MORI's Homepage about KOREA はじめての韓国


#13. 70番のバス

朝は唐突にやってきた。昨日の晩は真冬なのに全く寒さを感じなかった。でも、昨夜の頭痛をそのまま引きずっているような感じで、気分はいまいち冴えない。
オンドル床に広げた洗濯物は、すっかり乾いてしまっている。ホテルのエアコンほど部屋の空気が乾燥することはないにしても、部屋の中で洗濯物を乾かすのが身体のためにはいいかもしれない。

コンビニで買った野菜クラッカーにミネラルウオーターという粗食が朝食。何をしゃべっているのか見当のつかないニュースを見ながら、行動計画を練る。
本日はエンゼル号という高速艇で、釜山から麗水(ヨス)まで足を伸ばそうと思う。
不安は一杯ある。特に見知らぬ街で、ガイドブックにも載っていない宿になんとかして泊まらなければならない。しかも麗水到着は日没寸前。暗くなってからでも宿は見つかるのだろうか? もし駄目だったら、高い有名ホテルにでも泊まろうか野宿も覚悟しないといけないな。


時間の余裕を持ってソウル荘旅館をチェックアウトし、準備万全の状態で沿岸フェリーターミナルへと向かう。エンゼル号の時間は昨日確認しているし、後はきちんと切符が買えるかどうかだけだ。
韓国に来て2日め。なんとなく廻りの風景にも馴染めてきた。曲がりなりにも一日を過ごせた事が自信になっている感じがする。車の波の切れ目を強引に横切ると、沿岸フェリーターミナルはすぐ目の前に近づいてきた。さぁ、ここから今日一日が始まっていく。

しかし、どうも雰囲気がおかしいのである。ターミナルの建物の中には灯かりが点っていない。旧正月なので、公共交通機関も休業?。そんな馬鹿な・・・。
原因は入口のドアの取っ手に鎖で掛けられている掲示板にあった。ハングル文字は読めないが、併記してある中国語ならバッチリだった。
『暴風注意報 發效 旅客船 運行統制(濟州行 除外)』
どうやら昨晩から暴風のため、済州島行きのカーフェリーを除いて全便が欠航している様なのである。
今現在は風などほとんど吹いていないのに、どうして?

いきなり、本日の主目的がなくなってしまうと、情けない事に対案さえ浮かばない。これからどうすればいいんだろうか。あれこれ考えていても時間だけが過ぎるばかり・・・。
「とりあえずここから動こう。釜山駅にでも行って、そこからソウルにでも行ってしまおうか。」
ポケットの中には、昨日ついに使う事のなかったトークンが2枚。これで、釜山駅行きのバスに乗ろう。昨日と同じ事をやるのは面白くない。今度こそ市内バスに乗るのにトライだ。

ターミナル前のバス停には、南に見える影島(ヨンド)から橋を渡って、バスが次々と通り過ぎて行く。
ここで勘を働かせてみた。
現在地から釜山駅は北に2キロぐらい。そしてバスは釜山市の最南部の影島から北に向けて進んでいる。ということは、最終的に釜山駅を経由するのではないだろうか
自分の仮説に満足して、次に来るバスに無条件で乗ってしまう事に決める。

最初のバスはまもなく姿を現した。しかし、通路まで人が立っていて満員。通勤時間帯であるし、背中のザックも気になるので、これは見送った。
5分ほどして、第2のバスが到着。今度はオンボロバスで、しかもガラガラだ。よしっ、これに決定。
道路に一歩踏み出し、運転手に合図。バスのウインカーが点灯する。
バスの行き先はハングルが読めても多分わからないから、適当。バスの路線番号が70番というのだけはわかった。プシューとドアが開き、運賃箱にトークンを放り込む。

これが、再び長い長い一日のはじまりになった。

韓国地図を眺めていて 麗水周辺の複雑な海岸線に興味を持ち、「ここはどんなところだろうか」と思ったのが、そこへ行く理由でした。
当初、鉄道を使った韓国旅行を考えていたのですが、釜山から麗水には定期航路があることを知って、これは簡単に乗れるのではということで採用になりました。(バスを使った旅行は想像できなかった)
なお、1999年現在、釜山麗水航路は廃止されています。





#14. バスに乗って山の上に

バスはそれほど減速する訳でもなく交差点に突入。床のザックが通路中央に流れていく。そして、バスは右寄りの車線にシフト。次の交差点を右に曲がれば釜山駅方面だから、自分の予想通りに事が運んでいる。

・・・と思ったのだが、なんということかバスは交差点で左に曲がっていった。言うまでもなく、韓国は車が右側通行である。
バスは中央洞を抜け、海がちらっと見えた。このまま行くと、釜山市街から外れてしまうのではないだろうか。いや、これは市内バスだから、交通の中心である釜山駅は絶対通るはずだ。きっと。

韓国語で停留所の案内テープが流れる。降りたい時はボタンを押すのは日本と同じ。テープの内容は聞き取れないが、釜山駅は昨日も建物を見ているし、誰か降りる人はいるだろう。
乗車時に座席があるから座席バスと思い運賃箱にトークンを2枚を入れたのだが、後から乗ってくる客は1枚だけ入れている。これは一般バスらしい。

ガイドブックの地図を見ながら、バスの行き先を追っていく。すると、バスは海から別れて、北上して行った。なるほど、釜山の町を一周しながら、釜山駅へと向かうのか。それにしても変わった運行系統だな。
道沿いには地下鉄駅の入口を示す案内塔が見かけるので、それほど慌てなかった。しかし、窓から前方を覗くと、案内標識はあるのだが、そこに PUSAN STATION の文字は見えてこない。 CITY HALL の文字はよく見かけるが、市民会館のことだろうか。

バスが慶尚南道の道庁前を通過したところまでは確認できたが、そこでガイドブックの市街図の範囲から外れてしまった。そろそろバスを降りようとも思ったのだが、ここから歩いて帰るのも面倒臭い。このバスは釜山駅に行くはずなのだから、このまま乗り続けることにした。

そして、しばらく進むと、案内標識に PUSAN STATION の文字が。この交差点を右折となっている。ハラハラさせておいて、しかし終わりよければすべてよしとしよう。ホッとするひとときだった。
ところが、あにはからんや、バスはここでも左折。釜山駅とは正反対の方向へ行く事を意味する。しかも片側1車線の狭い道になった。

このバスはいったいどこへ行くのだろか・・

それでも希望は捨てなかった。今はきっと西に進んでいるのだろう。ならばどこかで右に曲がってくれ。曲がってくれ。
願いが通じたのが、バスは右折して再び広い道路に戻ってきた。そして、3度目の PUSAN STATION の案内標識のある交差点。釜山駅には右折なのだが、既に方向感覚は失われ、今どこに居るのかさっぱりわからない。いささか投げやりな気分になってきた。

もう右でも左でも直進でもどこでも行ってしまえ

ところが、バスの進路はそのいずれでもなかった。バスは斜め左のディープな道へと突入。そんな道、案内標識にもなかったような。更に、バスは鋭角のカーブを曲がると、そこから急坂を登っていく。山の上に向かっている予感が。

視界が開けると、釜山の街が一望に見渡せる。すばらしい風景が眼下に広がっていた。 マッチ箱のような家が、山の上の方までぎっちり詰まっている。日本でいうと長崎の様な雰囲気。でも淡い緑色・茶色の外壁の住居が多い事が、ここは韓国なのだと教えてくれる。

しかし、これからどうするべきか悩んでいた。バスを降りて、この山を歩いて下りると何分ぐらいかかるだろうか。2時間ぐらいか・・・考えている間にもバスは高度を上げていく。事態は初期消火に失敗して燃え広がった山火事のような様相を呈してきた。

そんな中、唯一の心の拠り所は、まだ釜山のランドマーク・釜山タワーが見えていることだった。しかし、自分の視界の中を右に左にと移動していき、あるカーブを曲ったところで完全に消えてしまった。この段階で、もう観念してしまった。韓国2日めにして迷子になってしまったのだろうか。



鉄道駅がすべての交通の拠点であるという考えは、韓国では通用しません。駅は市街地のはずれにあることが多いです。また、駅前広場にバスターミナルがあることもほとんどないです。駅前広場は概して車乗り入れ禁止になっているみたいです。
市内バスはバスの車庫(営業所)発着の折り返し運転が多く、日本よりも地位の低い鉄道駅の前は通るだけです。


◆ CITY HALL

市役所のこと。韓国の道路案内標識では、たいてい表示されており、現在地の確認に使えます




#15. たどり着いたのは

たぶん、このバスは釜山駅には行かないと思う。しかし、これ以上状況が悪くなったとしても、既に最悪なのだから、たいした差もないだろう。どこまで行っても料金が同じ(はず)なら、このままバスに居座って終着まで行こうと開き直った。

更にバスは山を登っていく。この山の上にはきっと何かがあるのだろう。自分を引き付ける磁場が。
前の席の窓が少し開いていて、寒気が吹き込んでくる。先程降りた客が開けていたのだろうか。
「こんな真冬の寒い日に、窓を開けるなんて非常識な」 と腹を立てて閉めると、数百メートル走ると車の揺れで自動的に開いていた。少し気持ちを落ち着けないといけないな。改めて見るとこのバスは本当にボロボロ。シートはスポンジが至る所で出ているし、20年使っているといってもおかしくない。

しばらく時間が流れ、ある三叉路でバスは不自然な動きをした。最初のうち何をするのかと思っていたが、方向転換しているようだ。 そして、来たのと同じ道を引き返していく...これは窮地から脱出できるのでは
一瞬、釜山駅という言葉が頭に浮かんだが、もうこの山さえ降りてくれればの思いで一杯だった。できるだけ、市街地の近くまで運んで欲しい。
こんなところまで来る途中に目を皿のようにして見た光景なのでよく覚えている。確か、ここも通った。このバスは忠実に引き返しているようだ。今朝はじめてやっと心に余裕が出てきた。

しかし、このバスの運転手はなかなかやってくれる。運転が荒いのはともかく、坂道を降りるカーブで対向車線のバスと遭遇すると、その場で 1分ぐらいしゃべり出し往来を止めたり、急に道の端に寄るから時間が余って調整してるのかと思うと、タン吐き停車だったりする。さらに、トロい車には警笛鳴らしまくり攻撃を浴びせるなど、やりたい放題。その人間臭さになんとなく親しみが持て、ひとり喜んでいた

そして海の近くまで戻ってきた。そこは、記憶のある風景。確か昨日の夕方、屋台が出ていた通りではないか。この後、またハラハラさせられるのはもうたくさんだ。ちょうどそのとき、バスは停車。何人か降りる客がいたので、慌てて飛び降りる。

う〜 寒い
外は冷たい風が吹き荒れていた。昨日あれだけの賑わいを見せていた屋台も、今は骨組みだけ。人の流れも閑散としていて、それが余計に寒さを感じさせる。
時計を見ると、バスに乗ってから1時間は余裕で過ぎていた。その間、足元から冷えていき、上半身も寒気がしている。このまま外にいると風邪を引くと思い、適当な場所を探す。どこか暖かくて座れるところがいい。
この通りには映画館がたくさんある。普段は映画など行かないが、暖を取るにはいいはず。しかし、どうせお金を払って見るのなら韓国映画だろうと思い、高校生の列ができている洋画はパス。キャストの顔を見て、たぶん韓国人だろうと思った所に入ってみる。

バスに乗り間違えて訳のわからない所に行ったとしても、同じ番号のバスで引き返せば戻ってこれる...この冷静に考えればわかる事実に気付いたのは、しばらく後のことでした。

この時の推定経路は、
沿岸旅客船ターミナル → 中央洞 → 南浦洞 → チャガルチ → 土城洞 → 東大新洞 → 西大新洞 → 九徳運動場 → 大庁公園 経由で、釜山駅正面から見える山の上に行ってたようです。まぁ高さはともかく、位置的には釜山駅の構近くに行ってた訳です。




#16. 余韻がない

映画館に入って驚いたことが2つ。
スクリーンが大きくて、客席が600ぐらいある。釜山でも最大クラスの映画館であろうか。
そして、もうひとつ。館内には自分以外に誰もいなかった。

初回上映の40分以上前からやってくる客はいない。まぁ、暖房がバッチリ効いていて、時間潰しにはいいか。
表で配っていたリーフレットを見ても、この映画の題名すら読めない。いったい何の話なのだろう。
上映が始まっても字幕スーパーのない外国映画。それでもセリフはすべて韓国語で理解できなくても、映像も一緒に観るのだから、だいたいのストーリーは把握できるのは発見だった。ただ、随所で笑いのタイミングがずれて、廻りの客から取り残されてしまう。

ストーリーは、主人公が列車の中で絡まれていた女を助けるのだが、実はヤクザの親分の女だった。彼女を追いかけて次第にヤクザの世界にはまっていく過程を描いている・・・こんな感じだった。
なかなかよくできた映画で、哀しいエピローグを迎えるのだが、エンディングテーマが流れるやいなや館内の照明が就き、廻りの客が帰り支度をする。そしてテーマが10秒ぐらい流れたところで、ブチッと切られてしまった。
なかなかやってくれる、韓国の映画館。客も余韻など求めないのだろう。

昼を過ぎると、隣近所の映画館から人が掃き出されてきて、閑散だった通りも活気に溢れてきた。このまま夜までボルテージが上がり続けるのだろう。しかし、今日はまだ火曜日である。
通りをフラフラと流していると、さすがロッテの本場らしく、ロッテリアがたくさんある。いくらなんでもここなら楽勝で食事ができるだろうと、韓国オリジナル製品のプルコギバーガーを食べる。接客マニュアルも同じなのだろう。韓国語が使われていても、なんとなく想像できる。しかし、一般の食堂ではこうはいかないだろうな。

さて、ロッテリアを出ると、道路の向かいにチャガルチ市場のアーチが見えた。
World Famous Fishmarket
なんとなくガイドで名前だけ知っていたが、そうか、ここは魚市場のことだったのか。全く予定もしていなかったのだが、再び、強力な磁場に引き付けられて、魚市場に吸い寄せられていってしまう。実は15時にも麗水(ヨス)に行く船があるのだが、もう行くのもたいぎになってきていた。
今日は釜山に停滞に決定。まったく行き当たりばったり。


韓国の映画館は、予告編はしっかり流すものの、エンディングはおおむねブツ切りのようです。「だって、フィルムを巻き戻すのが早いだろ」と言われるかもしれませんが、真相はいかに。日本のようにエンディングの挿入歌があっても、これでは売れない。

この時見た映画は、後に「緑の魚」と判明 (邦題の「グリーンフィッシュ」というのは馴染めないなぁ)。主演のハン・ソッキュは、韓国に行くたびによく見かけるなと思っていたら、韓国映画界のスターだったんですね。1999年の主演作「シュイリ」も臨場感に溢れ、とても面白かったです。




#17. チャガルチ市場ではじめてのサシミ

チャガルチ市場の建物に一歩踏み入れてみると、「魚屋がぎっしり詰まっている」。それぞれの商店(というか個人商店そのもの)の区画がとても小さい。細い通路は店頭のタライや生け簀が張り出しているため、さらに細くなっている。
しばらくどんなものが売られているのか眺めてみようと思う。ヒラメとかいくらするんだろう。恐ろしく高そうな予感。もちろん値段はどこにも書いていない。韓国に来てからのことを考えると、ここでの買い物は困難と思っていた。

ところが、いきなり背後からカタコトの日本語で呼び掛けられる。
「サシミ、タベル?」
とっさのことで、「いいえ」という言葉が見当たらなくて、手を振ってその場を離れてしまった。 チャガルチ市場には日本人もよく訪ねるのだろう。
移った場所でも、やはり
「ニーサン、サシミ、ヒラメ」

2階に登る階段があったので、早速上がってみる。踊り場まで行くと、階上の席でポカーんとしていたおばさんと目があった。一瞬にして彼女の目には血が通い、手を振って大歓迎だ。慌てて引き返す。
どこに行っても、ゆっくりと見れない。何か受け答えができればいいのだけど、言葉が通じないからジャパニーズスマイルで立ちつくすか、逃げ出すかだけだ。なんだこいつはと思われても仕方がないような気がする。

ヒラメサシミ攻撃にうんざりしてきたので、ひとまず建物から撤退。午後2時、ちょうど中途半端な時間帯。 そうでなくてもザック背負って市場をウロウロしているから、ネギを背負ったカモと思われてもあたたりまえか。
このままでは全然おもしろくない。はじめから向こうのペースだ。 しかし、よく考えてみると、相手さんもカタコトの日本語で話しているではないか。それなら、わざと引っかかったふりをして、誘いに乗ってみるのも面白いかも・・・・

今度は違う入口から入り、はじめての観光客らしく辺りキョロキョロしながら、店先のヒラメをじっくり見てやる。
すると、予定通りきた。 「サシミ、サシミ」
ここのにーさんは意外にも 「ヒラメ・黒鯛・ウナギで2万ウォンでどう」とお買い得セットを提案し、さらに 「ヒラメ日本円で2400円する。」 と言い、安さを強調してくる。
なるほど、ヒラメ単体は2万ウォンしないのか。いかにも興味がありそうな顔をしていると、バケツに魚を入れて交渉モードに入ってきた。向こうも日本語でくるなら、こちらも。

その後、にーさんは更に黒鯛1匹を追加して決めにきた。実を言うと、黒鯛の刺身は大好きなので、これでググっとなってしまった。しかし、全部食べれそうにないから、1.5万ウォン分くれといった。
そうするとにーさんはどういうわけか難色を示している。全部で1.5万と思ったのかもしれない。完全には言葉が通じない同士の会話だから、ここは攻め時かなと思って 「1.5万、1.5万」を連呼。

なおも「1.5万、1.5万」すると、ついに「じゃぁ」と言って、ウナギをバケツから出した。黒鯛2匹が残ったので十分。
これで交渉成立。バケツを持ってさきほどの2階へ。
2階には、小さく区切られた食堂がたくさん詰まっていた。にーさんは、そのうちのひとつに一直線に行き、店のおばさんと何やら話しをしている。魚屋にはそれぞれ専属の食堂というものががあるらしい。
で、こちらを向いて「アニキ、アニキ」と連発している。語調から「けっこう値切られた」という雰囲気もあるが、こちらは「それでも、まだボラれている」感覚があって、真相は闇の中である。物の相場がわからないと不便極まりない。

さて、魚の代金 1.5万ウォンをにーさんに払った。すると、今度はサンチェやニンニク等がセットされた皿を指差して 3000ウォンとのたまう。なるほど、ここの席代・魚の調理は別代金ということか。魚を買えば刺身は無料で出てくると信じていたのが甘かった。
おばさんは手術用のゴム手袋で、すばやく包丁を動かしている そして出てきたのは、てんこ盛りの刺身。繊細な切り方・丁寧な盛り付けとは言えないけれど、その量に圧倒されてしまった。

座敷のテーブルにはコチジャンの他に、醤油・ワサビも用意されていて、まずはそちらから。ヒラメはちょっとだけ淡白な感じはするものの、黒鯛ともおいしい。ビールもよくすすむ。
続いて、焼肉のようにサンチェでくるんで、コチジャンを付けて食べてみる。なにか新鮮な感覚の味がする。この韓国式食べ方は刺身をどっさりくるんで豪快にいかないと物足りないことがわかってきた。日本ではひと切れずつ食べているので最初のうちは戸惑ったが、胃の中が満たされた後半戦はほとんどこの食べ方になっていた。

暇をもてあましている隣の食堂のおばさんに、これは韓国語で何というのかいろいろと質問しながら、刺身をほうり込む。 はじめて韓国語で「おいしいです」と言ったら、きちんと通じた。相手もにっこりしたが、言葉が通じたことが何より嬉しかった。

チャガルチ市場には新館と旧館のふたつがあり、これは旧館の話です

◆エゴマの葉

この時、サンチェと一緒にエゴマの葉が出たのですが、食べたときにまったく匂わないシソの葉だなと思ってました。つい最近まで韓国の大葉は変わっていると思い込んでいました

ウナギの刺身はおそらく輪切りの骨付き刺身が出てきそうで、恐くてまだ注文したことがありません。

にーさんとの記念写真を撮ってもらったら、メインのわたくしがカットされていた。おいおい




#18. 経費節減で旅人宿へ

韓国の刺身は日本の相場と比べて安いとはいっても、昨晩の宿代以上を投入した計算になる。ならば今晩の宿代は少し節約してみよう。
昨日は韓式旅館の中でも高級なクラスの荘旅館に泊まってカルチャーショックを受けたが、それでは最低ランクの旅人宿(ヨインスク)とはどんなところなのだろうか。ガイドブックを見ても、1泊 1万ウォンが標準価格と格安である。何か面白そうだ。

ちなみに「ヨインスク」というハングル文字には「旅人宿」と「女人宿」があり、後者はヤバいところだと、どこかで読んだ記憶がある。しかし、ガイドブックに名前が出ているところでそんな所はないだろうと思い、地図で探した「金剛旅人宿」に出向いてみた。
ここの入口もドアの向こうの様子がわからないが、看板に日本語での表記もあるので安心して突入できた。日本語混じりの言葉で部屋の有無を聞くと、あっさりと「あるよ」の返事。値段を聞くとやはり1万ウォンなので即決。ガイドブックの価格と同じで、ここも上乗せ価格はなくて安心した。韓国の宿泊施設はいつもこんなに楽勝で泊まれるのだろうか。
しかし、ソウル荘旅館の半額となると、やはりそれなりの設備。
部屋の広さはわずか3畳。そこに薄い布団一組とテレビとハンガーがあるだけ。あとはなんにもなし。ほんとになんにもない。まさに寝るだけの宿。ところが、枕だけは2つある。これってダブルということなのだろうか。

オンドルの床はややくたびれていて、少しめくってみるとコンクリートのたたきが現れた。むーっ、玄関にリノリュームのマットを敷いているような感じがする。ただ、昨日よりもオンドルの効きが強そうで頼もしい。真冬の寒い夜にテントに泊まるのと比べると、個室で 暖房完備で 1万ウォンポッキリというのは天国のように思える...。

テレビをつけてみる。教育テレビの番組のようで、数字の表現も出てくる。 しばらく眺めていると、「チョノ」という言葉が聞き取れたので、思わず画面を見る。
「・・・・・・」
そうか、昨日の高速バスターミナルの食事代は 1000ウォンだったのか。ぼったくりを警戒していたくせに、確か900ウォンしか払わなかったような....

日が暮れてから釜山タワーに上りに行った。思えば今日は釜山タワーがあったおかげで、精神的にも助けられた。
360°で見渡せる釜山の夜景も綺麗だったが、それよりも今日の朝でいったいどのあたりを走っていたのかが気になって、ライトの列を追っかけていた。

そして昨日と同じように屋台の海に流されてみる。位置関係がつかめてくると、とてつもなく大きくてどこから手をつけようかと思っていたこの街の風景も身近に感じるようになっていた。



 
「クムカン旅人宿に貴下ガ利用しでどうもありかとごぎいます。」


手相による運勢診断ゲームも、VOW顔負けの面白い診断書が出てきますので、試してみる価値はあります





#19. やはり、ここは韓国

金剛旅人宿には共同のシャワーしかなかった。しかし、そこに入ってみると、何とタイルの上も床暖房である。寒い真冬の夜だけに、これはありがたい。もちろん、シャワーの栓をひねるときちんと湯も出てくる。宿泊料金 1万ウォンの宿とはいえ、必要不可欠なものが揃っていれば十分だと思った。

自分の宿選択眼に酔いしれながら、服を脱いで、シャワーを浴びる。ところがそれを見計らったかのように湯の勢いがなくなってきた。しばらく待ってみたが、どんどん水温は低下していくように思われた。夜が遅いので湯沸かし器のスイッチでも切られてしまったのだろうか。
湯の出を確かめてからシャワーを浴びろよと思いつつ、少しでも温いうちに浴びなければ損という意識が働く。その結果の行動がタオルを絶え間なく動かしつづけることだった。
「ああ、まさか釜山にまで来て、乾布摩擦をやらねばならないとは...。」
その後、洗濯を始めるころには、すっかり冷水になってしまった。

身体も冷えたので部屋に帰ってビールを飲んでいると、靴下を洗うのを忘れているのに気づいた。再び、シャワー室へ向かい、栓をひねる。しばらくすると湯が出てきて、思い出したようにボイラーが付く音がしている。最初にシャワーを浴びてから既に30分経過。いくらなんでも、そこまでは待てなかった。

寝る前に今日の出来事をメモしていくと、スラスラとペンが走るのに驚いてしまった。今日一日たいしたことはやってないのだが、その場面ごとに思い起こせる。日本ではなんでもないことでも、やはり韓国ということで「ぉぉ」と感じているのだろうか。そして、出会った人の顔や表情がくっきりと脳裏に残っているのは、どうしてだろう。

フランクフルトと思って買った極めてまずい魚介練り製品を肴に、OBラガービールでホロ酔い状態に。こうして、静かに一日の幕が下ろされるのだな...

ところがそんなセンチな気分をぶち壊すかのように、深夜、玄関の方からおやじ同士の怒鳴りあいが始まった。2階の自分の部屋までもバリバリに響いてくる。しかし、「おいおい、いい加減にしてくれよ」と思いつつも、それを子守唄にして眠りに就いてしまった。やはり、ここは韓国である。

旅人宿のシャワーは、「もしかしたら湯が出るかもしれない」という心構えでいたほうがよいです。その観点からみると、この旅人宿は優良施設ということになります。
この当時は沐浴場(銭湯)に行く発想がありませんでした。ただ、沐浴場の営業終了は19時過ぎと早いのが普通で、風呂あがりに夕食という順序になってしまいます。


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