フクロウの子育て日記
| 山がまだ深い雪に覆われている頃、森の中からフクロウの鳴声が聞こえてきます。 とてもつめたい夜ですが、フクロウの声を聞くには最高。 キラキラと輝く天の川の下で、はりつめた空気はフクロウの声をとてもよく響きわたらせ、明るく開けた谷は、さながら天然のコンサートホールといったところです。 ホーホー ゴロスケホーッホッ ホッーホッー ゴロスケホーッホ フクロウたちはこれから大切な季節を迎えます。新しい命を育てるためには、獲物となる生き物たちが活動をはじめる春に子育てをしなくてはなりません。そのため、まだ雪が降る頃から、大木の洞を探し、メスやヒナたちを育てていくために縄張りを確保しなくてはいけないのです。 山の中ではあちらからもこちらからもフクロウの鳴声が聞こえてきます。どのフクロウも子孫を残すために必死です。 そんな様子をのぞき見る私たちは、フクロウにとって一番の害敵ですが、これから数ヶ月間、フクロウの生活をのぞかせてもらうことにします。 |
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2月25日 フクロウは毎年決まった木に営巣することが多いので、観察の準備は 1時間くらい待っていると遠くで、ゴロスケホッーホッーと鳴き、その声はすぐにフクロウの木までやって来ました。 ボッワッ ボッワッを聞き、産卵の準備が順調に進んでいるのを確認できた私は、今年もこの森でフクロウの観察ができる喜びで一杯になりました。 |
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3月7日 産卵直前のメスが、どこかで巣を凝視していないか細心の注意を払いながら、忍び足でフクロウの木へ近づきますが、周囲にフクロウの気配はありません。 |
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3月11日 フクロウも私に気づき、こちらを凝視したまま微動だにしません。
フクロウはすぐさま擬態をしはじめその体は徐々に細くなっていきます。
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森の中に緑はなく、まだ冬のように静かですが、フクロウの木の中ではもう新しい命の鼓動が始まっています。 |
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3月14日 例年、産卵10日後ぐらいで巣の中をのぞくようにしてるので、今日はフクロウの木に登って卵の数を調べてみることにします。 卵はニワトリよりひとまわり小さく、とても丸いものです。 |
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| 3月17日 フクロウの夜の生態を見るため、フクロウの木にカメラを仕掛けてみます。 今日もトントンとノックをし、しばらくの間フクロウに退いてもらいます。 巣をのぞくと、その度に卵の向きが変わっていますが、これはフクロウが卵をまんべんなく暖めようといつも卵を動かしているためです。 卵が冷えないうちに、素早くカメラをセットしフクロウの木から去ろうとするのですが、いつも何かトラブルがあって30分近く要してしまいます。 それでも私が姿を消せばフクロウは数分で巣に戻ってくれます。 毎年繰り返している観察なので、充分にわかっているつもりなのですが、フクロウに巣から退いてもらっている時間にはとても神経を使います。 カメラは日が沈めば自動的に電源が入り、無人で撮影を始めるようにしてあります。 私のフクロウ観察は、年を追う毎にズボラになっていくような気がします。 |
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| 3月22日 なごり雪が舞っています。 フクロウの森は雪雲にすっぽりと覆われ、このところのポカポカ陽気で目覚めた生き物たちもビックリしているでしょう。 もちろんフクロウは雪が舞う中でも、ひたすら卵を抱きつづ けます。 母親の暖かい羽毛に包まれた生命は、外気の影響を受けることなく順調に育っています. 夜になってもフクロウはほとんど巣から離れることはません。卵を暖めるエネルギーの元となるネズミたちは、オスが運んできてくれます。 |
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3月27日 そんなオスですが、日が沈めば、必ずメスのもとへ小鳥やネズミを運んできます。その回数は一晩に3〜4回です。 |
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4月 1日 |
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| 4月4日 フクロウの森のある大きな山塊の盟主、能郷白山はまだ深い雪に覆われ、白く輝いています。 麓ではサクラが咲き、これから薄紅色の帯が山腹を一気に駆け登っていきます。 満開のサクラを眺め、ウキウキした気分で森に入ると、あたたかい日差しが降り注ぎ、森の中にも春の空気が満ち溢れています。 いつものようにフクロウの木に登り、巣の中を覗いてみます。 |
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卵は産み落とされた頃と比べると、随分汚れ黄ばんだなと思いつつ、そっと卵に触れると卵がブルッブルッと震えました。卵の中でヒナが反応しているのです。 もう孵化する日が待ち遠しくてたまりません。 |
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4月7日 ヒナが孵化しているだろうかと期待に胸をふくらませフクロウの木に登ってみましたが、残念・・・、まだ孵化してません。 |
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卵に声をかけてやると、中からヒナがピッピッピッ、ピッピッピッと鳴いて応えます。なんとカワイイのでしょう。 まさに新しい命が誕生する瞬間です。このまま孵化する様子を見ていたいところですが、早く母親に戻ってもらはなくてはなりません。 すぐにフクロウの木から立ち去ることにしました。 |
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4月9日 巣の中は、ヒナに与えるため持ち込んだ獲物のおびただしい残骸と卵の殻が散乱し、孵化前とは様子がヘ一変してしまいました。 |
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| フクロウの木から降りると、フクロウ母さんが小鳥にモビングされながらも、私の方をじっと見ています。ヒナが誕生するとメスの行動は一変するのです。卵の時は姿を見せることのなかったメスは、孵化すると一旦は遠くまで逃げますが、すぐに戻ってきて木の陰からニューッと顔を出し、心配そうに巣の方を見つめます。 「心配しなくていいよ。今年も母さんの子供たちをみせてくれよ。」と声をかけてやります。 なるべくフクロウにわかるようにと、いつも同じ服装で巣に登るのですが、そんなことはフクロウには関係ないようです。 あと10日もすれば、私はこの母親からひどい仕打ちを受ける(当たり前である)ことになるのです。 |
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4月11日 ホッ ホーッ ホケッキョーッ 巣の中には昨夜しとめたのであろうネズミが3匹。その中の2匹は頭をちぎられ、そこにアリがたかり強烈な臭いを放っています。 |
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4月14日 |
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| 4月17日 雨上がりの森を訪れると、キノコがニョキニョキと姿をあらわしました。 とことどころかじられた痕があるので、きっと食べられるのでしょう。キノコのことがわからない私は、ただその面白い形に見入って楽しむだけです。 一斉に芽吹いた柔らかい芽はいたるところで食べられていますし、森に隣接する竹林ではタケノコも荒らしているようです。 動物たちにとってこの季節は食卓がにぎわいます。しかし、動物は人間と違いそれらを食べ尽くすことはありません。自然界には常に節度があるのです。 フクロウのヒナも食欲が旺盛です。 巣の中はすかっりきれいになり次の獲物が運ばれるのを待っています。 |
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4月21日 私に巣から追い払われたフクロウは、さっきのシジュウカラたちにモビングされてしまいました。 |
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| 4月24日 ヒナの鳴声が巣の外まで聞こえるようになりました。 ヒナは自分で体温を保てるまでに成長し、メスは巣から少し離れたところで見守っています。 ホーホー ゴロスケ ホッホー |
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| 4月29日 ポッピッピッ キョロロ ギュッギュッ ピュールリ ピョールリ キョロロ ピョロロ ピョロロ ピィー 夏の鳥、キビタキがフクロウの森に訪れました。 若葉の下でこの明るい歌を聴くのはとても気分のいいものです。 まもなく他のヒタキ類も加わって、森はとてもにぎやかになりますが、夜行性の鳥たちも負けてはいません。 もちろんフクロウはすばらしい声で鳴きますし、ヨタカ、ホトトギスといった個性的な歌い手が渡ってきます。 |
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5月4日 |
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| こんな時、フクロウ家族に徹底的に嫌われている私に味方してくれるのが小鳥たちです。フクロウが森の中を移動する度に、小鳥たちはモビングでその位置を教えてくれます。 鳥たちのモビングで、フクロウが背後に迫っていることに気づき、振り向いた瞬間、フクロウの鋭い爪が目の前をかすめていく。巣をのぞいているとよくあることです。 私が何かに夢中になり、周辺への注意を怠っている瞬間を、フクロウは見逃しません。こういった能力は人間より遥かに高いものをもっています。 |
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| フクロウの木をあとにして森の中を歩いていると、枯れ葉の中に白く輝くものを見つけました。 ギンリョウソウです。「ユウレイ茸」などと呼ばれ、嫌われたりもしますが、その純白な姿はとても美しいものです。 毎年、この白い婦人はフクロウのヒナの巣立ちが近いこと教えてくれています。 |
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| 5月9日 フクロウが産卵した2ヶ月前、枯草ばかりだった森はすっかり新緑に包まれています。 森のはずれではシャガ、オドリコソウ、ヤマブキ…と花が咲き競い、森を歩くのがもとても楽しくなりました。 フクロウの木まで来てみると、ヒナが巣の外へ出ているではありませんか。それも私が仕掛けたカメラを占拠しています。 カメラは長い竿の上に取り付けてあるので、竿を振ってみるのですが、ヒナは強靭な爪でカメラにしがみついて離れません。 このままにしておけばカメラは糞まみれになってしまいます。しかたなくヒナごと地面に降ろすことにしました。 |
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突然、地面に舞い降りてしまったヒナはキョトンとして、愛くるしい目をパチパチさせていますが、侮ってはいけません。ヒナと言えどもナイフのように鋭い爪をもっていますし、その爪で跳び蹴りもくらわせます。 もう1羽のヒナは死んだフリをし、いつまでたっても全く動きません。その完璧なフリについ騙されそうになってしまいます。 ヒナたちをからかって堪能した私は、彼らにまたに再会できることを願って森を去りました。 |
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5月16日 |
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ヒナたちが無事に成鳥になり、ここへ戻ってくる日が訪れることを祈って森を去りました。 |
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