もーみのSS群です


私こと”もーみ”はその昔SS書きでした(^^;)。 NIFTY-serveのコンピュータゲーマーズフォーラム(fcgamer)創作会議室で その昔はよく書いてたもんですね。
「パワードール」は工画堂スタジオ制作のパソコンゲームシリーズで、 ハードな戦術シミュレーションを美少女+ロボット兵器という美味しいオブラートでくるんだ名作ゲームです。
最初のころは、各キャラの設定なんて無かったものだから妄想が膨らむ膨らむ(^^;)
その過去の遺物をここに再収録しますんで、お暇な方は見てやってください。
注意:まだ一部しかhtml化出来ていません。元がnifty仕様のため、全角40字くらいで改行すると読みやすいかと思います。
でかいファイルではありますが、全SSを1ファイルに収めてますので、オフラインでゆっくりごらんいただければ幸いです。

目次
時代タイトル 初出主演
戦前ハンナの日記
1995.11.01ハンナ・ウィンクラー
戦前 逃亡者E
1994.09.21エリオラ・イグナチェフ
PD 1 戦え! わくわく動物小隊
1995.03.18ファン・クァンメイ?
PD 1 Am I Alone?
1995.03.20アニタ・シェフィールド
PD 1 わくわく動物小隊、潜る
1994.07.09ファン・クァンメイ?
PD 1 Keep the Faith
1995.03.05フェイス・スモーレット
戦間就職氷河期伝説
1994.12.09ミチコ・ネイデル
戦間 湯けむり3人娘旅日記
1994.12.15エリィ・スノウ
戦間短い夏の後に
1994.11.28タカス・ナミ
戦間オムニバスターズ!
1994.12.02ファン・クァンメイ
戦間 戦線離脱宣言
1995.01.02ジュリア・レイバーグ
PD 2 真・侍撫子魂
1995.01.24アヤセ・ミノル
PD 2 続・真・侍撫子魂
1995.02.17アヤセ・ミノル
戦後 地球戦士ライザ
1996.01.11ヤオ・フェイルン?
番外 黄光美狙撃手的休日
1998.09.19ファン・クァンメイ
番外シルバーナイツ五部作はこちら
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【 ファン・クァンメイのスナイパーズ・ホリデイ〜黄光美狙撃手的休日 】


 この場所に潜伏して、かれこれ10分くらいになろうか。
 あたし−ファン・クァンメイ、中佐−はじっと息を潜めて崖下に目をやる。
 今日は「白兵野戦演習」に名を借りたレクリエーション。
 サバイバル・ゲームの始まりを告げるホイッスルが遠くで響いた。

1、ゴージャス・ブロンド小隊の場合。

 最初の標的はこの3人だった。ジュリア少佐、ジュリィ曹長のレイバーグ姉妹とアリス・ノックス大尉。こだわりがあるのか、フェイスマスクやヘルメットは付けていない。キャップにゴーグルのみ。BDU(?)はDoLLSの制式パイロットスーツだ。名目上、想定が「パワーローダー擱座・脱出後の白兵戦」だから、大体みんなパイロットスーツだけど。
 サブマシンガンCAR-15を構えたアリスが前衛を勤め、後衛の姉妹は良く見えないが、相当ゴツそうな長物を装備している。

 3対1では分が悪い。ターゲットは一人に絞る。
 「ワンショット・ワンキル」はスナイパーの金科玉条だ。ましてこの愛銃H&K PSG-1はセミオート(単射)しかない完全スナイパー仕様の電動ガンなのである。
 2メートルほど高台のここから見ると、アリスの頭の位置がやや高い。
 フラッグのある山方向を注視しているが、その逆方向にあるこの場所にはさほど注意が向いていない。
 首だけを回して一旦背後を確認。
 距離は30メートルほどか。射程は充分。
 スコープを覗く。
 アリス一人をエイム。
 スコープ越しでも分かるほど肌の肌理が細かい。さすがにモデルの血を引くだけのことはある。同性ながら「美しい」と思ってしまうその顔に当てるのも不本意なので、若干下めに照準し、息を止め、トリガーを引く!
 「ひゅぱっ」とBB弾が飛ぶ。
 
 「ヒット!」とアリスが叫ぶ。
 被弾、すなわち自己死亡宣告だ。
 その声と同時にレイバーグ姉妹が散開する。
 いや、したはずだ。必殺の一発を発射するやいなや、あたしはPSGの2脚を畳み、葡伏後退を始めていたからその様子は視覚では捉えていない。

 「おねーちゃん! あっち!! 崖の上!!」とジュリィの声。
 ばれた!
 弾の軌道を読んだのか。侮り難し!
 しかし、それを大声で叫ぶのはどうかなぁ。
 「任せろ! クァンメイだな! 覚悟おおおお!」とジュリア。
 やはり姉妹。血は争えないものだ。

 がしゃこん、ばすん!!
 ばしっ! ばしっ!
 
 ショットガンだ! しかも2丁!
 前者はおそらくコッキング式エアガンSPAS-12の音。後者、ジュリィのは連射の利くガス式のM1100だろう。
 頭上を合計約10発の弾が通りすぎ、下生えをビシバシと薙ぎ倒していく。
 なんだ、この威力は! BB弾がまるでナタ替りに道を啓開して行く。
 音も0.25gBB弾の音じゃないぞ! ふと横を見ると鈍い銀色の弾が樹の幹に食い込んでいる。0.65g弾。
 ずるいなぁ。どうやってレギュレーション潜ったんだろう。
 もはや逃げるしかあるまい。

 いや、待て。
 「あーん、ジャムったぁ!!」
 案の定だ。ジュリィのM1100は1薬莢につき最大10発のBB弾×7薬莢を詰めている。装弾数こそ多いが、排莢機構が付いている。これが、ジャムる。
 しかも、これまた大声で教えてくれるとは。
 まもなく銃声も止んだ。SPAS-12は装弾数自体が少なく、1マガジン30発を1回3発。10回の射撃で撃ち尽くす。

 二人のサブウェポンはハンドガンとみた。形勢は有利。注意しつつ、あたしは再び手近な窪みに身を伏せ、改めてジュリィをヒットした。このうえジュリアにまで当てると、後で何を言われるか分かったものではないので、この場は後退した。

2、アヤセ・ミノルの場合。

 あたしは移動し、若干自陣に近い位置に陣取った。乾燥した森の中。
 遮蔽物が少なくて、狙撃には向かないが、攻め手なら必ず通るであろう小道がある。これが実戦なら地雷などのトラップでも仕掛ける所だが、あいにく今はゲームだ。あたし自身がトラップになるしかない。
 あたしはBDUとして、4年前の第1次独立戦争時のパイロットスーツを引っ張り出してきている。色が抑え目なので、まだ野戦向きと言える。ちょっとウェストがきつい気がしないでもないが、その分バストもきついから良しとしよう。その上にギリースーツ。ヘルメットに木の枝を刺してカムフラージュ。「私は木」を装う。残念ながら狙撃に適した高台が無いので木の根を盾にして、窪みに寝そべる。
 小道まで狙撃射程ギリギリ50メートルといったところか。PSG-1のホップを若干強めに再調整する。見るべき方向は小道の方だけで良い。それが分かっていながらも、いささか背後が寒い。こんな時は直衛が欲しい。
 
 発見。アヤセ・ミノル中尉。単独行動のようだ。パイロットスーツの上にジャケット。軽装だ。
 下生えに身を隠しつつ、小道沿いにジグザグ進んでくる。
 まだ遠い。
 得物はスタイアーAUG。なかなかいい趣味だ。ブルパップだから見た目以上にバレルが長い。少々重いが、しっかりした構造、取り回しの良さなど名銃の一つであろう。スコープを付けているようだ。スナイピングにも使えるサブウェポンとして、あたしが欲しいくらいだ。

 アヤセの動きが止まる。不審げに身を屈め、耳をそばだてている。
 バレた? あたしじゃないよね。誰か、他に居るの?
 ジリジリする。
 背後が気になる。気にはなるけどアヤセから目を離すわけにもいかない。

 動きは突然。
 アヤセは小道をまっすぐに駆けた。
 何も待ち受けてなどいないかのように。
 よく見れば、AUGさえ置き去りだ。
 動きを追う。速い! 「ワンショット」というわけにはいきそうもない。
 アタリを付けて予測射撃、ぴしっ、ぴしっ、ぴしっと3発。

 当たった!? アヤセが倒れる!

 ・・・倒れる?
 BB弾、だよね。ヒットコールはまだ無い。どうしたの?
 様子を見に行くべきか・・・!?
 あたしの気持ちが完全に前方だけに傾いた瞬間。

 さわさわ、とお尻に感触。

 「ひゃっ!」と振り向き様、腰のホルスターから拳銃を抜く。
 コルトパイソン同士が銃口を向け合う形になった。
 「ほ、ホールドアップ!」とアヤセ。4インチパイソン。
 「む・・・!」
 あたしは6インチパイソンを下ろし、負けを認めた。

 忘れてた。ホントがどーだか知らないが、アヤセの先祖はサムライだかニンジャだかなのだ。スコープ越しに確認すると、倒れたのは「ウツセミ」とかいう身代りだった。

 「ブレないし、弾数多いし、静かだし、連射も利くし。。狙撃向きですよね」とアヤセが言う。何故パイソンなのか? を聞いたのだ。リボルバーでありながら24発を装弾できるガスガンだ。あたしと同じ理由だ。
 「で、な〜んでお尻触ったの?」と聞く。
 「き、緊張感がみなぎってるっていうか、その、き、きれいで・・・」語尾が消える。怪しい。
 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」とまずは軽くいなして、「・・・ねぇ、アヤセ。あなたなかなか筋がいいわ。気が合うかもしれない。今晩あたしの宿舎に来なさいよ。お話しましょう」
 アヤセは耳まで真っ赤になった。
 あら〜、マジっぽいけど。
 残念ながら、あたしにはそっちの気はない。

 「なに勘違いしてんのよ。銃の話! 直衛が欲しかったところなのよ」と無理やりオチを付けて立ち上がった。
 「え!? あ、ああ。はい」とアヤセも立ち上がる。
 「じゃぁ、あたし、死体置場に行くから。頑張ってね」と、PSG-1を肩に担いであたしはその場を後にした。

 ゲームに負けてアヤセに勝ったな、などと思うあたしが無性に悲しかった。

3、死体置場。

 ゲーム中に撃たれた者が集まるセーフティゾーン、俗称「死体置場」には既に結構な人数が集まっていた。
 エイミー・パーシング大尉は飴だのチョコレートだのを喰い散らかしているし、ミリセント・エヴァンス准尉は貧血だか熱中症だかで倒れて木陰に寝かされており、フェイス・スモーレット少尉が横についている。エリオラ・イグナチェフ中佐はしかつめらしい顔で「革命の英雄」ことAK-47をせっせと磨いている。ジュリアはあのあと殺られたらしく、ジュリィと一緒に次のウェポンを選んでいる。どーやらミニガンやらM60やらを持ち出す気のようだ。次は近寄るまい。

 「あら、クァンメイでも撃たれるのね」とハーディ・ニューランド大佐が言った。実戦でも傷一つ負ったことがなく、不死と噂されるDoLLS隊長である。テント下でテーブルについている。
 ハーディこそ今日はゾンビじゃないのね、と思ったが言わずにおいた。昔これを言ってぶたれたことがある。
 ゲームにおいて「ゾンビ」とは、撃たれたのに死亡(被弾)宣告をしないでゲームを続けてしまう者を指す。ハーディはまさにこれだった。気付いてないのか、とも思ったが、「弾の方が避けて行く」という目撃証言もあり、やはりゾンビだけにねぇ、とは蔭でよく囁かれたものだ。

 「アヤセよ。あの娘、上手くなったわね」とあたしはハーディの向かいに腰掛けた。ハーディはサングラスを上げて、ふぅん、とだけ言った。テーブルの上にさりげなく置かれているのは10インチカスタムデザートイーグル.50AE「バイオハザード2バージョン」。

 思わず口が滑った。
 「ゾンビがゾンビ撃ち用の鉄砲持つのぉ?」
 間髪を入れず飛んできたパンチがあたしの手の平でぴしっ、と鳴る。どちらからともなくにやり、と笑った。
 「ゾンビどころか。今日は一発も撃たないうちに殺られたわ」
 「誰によ?」
 「ナミ。南部14年式でね」
 「アレって、タカス博物館所蔵の無可動実銃じゃなかったの?」
 「私もそう思って油断してたのよ。それでさ、ヒットって言ってるのに誰かが撃ってくるのよね。ホールドアップして帰る時にも3発くらい喰らったわ。よほどゾンビだと思われてるのかしらね」
 いや、それは。
 こんなオフの時にも絶えず発してる、あんたの「殺気」のせいだと思うよ。

 「フラッグゲットやで〜!」と声が掛かった。どーやらそのタカス・ナミ中佐がキメたらしい。レトロな鉄砲でも、やるときはやるもんだ。
 
4、わくわく動物小隊 対 特務軍曹小隊

 2回目のゲームの組み合せが決まった。
 今度のツーマンセルのパートナー、ヤオ・フェイルン中佐に合わせるなら、今度はアタッカー装備が必要と踏んだあたしはメインウェポンにFA-MAS 5.56mmF1を選んだ。バランス・取り回し・ブルパップ故の銃身長は良いが、さすがにスナイピングには不向きかも知れない。
 同じくツーマンセルのセルマ・シェーレ大尉、コウライ・ミキ特務軍曹組と共に4人で侵攻することにした。

 フェイルンはMP5K A4通称クルツ+ダットサイト。最もコンパクトな電動サブマシンガンとしてフェイルンの身軽さを活かせる銃だろう。並み居る敵を2丁クルツで樹の上から薙ぎ払ったというのは彼女の猿らしさを象徴する伝説である。

 高台、樹、下生え、岩、適度なざわめき・・・曲り道。
 「絶好の狙撃ポイントね」
 あたしが言うと、もう狙われてるかもね、とフェイルンが返した。ハンドシグナルで後続のセルマ、ミキに「警戒」を伝える。

 ミキが。
 「せんぱい、あぶないっ!!」
 と叫んだのは射撃音と同時だった。

 あたしたちは身を投げ出して伏せる。いささか使いにくいFA-MASのセレクターをフルオートに切り替え、速攻で反撃に移る。たたたたん!
 「応戦しろ!」とフェイルン。
 「してるわよ!」
 「クァンメイじゃなくて!」
 「え?」

 ふと振り向くと、愁嘆場になっていた。
 「み、ミキちゃん、私の替わりに・・・?」
 「せ、せんぱい・・・。ご無事ですか・・・?」
 殺られたのはどうやらミキの方らしい。

 「先輩のそばに居られて、ミキは幸せでした・・・」
 しょうがないのでミキのヒットコールをあたしが代返した。

 「ちょっとミキちゃん・・・?」
 んだから、応戦しろって。>セルマ

 「せんぱいのためなら、ミキは・・・死ねます」
 あほくさ。たたたたたたたん!

 「せんぱい、ミキのこと・・・忘れないで・・・。がくっ」
 効果音まで自分で言うか。あたしは300連発マガジンのギアをきりきりと巻き上げてリロードする。
 「ミキちゃん・・・・」
 おいおい、セルマってばマジで泣いてるよ。

 セルマが立ち上がる。ミキの得物だったSIG SG551 SWATを、遺品とばかりに拾い上げる。涙を拭う。
 畳まれていたフォールディングストックを起こす。
 セレクターを3点バーストからフルオートに切り替える。
 コッキングレバーを「ぢゃきん!」と鳴らす。それ、ダミーだけど。
 やる気だ。
 なんだか知らんが、セルマは燃えている。

 フェイルンの様子をちらと見る。頷く。
 「突撃あぁ〜〜〜〜!!」
 「タリイィィーーー・ホーーーゥ!」
 ときの声を上げてあたしたちは疾走した。

 最初の一発以降、攻撃は二手から来た。
 狙撃手はおそらくミチコ・ネイデル特務軍曹。狙撃銃としてM16A2を使っているのはデューク東郷に影響されたらしい。あのジョン・パーカーとかいう従軍ルポライターめ、ロクなことを吹き込まない。もう一人は・・・きっとエリィ・スノウ特務軍曹だ。女の直感である。

 逃げ遅れたミチコはフェイルンがゲットした。
 やはりもう一人はエリィで、逃げ惑う背中を縦に横にセルマの怒りの銃弾が貫いた。
 あたし? あたしは。
 FA-MASの弾が切れた。連射速すぎ、この銃。

 後に問いただしたところ、やはりあの猿芝居もとい、愁嘆場はミキ企画主演・エリィ監督・ミチコ共演になる演出であったらしい。色々な楽しみ方もあるものね。


 結局あたしらはゲームの戦局に直接関わることなく、フラッグはセシル・フェリクス少佐がゲットした。ちゃっかり者である。
 しかし「航空隊にゲットされるとは何事か」と陸戦隊隊長のフェイルンはことのほか不機嫌で。
 帰り道。夕方の山道を基地までマラソンさせられたあたしたちの上をカラスがあほうあほうと飛んでいったのだった。

終劇 おわり。
銃器(エアガン)考証:Bullets KRIEG

  《 おわり 》

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【 戦え!わくわく動物小隊 】

 今、あたしはローダーの中で降下を待つ身だ。「スピアヘッド」作戦の遂行中 なのだ。あたしの小隊はコードネーム「エンジェル」であったが、誰もその名は 使っていなかった。誰が呼んだか「わくわく動物」小隊とあたし達は呼ばれてい た。それは多分横にいるこいつが原因なのだ。猿のよーにウキョウキョと戦場を 飛び回るこの女のせいなのだ。そーに決まっている。
 猿の名は「ヤオ・フェイルン」。いちおう「小隊長どの」だ。

 「あによ、クァンメイ。ぶつぶつ言ってんの聴こえるよ!」
 この猿、なかなか耳がいい。DoLLSの陸戦隊用のイヤリング内蔵のマイク はさすがに高性能だ。余計な声まで電波に乗せてしまう。
 あたしの名前は猿の言うとおり「ファン・クァンメイ」。DoLLSに選ばれ た東洋人の中では一番あたしが美しくってよ。そのあたしを捕まえてこの猿は…

 「ね、ポチ、じきに降下よ。あんた、鼻が利かないんだから後から来れば?」
 などと言ってのける。
 確かにあたしは敵を見つけるのは苦手だ。だけど…ねえ。
 「あいにくさま、猿となんとかは高いとこがお好きって言うじゃない。小隊長 どのこそゆっくりしてくださいまし」
 「な…。高いとこが好きなのは猫だってそうよねえ。あたしらここで見てるか らポチは一人で行っといで」
 「ちょっとフェイルン。そこでなんで私を引き合いに出すかな? 私は猫なんか じゃありません!」
 この少々真面目な声がセルマ”銀猫”シェーレ。あたしが大人の魅力だとすれ ばこの娘は「少女のはつらつさ」がウリだ。  ……あんなつぶやきまで拾わなくていいのに、このマイクめ。

 「はいはい、そろそろいーですかぁ? わくわく小隊、降下だよーん」
 戦闘開始にあってこの間延びした声はセシル・フェリクス。飛行機のことはよ くわかんないあたしには天才としか思えないパイロットだ。天才ゆえの余裕なの か、ただのんびりしているのか、測りがたい性格ではある。

 ばしゅっっ!!!

 とーとつにハッチが開き、圧縮ガスによってあたしらは虚空にほおり出された。 下を見ると…

 ええええっっ! 橋の真上!? プランと違うっ!!!
 などと叫んでる間に着地シーケンスが自動的に作動し、あたしのローダーは軟 着陸した。

 話が違う、一体何がどうなってるの?
 ……とすでにここからパニックは始まっていたのだ。

 まず、あたりを見回す。…って、まわりじゅう敵じゃないかぁぁ!!
 かち。反射的に右手の親指がトリガーを押した。

 ずどぐおおぉぉん!!!

 M71グレネードが発射された(らしい)。
 「クァンメイ! まわりをよく見て!」
 猿の声が聴こえたが、まわりを見れば見るほど敵だらけだ。
 「いやぁぁぁ、たすけてえっ!!!」かち。

 んどばっぎいいいいん!!!

 「こないでえぇぇ!!」かち。

 どどどぐぉぉん!!!

 「そんな目で見ないでよおっ!!」(地球軍のローダーの目つき(モノアイ) ははっきり言ってすげー怖い)かちかちかちっ。

 ぼべぎゃりぎゃりいいん!!

 …………
 ……かくて戦いは一瞬でケリがついた。気がつくとグレネードがなくなってい た。
 「任務完了!」
 フェイルンの声がした。いやに晴れ晴れとした声だった。
 「やるじゃない、敵のローダー全滅よ!」
 セルマもそばにいるようだ。
 あたしは立ち上がり(今までは実は腰が抜けていたのだ)、戦果を見下ろした。 確かに全滅だった。しかも跡形もなく、粉みじんである。こんな闇雲な射撃に当 てられた敵兵士がちょっとだけかわいそうになった(戦争に感傷は禁物なんだっ て)。

 ふと後ろを見ると、眉間を撃ち抜かれたローダーがいた。こんなのが背後にい たなんてちっとも知らなかった。電気のスパークの散る傷跡は、あたしのよくや る88ミリ速射砲、精密射撃の開けた穴だ。でも、今88ミリを装備してるのは フェイルンだけだ。あの乱戦の中で、あたしのために精密射撃を?

 「ありがとう…」
 素直に言えた自分が意外だった。

 「わくわく小隊、フェイルン、どんな感じだい? 随分と派手な花火が上がって たけど?」
 しばらく間があり、心なしか遠くから聴こえたのはハーディ・ニューランド隊 長の声だ。
 ひとしきり戦場を見渡したあと、答えて、フェイルンは言った。

 「敵はいなくなったけど……橋は今にも落ちちまいそーだよ」

 彼女の声が聴こえたのか、黒焦げのカオルン橋は大きく左にかしいだ。

  《 おわり 》

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(前回(戦え!わくわく動物小隊)までのあらすじ)
 潰走を続ける地球軍に対し、オムニ軍は敵工業地帯ヤハルへの攻撃を目的とす るスピアーヘッド作戦を発動した。
 これにあたり、侵攻路の確保を命じられたDoLLSは先行降下部隊《わくわ く動物小隊》の奇襲により、カオルン橋を確保することに成功したのであった。
 DoLLS隊長 ハーディ・ニューランド中佐はカオルン橋を中心に橋頭堡を築 き、周囲の敵の駆逐するよう第2次降下部隊に命令を下した…。

           * * *

   【 AM I ALONE ? 】


 「わたし、山登りって大好きなんです。故郷の紅葉を思い出します」
 「それは…みんなには言わない方がいいわ。ハンナはDoLLS初陣だから知 らないだろうけどね、こないだの作戦、マウンテンハイクって言うんだけどね、 それでみんなひどい目にあってるんだ」
 「アニタ准尉も、そうなんですか?」
 「あたしはそれほどでもなかったけどね。あの時は二人がいてくれたし…」

 アニタ・シェフィールドは不安げに眼前のカオルン高地を眺めた。その不安を ぬぐい去ってくれるはずのジュリア・レイバーグ大尉とアリス・ノックス中尉は いま、彼女の側にはいなかった。
 新兵教育の理想形とまでいわれた《ゴージャス・ブロンド小隊》は新たな新人 隊員ジュリイ・レイバーグを迎え、再編成され、アニタとは別の道を進み始めた のである。

 作戦開始前のジュリアの妙なよそよそしさがアニタには悲しくてしょうがなかっ た。ハーディ隊長はそんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ジュリイと同期入 隊の新人ハンナ・ウィンクラーを彼女に預け、カオルン橋北西のカオルン高地の 制圧を要請したのである。

 「さ、山狩りだ。いこうか?」
 「はい」

 アニタは今作戦から投入された新型索敵型パワーローダー”X−32R”の性 能に舌を巻いていた。装甲・索敵性能・ペイロード・機動力、すべてが旧型を凌 駕し、機体のバランスも抜群にいい。
 対してハンナの”X−32C”は格闘戦能力を極限まで高めた強襲型ローダー である。
 禿山であるカオルン高地のふもとは山とは打って変わって密度の濃い森林になっ ていた。そのため、その優れた索敵性能もこれでは宝の持ち腐れとなるが、それ は敵も同じことである。森林の中でいきなり鉢合わせたとき、パワーローダー以 上に恐ろしい兵器は地上に存在しない。

 アニタは慎重に歩を進める。数歩歩けば森が切れているのが判った。
 その向こうで砂煙を上げているのは地球軍の装甲車群であった。川沿いに南下 しているところを見ると、カオルン橋を奪回するつもりらしいが、初動対応はも はや手遅れな状態に達している。

 「アニタ准尉、どうします?」
 「まだだ。ジュリアさんが指示をくれる…」
 わけはなかった。新生ゴージャス・ブロンドは東岸の掃討に当っているのだ。
 アニタは自分の言葉に愕然としていた。
 (あたしは、何を呆けてるんだ?)

 「ちっ…! ハンナ、一斉射撃! 装甲の継目を狙え!」
 (なんだ? どこかであたしはこの台詞を聞いたことがある…!?)
 アニタは戸惑いを無理やり抑えてトリガーを絞った。
 右肩の105mm砲が火を吹いて装甲車に穴を穿つ。

 どがが…がっ
 装甲車は停止したが、砲塔をゆっくりとこちらに向けつつあった。その動きが ふと止まり、装甲車は派手な赤黒い炎に包まれた。

 きゅごうんっ!!
 (これは…弾薬の誘爆…? そう、あたしはこれと同じ光景を見たことがある。 あれは、そう《オーバーキル作戦》だ)

 アニタの脳裏にジュリアの雄叫びが蘇る。
 《燃えろう! 燃えるのよぉ! おーほっほっほっ! あーははは!!》

 燃えさかるトレーラー群の炎をさながら祭壇にあげる護摩のように全身に浴び ながら叫ぶジュリアを、アニタはあらゆる意味で「凄い人だ」と思ったのである。

 (あたしが、やったのか? 弾薬の誘爆を?)

 「アニタ准尉!! 囲まれました!」
 アニタの回想を断ち切ったのはハンナの鋭い叫びだった。
 「そーそーあたしにばかり頼らないで!」
 (あたしは何を言ってる? ハンナが他の誰を頼れる? ハンナを助けられるの は、あたし一人!?
 (こんなの…嘘よ! ジュリアさん! アリスさん! 助けて!)

 ハンナは懸命にレーダーディスプレイを操作し、包囲の薄いところを見つけ出 す。森の中に隠蔽しているとはいえ、いつまでもここにいれば包囲が完成されて しまうだろう。その前にどうしても脱出しなければならなかった。
 「北側の森の方は警戒が薄いです。脱出しましょう」

 アニタの焦りは深まった。
 (ハンナの方がよっぽど冷静じゃないか!? あたしはこんな状況下でパニクっ てるだけなの? )

 ズンッ…!!

 胸に着弾した鈍い衝撃がアニタを貫いた。その瞬間、彼女の意識は、とんだ。
 「北だな! あたしが囮になる。ハンナは敵を踏み潰して脱出しろ!」
 「りょ、了解!」

 索敵型パワーローダーが敵の矢面に立つなど、暴挙にひとしい自殺行為であっ た。本来、敵の臨機射撃を引き受けるべきはX−32Cのような重装甲機の役目 である。
 そして、それはアリス中尉の得意とした戦法であった。
 「技のアリス、力のジュリア」という言葉が《ゴージャス・ブロンド小隊》の 本質をうまく言い得ているといえよう。

 いま、アニタはそのアリスのように、敵の臨機射撃の雨の只中にあって、華麗 な舞いを見せていた。
 薄い装甲を補うもの、それはパイロットの反射神経に100%依存する機動回 避能力である。
 右へ。左へ。フェイント。ダッシュ。とびこみ前転。ジャンプ。

 音楽大学出身のリズム感は親譲りのものでもある。
 頭の中を流れるのは月に一度の楽しみの、仲間とのセッション。
 アリスのヴァイオリンとアニタ自身の奏でるチェロの響き。
 ライザのキーボードが刻む8ビートのドラムマシン。
 一度マイクをつかんだら決して放さないジュリアのハスキーヴォーカル。

 ジュリアはかつて言った。
 「マシンの限界を越えるために必要なのは腕力さ」
 アリスは語ってくれた。
 「愛をもって接すればマシンはきっとそれに応えてくれるわ」

 今こそアニタははっきりと悟った。
 「やれる! あたしは一人でもやれる!
  いや、あたしの中に二人がいてくれてるんだ……!」

 アニタは森の中に飛び込んだ。
 「ハンナ、無事?」
 「はい。損傷は軽微です」
 「オーケイ。じゃあ、追撃にかかるよ。こいつら蹴散らしたら今度こそ山登り だからね。この山は、あたし達の山よ!」

           * * *

 そして、スピアーヘッド作戦はやがて終了した。
 アニタ・シェフィールドはかくてハーディの思惑通りゴージャス・ブロンドか らの巣立ちを経験し、独立独歩の《アローン君》と呼ばれるにいたる。
 5年の後、再びこのカオルン橋は戦火に包まれることになるのだが、それは別 のお話になる…。

 《 おわり 》

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   「 Keep the Faith 」

 透き通るような白い肌と、氷細工のような銀色の髪が痛々しい子だと最初に見 た時そう思った。

 「あたし、フェイス。フェイス・スモーレット。今日から一緒の部屋らしいん だ。これから、よろしく」
 と自己紹介したあたしに、疲れたような顔をして、少し微笑んだ彼女は何か言 いかけたが、

 「ミリセント・エヴァンス二等兵、時間よ。来なさい」

 という声に、よろめきながら立ち上がった。
 あたしをつれてきた地球政府軍の女性捕虜監督官はこの子をどこかへ連れてい くつもりらしかった。
 はからずもこの子の名前を知ることが出来たけど、ミリセント、舌を噛みそう な名前だ。一体何と呼んだら…?

 「ミルク、でいいわ」

 驚くまいことか。  この子は、今、あたしの声なき心の声に、答えた…。

             * * *

 何度目かのあたしの捕虜生活はこうして始まった。
 地球政府軍 第3捕虜収容所。数棟のビル群からなる、元大学校舎だった建物に は鉄格子がはめられ、校庭は自給自足のための畑となった。鉄条網は3重。講堂 は簡易木工作業所になってて、付属病院には負傷兵達があふれてる。

 大きな裸子植物の森と無数の川に囲まれた丘の上に立つこの収容所はまさに陸 の孤島だ。
 しかし、あたしはここからの脱走を画策しなければならなかった。捕虜となっ た兵士のすべきことは当然敵陣後方のかく乱である。後門の虎になること。それ が軍人としての変わらぬ任務である。

 「ねえ、新入り。ちょっといいかい?」
 ミルクが出て行った後、部屋を物色していたあたしを呼んだのは作業服を着た 女性兵士だった。ここは女子棟だから、まあ当り前と言えば当り前である。
 黒いバンダナと銀色の髪の対比が妙に締りのある印象を与えたその女性はアニ タ・シェフィールド准尉と名乗った。
 「DoLLSでは《アローン君》って言われてるけどね」
 そういって照れくさそうに笑った。

 DoLLS! 彼女らの歩いた後は戦死者の地縛霊ですら引越しを考えると言わ れる究極の破壊の女神達…(口さがない陸軍の男どもではそういう風評だった)。

 一瞬浮かべたであろうあたしの嫌そ〜な顔を無視して彼女は言った。
 「あんたを《リターニング》のスモーレット軍曹と見込んでなんだけど。脱走 計画があるんだ。乗らないかい?」
 「あ、乗ります」
 あたしは決断は早い。

 3日後の未明にDoLLSはアトランタ宇宙港に付属する冷凍睡眠覚醒施設を 襲撃する。その作戦、コードネーム”パワードールズ”に呼応して、脱走する計 画だった。
 30キロほど北方の宇宙港に待機している一個師団とも言われる敵の注意をす こしでも収容所に引き付けるのだ。

 ここの学長がかつて学生運動におびえて掘らせたと言われる伝説のトンネルを 使って脱走した後、偽装トラックを使って宇宙港まで逃げる。そこでDoLLS の本隊と合流する手筈なのだという。
 計画の80%は既に完了しているが、既に何度かの脱走経歴から《リターニン グ》の異称を持つこのあたしを新たに加入させて計画をより完璧にしようという 算段なのだ。なかなか目の付け所がよろしい、うんうん。

 始業ブザーが鳴った。休憩時間は終わりだ。奉仕作業に戻らなければならない。 3時間毎の休憩と共に捕虜監督官による定時監督が始まる。
 アニタ准尉は考えといてね、と言い残して作業所へ走って行った。
 どれ、あたしは今日は農場担当ということらしい。部屋に備え付けのTシャツ に着替え、外に出ると真夏の熱い太陽があたしを迎えてくれた。

             * * *

 ミルクが帰ってきたのは夜更けだった。一層やつれて見えるのは薄ぐらい裸電 球のためだけではあるまい。ミルクは物も言わずにベッドに倒れ込んだ。日中彼 女は一体何をしているのだろう?
 「大丈夫?」
 「いつもこうなの。心配しないで…」
 言いながらミルクはオチた。目の前で気絶しときながら心配するな、もないも んだ。
 あたしは貧相な毛布を彼女にかけてやり、明りを消すと、パンをガリガリとか じりはじめる。昼食の時にくすねたものだ。この中から作業所からやはりくすね た金鋸が現れる。コーラの空き缶の中には機械油が入れてある。
 音がしないように細心の注意を払いながら、あたしは鉄格子を切りにかかる。

 数時間後。

 「はうあぁっ!!」

 突然うめき声をあげてミルクが苦しみ出した。何にうなされているのか、額に は脂汗がにじんでいる。金鋸をほおり出してあたしはミルクを抱き上げる。
 「ちょっと!すごい熱…!……な、なにこれ?!」

 額に手を触れた途端、あたしの意識が遠くなっていく。白い闇の向こう側から 声が聞こえてきた。

 「…教授、これでは修正ジュネーブ協定ぎりぎりですよ。人権規定は守ってい ただかなくては困ります。これ以上は私達も捕虜監督官として看過するわけには いきませんよ…。
 「それでなくても負傷捕虜の冷凍保存なんて人体実験じみたことまでこのの収 容所はやっているんです! 超能力だかヒトの革新だか知りませんが、ほどほど にしていただかなければ…」

 「そうは言いますがね、これほどの素材、むざむざ見逃すわけにもいかんので すよ。見たまえ、この脳波パターンを! エヴァンス二等兵は私にとって、さな がら宝の山のようなものだ。
 「私の研究には地球政府軍のの期待がかかっておるのだよ!? かまわん、ム ラサメ君、やってしまえ」
 「了解です。脳下垂体刺激剤・強化副腎髄質ホルモンレベル4、投与します」
 「フラナガン教授!」
 「これは医療だ! 我々は彼女の精神の謎を解き明かさねばならん!」

 声は途切れ、今度は音のないイメージが広がってゆく。

 薄暗い雨の降る街路樹。行き交う人々と電気自動車の列。
 木の幹の下に座っている幼い少女。あれは…あたしだ。幼い頃の自分をあたし は見つめている。
 目の前に置かれた段ボール箱の中には銀色の毛を濡らした子猫がひとつ。
 弱々しくまばたく大きな眼に引かれ、手をのばせば冷え切った体についた雨粒 が細かく震えて地面に落ちた。少女は強く子猫を抱きしめる。

 《ごめんね、捨てることしか出来なかったのよ。あの時は、本当に! 許して なんかくれないよね、きっと守るって言ったのに…!》

 ふと気付くとあたしの抱いていたのはミルクの体だった。
 「フェイス! お願い、助けてェ! わたし、怖い…。自分のからだが、ここ ろが、変わっていく…!」

 夢が同調したのか、ミルクの痛みが流れ込んできたのか、それは今なお謎のま まであるが、この不可思議な経験は戦争で忘れかけていた何かをあたしの中に呼 び戻してくれた。
 窓から差し込む蒼い月の光にあたしは誓った。

 「大丈夫だよ、ミルク、あたしが守ってあげるから…。怖くなんてない。もう、 大丈夫…。今度はもう、絶対に裏切ったりしないよ…」

             * * *

 「エヴァンス二等兵? 危険だわ」
 翌日、アニタ准尉はごく簡潔にあたしの要望にそう答えた。ミルクをどうして も助け出したい、力を貸して欲しいと頼んだのだ。

 校庭を耕しながら、手は休めないで話を続ける。
 「最初は自白剤か何かから始まったらしいの。それがいつ頃からか催眠暗示と ドーピング。それでなにやろうってんだかは私らには知ったこっちゃない。私達 にわかるのは、情緒不安定なかわいそうなオムニ兵士が一人生まれたということ だけだわ。これも向こうの言い分じゃ『精神医療』らしいけどね」
 「それが…見てられないんです!」
 「私達はこうしてる今もオムニの軍人なのよ。感情だけで動くわけにはいかな いわ。ましてや今はトンネルも開通すると言う大事な時期でもあるの。地球軍の 連中に露見したらどうにも責任の取りようがないでしょ? この脱走計画はこの 戦争を終わらせることの出来る作戦の大事な一つでもあるのよ。失敗は許されな いわ。お願い、わかって」
 「…わかりました」
 「諦めて、くれるの?」
 「いいえ。あたしも《リターニング》と呼ばれた女です。一人でも、いえ、たった二人でも、脱走してみせます」

 アニタ准尉は一瞬呆れたような顔をしたが、ふうっとため息をついて背を伸ば した。
 「いやはや、こんなとこにも居るんだねぇ。ハーディ隊長みたいな《スタンピ ード》が…。勝手にしな。お互いの成功のために、これからはこの話は無しだか らね」

 ツルハシを大きく振りかざし、地面に強く突き立てた。オムニの堅い岩盤に小 さなひびが走ってゆく。しばらくそれを見つめてた准尉はやがて上目使いにあた しを見ながら小声でこう言った。

 「…実はね、誰かがそう言ってくれるの、待ってたんだ…」

             * * *

 それからあたしの死にもの狂いの脱走準備が始まった。
 2週間に及ぶ準備期間と200人を越す大人数の協力の下に今完成しようとし ているアニタ准尉らの脱走計画に追い付くためには並の準備では間に合わない。 准尉達の計画の前でも後でも都合はよくない。あくまで2日後に脱走することが 肝要なのだ。これはまさに千載一隅のチャンスといえた。

 あたしは窓からの脱出を断念し、建物の中を重点的に調べることにした。

 近代的な大学設備を転用してはいるが、人的な警備体制は非常に甘かった。こ れは地球軍の後方配備に対する認識の低さと、人員の枯渇の深刻さを物語ってい る。
 オムニ軍が各地で展開している発電所破壊作戦が功を奏したのか、電力の消費 を抑えるために近代的なカメラ警備システムと電子ロック装置のほとんどが使用 中止されていることもだんだんとわかってきた。

 これならいける、という予想が確信に変わったのは放置された物理実験室に侵 入してまんまと高伝導ケーブルを手に入れられたときだった。

 そして、決行の夜は、来た。

 いつものように疲れて寝入っているミルクを揺すり起こす。今日は落ち着いて いる。ミルクの体を少しは考えてくれたようだ。捕虜監督官もまぁ悪い奴ばかり じゃないってことかな。このときばかりは彼女らに感謝である。

 「フェイス、なぁに? わたし、またなんか変なこと言ってた?」
 「脱走するんだ。今まで黙っててごめん。あたしについてきて。大丈夫」
 「うん。なんとなく、フェイスの考え、わかってた。いつかこんな日が来るよ うな気がしてたのよね」
 「…こないだの夢みたいなの? よく見るの?」
 「あの研究室に入るようになってからよ。フラナガン博士のね。研究室にあっ た雑誌見てたら、神経精神医学の権威なんだって」
 「にしたって地球軍に協力してミルクを『素材』扱いするなんて。あんの売国 奴め、オムニリングの誇りを何だと思ってんだか。ミルク、もう苦しい思いはさ せないよ」

 あたしはドアを開けにかかる。電気的接触が切れると警報が鳴る。これはケー ブルで繋いでおけば平気だ。ミルクに抑えておいてもらいつつ、あたしはカンヌ キを切り放し始める。電子ロックとは言え、肝腎の部分はカンヌキである。あら かじめ鋸で切り落としておいたのを接着剤で仮止めしておいただけなので、これ は簡単に外れた。
 ケーブルを繋げたままゆっくりとドアを開け、鉄板に反射させて廊下の様子を 窺う。鏡があれば申し分なかったが、あいにく全て取り外されていたのである。 人影はないが、代わりに隠れられる場所もない。廊下の突き当りまで走れば空調 メンテナンス用のくぼみがある。そこを使うしかないようだ。

 このフロアがやけに静かなのは、やはりアニタ准尉らの計画が進行中だと言う ことなのだろう。どういう経路をたどってトンネルまで行くのか、そのあたりは 決行のその時まで秘密にされていたから、もはやあたしにはそれを知るすべもな い。

 手早く脱走セットをシーツにくるむと廊下に出て、慎重にドアを閉め直す。後 はひたすらダッシュだ。音をたてないようにくぼみに飛び込む。  さて、問題はここからいかに階段を気付かれずに降りていくかだ。監督官の詰 所は各踊り場に設置されており、そこは関所よろしくゲートまでが置かれている。

 「フェイス…」
 「何、ミルク?」
 「今、詰所から人が出て行った…」
 「なんだって、見えるわけないじゃない!?」
 「でも、わかるのよ。今残ってるのは酔い潰れかけたのがひとりだけ…。ゲー ト解除ナンバーもわかるわ。ファ・ド・ミ・ファ・ラ。…41346ね。」
 「すごい…」

 ミルクはしかし、あたしの言葉に悲しそうな目をして、言った。
 「わたしのこと、変だと思ってるでしょ? 化物みたいな力でしょ、これって」
 「そんなこと…、思ってなんかないよ!」
 「ううん、いいの。わたしは、この力を今だけはわたし自身と、フェイスのた めに精いっぱい役立ててみせるつもりよ。ちょっと、怖いけどね、自分でも」

 ミルクは思ってたよりずっと強くて、勇気のある子なんだ。そして、自分が何 ものなのか、一生懸命知ろうとしている。その強烈な意思が、信念が、元々の優 しさと絡み合って大きな力を紡ぎ出してゆく。
 あたしは今、はかなげな印象を持つ、戦いの女神に出会った気がした。

             * * *

 脱走は拍子抜けするほど順調だった。あたしの計画したルートが図に当ったこ ともあるが、要所要所でミルクが「力」を貸してくれたのだ。

 ビィーッ!、ビィーッ!!

 収容所内に警報が響き渡った。3重になった鉄条網を何とかクリアした瞬間だっ た。森までの地雷源をこれから踏破しなければならないところだ。
 思わず足を止め、収容所を振り返る。

 無数の物見櫓から投光器が白い光を伸ばし、左右に首を振る。
 建物の方に向くように改装されたグラウンドのナイター設備が昼間のようにビ ル群を闇夜に浮かび上がらせる。
 ズドドドド…、重機関銃の音が遠くで始まる。
 サイレンが鳴る。
 ビルの屋上のへリポートに灯がともり、ヘリコプターが発進準備を始めた。
 慌ただしく兵士達の走る足音が遠くで聞こえる。
 旧式パワーローダーの鈍い作動音。

 見つかったのはアニタ准尉のチームであることはまず間違いなかった。しかし、 警戒配備が始まってしまってはこちらが発見されるのも時間の問題と言えた。
 目の前の地雷源と背後から迫る敵兵士と。
 冷静になれ、と自分に呼びかければ呼びかけるほど冷静さを失って行くのがわ かる。
 そんなあたしの肩に手を置いて、ミルクはいやに落ち着いた目で言った。

 「フェイス、わたし、地雷のあるところ、見えるわ。向こうについたら合図す るから、そしたらわたしの足跡を踏んで来て」
 「な、ちょっとミルク! 待って!」

 あたしの制止する声も聞かず、ミルクは足跡をくっきり残しながら歩き始めた。
 そんなの、嘘だって、わかるよ。
 いくらなんでも透視するだなんてむちゃくちゃだ。
 今までの経験で、鋭敏な聴覚と、ずば抜けた記憶力とわずかな精神感応力が彼 女の「力」の全てだと言うことはあたしにだってわかった。
 それ以上のことは出来ない。

 でも、彼女はいまあえて魔女になりきろうとしていた。
 そして、あたしは、ミルクの後ろ姿を信じることにした。彼女の眼は人身御供 になろうと言う人間の眼ではなかった。
 彼女の幸運にあたしも賭けようじゃない。ミルクがあたしを信じて今までつい てきてくれたように。

             * * *

 「アトランタ宇宙港まで北へ5キロ」の道路表示を見た頃にはもう、朝になっ ていた。
 山がちの地形を一直線に伸びるアトランタ自動車道をあたしたちはトラックの 荷台に揺られていた。脱走に成功したのち、アニタ准尉のチームに拾われたのだ。

 民間人の輸送トラックに偽装された幌の中に座っている人々はどの顔も疲れきっ ているようだった。民間人の服装や検問をクリアできるほど精巧に作られた通行 許可証なども、男女あわせて20人分しか実際には使われなかったのである。
 アニタ准尉のチームの脱走計画は内通者による裏切りで、トータルで見た場合、 失敗としか言いようのない結果に終わったのだ。

 ガクン、とトラックが急停車した。
 運転席の男が窓ガラスを二回叩く。「検問だ」の意味である。荷台の中に緊張 が走る。
 しかし…外に聞こえるこの音は…パワーローダーのアクチュエーターのきしみ である。しかもこれは…X−32!?
 オムニ独立軍の最新型だ! そしてDoLLSの主力機でもある!

 幌の入口が大きく開かれた。

 まぶしい朝の光をバックに受けてその女性は金色の髪をなびかせた。
 「アニタ・シェフィールド准尉! いるか!?」
 「は、はい、ここに! ハーディ・ニューランド隊長!」
 「お役目ご苦労だった…!8時15分付けをもって地球派遣軍との停戦が成立し た。諸君、おめでとう。オムニ軍は勝利した!」

 ハーディと呼ばれたその将官は白い歯を輝かせて笑い、それと同時にトラック じゅうに歓声が溢れた。アニタ准尉は今まで見たこともないような無邪気な表情 でハーディ隊長の胸にとびこんでいった。
 あたしは涙ぐむミルクの体を支えながら荷台を降りた。心身ともに疲労しきっ たはずのミルクでも今までとは違う朝の光の下、とても元気な輝きがあった。

 「あなたが《リターニング》?」
 ハーディ中佐がふとあたしに話しかけてきた。あたしよりも小柄なくらいなの に妙に大きく感じられる人だった。あたしのことを品定めでもしているかのよう な目付きだったが、不思議といい気分だった。

 「は、はい。フェイス・スモーレット…軍曹です」
 「ふぅん。しかし、同じ生還率100%で、ついた仇名が《ゾンビ》と《リター ニング》とじゃえらい違いだわね」
 「??? 誰が《ゾンビ》なんですか?」
 「あんたの目の前にいる人だよ! 額に「无(ウー)」って書いてあんだとさ!」
 「ジュぅリアっ!!またあんたはそーゆー見てきたよーな嘘を言う!!」

 ジュリアと呼ばれた、とても軍人には見えないお姉さんは舌をちょろっと出し て肩をすくめて笑った。
「基地(オウチ)に帰って終了(タダイマ)って言うまでは作戦(エンソク)は終わってないっ、 ですか!?」

 「これがDoLLSなの…?」
 ミルクの声はそっくりそのまま、あたしの考えだった。なにが究極の破壊の女 神なものか。

 「さて、ここで知り合ったのも何かの縁だ。これ、あげるよ」
 ハーディ中佐は青いバンダナをほどいてあたしに投げてよこした。
 「この戦の間、血も涙も汗もずっとこいつと共にあった…。だいぶ色あせちゃっ たけどね、幸運のお守りだ」
 「大事なもの…じゃないですか!?」
 「これから始まる平和な時代にとってはただの徒花だよ。だけど捨てるにはあ んまり忍びなくってね。受け取って、くれるね?」
 「はい…。戦の終わった証に…」
 「…いい子だ…。さあ、みんな、行くよ! 総員、撤収再開!」

 DoLLSの面々はこうして去って行った。
 あたし達を乗せた偽装トラックは来た道を街に向かって戻り始めた。ほっとし たせいで、疲れがどっと出てしまったのか、あたしの肩にもたれてミルクは小さ く寝息をたててる。
 あたしは一生この日のことを忘れないだろうな、と思った。

 バンダナなど今まで巻いたこともなかったが、荷台に揺られながらあたしは青 いバンダナを巻いた。また近いいつか、たくましく、美しい女神達にあえること を予感しながら…。

  《 おわり 》

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  時は未来のものがたり。我が道 極めんとする娘あり。
     血生臭い生きざまに凶事まとうは偶然ではなかった。

 「パワードール2武将烈伝:真・侍撫子魂〜アヤセ・ミノル地獄変〜」

 「渓谷を西進し、突き当りの丘の上に立つ無線中継アンテナを破壊せよ」
 言うは易し、行うは難し。少女の額に汗がにじんだが、それを拭く余裕などな
い。F221戦闘攻撃機が2機入るか入らないかの狭い渓谷を超低空で飛行して
いるのだ。キャノピー越しに高速で流れてゆく渓谷の岩肌は近寄るものを皆斬り
裂こうとする意思を隠そうともしない。一瞬の気の緩みが即、生死を分ける。

 少女、アヤセ・ミノルの前方を行く隊長機から通信が入った。
 「目標まで1分、プロトン魚雷発射準備!」
 了解、の声は彼女の後続機からも届いた。4機からなるオムニ防空軍第19飛
行中隊《シルバーナイツ》は一列縦隊を組み、曲りくねった渓谷を進んで行く。
その様はさながら騎兵隊の行軍であり、勝利の凱旋ならともかく、渓谷の上にい
る対空自走砲の連中がこれを見たならば飛んで火に入る夏の虫とばかりにミサイ
ルの雨を降らせてくるに違いない。しかし、これより他にとり得る戦術はなかっ
たのである。
 オムニ独立軍の反攻作戦「リワインド作戦」は乾坤一擲の大計画であり、シル
バーナイツの援護に回せる部隊は存在していなかった。彼らは単独でこの任務を
遂行せねばならなかったのであるが、ユーロ山塊の奥深くに設置された「バベル
の塔」と名付けられた目標のアンテナにたどり着くまでの最後の1分は果てしな
く永かった。

 「イースより隊長へ、発見されました!垂直尾翼に被弾!」
 「これまでか…。よし、クリンとイースは私に続け。渓谷を離脱し、上空から
対空車両を叩く。アヤセ、バベルの塔はお前の獲物だ。かならず陥とせ!」
 「了解!」

 3機が谷の割れ目を抜け出すとたちまち対空ミサイルが彼らを追った。上空は
チャフとフレア・デコイの大乱舞となった。
 アヤセには3人が囮となってくれたことが充分すぎるほど判っていた。だから
こそ、一度だけのチャンスに賭けなくてはならない。谷はいよいよ狭く、しかし、
その先はもう僅かの距離を残すのみとなっていた。
 目の前の渓谷が突然狭まっていた。アヤセはとっさに機体を捻って垂直に立て
岩の間をすり抜けた。突然空間が広くなる。そして、丘の上にはバベルの塔がそ
びえ立っていた。

 「ミノル、気を満たし、体を合わせるのだ。その時に剣を撃てばたとえ百貫の
鋼鉄といえど斬れぬものではない。これぞ剣術の極意、気剣体之一致…」
 極東自治侯国の剣術指南役を勤めていた父の言葉が突然頭の中をよぎった。
 自動照準装置はまだ早いと告げていた。今発射したら回避動作が出来なくなり
機体は岩壁に激突する。そういう意味だった。
 しかし、裂帛の気合と共にトリガーを絞ったアヤセの心にはいささかの迷いも
なかった。プロトン魚雷はF221の腹から切り放され、バベルの塔の根元へ吸
い込まれていった。
 強引に機体を水平に戻し、思いきり急上昇をかける。炸裂したプロトン魚雷の
衝撃波が追い打ちをかける。シートがきしむ。酸素マスクのホースがちぎれる。
視界が赤く染まってゆく。

 「ウッド先輩、わたし、やりました!」
 しかし隊長からの返事はなかった。幼い頃から共に剣術の稽古を重ねてきたウッ
ド中尉の乗る機体が四散するのを彼女は見た。否、砕け散ったは機体にあらず。
アヤセの中の何かが今の一瞬で砕け散ったのである。

 命からがらクリン機とイース機と共に帰投は果たし、今回の戦果により《曲芸
師》という称号も得た。しかし、二人は重傷を負い、アヤセは傷ついた心を癒す
手だてのないまま空軍の戦技研究班へ編入され、隔離された施設の中でさまざま
な実験の材料にされるという生活を終戦の日まで味わった。

 …4年が過ぎた…。

 アヤセはその地図を見ながら忌まわしい土地を思い出さざるを得なかった。
 《ワイヤーカッター》作戦はDoLLSとしての2度目の出陣となるが、こう
も人の運命と言うのは因業なものか。作戦マップのまさに”GOLF”と書かれ
た地点こそバベルの塔がその威様を誇っていた場所である。

 「イヤな所に来ちゃったなって顔だね」
 ブリーフィングを中断したハーディ大佐はサングラスを外してアヤセの顔色を
うかがった。
 「アヤセ、訳ありの所なんだろうけど気持ちだけは強く持って。でないと、過
去を振り切ることも自分に打ち勝つことも出来なくなってしまう…。そんなこと
のためにあなたをDoLLSに誘ったわけじゃないの。それだけは判って」
 「はい、大丈夫です。この場所なら、目をつぶってでも…」
 「そういう強がりは、駄目。もっとあたし達を信頼して。いいね」

 ハーディは一歩退いて全体を見渡した。
 「今回の作戦には懐かしい人々が支援を申し出てくれた。空軍の第19航空中
隊《シルバーナイツ》だ。クリン中尉、イース少尉、入ってくれ」

 思わず席から立ち上がったアヤセの前に確かに二人の青年が現れた。
 「二人とも…よく無事で…」
 「何泣いてんだよ、俺達が死ぬとでも?」
 「そうそう。アヤセの笑顔を見るまでは死ねますかってんだ。…でもこれだけ
美人揃いなら誰の笑顔でもいいな」
 「あんた4年前も同じこと言ったよ」
 フェイルンの言葉にブリーフィングルームに笑いがこぼれた。

 頃合を見計らってハーディの声が響く。
 「よぉし、その笑顔でこそDoLLSだ。これなら満足いくでしょ、ミスター・
パーカー?」
 部屋の片隅にいた従軍写真ルポライターは大きくうなずいた。
 「これより作戦立案に入る。お二方、着席してください。さてフェイルン、
後はあんたに任せるよ。あたしは幕僚会議ってのがあるんで、これで」

 ハーディが部屋を出る瞬間、アヤセと目が合った。その目はすっかり自信を取
り戻したように見え、黒い瞳は澄み切っていた。明鏡止水、そういう精神性を持
つ民族がいることを彼女は知った。そう、何と言ったか…。
 彼女は結局その単語を思い出すことは出来なかった。それは「サムライ」とい
う単純な響きの言葉である。
《 つづく…かもしれない 》

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注意:「真・侍撫子魂」の続きです。

   時は未来のものがたり。我が道 極めんとする娘あり。
      血生臭い生きざまにまとう凶事を振り払いて撫子は咲く。

   「パワードール2武将烈伝:続・真・侍撫子魂」

 オルステッド森林地帯の深い緑が雲の切れ間からときどき覗いていた。
 作戦空域の上空はあいにくの曇り空だった。しかし、クリン中尉はこれぞ天恵
と胸のうちで笑った。
 「下では対空砲が手ぐすね引いて待っているだろうが、雲が俺達の発見を妨げ
てくれるはずだ。イース少尉、行くぜ、遅れんなよ」
 「隊長、下で待ってるのはそんな無粋なもんじゃないでしょうが」
 「なんのことだ?」
 「カッコいいとこ見せなくちゃいけませんからね、ミノルちゃんに」
 「…イース少尉、作戦中だ。私語は慎め」
 「…ったく素直じゃねえんだから」

 4年来のつき合いは伊達ではない。イースはクリンの恋心に気付いている僅か
な人々の一人だった。クリン中尉はほんの数時間前にかわしたばかりの約束を思
い出していた。

 「あ、アヤセ、出撃する前に、話があるんだが…」
 「んー、お話?…ねぇ、後にしようよ。帰ってきてから」
 「帰ってきてから…か。わかった。約束だ」
 「うん、約束だからね、絶対。嘘ついたら後が怖いんだぞ…」
 「『嘘ついたら針千本飲〜ます』か?相変わらずだなぁ」
 「ふふっ、そうよ」
 そしてアヤセ・ミノルは笑いながらら小指を立てた…。

 先に降下したタカス・ナミ中佐からの爆撃指示は既に下っていた。
 クリン中尉の乗るF231戦闘攻撃機は機体を傾け、急降下に入った。その後
をイース少尉機が追う。垂直尾翼に描かれた騎士の紋章が頭上の太陽に反射した。
 「待ってろよ、爆弾ども。もうすぐ落としてやるからな」
 ゴルフ山に陣どっているはずの敵は彼らによって全て薙払われ、その煙に隠れ
て本隊が高高度降下する予定である。その煙が晴れたとき山上に屹立する怒れる
女神達の姿にジアス軍は恐怖するに違いなかった。

 「アヤセはん、行きまっせ。チャーリーはん待たせたら、あかん」
 「御意」

 ナミのローダーが動き出した。どうやら爆撃指示が終わったらしい。無線の使
用はごく短時間に制限されている。そんな中にあってアヤセは戸惑いながらもな
るべくナミの意図を汲むべく、ナミの行動をじっくりと観察していた。
 肝腎のことは誰が教えてくれるわけでもない。熟練者の行動を観察し、吸収す
ることが上達の早道であることはパワーローダー戦闘も剣術の稽古も変わる所は
ない。

 ナミが護衛役にアヤセ・ミノルを選んだのは、かつての戦友の雄姿を見せてあ
げようというナミ自身の判断からだった。苦い思い出の残るこの戦場で勝利する
こと、そしてその全てを見届けさせてあげることがナミの優しさの表現だった。

 ナミとアヤセが最終的な集合地点であるゴルフ山頂に登るためには、チャーリー
と名付けられた橋を渡る必要があった。しかし、このチャーリー橋の破壊こそが
今作戦《ワイヤーカッター》の第1目標である。
 爆破部隊が「チャーリーをメロメロにする」前に二人はこの橋を渡ってしまわ
なければならなかったのである。

 それが二人の無用な焦りを産んだのかも知れなかった。

 グワッ!!
 何の前触れもなくナミのローダーが爆煙に包まれた。
 閃光に反応してメインディスプレイに偏光フィルターがかかる。が、両膝をつ
いたローダーの肩に積まれたDRu20ミサイルが誘爆する様子はまるでストッ
プモーションであるかのようにアヤセの目には写ったのだった。
 「ナミさん!」
 安否を尋ねるアヤセの声に無線機はガガッというノイズでしか答えない。
 アヤセの肌が不意に粟立つ。4年前に砕けた何かが、再び砕けたような、そん
な感じがした。大事なものを守り切れなかった悔しさがこみ上げてくる。

 「もう、許さない!」
 「アヤセ、どうした!?」
 「クリン!あなたは爆撃に集中して!
  助太刀無用!ナミさんの仇はわたしが討つ!」

 敵のローダーが視界の隅をかすめた、ような気がした。左手の林の奥。ナミの
機体とのレーダーリンクが途切れた今、アヤセの乗るX4+にそれが探知できる
はずはなかった。が、メインディスプレイは一つの光点を映し出していた。
 グリップを握りなおす。マシンが「手の内に入った」のを感じた。

 「……ありがとう。いくよ、X4+……!」
 林に目をすえたX4+はゆっくりと150mm砲を持ち上げた。
 「滅せよ!!」
 ありったけの銃弾が光を曳いて林の奥に飛び込み、敵ローダーを灰塵に帰した。

 アヤセはコクピットハッチを開けて周囲を見渡した。樹脂と潤滑油の燃える匂
いに顔をしかめ、アヤセはつぶやく。
 「ナミさん、仇は討ちました…。わたしの不覚をどうか、お許しください…」
 「待ちなはれ、勝手に人を殺さんといてや?」
 「え?」
 「あたしは平気。足元におるで」
 「ナミさん!脱出できたんですね?…わたしてっきり…」
 「アホ、ほんまに本気か冗談かわからん子やね。昔のあたしみたいやわ。
  …そないなことええわ。爆撃、始まるで。よぉく見とき!」

 雲を突き抜けてF231戦闘攻撃機が爆弾を投下した。
 「これでも喰らいなっ!!」
 ゴルフ山は炎と煙で赤と黒に彩られた。
 しかし、その一瞬をついて煙の中から一つのミサイルが発射された。フレアデ
コイを発射する暇こそあれ、ミサイルはF231に命中し、騎士の紋章を木っ端
微塵に粉砕した。
 そのミサイルを撃った対空車両は次の瞬間105ミリ砲の直撃を受け、あっけ
なく大破した。105ミリ砲の主、アヤセは祈るような気持ちで叫んだ。
 「クリン!」

 4年前と同じようにこの空は新たないけにえを求めているのだろうか?あの時、
最後に聞こえた声は「クリン、俺に代わってアヤセを守ってくれ……」だった。
 気絶したまどろみの中、閉じた瞳で何を見たのか、聞こえないはずの耳に声で
も届いたか、クリン中尉は突如目覚めた。

 「約束が、まだだったな!…アヤセ!」
 クリン中尉は墜落してゆく機体を無理やり引き上げた。眼前に広がる渓谷をか
すめ、クリン機は再び上昇を開始した。そのコースはいみじくも4年前、アヤセ
がバベルの塔を破壊したときのコースと同じだった。
 その姿に安堵のため息をつく一人の少女の顔に、もはや修羅の表情はない。

 ……爆撃・降下・橋梁爆破・撤収、ヤオ・フェイルン隊長の的確で臨機応変な
指示の下、ワイヤーカッター作戦は完遂し、DoLLSは帰還した…。

 「えーと、血圧正常、脈拍正常、脳波正常…と。問題ないな。あんた、運がい
いよ。機体があれだけボロボロなのに、アバラの一本で済むなんて。メリサの機
体なんか見てみろ、昨日届いたヤツよりきれいだぞ。
 そうだ、幸運の女神様が見舞いに来てるぞ。あんま興奮すんな、クリン中尉」
 笑いながら軍医が病室から出てゆくと入れ違いに入ってきたのはアヤセだった。
 「なんだ、元気そうだね」
 「なんだ、はないだろうが」
 クリンは言いながらもアヤセの目が赤いのには気付いていた。相変わらず人前
で泣くことはしない娘であった。

 ふと遠い目をして、彼女はつぶやいた。
 「でもね、生きていてくれて、本当によかった…」

 「なぁ、アヤセ。もし生きてたら…ウッド中尉…、今でも好きか?」
 ゆっくりと彼女は首を振ったが、その目でクリンには充分だった。その目に写
っているのはクリンではなかった。そう、彼にはそんなことは随分前から判って
いたことである。
 「…話があるって言っただろ、出撃前。ウッド中尉のことなんだ」
 「忘れなくちゃいけないってことは、判ってるの。でもね…」
 「違う、違う。いいんだ。おぼえてて。覚えていなくちゃいけないんだ」
 「どういう…こと?」
 「生きてるんだ、ウッド中尉。冷凍医療施設から4年ぶりに発見されて。この
前立会い検査に行ってきた。あちこち怪我してたけど、間違いない。ウッド中尉
だった…」

 第1次オムニ独立戦争の折り、悪名を馳せた旧地球政府軍の第3捕虜収容所に
は治療困難な負傷捕虜を収容するための冷凍睡眠施設があった。戦後オムニ政府
に接収されたものの施設管理者が資料を焼き払って逃亡したため、下手に解凍も
出来ず、いまだに戦後問題の大きな一つになっていたものである。

 ベッドに突伏したまま、はじめて、アヤセは泣いた。抑えようのない涙はそれ
まで親以外の人間には見せたことのないものである。そしてその全ては眠り続け
る男のために捧げられていた。
 クリンは胸のうちでつぶやいた。
 「約束は果たしましたぜ、隊長。早く戻ってきてくださいよ、こいつのために
もね…」
 いつしか「こいつ」はベッドにつっぷしたまま眠ってしまっていた。戦闘の疲
れもあったろう、泣き疲れたこともあるだろう、しかしそれでもきっといい夢を
見ているに違いない、それは美しい寝顔であった。
  《 おわり 》

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   「レイバーグ牧場の戦線離脱宣言」

 TSR1装甲索敵歩兵。通称《ヤドカリ》と言われたこのマシンは彼女の仕事
のパートナーとして欠かせないものだった。この索敵能力もかつて敵機だった頃
は恐ろしかったが、今ではすっかり自分の眼である。いくら高性能であったから
と言って最高軍事機密の愛用機X32Aはさすがに牧場の見回り用として払い下
げさせてはくれなかった。
 《ヤドカリ》は六本の足で器用に向きを変えると、銀世界の向こうの遠くに見
えるサイロの方へ雪のとけかかったぬかるんだ草原を歩きだした。夏の間に貯め
た干し草ももう底をつく。

 「お姉ちゃん、全周囲クリアーよ」

 ジュリイの声がヘッドセットから聞こえた。レーダールームからの妹の声にう
なずくと、ジュリア・レイバーグは《ヤドカリ》を自動操縦にセットし、ハッチ
を開けた。心地よい冷たさの風に長いブロンドをとかせる。長かった冬が終わり
を告げようとしている。
 父が腰を痛めて牧場に出られなくなってもうだいぶ経つ。オムニ牛といわれる
大型乳牛を育てるにはこのレイバーグ牧場にいる牧場員はあまりに少なすぎ、復
員した《ジュリあね》ジュリアと《ジュリいも》ジュリイは懐かしい牛達の世話
に明け暮れることになった。
 しかし、そんな日々ももう終わる。予備役召集の知らせが届いたのが昨日。政
府の戦後政策「人口倍増計画」にのっとって、女子の召集は任意出頭と言う形に
なっていた。
 DoLLSの隊長であったハーディの手紙が添えられていて「全員が参戦する
わけではない。新兵も多く入ってくる。よくよく考えてくれ。私に言えるのはそ
れだけだ」とあった。指令官になりはしたものの、その苦悩をにじませる文章だっ
た。あの《スタンピード》ハーディがここまでのことを言うからにはジュリアも
自分の進退について真剣に考えねばならなかった。

 「お姉ちゃん、もうここにも長くはいられないね」
 「ジュリイ、同窓会ってわけじゃないの。パパのことほって行けるわけでもな
いでしょ?……私ね、行かないつもりよ」
 「お姉ちゃん…?なんで?また、みんなで戦えるんだよ!?」
 「もうみんなと一緒って歳でもないでしょう?人の迷惑ってものも…」
 「迷惑なんてなんない!新兵なんかよりずっと働くよ、あたし」
 「そ・れ・が、迷惑だってのよ」

 DoLLSの勝利の秘訣はその揺るぎないチームワークにあった。総勢21人
の隊員の息がピッタリ合ったところに敵のつけ入る隙はない。
 その中でも結束の堅さを誇るのが《ゴージャス・ブロンド》《わくわく動物》
《特務軍曹》の3小隊9人であった。しかし、この結束もすぐに作られたわけで
はない。《ゴージャス・ブロンド》小隊長としてのジュリアが苦労したもその点
である。
 アニタ・シェフィールド准尉。彼女には本当に申し訳ないことをしてしまった
と今でも悔やんでいるのだ。彼女とアリスとジュリアのコンビは新兵教育の理想
形とまで言われたが、ジュリイが入隊した日からこの理想は崩れた。再編成され
た《ゴージャス・ブロンド》小隊は戦果を重ねたが、肉親の情を捨て切れなかっ
た軍人としての甘さを恥と感じ、ジュリアはその後しばしばミスを見せるように
なった。一方で小隊から放り出されたアニタはその後一人で動くくせがついてし
まった。
 「…DoLLSで特徴的に見られた3人1組の小隊による部隊運用には生還率
の向上や、輸送・降下計画の簡便化、作戦任務の専門化など効率の上でのメリッ
トが大きかった…(中略)…部隊内の硬直化をもたらし、柔軟な部隊運用の妨げ
となることも時折であった」
 これは戦後ベストセラーとなった『天使達の戦記』中で従軍記者ジョン・パー
カーが語っていたことである。

 「なんか…お姉ちゃん、らしくない。『私についといで!』みたいなお姉ちゃ
んの方が、あたし、好きだな」

 ジュリアは思い出す。戦争という修羅場の中とはいえ、充実していたあの頃を。
故郷に錦を飾ろうという気も失せ、都会の中でただ生きていたあの頃に突然降っ
て湧いた鋼鉄の動乱。熱い気持ちをたぎらせて十字砲火の下を駆け抜けた血みど
ろの日々。自分をさらけださなければ生きてゆけない。そしてそれが美徳とされ
た時代。いい時期だった。
 しかし、それを認めてはならないと心のどこかで誰かが叫ぶ。ほんの少しの間
ではあったが、この平和こそ心の底から望んだものなのだ。
 昔のことは人間誰しも忘れてゆく。思い出は思い出らしく、美しく消えてゆく
方がいい。《ゴージャス・ブロンド》も無敵の伝説とともに葬り去られなければ
ならないのだ。

 「私は…牧場を、守る。政府の『人口倍増計画』は『女は子作り』政策なんて
言われてるけどね、私はそれはそれで正しいと思ってるの。戦場に出て鉄砲ぶっ
ぱなすだけが戦争じゃなし。私の作る牛乳が何人もの男達の命を救うのよ。殺し、
殺されることより、生き延びさせることの難しさ、それだけは忘れたくないの。
 「それに、今度は前とは違う。同胞の命を奪うことが…恐いのよ。何にこの命
をかけるのか、それが…わからないから。オムニ政府はこの戦争をどうあっても
避けなければならなかったのよ。今の政府には一片の正義も戦争できる国力もな
い。緊急予算は確かに組まれた。それなら何でDoLLSを全員集めることさえ
も出来ないの?パワーローダーは金食い虫だからよ。産業界を敵に回して政府に
勝ち目があると思う?負ける戦をしてわざわざ死にに行く気は、私にはないわ」
 「お姉ちゃんはそこでずっとソロバンはじいてりゃいいわ!あたしだけでも行
くからね!」
 「行っては駄目!今のお前はきっと新しいDoLLSを駄目にする…!DoL
LSは変わるの。もうDoLLSは変わり始めてる。DoLLSは変わらなくて
はいけないの。DoLLSは、DoLLSは……」

 ジュリイのヘッドセットに届くのはいつか涙混じりのおえつに変わっていた。
そしてジュリイは知った。姉は深く深くDoLLSを愛しているのだと。
 
 無線機が音をたてた。
 「姉さん方!《クァンメイ》が急に産気づいて!わしらだけでは無理です!す
ぐに戻ってきてくだせえ!」
 《クァンメイ》は牧場で戦後4番目に生まれたオムニ牛の名前である。
 「こちら、ジュリイ。わかったわ、すぐ行く!」
 ジュリイは操縦系統をレーダールームの制御に移すと、《ヤドカリ》を厩舎に
向けて全力疾走させた。その足跡の下から牧草の新芽が覗く。オムニの大地は何
もかもが生まれ変わる新しい季節を迎えようとしていた。
《 おわり 》
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「湯けむり3人娘旅日記」


 広い空を眺めれば、満天の星空に丸いお月様が明るく輝く。その下の松の木 陰の岩肌にはきちんと畳まれた浴衣が3着、湯煙に霞んでいる。薄く白く濁っ た42.2度のお湯の上にはお盆が浮かんでいて、その上には熱燗の入った徳 利。そしてその傍らにお猪口を傾けるほんのり頬を桜色に染めた色気たっぷり の3人娘。
 これぞ、有給休暇!毎日の退屈な仕事はこの日のためにあるのよっ!

 …と思ったから仕事の合間を縫い縫い、このエリィ・スノウ様がこの2泊3 日マニアック秘湯ツアーを企画したってのに、何なのよ、この有様は。
 懐かしい3人で集まろうって言ったのに、ミチコはこの間までプータローだっ たくせに、「今は仕事が充実しているの」などと言ってドタキャンするし、ミ キちゃんはさっきまで、酔っ払ってくだくだと不満を好きなだけブチ巻けてた のに、もうさっさと寝てしまった。
 ええい、ボク達の友情ってそんな物だったか?!これが「重金属トライアン グル」とまで言われた《DoLLS特務軍曹小隊》?!
 人気も疎らな田舎のひなびた温泉旅館の部屋で一人傾けるお酒って寂しい。 こういう気分のときはもう一風呂浴びるにかぎるわ。やっぱり温泉って、いい。 疲れもイライラも全部流してくれる。
 しかし、ミキちゃんの相手をするのがこんなにくたびれるものとは思わなか った。独立戦争の後、ボクは陸軍一の閑職と言われる戦史編纂室へ編入され、 ミチコは退役して今は雑誌記者ジョン・パーカーの助手に収まった。一番安泰 だと思ってた海軍士官学校と言う道を選んだミキちゃんがどうやら一番不満が 多そうなのである。

 昔から酒の強い子じゃなかったけど、教官の口真似らしいが、
 「コウライ・ミキ君。そう言えば、君の先輩のセルマ・シェーレ君は素晴ら しかったよぉ。いや、彼女はよかった。成績はいいし、かわいいし、スタイル も抜群だ。腕もいい。なんたって主席で卒業だもんなぁ。君も見習わなきゃイ カンよ。ああ、そうだ、ヤオ・フェイルン君も私が教えたんだよ。あの子も素 直ないい子だったなぁ。いや、私もね、君には期待はしてるんだよ、期待は。 是非とも私の期待には応えて欲しいもんだねえ」
 とか何度も何度も聞かされるのではたまったもんじゃない。挙げ句のはてに  「セルマが何さぁ!あ〜んな銀猫なんかとあたしを比べるなんてぇ、どゎい たい教官も脳味噌腐ってるわよねぇ。そりゃ、あたしはセルマほど可愛くない しぃ、腕だって多少は劣るわよ!でもねぇ、あたしだってねぇ……うう〜、セ ルマの馬鹿〜っ!!」
 ときたもんだ。しかも泣くんだ、これが。正直言って眠ってくれて助かった のだ。一晩じゅうあれを聞かされたのでは何のための有給休暇か判らなくなる。
 しかし、確かにセルマ先輩と比較されてはかなわない。あの人は特別すぎる。 「銀の髪のコンピュータ」などとその天才ぶりをうたわれ、スケベ親父から純 情そうな青年士官まで人気も幅広い。
 昔は同じ海軍の仲良しだったセルマ先輩とミキちゃんとの間に、学校のせい で亀裂が生まれてしまったのだとすれば、士官学校なんて許しちゃおけない。 そんなことを連日のように聞かされるろくでもない学校に通うのでは気が滅入っ てしまうだろうな、と思う。眠りこけているミキちゃんの顔は本当に安らかな 感じだった。不平不満を聞くと言う損な役回りだったけど、こんなボクでも ちょっとは役に立てたのかと思うと、だんだん怒りも治まってきた。さすがは 天下の秘湯である。来てよかった。

 さて、体も充分すぎるほど温まった。部屋に戻ってもう寝よう。
 浴衣の上に、藍染めの羽織を着る。目の隅っこに体重計が見えるが、ここは あえて無視。理由は…、聞くんじゃないよ。

 部屋はなぜか騒がしかった。廊下に明りが漏れていて、半開きになったドア からはミキちゃんが誰かに向かってくだを巻いているのが聞こえる。が、これ は違う。本当に酔っ払ったミキちゃんはこんなに大人しくない。酔った演技を しているらしい。なにか部屋で異常事態が発生しているんだ。
 来たか。ボクは直感した。実は、ちょっと心当りがあるんだな。
 戦史編纂室というのは閑職と言われる割にはなかなか特権的な職場であり、 軍事機密を閲覧する制限が大幅に緩められているのだ。先日ボクはDoLLS のクァンメイ先輩ともゆかりの深い”中華街30番地事件”の資料を探してて かなりヤバそうなものを見つけてしまったのだ。陸軍内部の秘密情報の断片だ。
 これを調べただけでやめときゃよかったのだが、ボクってば人がいいのだろ うか、政治スキャンダルを探してるっていうミチコにこのことを少しだけリー クしちゃったんだよね。うん、ほんのちょっぴり。たぶん。きっと。…全部だっ たかな?そうかもしんない。

 ぱす、と音がした。サイレンサーで消されてはいるけれど、これは確かに銃 声だ。もう考えてる余地はない。ボクは廊下をダッシュした。そこら辺にあっ た消火器を手にとった。左手にタンクを抱えて、ピンを抜く。右手でホースを 外し、ドアに体当りした。勢い余って部屋に転げながら噴射レバーを搾った。 くらえ!必殺!スモークディスチャージャー!
 噴射した泡はピストルを持った黒服の男を直撃した。部屋にはもう二人の黒 服がいたが、電光石火のホースさばきでその二人も一瞬にして真っ白な泡でく るんでしまった。
 ふっ、スモークを撃たせたらボクの右に出るものはいないのさっ!
 「スモークぐらい誰でも撃てるわよ。撃ちゃ100%命中するじゃない」
 ああっ、もう!誰、つまんない突っ込み入れんのは!
 と思ったらミキちゃんだった。肩に傷を追っていたけれど、かすり傷程度の ようだ。よかった…。ミキちゃんは何事もなかったかのように立ち上がると、 酒の瓶をとった。ぽん、と蓋を開ける。あ、いい音。なに、飲むわけ?
 「エリィ、そっちの二人、スマキにして」
 ス、スマキ…。ミキちゃん、どこでそんな言葉を…。ボクは悲しいぞ!しか し、ボクも怖いのはヤなので、言われる通りにスマキにした。なにげに外道か もしんない。
 「はい、鉄砲捨てる!消火器に入ってる四塩化硫酸ナトリウムとアルコール がどんな反応するか、知ってるわよね?あたしの質問に答えてね。でないと、 ドロドロよ?」
 怪しく輝く酒瓶を掲げて立ちはだかるミキちゃんをピストル男は呆然と見あ げている。かわいく薄笑いを浮かべながら脅迫すんの、こあいよ。ミキちゃんっ てば大人になったのね。しくしく。

 男は恐怖の余り、もう言いなりであった。もともと襲撃ではなく、話合いに 来たのだと言うのである。男は元オムニの軍人で「オーベルシュタイン准将名 誉回復委員会」の者だと名乗った。
 開戦間もない頃、オムニ情報部は”中華街30番地事件”を事前に察知した。 しかし、陸軍のオーベルシュタイン准将がこれを故意に看過し、地球連邦軍に 毒ガス攻撃を実行させたというのだ。これは中国系移民を始めとするオムニ移 民の反地球連邦意識を高めようという政治的戦略だという。
 無論、このことは秘密とされ、この事件は地球連邦軍のギース大佐が単独で 行った条約違反の蛮行だということで市中には噂が流れ、結果としては移民の 意識操作に役立ったという報告もなされている。しかし、オムニ政府はこのこ とを陸軍の暴走と考え、准将を最前線に送り、戦死させると言うことでこの事 件にケリをつけてしまったのだ。
 以後、准将の腹心だった彼らはこの事件が歪められた形で公表されるのを監 視してきたと言うのである。准将の選択が戦争の終結を早めるのに役立った、 というのが彼らの言い分である。

 話合いに来たと言うだけあって、よく喋る。ボクがミチコに流したのはそん な詳しい情報じゃなかったけど、これで事件の全容は明らかになった。でも、 ミチコにこれを知らせて、果して喜ぶだろうか。ボクも今、複雑な思いにとら われているのだ。陸軍と言えば、ボクの職場だ。DoLLSにも陸軍出身が多 い。ミチコもそうだ。その犯罪を暴くのはちょっと…。
 それだけじゃない。こんなことが一般に知れたら軍も政府もただでは済まな い。旧地球連邦軍の残党もまだ蠢いている今、このことを公表するのは危険す ぎる。そのくらいはボクにでも判る…。

 結局「公表しない」と言う約束をして彼らには帰ってもらった。ミチコには 悪いが、真実が多くに人々を不幸に落とし込むとなれば、そんな真実、なかっ たことにしても許されるんじゃないかな。戦後50年もすれば、人々ももっと ましなアタマを持つだろうから、この是非の判断は未来の人々にしてもらおう と思う。戦争の良し悪しなんて、ボク達の決めることじゃない。だって、本当 は、いい戦争なんて、この世に存在しないから。

 ぐちゃぐちゃになった部屋を掃除した後、また温泉に入った。熱燗は、なし。
 「アルコールって、結構怖いんだね。びっくりしちゃった」
 「え、ドロドロっての?うっそぉ、信じてたのぉ?ハッタリよぉ、あんなの」
 「なにぃーっ!…こいつぅ沈めてやるっ!!」
 じたばたしながらボクはこういう土壇場のハッタリってのはセルマ先輩には 無理だろうなと思った。でも、なにも言わない。ミキちゃんがセルマ先輩のこ と本当に大好きで、目標にしてるってこと、ボクはよく判ってるから。

《 おわり 》

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   「就職氷河期伝」


 待合せ場所に指定された喫茶店は中心街にあり、平和そのものの陽気な明る さに包まれていた。そんな中を不精髭をはやした男が一人で歩いているのは場 違いではないかと思ったが、いつもの格好で出てきてしまった。しかし、町外 れに行けばこういう失業者風の男がぞろぞろ居ることは誰しも知っているので、 見て見ぬふりをすると言うのが町の人々のとった、わたしに対する態度だった。 わたしは喫茶店に入って行くと、窓際に腰かけていた少女に手をあげた。
 「いや、待たせたね。えーと」
 「ミチコ・ネイデルです、ジョン・パーカーさん。お久しぶりですね」
 少女は名乗ると、向かいの席を勧めてくれた。自己紹介はさすがに板に付い てきたと見える。とはいえこの子とはまんざら知らない仲でもない。
 この少女がベストセラーノンフィクション『天使達の戦記』の主人公DoL LSの一員だと言うことは余り知られていないようだが事実である。何を隠そ う、その著者はこのわたしだ。従軍取材はあれからしていない。もう1年にな るだろうか。
 出てきたコーヒーをすすりながら、わたしはざっとミチコの姿を眺めた。
 いかにも今年の春に新調したばかりのスーツではあったが、妙に体に馴染ん でいるようだ。体の方が服に合わせて変わったようにも見える。連日のように 着るものなのだからDoLLSのパイロットスーツのような完全オーダーメイ ドにしておけばよかったのに。だが、多分1着では済むまいから家に戻ればこ んな堅苦しいスーツが2・3着吊してあるにちがいない。今年の猛暑の中、こ の服では見ているこっちが暑いくらいだ。
 「緊張しないでいいよ。上着くらい脱げば。暑いでしょ」
 「その手にはもう乗りませんよ」
 は?と思ったが、よくよく聞いてみるとこの台詞に今まで散々だまされてき たらしい。企業説明会で「服を脱いでいいよ」と言っておきながら脱いだ途端 「脱いだ人は会場から出てください」などと言うのだそうだ。ひどい話である。

 「苦労してんだね。女子の採用が落ち込んでるとは聞いてたけど。オムニの 明日を担うのは女なんだって、俺の本読みゃ、判りそうなもんだが」
 「売れてるらしいですね、パーカーさんの本」
 「おお、ネタが良かったからな。ホント、感謝してます!んでもな、最近は どうも駄目らしいな。厭戦気分ってやつ」
 「はい、面接でもよく言われるんです。元軍人は遠慮してるんだって。書類 選考で落とされたところなんかもう数知れないですよ。最近は軍に残ってれば よかったかなぁって思っちゃいます。エリィなんて陸軍の戦史編纂室っていう ところで楽しくやってるみたいなんですよ。昨日もずうっと長電話」
 「《特務軍曹小隊》のエリィかい?あいかわらずいいコンビだねぇ」
 「ええ、昨日の電話も、ミキちゃん誘って温泉旅行しようっ!とかそんな話」
 ミチコは思わずくすくすと笑ってしまって、ふと我に返ったようだ。彼女が 今こうして来ているのは実は就職活動の一環なのであった。
 退役後自分の進むべき道はジャーナリストしかないっと思い込んで活動を始 めて早4ヶ月。多くの出版社・新聞社・放送局を回ったものの、結局色よい返 事は一つももらえなかった。自分の実力で職を勝ち取るんだと燃えていたもの もさすがに冷え始め、ハーディに泣きついたところ紹介してくれたのが今を時 めく(?)このわたし、ジョン・パーカーだったと言うわけだ。

 「仕事の紹介…と言われてもな、中小出版社の記者兼編集者だぞ、俺は。確 かに戦中の言論統制の反動で、いい情報の価値は上がってる。けど、腕利きの 新聞記者達が今の会社を離れて別の勤め口を探してふらふらしてるんだ。実力 勝負の世界なんだ。これに割り込むのは相当厳しいと思わなくちゃ。俺が仕事 を紹介して欲しいくらいなのに、全くハーディの奴は…」
 「もうすぐ大佐になろうっていう隊長を「奴」よばわり出来るのはパーカー さんくらいのものでしょうね。あれから、どうなんです?」
 「どうって…。あいつはマッチョで渋いおっさんが好きだった。それだけだ」
 「…ワイラー中佐には勝てませんでしたか」
 「るせえっ!とにかく、人生は実力があってもどうにもならないこともあるっ てこと」
 「実力、つけたいんですよ。パーカーさん、協力して頂けますか?」

 わたしはミチコの眼に宿る光を見て背筋が冷たくなった。それは、駆出しの ころ、死んでもネタをつかもうと必死になっていた頃の野獣のような自分の眼 にそっくりだったのだ。危険な匂いがかぎとれた。昔はこの匂いに過敏に引か れたものだが、それにしてもこれは強烈すぎる。戦後の平和な今の時世にはふ さわしくない。
 「何を、知ってる?」
 「まだ何も。これから調べます。”中華街30番地事件”の真実。エリィが 仕事中に資料をあさってて、妙なものを見つけたとかで」
 「やめとけ。アレはまずい」
 ”中華街30番地事件”は旧地球連邦軍のギース大佐が行った蛮行として独 立戦争の記録に残る有名な事件である。が、昔から疑惑が絶えず、その謎を解 明しようとした記者達も何人も行方不明になっている。その記者達を取材した 立体TVディレクターまでもが変死をとげている。

 「いいか、よく聞け。よく勘違いする奴がいるが、報道ってのは取材だけじゃ ねえ。取材して、記事書いて、発表する。文句を言ってくる奴が居たら、文句 で言い返す。それがジャーナリストだ。真実ってのは命を懸けるほどのもんだ とは限らねえんだ。軍隊内部に居るエリィとなれば尚更だ。軍事機密にはそれ なりの危険が伴ってる」
 「違います。平和になった今の時代だからこそ、戦争の痛手をしっかりと記 録しなければならない大切な時期だからこそ、わたしはジャーナリストであり たいんです!戦時中のように言いたいことも言えないようじゃ駄目でしょう? パーカーさんもそう言ってたじゃありませんか!?危険が伴うなら尚更です。 パーカーさんは危ないからって従軍取材を辞めたりはなさらなかったでしょう?!」

 これがあの《御局様》とまで言われたミチコだろうか?隊列の最後方から支 援砲撃のごとくに両肩に背負ったDRu35大口径ミサイルを撃ち込むという、 絶対安全・神出鬼没・一撃必殺の奥ゆかしい攻撃を得意としたミチコがこれほ ど激するのを見るのは始めてのことである。
 しかし、彼女の言うことももっともなのだ。わたしもいつのまにか組織の中 に埋没し、年老いたのかも知れない。彼女の苛立ちは実は私の苛立ちでもある。 相談されるはずが、自分から抜けたものを指摘されるとは思いもしなかった。

 彼女は一度は握り締めた拳をゆるめて静かに言った。
 「憧れてたんです。ジャーナリスト。パーカーさんみたいな真っ直ぐな人。 でも新聞社はそうじゃないみたいなんです。私がこんな話しても、『何力んで るんだか』みたいな眼で見られて…。商売なんですから当り前なんですよね? …けど、パーカーさんには違うって言って欲しかったんです…。また来ます。 ごめんなさい。それじゃ」
 ちょっと待てよ、というわたしの声も聞かず、彼女は顔を伏せたまま店を出 ていってしまった。呆然とするわたしの前には彼女のスーツの上着が残されて いた。わたしは清算を済ませると、彼女の服を持ってすぐさま彼女の後を追っ た。しかし、その服もすぐ必要ではなくなる。なぜなら彼女には今日以後常に わたしのそばに居てもらうことに決めたからだ。

《 おわり 》

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    「オムニバスターズ!!」

 「全国高校テニス選手権大会・準優勝 マーガレット・シュナイダー」
 そう書かれた表彰状の下には二等身にデフォルメされたパワーローダーの縫い
ぐるみがおかれている。左手でVサインをし、右手に握ったテニスラケットで指
しているのは、向かいの壁に貼られた古びた雑誌の切抜きで、「無冠の女王、ま
たも優勝逃す。今度は靴紐切れる?!天才少女マギーの連続不幸物語!!」とあ
る。横に視線を移すと灯の消えたディスプレイがあり、少女の顔が反射している。
少女の眼鏡にはたくさんの灯が写っていて、その明るい四角形は数知れない端末
ディスプレイの表示群である。電子の要塞と呼べば呼べるようなその一角は、部
屋の全体的な印象を覆す異様な空間であった。
 「アンフォーチュンよりハンタービーグルへ。セキュリティシステム掌握。突
入準備完了」
 目にも止まらぬスピードで少女はキーボードを叩く。その文章は端末につなが
れた無線機を通じて一旦空へと発射され、上空の静止軌道衛星から地上へと送り
返される。文章はある高層ビルの廊下に待機する女の腕時計状の端末へ送り込ま
れ、表示された。
 緊張の余り、震える指で”了解”のボタンを押し、ハンタービーグルという
コードネームの女は後方に控える男たちに目配せをした。武装を固めた男たちは
計画通りに整然と配置を進めてゆく。
 今回の任務はハンタービーグルにとって待ち望んでいたものだったが、かなり
困難なものでもあった。しかし3年前のDoLLSでの経験が、その困難を乗り
越える心の支えにもなっていた。当時のコードネームは「ポチ」などと冴えない
ものであったが、それでも今の自信を植えつけてくれた仲間たちの愛の篭った贈
り物のひとつである。

 惑星オムニの独立戦争の勝利から間もなく、旧地球連邦軍の残党の抵抗は目に
見えて減少していたが、その一方で凶暴化を極めており、都市テロリストたちの
検挙を目的とした特務警察が組織されるまでにさほどの時間はかからなかった。
軍隊の選りすぐりで編成される「特務警察オムニバスターズ」の標的リストの中
にギース大佐の名を目にした瞬間から「ポチ」は特務警察隊に志願して「ハンタ
ービーグル」に生まれ変わった。独立戦争勃発直後、条約により禁止された毒ガ
ス兵器を使って”中華街30番地事件”を指揮した男。17才という青春の真っ
只中の彼女から恋人を永遠に奪い去った男。すでに事件から8年を数えようとい
う今になっても忘れ得ぬ仇敵である。オムニ独立戦争すら彼女にとってはある意
味では仇敵探しの旅に過ぎなかった。

  Omni-Bastards
 ”全能の私生児達”の男たちが配置を完了するのを見るとハンタービーグルは
前進を指示した。旧友の”アンフォーチュン”ことマーガレットがこのビルを支
配している限りこの作戦は半ば成功したも同然である。あとはこのビルの会議室
で会談しているはずの大佐を拘束するだけである。しかしこの軍産複合体「タカ
ス製作所」の本部ビルがそう長いことこの状態を許すはずもなかった。作戦は迅
速に行うべし、それが至上命令であった。銃の安全装置を外そうとする指はもう
震えてはいなかった。
 遠くで銃撃戦が始まった。別動隊が敵と接触したのだ。彼女は身を翻して男た
ちを率いて戦いの中へと踊りこんで行った。

 タカス製作所本部ビルに侵入すると聞かされたときはマギーには冗談としか受
け取れなかった。DoLLSの同僚であったタカス・ナミの父親の会社である。
だが、今こうして現実に会議室の様子を写すカメラの映像を眺めていると冗談で
あってくれたらよかったのに、と思う。システムを完全に掌握できれば防火扉な
どを操作して連中を閉じ込める事も出来るが、そこまではさすがに無理だった。
別の端末が何か不審な情報をキャッチし、解析中でもあるが、今はセキュリティ
情報を盗み見るのが精いっぱいのところである。カメラに写った大佐の顔には不
安が走り始めていた。
 やがて、特務警察隊が会議室への侵入を果たし、銃撃戦は終息した。

 次々と逮捕、連行されてゆく人々を見送りながらハンタービーグルは負傷した
腕を若い隊員に任せていた。私怨は深いとは言え、警察官である彼女は大佐の横
顔を見つめるほか出来ることはなかった。若い隊員は包帯を巻き終えてもそこを
動こうとはせず、手を握ったまま彼女の顔をじっと見つめていた。
 「大佐を殺せなくて、悔しいですか?」
 彼女は表情をほぐして、若い隊員に笑いかけると、ゆっくりと首を振った。
 「うそです。3年も一緒に居れば判ります」
 言いながら若い隊員は腕を伸ばすと、彼女の頬を流れる涙を拭き取った。
 涙の流れる感触すら判らないと言うのに、涙なんて流し方さえ忘れたと思って
いたと言うのに、それでも涙は流れ続けた。新鮮な驚きが彼女を包む。自分の8
年に及ぶ長い長い戦いがようやく終わりを迎えたのだと言うのが実感された。
 若い隊員は立ち上がり、彼女に手をさしのべた。その姿が窓から差し込む光の
せいか、やけに頼もしく、まぶしかったので、彼女は少し照れくさそうに笑い、
手の平を重ねた。

 ピーッ!!と腕時計が鳴った。「空襲警報!!」とだけ表示が現れた。
 突然回転翼の音が会議室に響きわたり、若い隊員の頭が弾けとんだ。ガトリン
グ砲の犠牲になった彼の背後、窓の外の青空に彼女は居丈高に咆哮をあげるヘリ
コプターの姿を見た。そしてそのコクピットに居座るギース大佐を。殺人兵器は
すぐに機首を返し、もはや手のとどかぬ高空へと逃げて行った。腕時計に点滅す
る「注意:大佐は影武者」の文字は彼女の目には写っていない。

 彼女の戦争はまだ終わらない。間もなく彼女は「ハンタービーグル」の名を捨
て、懐かしい仲間に出会う。”ポチ”の名の元になったビーグル犬の耳に似た短
い髪の毛はだいぶ伸びたが、それでも彼女は仲間達にはきっとファン・”ポチ”・
クァンメイと呼ばれることだろう。それが4年間変わらぬ友情の証だから。
《 おわり 》
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    「短い夏の後に」


 広大な農地の上空を飛び回っていた複葉機は農薬をバラまいた後、小さな滑走 路に降り立った。そのパイロットはそのままエンジンを停止すると、いとおしげ に計器を一撫でし、地上に降り立つ。
 「メリサ!お客さんだ!」
 農園の主でもある父親の声に振り向いた少女はゴーグルを外し、
 「また後でね」
 と愛機に言って家の方へ駆け出した。戦争が終わってからも飛行機には乗り続 けたい。そう言う彼女の願いを聞き入れて父はこの旧式の飛行機を買い与えてく れた。爆弾投下も、パワーローダー降下ももう無かろうが、今は農薬を撒いてい られる平和な時代になった。
 客は軍隊の先輩だった。今は退役して何不自由無く町に住んでいると聞いてい たが、何か思い詰めたような表情をしていた。

 「メリサ、えらいひさしぶりやね」
 「ナミ先輩!随分変わりましたねぇ」
 「言うてくれるやない。そら多少は老けるわ、あれから3年も経っとんねんで」
 「そうは言ってないじゃないですかぁ。相変わらずお元気そうでってことです よぉ」
 「あ、さよか。最近老けたー老けたー言われるもんで、つい…な」
 「今日は突然どうなさったんですかぁ?」
 「あ、ウチな…家出してん。その…しばらく泊めてんか?」

 メリサ・ラザフォードは半分ずっこけたが、慎重で知られるタカス・ナミ先輩 が家出とはよほどのことと思って訳を聞いた。

 「ウチの父がな、再婚してん。戦争中に母ちゃん死んでもうたから、言うて」
 「お父さんがですかぁ?ナミ先輩じゃなくてぇ?」
 「ほっといてんか。その継母っちゅうのがな、年下でな、これが旧地球連邦軍 の下士官やねん。ローダーの修理工だけずうっとやってりゃよかったものを、な んであないな小娘に引っかかりよったんか……。」
 「はあ、そんで家に居づらくなってぇ、さりとて彼氏もいるわけじゃないしぃ、 行く当てもないってことでぇ、とりあえず近場のあたしん家に来たと」
 「…メリサ、しばいたろか…?」

 ナミの父は「タカス製作所」という作業用ローダーの修理屋であったが、戦争 特需で今ではかなりの技術力を持つ軍事産業になっていた。カミガタのアキンド らしい商才を持つやり手の人物で、最近はオムニ紳士録にも載るようにもなった。

 「先輩、空飛びませんかぁ?きっと気が晴れますよぉ!」
 「空か…ええなぁ。さっき、ちょっと見てたよ。相変わらず小気味いい飛びか たしよるなぁって。乗せてくれんのかい?」
 「任せてくださぁいっ!こんな事もあろうかと思って複座式になってます!は い、じゃあこれが、飛行帽にぃ、ゴーグルにぃ、あ、ツナギも要りますね……」

 気がつくと二人は空の上だった。一旦空に上がると決めるとメリサの行動は素 早い。普段のおっとりめの口調からは想像できないほど整備の手際も冴える。派 手なペインティングを施され、あちこちに旧DoLLS隊員の寄せ書きが書かれ ている「FOX BIRD」号は軽快な音をあげて農場の上空へ舞い上がった。 新緑の芽吹く季節にあってオムニの大地は戦争の傷を忘れるがごとくにみずみず しい輝きを放っていた。メリサは今の季節が大好きだった。去年の今ごろもやは りこの旧型複葉機で海の向こうのレイバーグ牧場へとちょっとした旅行をしたも のだった。

 「どうですかぁ、先輩!?」
 メリサが言いながら振り向くと、ナミは今まさに座席から飛び出すところだっ た。ナミはニッと白い歯を見せて笑い、親指を立てて見せる。ゴーグルが太陽の 光にひらめいて、一瞬だけナミの笑顔が見えた。飛び降りざまナミは叫んだ。そ れは懐かしいDoLLSの降下の掛け声。
 「タリー・ホウ!」
 「せ、せんぱぁいっ!」

 メリサは操縦かんを捻ってナミを追ったが、その必要のないことはすぐに判っ た。間もなくパラシュートが開く。濃い緑の中に白い大輪の花が咲き、優しく着 地した。ナミが着地する頃にはメリサも着陸準備に入っていた。あくまで機械に 優しく着陸するとメリサはナミに駆け寄った。ツナギに付いた土をパンパンとは たき落とし、清々しさの中に少し緊張の見える表情で、ナミは言った。
 「メリサ、腕は落ちてないね」
 「先輩も見事な《降下》でしたよぉ」
 「おおきに。あのな…クァンメイからこないだ連絡あってん」
 「え?!。クァンメイ先輩はたしか…地球連邦軍の残党狩りやってるとか聞き ましたけど」
 「特務警察”オムニバスターズ”や。そこの極秘情報らしいねんけど、連中の 間に組織化の動きがあるんやて。つまらんことになるかも知れんって言うてたわ。 それがさ、笑ってまうよ。タカス製作所も連中に協力してるんやて。ただの町の ローダー修理屋やったのに、あのアホ継母のせいや。…メリサ、ええ人、いて る?」
 「え、あ、はい。ええ、まあ」
 「さよか…。幸せになるんやで。辛いことがあってもがんばりや。じゃ、うち はこれで失礼さしてもらいますさかい」
 「先輩、もう行かれるんですかぁ?」
 「家出少女に居付く場所なんてあらしまへん。親に楯突く前に皆の顔見とこ思 ってな、旅行中ゆうんが本音や。着替えたら、行くわ。心配かけたら、ごめん」

 数時間後、農場から煙をけたてて走り去ってゆくバイクの姿があった。背後か ら追いかける複葉機のパイロットとバイクの女は互いに親指を立てるサインを交 わし、あるいは帰るべき家の方角へ機首を翻し、あるいは先の見えない坂道を全 力で駆け上がっていった。
 夏はまだこれからだと言うのに、その日の風は冷たかった。
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   「わくわくどうぶつ小隊、潜る」

 「海はいいわね。優しい気持ちになれるもの」
 ここが、戦場の手前でなければ、あたしもそう思う。セルマはどんな時でも
詩人のように話し、子猫のように兵器をもてあそぶことの出来る優秀な兵士だ。
それらが全て、彼女の言う「優しい気持ち」の表れなのかどうかは分からない
けれど。

 「あに馬鹿なこと言ってんの。海なんて、あたしは嫌いだね。忘れたの?こ
の前の作戦で何十マイルも遠泳させられたこと。
 キッドナップの時だって、アクエリアスが目の前でぶくぶく泡立てて潜って
帰っちゃうの、見ただろ?あたしゃ、叫んだね『海の馬鹿野郎ーっ!!』って
ね」
 う、思い出したくないことを平気で言う…。すっかり忘れたと思っていたあ
の遠泳の苦しみ…何度溺れ掛けたことか。忘れたかったのに…。さすがはフェ
イルン。人の気持ちなんて全くどーだっていいと思ってるのね。そーよ、昔か
らこの子はそうだったわ。

 「クァンメイ!機体の水深が落ちてるわ!どうしたの!?」
 と、頭に血が登っててコントロールを忘れていた。ここは水深20メートル
の海底なのだ。いかに装甲の厚い人型機動兵器パワーローダーとは言え、水圧
には弱い。新開発のこのシールドスーツは海底での動きを可能にしてくれるが、
この程度の水深が限度だ。

 「大丈夫。セルマ、ありがと」
 あたしは答えて、機体を立て直した。さて、目的のアトランタ宇宙港までは
あと10分か。本作戦「パワードールズ」の先行上陸部隊にはあたし達「わく
わく動物小隊」と、ジュリア・ジュリィのレイバーグ姉妹とアリスの「ゴージ
ャス・ブロンド小隊」とで構成されている。ゴージャス・ブロンドはあたしら
より5分ほど先行している。

 「ソナーに未確認潜行体!一体、左舷、急速接近中!」
 フェイルンが叫んだ。そんな!水中での戦闘術なんて知らない!
 「クァンメイ!あんたの位置で見える?鼻の利かないポチにゃあ無理か?」
 「るさいわね!見えるわ…大きい…柱のような…」
 「魚雷!?」
 「ちがう!…銀色の…魚……鮫だわ!」

 惑星オムニの海は全くと言っていいほど開発が進んでいない。地球で言うと
中世代の頃の生態系に近いと言うことだが、もとよりあたしらは地球の海など
知らない。幼い頃から親しんだ海とは言え、未知の生物も多い。
 しかし、この鮫は…話には聞いたことがある。全長3メートルを超え、鉄を
も噛み砕く強い顎と鋭い歯を持つ凶暴な海の悪魔「テュランノ・シャーク」。

 「わたしに任せて!」
 セルマはDRu35対地ミサイルを構えた。こいつの威力なら水中でも有効
だ、とハーディ隊長は言っていた。キッドナップのとき、潜行して帰ろうとす
るアクエリアスに向けて、隊長は腹立ち紛れにこのミサイルをぶちこんだこと
があるのだ。後で、海軍の偉い人に文句を言われたと言うから、効果はあった
のだろう。
 そのことをとっさに思い出すなんて、セルマも成長したものね。でも。

 「火器は使うな!敵艦隊のソナーに聞かれるぞ!」
 フェイルンははセルマに言い放って、テュランノ・シャークに向けて突進し
た。スクリューが小さなうなりを上げる。こいつは格闘戦となると、俄然水を
得た猿である。おさるは叫んだ。
 「フカひれスープにしてやるっ!!」
 …そりゃあ、美味そうだ。中華料理は同じ中華民族の誇りよね。

 思わず溢れるよだれを飲み込んで、あたしも鮫の体に取り付こうとする。
 がいん!!ざりざりざり…。
 堅い!しかも鮫肌だ!(当り前か)こんなの食ってたのか、あたしらは。
 フェイルンは流石、と言うべきか、正拳一閃、片目を潰している。動きづら
い水中にしてあの動き、中華民族の誇りを体で会得している。

 「鮫はね、前に進むことで呼吸するの!だから、押え込んじゃえば窒息して
死んじゃうわ!」
 言いながら突進したセルマはいともあっさり、はじきとばされた。そんな簡
単に押さえこめりゃあ苦労しないって。仕方ないわね、そんな本で読んだだけ
の知識をひけらかしているようだと、「ハカセ」ってあだ名、つけちゃうぞ!
 
 こうなれば、本命の出番ね。古来鮫はこうやって退治するのが定番なのよ。
 あたしは圧縮空気タンクにどこからか取り出した時限真管を貼り付けて鮫に
向かって投げた。鮫はうまいことそれをくわえた。後はしばらく待てば真管が
爆発して圧縮空気が放出され、鮫は木っ端みじんになる…。
 って、あの、こっちに来ないで欲しいんだけど…。
 ねぇ、お願い、あっち行ってってば!
 
 時間が来た。よりによってあたしの目の前で。
 どばあぁぁぁん!!
 鮫は砕け散り、思いきり派手な水飛沫が上がった(らしい)。
 薄暮の真っ青な海の表面にに黒ずんだ血の輪が広がっていく(気がする)。

 「クァンメイ〜〜」
 スクリーンに二人が写っている。あたしは、衝撃で頭をくらくらさせながら、
心配そうに見つめている(とあたしは思っていた)二人に大丈夫よ、と言った。
 「誰もあんたの心配なんかしてねーよ。」
 おさるは冷たい。
 「あのね、ソナーによると、湾内の全艦艇がこっちに向かって走ってくるん
だけど…」
 セルマの声はあたしを心配してるのではなく、自分自身の心配をしているら
しい、と言うことがようやく分かってきた。

 「だって、おとりはさ、派手にやった方がいいって言うじゃない。隊長も前
にそう言ってたよぉ。な〜んて、あははは…は…は?」

 この後、1時間ばかりあたしは敵艦艇だけでなく、おさると子猫からも逃げ
まどい続けなければならなかった。

〜〜〜おわり。
 
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      「逃亡者E」

 夕暮れの頃に着陸したF221戦闘機のエンジンが完全に冷える頃、そのパ
イロットだった女は酒保にいた。
 豊かに波打つ銀色の髪を揺らし、ウオッカをまた一口飲む。

 独立戦争が始まって以来、彼女は言わば地上部隊の露払いとしての任務を果
たしてきた。自分の仕事に疑問を感じたことはないが、自分に指示を与える地
上部隊の連中に憤りを感じないと言えば嘘になる。無能な上官に率いられる装
甲歩兵部隊は悲惨だ。悪路走破が出来てしまうが故に、パワーローダーと呼ば
れる人型装甲歩兵は過酷な任務を強いられてしまい、結果多くの犠牲者を出し
てしまうことになる。
 圧倒的な地球連邦政府軍に対抗するには少数精鋭のゲリラ戦法が最適である
と、彼女は空から見ていて常々そう感じていた。一度気の合った海兵隊の士官
にこの酒保でこの考えを語り合ったりもしたが、その程度で終りである。しか
も、その男も他の男と同じで女目当ての最低野郎だった。

 「エリオラ・イグナチェフ?ロシア系…かい?」
 士官用データルームに陣取った金髪の女はその士官に聞き直した。同時にキ
ーボードをパンチし、個人情報ファイルにアクセスする。
 「こないだ、酒保で会った女でさ、君と同じ様な戦術を語るのさ。銀色のき
れいな髪してて、ツンとした顔もイイんだけどさ、ゲリラ戦法がどうとかなん
て、酒の席の話じゃねえだろ?君には似合かも知れねえけどな」
 「女と見ればすぐそれだ。海兵隊を去る前に一度あんたに言っておこうと思
ってたんだよ。あんたは最低野郎だよ。諜報部のワイラー大佐の息子の名が泣
くよ」
 「うっせえな。親父は親父、俺は俺だ。それに親父だって結構女誑しだぜ」
 「そりゃ、おじさまは素敵な方だし」
 「……あれがか?…まあいい。ハーディ、第3機動特務中隊…って言ったか?
そっち行っても頑張れよな」
 ハーディと呼ばれた女は切れ長の目を細めて薄く微笑んだ。
 「ああ、あたしの作る中隊だ。まだ産まれてもいないけど、そのうち天下に
”DoLLS”の名を響かせてやるから。楽しみにしてな!」
 その瞳にスクリーンの映像が映る。DoLLS隊員候補にまた新たな航空隊
員が加わろうとしていた。

 瓶が叩き割られる鋭い音が酒保に響き渡った。
 「てめえ!もう一度言ってみろ!誰が鈍亀だと!?」
 いつものことだ、とエリオラは注意を逸らした。陸軍と防空軍の仲の悪さは
折り紙付だ。どこかの酒保で誰かが必ずやり合っている。喧嘩なんて売る方も
売る方だが、わざわざ買う方もどうかしている。
 「古今東西、男ばかりの職場はこれだから…」と立ち上がった瞬間ナイフが
エリオラのすぐ横に突き刺さった。ナイフを引っこ抜き、睨み付ける彼女の視
線を黄ばんだ乱杭歯が迎えた。
 「ねえちゃん、防空軍だな。お前さんの無能な部下共のせいで俺たち陸軍が
苦労してるってのに、こいつら、こともあろうか鈍亀呼ばわりしやがんだよ!
どうしてくれんだ?!」
 「どうかした方がいいのはそっちね」
 エリオラはごく冷静に答えたつもりだったが、部下を罵られた怒りからか、
格好の買い言葉になってしまった様だった。
 陸軍兵士と防空軍兵士とがにらみ合いをはじめた矢先。
 「やめるんだ!」と立ち上がった男が一人。胸には大佐バッジ。
 同時だった。
 乱杭歯が大佐に襲いかかり、エリオラがナイフを投げるのと。
 ナイフ捌きには自信があった。大佐を救おうと乱杭歯の腕を狙ったエリオラ
のナイフは、しかし、吸い込まれるように大佐の胸に刺さった。大佐は自分を
襲おうとした乱杭歯の盾になったのである。

 一度は注目を浴びた大佐の体が倒れて落ちると、酒保じゅうの視線はエリオ
ラへ集中した。水を打ったような静けさの中につぶやきが洩れる。
 「上官殺し…」

 エリオラは夢中で駆け出した。頭が混乱していた。視線を向けられるのが恐
かった。誰にも見られたくなかった。誰を見たくもなかった。
 陸軍だとか、防空軍だとか、そんな枠組みはもはや意味を持たない。
 男だとか、女だとか、そんな区別とは次元が違う。
 このオムニの大地にいる、全ての人間から切り離された気がした。

 広い射爆演習場の外れの山の中に逃げ込み、エリオラは三日間、眠れぬ夜を
過ごした。サバイバルは演習でしか行なっていない。孤独感の中で怯えて暮ら
す日々は彼女の心をひどく蝕み、しかしその一方で、清新な何かが産まれてく
るのを彼女は感じていた。
 惑星オムニの大地に抱かれ、川の流れに身を任せ、鳥の歌を聴き、星ぼしを
見つめた。「鹿」と呼ばれる六本足の野性動物と戯れることも覚えた。
 過酷なだけが自然ではないことを知った。開発に開発を重ねた先祖代々の短
い歴史は、はたしてこの惑星にとって、幸せなのか。今、戦を続けることが、
この愛しき星にどれほどの傷痕を与えるのか。
 敵軍、地球のことを思った。美しいと聞くその星の人々が、彼女の両親の命
を奪い、オムニの全てをこそぎとろうとしている。戦争を終らせなければなら
ない。それも出来る限り早く。本気でそう思った。
 「戻ってみようか…」そう考えてみたが、倒れてゆく大佐と、突き刺さる視
線がエリオラの脳裏に閃いては消えてゆくのであった。
 防空軍のアングラ新聞に載っていた詩の一節をつぶやいてみる。たしか投稿
者はマリー・エシコルと言う名だった。
 「誰にも疎まれ、しかし飛び続けるさだめ…」

 「…私はカラスの翼…」
 詩の続きは草むらの奥から聴こえた。エリオラははっとふりむくと素早く身
構えた。鍛えた反射神経は早々衰えるものではない。
 「誰?!」
 短い問に答えて一人の女が姿を現した。野戦服を着ていたが、それは今まで
見たどこの隊のものでもない。赤いバンダナを巻いた金色の髪は狼を思わせ、
切れ長の目もその印象を裏切ってはいない。
 「あたしはハーディ・ニューランド。オムニ海兵隊中佐。エリオラ・イグナ
チェフ、あんたを迎えに来た」
 「どうしてここがわかったの!?迎えにってどういうこと!?憲兵ならとも
かく、海兵隊が私に何の用!?」
 「短く要を得た質問ね。そうでなくては航空隊は勤まらないわ。ただ…」
 ハーディはにこりと笑った。それを見て不思議とエリオラは軍隊格闘術の構
えを解いてしまった。自分と同じ匂いがする。そう感じた。
 「ただ、質問は一つずつに、ね」

 道なき道をかき分けてハーディは進む。
 「あたしはサバイバルのプロだ。何があろうと無事に生き延びていける自信
はあるよ。生き延びるってのは最低限の当たり前のことなのに、男共はそれを
あたかも奇跡のように驚きやがる。挙げ句の果てに”ゾンビ”呼ばわりさ。そ
のあたしの目から見れば、あんたの生活は都会の独身貴族の坊っちゃんなみさ」
 「よく分からないけど、見つかったからにはそうなんでしょうね。そんな楽
な暮らしはしてなかったつもりだけど。で、迎えにってのはどういうことなの?
あたしを逮捕に来たわけじゃなさそうだけど」
 「逮捕ね…。やっぱりそうか。憲兵の連中もまったく、徹底しないねぇ」
 「あなた、知らないわけじゃないでしょう?私は上官殺しの…」
 エリオラの言葉をハーディは鋭く遮った。
 「あなた、知らないんでしょう?大佐は死んでないわ。当然、おとがめもな
し。無罪放免ってわけ。憲兵隊が宣伝車回してたんだけど、聴こえなかったみ
たいね」
 「ええっ?」
 憲兵が酒保に駆けつけたときには既に大佐は立ち上がっていたという。諜報
部に所属するワイラーと名乗るその大佐は確かに負傷はしたものの、有り余る
皮下脂肪を、遂にナイフは貫き通すこと叶わず、従って致命傷には到らなかっ
たのだと、ハーディは笑うのだった。大佐の命によりあの乱杭歯兵士は営巣入
となり、大佐自身は二日間の入院で全快した。
 エリオラの所在を追っていたハーディは事の次第を聞き、大佐の言葉を元に
山の探索をはじめたのだと言う。
 「大佐はあんたのことをずいぶん心配してたよ。『陸軍のメンツと防空軍の
メンツと、両方立てるにはあそこでわしが入るしかなかったんだが、余計な心
配を掛けさせてしまっただけだったな。…メンツとかを気にせんでもいいよう
な、自由な組織作りが今のオムニ軍には必要なのかも知れん。色々考えさせら
れた夜だったよ』なんて、やっぱり中年の渋みって言うのかしらねぇ…」
 エリオラは急に吹き出した。あのおっさんを渋いと言って目を輝かしてるこ
の女はどこか今までの兵隊とは違うと、強烈にそう思った。

 「どう?戻る気になった?下では新しい仲間があなたを待ってるわ」
 「それが、あなたの言う『迎え』ってこと?」
 ハーディは不意に立ち止まり、熱のこもった眼差しをエリオラに向ける。
 「そう、さっきの詩ね。行き場をなくしたカラスの群。人はそう呼ぶかも知
れないけど、あたしらは自分のはばたく場所をやっと見つけたの。そして、志
を同じくする優秀な翼を求めている…。第3機動特務中隊”DoLLS”に加
わって欲しい」
 考え込んで、エリオラは言った。
 「戦争を、早く終らせることが出来るかしら?」
 ひときわ輝く笑顔を見せた後、ウィンクしてハーディは答えた。
 「決まりだね!」
   :
   :
 「でも…あんなとこで詩をつぶやいてるなんて、かわいいとこあんじゃない」
 「ね・ねえ、お願いだからみんなには内緒ね」

〜〜〜〜〜おわり
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              「地球戦士ライザ」

 「Pi、強襲降下艇レガシーワールド、準備よし」
 「Pi、了解、降下地点・九州、ロックオン。降下演習開始せよ」
 「Pi、了解、レガシーワールド出場」

 月の公転軌道に滞空したオムニ航宙艦隊旗艦「ナリタブライアン」の腹に
抱えられた銀色のシャトル「レガシーワールド」は大気圏突入演習の最終プ
ロセスに入っていた。
 目標地点は先に先遣特使隊が降下した日本自治区、九州。
 先遣特使ライザ・モリーナ少佐は既に反乱勢力、すなわち味方との交渉を
成功裡に終え、次の交渉地ニューギニア州へと飛んでいた。

 ナリタブライアン艦橋に通信が入った。

 「Pi、特使隊よりナリタブライアン。交渉は決裂。ニューギニア州議会
は政治的手段による反抗に専念する旨を決議。オーバー…」
 「Pi、ナリタブライアン、了解。特使隊は追って指示あるまで現状を維
持しつつ、報告をまとめ、至急提出のこと。オーバー」
 そして、電波のタイムラグのためか、長い沈黙があった後、
 「Pi、特使隊、了解。追加報告。州議会議長からの伝言です。”戦争屋
が何の用だ?”。オーバー」
 の声が入った。その声は静かながら、怒りと、悲しみを含んでいるように
聴こえた。

 ハーディは何も語らず、タイトミニの足を組み替えた。

 数刻後。
 ライザから送信された報告書と「ニューギニア州議会、1・11声明」を
読み終えたヤオ・フェイルン提督は薄膜ディスプレイシートを丸めてセルマ
・シェーレ(旧姓)幕僚本部長に渡した。

 「どう思う? 地方分権・分裂主義で本当に地球政府が骨抜きになるとでも
思っているのか、ニューギニアは?」
 「試算はあってます。分裂派が半数の議席を占めれば、地球政府は予算が
凍結されます。少なくともオムニ侵攻が止まるのは間違いないでしょうね。
ただ、そのあとの地球のことを考えると…」
 「オムニからの帰還市民による逆支配、か?」
 「はい。ライザも気にはしてるようですが。二度の戦争勝利はオムニ市民
に強固な同族意識を持たせました。今のオムニが、分裂しかけた地球を支配
するのは赤子の手をひねるようなものかと」
 「あたしらは赤子の手をひねるために、わざわざやってきた戦争屋、と」
 「…そんなことば、フェイの口からは聞きたくなかったわね」
 「赤子ってのは手をひねるとね、痛そうに泣くんだよ…」

 二人が艦橋に戻ると、ミリセント・エヴァンス(旧姓)通信曹長が呼んだ。
 「今しがた、妙な通信が入りました。冗談かと思ったんですが…」
 「なんだ?」
 「読みます。”撤退せよ。地球軍に切札あり。アラスカ方面に留意しつつ
速やかに地球重力圏から撤退すべし。私は大丈夫。一刻も早く。特使隊、ラ
イザ・モリーナ”」
 「ライザ? まさか!?」

 フェイルンが笑って一蹴しようとした途端、ヤギサワ(旧姓)・シズカ情
報伍長が叫んだ。
 「北米大陸全土に大規模停電! アラスカに高エネルギー反応です!」
 一転、フェイルンの決断は早かった。
 「全艦、動力始動! 艦長! 至急撤退を!」
 「・・・・」
 艦長は黙って制帽のひさしを下げた。

 …この日、「終りの終り」が程遠いことをDoLLSは知った。

 特使隊長 ライザ・モリーナ … Missing In Action。

(おわり)
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「ハンナの日記」

開戦前の話で、ハンナが語り部です。でわ、どーぞ。


ハンナの日記より、2533年10月25日

 この前産休をとった担任のクローディア・オ・サール先生に代わって、今日、 新しい先生が赴任してきました。ひょろっとした体つきに、銀縁の眼鏡、幸の 薄そうな笑顔と裏腹に、やたらと元気のいいハスキーな声。ちょっと頼りなげ なその雰囲気が、わたしにはすこし、可愛く思えました。先生の名前はオットー・ナッシュ。
 「つい最近の移民なので、分からないことだらけです。地学を教えることに なるけど、たぶん君達に教わることばかりじゃないかな」
 こんなこと言ってたけど、まだ若くて、現役大学院生なんだって。

        * * *

 79号移民のオットーは地球の大学では地質学を専攻していて、オムニの地 質に興味があって移民を決意し、つい半年ばかり前にコールドスリープから ”解凍”されたばかりだという。そんな彼でもあっさりと教職につけたのは、 早くも人口爆発が始まっていたオムニでは、教育産業が急成長しており、教師 の引き合いは非常に多かったという背景がある。  ハンナの母校、ノイエ・キール第3中学校もその例に洩れず、豊かな漁港に 恵まれたこのノイエ・キール市で、ハンナは思春期を迎えようとしていた。

        * * *

ハンナの日記より、2533年11月3日

 今日はオットー先生が「今日はフィールドワークをします」といって散歩に 連れていってくれました。アラ川の河原で石ころを集めて、顕微鏡で覗きます。 何だかよくわかんなかったけど、ただの石があんなにきれいなものだとは思わ なかったので、ちょっとびっくり。
 先生は興奮気味で「オムニウム鉱の原石」というのも見せてくれましたが、 これは黒っぽくてあんまりきれいじゃなかった。なんでも地球では存在しえな い特殊な半導体だそうです。
 でも、これってハイスクールレベルの内容じゃないかなぁ?!

ハンナの日記より、2533年12月28日

 ……スキー学校の間で、印象に残ったことといえば、やっぱり夜空のきれい さ! みんなで雪の上に寝ころんで星空をぼーっと眺めていました。なんて言っ たらいいのかな、吸い込まれそうで…すごかったです。
 地球のある太陽系の主星「ソル」は、60光年の彼方で、7等星という弱々 しい黄色の光を出してるそうです。夜空を見上げるオットー先生は少し寂しそ うにも見えました。
 先生は、地球には「星座」という古くからの星空の見方があって、5000 年も昔の占いにも使われていたのだと教えてくれました。誕生日と組み合せた その占いでは先生はおうし座で、わたしはかに座。相性はよくないんだって。
 ……そんな占い、外れちゃえっ!

ハンナの日記より、2534年6月15日

 優勝したの!
 なにって、今日のノイエ・キール市ヨット選手権大会、中学生女子ディンギー の部で! 最後の大会だから頑張ろうねってキョウコとも話してたけど、まさ か優勝できるなんて思いもしなかったから…。
 嬉しすぎて何書いたらいいのかわかんないな。
 「地球の海とは水分組成が違うんだから、この船体じゃ絶対勝てっこないヨ」 なんて知ったかぶりしてたオットー先生の鼻を明かせられたので、明日が、う ん、楽しみ! いったい、どんな顔するかな?

ハンナの日記より、2534年7月20日

 明日から夏休みだと言うのに、オットー先生は突然昨日付けで別の学校に転 任してしまいました。
 あの先生が別れのあいさつもなく、いきなりいなくなるなんて、信じられな い思いでした。せめてみんなでお別れ会を開こうということになったのに、教 頭先生が「それはだめだ」の一言で片付けてしまって、お流れになっちゃった。
 結局どこに赴任するのかも教えてもらえませんでした。
 「納得いかないよねー」とかキョウコも言ってたけど。

ハンナの日記より、2534年9月5日

 とうとう、戦争が始まるみたい。
 ノイエ・キール港にも軍艦の黒いシルエットが目だってきました。町中も独 立機運(って言うらしいんだけど)が高まってきてる。
 中学校卒業したら軍隊に入るんだって言う男の子も出始めてきて、何だか不 安でたまりません。だって、マーベリックもティーエもまだわたしより背も低 いし、これから伸び盛りって感じなのに…。野球じゃ「カーブを投げちゃだめ」 って言われてるくらいなんだから!

ハンナの日記より、2535年5月30日

 大人達は隠そうとしていたみたいだけど、噂は確実にわたし達の間では広まっ てます。
 オットー先生は「地球なんとか(訳注:該当現代語無し)主義者」として警察に捕まったようです。
 確かになにかといえば「地球じゃぁネ…」って言うのは先生の口癖で、ロイ なんかがよく物マネして笑わせてくれました。たった9カ月だったけど、そん な先生の授業が面白かったのは、地球のことを他の誰よりもちゃんと教えてく れたからなんじゃないかなって思う。高校入試には地球の歴史も出たから、ノ イエ・キールでは教えなかったってだけのことかも知れないけど。
 わたしは9月から高校に通うことが決まったけど、やっぱり軍隊に行くって 男子も多いです。
 ふと先生の言葉を思い出します。
 「地球じゃぁネ、こんなおいしい空気は吸えなかったんだヨ……」

===おわり============================
注:「オムニウム鉱」…遂に出してしまった^^;「なんでもあり物質」

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