乾いた涙 − 裏・重力下のプルツー − 

by 彗星まさ (2001年6月12日)

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5年前…ジオン軍MSパイロット養成所 -年少部-

「姉さん、やだよ。こわいよ〜。MSなんか乗りたくないよぉぉ」
「ツー〜! お姉さんを困らせないでよ。ツーは一旦乗ってしまえば、それなりに動かせるじゃない。ね。先生だって見ているんだから。ね。MSに乗ろうよ。」
「やだぁ、やだぁ、こわいんだよ。こわいんだよぉぉ」
プルツーは泣き叫ぶ。
そこへMSの先生が近づき、
「今日は、ツーちゃんは無理かな。」
プルは、ませた感じで
「先生、すみません。ツーがわがまま言って」
とぺこりと頭を下げた。
先生は、あはは と笑い。
「いやぁ、プルちゃんは、子供なのにしっかりしているね。いいお姉さんだ」

そう、ここはジオン軍のMSパイロット養成所。将来のMS乗りを目指す、少年少女が集う場所だ。
といってもプル達はMS乗りを希望して集っているわけではない。彼女たちが生まれてすぐに、その両親は行方不明状態になってしまった。彼女たちは両親の顔すら覚えていない。そんな彼女たちをストリートチルドレンにしてしまうのは、不憫だと感じた軍のある下士官が全寮制のMSパイロット養成所に入校させたのだ。 しかしながらその下士官は、戦争により、宇宙に散っていってしまった。

プルは先生の笑顔が見たいという、気持ちだけで練習を重ねていた。自分がやっていることがどういったことに使われるかなど、考えたこともない。プルツーは、姉さんがやっているから、やっているという感じだった。まだMSが怖く、コクピットで泣き叫ぶことも多かった。

2人とも筋は恐ろしくよかった。大抵の少年少女が5〜6回やらなければできないようなことも、1〜2回の練習で出来てしまうのだ。

プルは先生からも可愛がられ、得意の絶頂であったが、怖がっているプルツーを見ると姉としてやはり心配になる。
プルは何となく分かっていた「MSパイロット養成所を追い出されたら、私たち姉妹は他に行く場所がない」と。
だからあの手この手で、プルツーをなだめたり、だまくらかしたりしてMS練習に参加させていた。
もっともプルツーは
「姉さんの一生のお願い。一緒に行こうよっ!」
とプルに言われて、手を引かれてしまえば、いつも渋々ついてくるのであったが…。そんな日々が続いていた。

ある日、教官が生徒達を集めて言う。
「今日はちょっと変わったモビルスーツに乗ってもらう。それは練習用のキュベレイだ。お尻に簡易ファンネルが一個だけついている。それを動かせたら凄いぞぅ!」
生徒の少年少女達は、練習用とはいえ新しいMSに乗れると聞いてわーぃと叫ぶ。
そして一目さんにMSに向かって走っていく。もっともプルツーだけはいつもと同じ感じであったが。

「ファンネルなんて動かせる訳ないよな」
コクピットにまたがる少年少女を見て教官はふっとため息をつく。
「だって俺だって、満足に動かせないんだものな。」

案の定 少年少女達はファンネル動かせなかった。だいいち、ファンネルをポッドから射出すら出来ない者が殆ど。まぐれで射出できても、そのままボトッと地面に落ちてしまうのであった。
「こればっかりは、練習させてもしょうがないか…。」
はぁとため息を1つつきながら教官は、ぼんやりと練習の風景を見つめる。
その時の教官の目に信じられないものが目に入った。空を飛んでいる簡易版ファンネルである。ふらふらしているが、確実に飛んでる。そしてプルの声が聞こえる。
「ねぇっ! ツーもやってごらんよ。楽しいよこれ!」
そしてプルツーの乗る練習用キュベレイからも蛇行しながらよちよち歩きと言った感じだか、ファンネルが舞い上がる。教官はボー然として、口をあんぐり開けてその2つのファンネルを見ていた。

「センセーっ! 凄いでしょっ、私たち!! 誉めてよ〜っ。」
プルが練習を終え、キュベレイのコクピットから降りるやいなや、教官に駆け寄る。
先生は、この無邪気な少女がファンネルを動かしたとにわかに信じることができなかったが、やがて、諭すようにゆっくりと語った。
「プルちゃん、自分がファンネルを動かせるって、誰にも言っちゃ駄目だぞ。」
「えー。なんで〜。だって先生、動かせたらすごいって言ってたじゃない。」
「こんなもの動かせても、なんにも役に立たないから。ね、いい子だから、絶対に言っちゃ駄目だからね。」
「なんか先生、変なの」
プルは大好きな先生に誉めて貰えると思ったのに、黙ってろと言われ、ちょっとむくれる。

そしてそんな練習を続けていたある時、先生が1人のジオン軍高官を伴って練習場に入った、そして生徒たちを集める。
「え〜。生徒の諸君、今日は我々ジオン軍の作戦参謀課長様が、わざわざお見えになられた。何時にもまして、練習に真剣に取り組むよう、先生は期待しているぞ」
生徒たちは、元気よく
「はぁーーい!」
と声をあげ、練習用モビルスーツに乗り込む、今日の練習用モビルスーツはキュベレイ型であった。思えば、これがプルとプルツーの人生の境目であった。
プルは練習用キュベレイに乗り込むと、1人考えた。そして叫ぶ。
「今日は先生にとっても大事な日なんだ。ヨシ! 頑張るぞ! ツー、今日はメソメソしてちゃ駄目だからね。姉さんについてきてね!」
2台のキュベレイが動きだし、練習に加わる。生徒たちは、宙返り飛行などのアクロバティックな技で先生の期待に応えようとする。プル達もその宙返りに加わる、プルとプルツーの宙返りは、まだまだスピードは無いものの、真円に近い軌跡を描く。明らかに他の生徒のそれと違う。
「ほう。なかなか筋のいい娘もいるようだね」
作戦参謀課長は教官に語りかける。
「ええ。あれは姉妹で、今年はあの二人がダントツに上手です。」

「ねえツー。ファンネル使うよ!。」
「えっ、姉さん。だって先生は前、そんなものは使ちゃ駄目だって・・・」
「いーの、いいのっ。今日はエライ人が来ているみたいだし、ファンネル使ってあげた方が先生も絶対喜んでくれるよ。」
そういいながらプルはファンネルを作動させる。プルツーも姉さんの後を追うようにファンネルを動かす。上空には2つのファンネルが舞い上がった。
教官は思わず、
「あっ!・・・・」
と叫んだ。
作戦参謀課長は目を細め
「君すごいじゃないか。あんな娘がいるなんて」
と言う。
教官は
「ええ」
とだけ言った。
「・・・よし、あの娘達は、ニュータイプ養成所で引き受けることにする。」
「え、あ、あそこでですか。」
「君! 『あそこ』とは一体どういう言い方だね。」
「い、いえ、そんなつもりは・・・。ただ、あの娘達はまだ戦争の意味、闘うことの意味を判っておりません。ただMSを動かすことを楽しんでいるだけですので・・・。」
「 『戦争の意味』、『闘う意味』は私が決めればいいこと。パイロットが考えることではない。そうではないのかね、君!」
「・・・(くっ!)・・・わ、分かりました。」

プルとプルツーはニュータイプ養成所に引き取られた。今までの野外での牧歌的な練習ではなく、室内のシミュレータを使ったものが多用された。プルは明らかに今までと違う環境にとまどっていた。プルツーは元気のない姉さんを見てますますメソメソしていた。
「この二人、分けた方がいいな。」
ニュータイプ養成所の教官は判断した。
それからあっという間だった。二人が引き裂かれたのは。今日から、プルはこちらの棟、プルツーはあちらの棟と言われ、荷物も一斉に運び出されてしまった。お互いに別れの言葉を掛け合う暇もなく、二人は分け隔てられた。

プルツーは一人っきりの新しい部屋で、1人泣いている
「姉さん、逢いたいよ・・・・」
今までだったらプルツーが泣いていると、姉さんが必ず慰めたり怒ったりしてくれたが、今はもう誰もいない。いくら泣いても姉さんは現れない。
そうこうしているうちに、ニュータイプ養成所の訓練にも集中力を欠き、プルツーの成績は見る見るうちに下降していった。クラスの仲間は、馬鹿にしたような目つきでプルツーを見るようになった。プルツーは寂しくて一人っきりの部屋でしくしく泣いていたが、ある時突然、泣いていてももうどうにもならないことに気づいた。それは大きな変化だった。プルツーは寂しさを忘れるために訓練に励んだ。そして、成績はクラストップ上り詰めた。そうなると今までプルツーを馬鹿にしていたクラスの仲間が、急にプルツーに「友達になろうよ」とか、優しげな声でおべっかを使いだした。そんな中でプルツーは少女ながら悟った。
「強いものが勝つ。」
「生き残るためには強くなければならない」
プルツーはそう信じた。愚かだったから姉さんと別れる羽目になったんだ。弱かったからクラスのみんなに馬鹿にされたんだ。

それから、プルツーは訓練を全てに優先させて行動した。いつか並ぶもの無き存在となった。今や同じクラスの人間でさえ敬語を使って話しかけてくるようになった。プルツーにはそれが心地よかった。しかし本人は気づいていなかったが、それはニュータイプとしての過酷な訓練は、少女の精神を確実に蝕んでいた証拠でもあった。

そして今から半年前、グレミートトから「コールドスリープ」をやってみないかと薦められた。グレミーは、とっても気持ちいいものだとか、こんなにお得な話はないと言った安物のセールス口調でプルツーに語りかけた。プルツーは内心、(こうやってこいつは人を騙しているのか)と思いつつも、コールドスリープの効果には興味を持っていた。これでもっと強くなれるならやってみる価値はあると思い、実行した。
プルツーはコールドスリープに入る前にグレミーに言う。 
「強くなりたい、私は勝ち続けるんだ。」 
このときのプルツーには姉さんのことは頭になかった。

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