼻咽喉科予診
昭和50年10月17日 眼科予診
昭和52年6月9日 耳鼻咽喉科予診及び本診
昭和52年6月16日 眼科本診
昭和52年7月13日 疫学的調査(乙第24号証)

 昭和52年7月1日に本件申請者は死亡したが、神経内科及び精神科については未検診であり、病理解剖も実施されなかったため、被告は、本件申請者が生前受診した医療機関であり水俣市立病院(調査時の名称は「国保水俣市立総合医療センター」)、S医院及びI医院に対して医療機関調査を行うこととした。このうち水俣市立病院については平成6年6月13日付で、文書照会したところ(乙第25号証)、「保存期間経過等によりカルテがない」との回答があった(乙第26号証)。また、S医院、I医院については、いずれも廃院となっていたため、資料を得ることができなかった。
 上記の検診及び疫学的調査等により得られた資料をもとに、被告は平成7年7月12日付け公保第316号により、審査会へ諮問した(乙第27号証)。審査会は、平成7年7月14日及び15日開催の第195回審査会におる審査の結果、平成7年7月31日付けで「判断できる資料が揃っていない。」との答申を行い(乙第30号証)、被告はこの答申を受けて、平成7年8月18日付で棄却処分(本件処分)を行った(乙第31号証)
 なお、原告から本件申請者の処分に関し、記録が残されている限りにおいては、昭和62年から平成6年までの間に計8回、水俣病相談事務所に対して問い合わせがあった(乙第43号証ないし同第50号証)。
 ところで、本件申請者については、申請から死亡までの約3年の間に検診が完了せず、死亡から医療機関調査が行われるまでに約17年が経過しているが、これは、当時、熊本県が抱えていた未処分者数が膨大であったことによる。
 すなわち、本件申請者が申請した昭和49年度末には、2821人の未処分者を抱え、その後も未処分者は増加の一途をたどり、本件申請者が死亡した昭和52年度末には4731人を数え、その後、昭和53年度末、同54年度末、同59年度末及び同60年度末には5000人を越えるに至った(乙第51号証)
 このような事情の中で、被告は検診の促進に努め、本件申請者の死亡までに眼科及び耳鼻咽喉科の予診及び本診は行われたが、神経内科及び精神科の検診は未了となった。本件申請者死亡後も、未検診死亡者については、水俣病であるかどうかを判断するに当たって必要な検診結果がそろっておらず、判断が困難であり(前記第3の4)、また、生存者の救済が緊急の課題であったことから、未検診死亡者の処分に本格的に着手できるようになったのは平成6年度になったからであった。

2 本件申請者の有機水銀に対する曝露歴について

 本件申請者の審査会資料の記載は、以下のとおりである(審査会資料1枚目左・乙第28号証の1)

(1) 居住歴及び職歴
 水俣市袋神ノ川にて出生。
  〜昭和47年、48年ころ 水俣市南袋に居住し、農業に従事。
 昭和47年、48年ころ
  〜昭和50年8月 水俣市南袋に居住し、無職。
 昭和50年8月
  〜昭和52年7月1日(死亡) 水俣市南袋に居住し、病気療養。

(2)家庭内認定者の有無
 なし。

(3)魚介類の入手方法
 昭和48年4月までカキ、ビナをとったり、親戚からもらったり、茂道の漁師や行商人から買ったりして入手した。

 以上から、本件申請者には有機水銀に対する曝露歴が認められる。
 なお、前記第2の1で述べたとおり、メチル水銀に対する感受性には個人差があり、水俣病を発症するメチル水銀量にも個人差が認められるから、水俣病罹患の有無は、以下に述べる臨床症候と併せて総合的に判断しなければならない。

3 本件申請者の臨床症状及び検診結果について

(1)病歴及び既往症について
 本件申請者の審査会資料の記載は、以下のとおりである(審査会資料1枚目右・乙第28号証の1)。

ア 病歴
 昭和47年頃から  味覚鈍麻、足の痛み。この頃から毎日ボヤーッとして座っている日が多くなった。
 昭和50年6月から 足のむくみがあり、水俣市立病院通院。
 昭和50年8月30日 朝、意識消失、ウーッとうなり声をあげ、市立病院に入院。
 昭和52年7月1日 死亡。

イ 既往症
昭和22年 肝臓病。

(2)主要症候について

ア 感覚障害及び運動失調
 本件申請者については、公的資料において、神経内科的検査結果は得られておらず、また、追加的に行った医療機関調査によっても本症候にかかる資料が得られなかったため、感覚障害・運動失調の有無を確認できない。

イ 平衡機能障害
 本件申請者については、公的資料において、神経内科的検査結果は得られていない。
 昭和52年6月9日の視運動性眼振検査の結果は水平方向はデータ不良であり、垂直方向は検査が実施されていない。また眼振検査では、異常はみられていないことから、平衡機能障害は確認できない(審査会資料2枚目Xの2及び3・乙第28号証の1)。

ウ 求心性視野狭窄について
 本件申請者に対して昭和50年10月17日に実施されたゴールドマン視野計による検査においては、左右とも視野狭窄及び視野沈下は認められていない(審査資料2枚目Wの2・乙第28号証の1)。

オ 眼球運動障害
 本件申請者に対する昭和50年10月17日の眼球運動検査の結果とは、滑動性眼球運動には軽度の異常が認められるが、衝動性眼球運動では異常は認められない(審査会資料2枚目Wの3・乙第28号証の1)。

カ 難聴
 本件申請者に対して、昭和50年9月9日の耳鼻咽喉科検診において行われた純音聴力検査の結果は、感音性難聴のパターンが得られているが、聴覚疲労現象は認められず、更に語音聴力は正常範囲であることから、後迷路性難聴は認められない(乙第28号証の1・審査会資料2枚目Xの1)。

4 まとめ

 本件申請者について得られた疫学的調査結果、検診結果をもとに、審査会は、眼球運動で滑動性眼球運動に軽度異常、衝動性眼球運動には異常なしとの所見が得られているが、求心性視野狭窄及び後迷路性難聴は認められず、平衡機能障害は確認できず、感覚障害及び運動失調については資料が得られていないことから、被告に対し「判断するための資料が揃っていないため判断できない」旨の答申(W「判断できる資料が揃っていない」)を行った。
 被告は上記答申の受けて、本件申請を棄却する処分(本件処分)を行った。
 以上のとおり、本件処分の内容及び処分に至る手続に違法性はなく、本件処分に取消原因はない。

第5 原告第1準備書面における求釈明に対する回答

1 求釈明事項の1について

 原告からの本件申請者に関する問い合わせについては、第4の1で述べたところであり、その記録は乙第43号証ないし同第50号証として提出した。

2 求釈明事項の2について

 未検診死亡者に係る医療機関調査要領は乙第19号証として提出した。

3 求釈明事項の3について

 本件訴訟では、本件申請者溝口チエに対する水俣病認定申請棄却処分が争われているものであり、本件申請者以外の水俣病認定申請者の申請年月日、死亡年月日、医療機関調査年月日等は、本件訴訟とは直接の関係はないので、回答の必要はないと考える。

4 求釈明事項の4について

 平成12年9月22日付け再弁明を行うに当たっては、再弁明を求められた事項(これはすべて再弁明書に再掲している。)に対して弁明を行うために必要な限りで調査を行い、その結果はすべて再弁明書に記載している。

水俣病の主な病変部位

聴覚系統の解剖学的模式図

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