2003年1月号
子どもの可能性を最大限に引き出すための援助(1)
−近代歯科医学の側面から−
私たちの健康に重要な役割を果たしている「歯」。現在子ども達を取り巻く歯の環境は、一体どうなっているのでしょうか?今回から2回に渡りモートン歯科クリニックの福山院長に、お話をお伺いします。
子どもがいきいきと成長していくためには、ご両親の愛情や情熱が必要です。そして、子どもの能力が最大限に発揮されるためには、心と体が可能な限り健全に保たれるように適切に援助してあげることが肝要なのです。成長するためには苦痛はつきものですが、精神的にも、肉体的にも不必要な苦痛が子どもにかからないようにしてあげることは大切な事だと思います。
医科の予防小児科学の重要な領域に歯の健康サーベイランスというものがあり、特にむし歯と不正咬合に関しては力を入れています。そこで私は、子どもの心身の健康に悪影響を与えるむし歯と不正咬合の予防法について、これから2回にわたって、近代歯科医学の側面からお話したいと存じます。
世の中にはむし歯や歯周病などの歯の問題がたえず発生して、悩んでいらっしゃる方が少なくありません。かたや、ほとんど歯の問題で悩むこともなく一生を過ごす方もいらっしゃいます。このような違いはどこから起こってくるのでしょうか?ただ、歯が弱いとか、歯ぐきが弱いといったことだけで起こってくるのでしょうか?もちろん、歯の形成不全で歯質が弱くむし歯になりやすい人や口腔の免疫能が低いために若いときから歯周病を引き起こしやすい人はいらっしゃいますが、そういったことは頻度からすると非常に稀です。その人の歯の問題が起こりやすくなるかどうかは、子どもの頃の教育と生活習慣、予防的処置によって決まってくるといっても過言ではありません。むし歯だらけで、たくさんの詰め物や被せもの(冠)をしている子どもは、大人になっても繰り返し歯の問題で悩むことが多いのです。従って、子どもの頃に正しい口腔の健康意識と生活習慣を身につけさせ、必要に応じた予防処置を行い、カリエスフリー(むし歯なし)にしていくことは、子どもの将来にとって非常に重要になってきます。
カリエスフリー(むし歯なし)の子どもにするためには
フィンランドでは、むし歯が一本もない子どもが多く存在します。これは、国による予防教育と科学的根拠に基づいた個々の子どもに対する効率的な予防処置が効を奏しているからです。国民もむし歯という病気について、そしてその発症抑制がいかに大事かということをよく理解しているからなのです。日本の子どものむし歯の発生率は徐々に改善傾向にあるものの、残念ながら未だ先進国の中で最も悪い状況にあります。これには、いろいろな要因が考えられますが、虫歯が細菌によって引き起こされる感染症であり、効率的に予防処置を講じていけば、発症抑制は可能であるということが広く認識されていないからではないかともいわれています。ここでは、特に小さいお子さんをお持ちのお母様方やこれから母親になられる方に、むし歯についての認識を新たにしていただきたく、お話をさせて頂きます。
ミュータンス菌と呼ばれる細菌が、むし歯の主な原因であり、この菌が糖質を分解し、酸をつくり、むし歯を発生させていることはよく知られています。このミュータンス菌は、唾液によって人から人へうつっていきます。なかでも母親から乳児への感染が一番多くて、それを母子感染といいます。うまれたばかりの赤ちゃんの口腔内にはむし歯菌はいませんが、親子で一つのスプーンを使って、食事をあげたりしているうちに、母親のミュータンス菌が子どもへとうつっていきます。このミュータンス菌は硬い組織にしかすめないので、歯がないと宿無しになってしまします。だから、赤ちゃんに歯が生えるのを、ミュータンス菌は楽しみに待っているのです。現在、2歳前に乳児がミュータンス菌に感染すると、むし歯になる可能性が高まると考えられています。ですから、ミュータンス菌をたくさん持っている、むし歯の多いお母さんは要注意なのです、そして、両親の口腔の健康意識と生活習慣は確実に子どもに影響を与えます。従って、子どもの歯を守るためには、親も口腔の自己管理(プラークコントロール、食習慣、むし歯の治療や予防処置)をしっかりと行う必要があるわけです。これまでは、むし歯に対しては早く見つけて、早く処置する(削る)という早期発見、早期治療が唱えられていましたが、悪くなって削るよりも、むし歯にしないようにしていく方がよいことは明らかです。現在では早く教えて、発症を抑制する早期教育・発症抑制を実践するクリニックが増えつつあるようです。
子どものむし歯の発症抑制(予防)6箇条
1. 両親が率先して口腔に対する健康意識を高め、正しい生活習慣を実践する。
子どもは親の鏡といいます。親が手本を示すことが、子どもを教育する基本です。
2. 正しい生活習慣を身につけさせ、プラークコントロールを補助してあげる。
食間のだらだら食べはさせないようにして、食後のブラッシングを習慣づけさせましょう。また、子どもは、食べ物が詰まりやすい歯並びとなっていることが多く、通常の歯磨きだけではなく、少なくとも1日1回夕食後はフロス(糸ようじ)をしてあげましょう。フロスの有効な使い方は、かかりつけの歯科医院で教えていただきましょう。
3. 甘いものの与え方には要注意
子どもには、栄養源として糖質は必要ですが、甘いものの与え方によってはむし歯の原因となります。だらだらと頻回に与えず、例えば食後にすぐ与え、食間は1日ににせいぜい1〜2回(おやつ時など)にしましょう。また、ジュース類は多発進行性のむし歯(ランパントカリエス)の原因となりやすいため、なるべく控えさせ、飲んだら少なくともよくうがいをさせましょう。
4. カリエスリスク(むし歯の危険度)を知り、適切な予防処置を行う。
子どもは、一人ひとりむし歯になりやすさが異なります。むし歯になりやすいかどうかは、口腔内の虫歯菌の量とタイプ、唾液の量と性状、食生活などが大きく関わってきます。それをテスト・診断することができるようになってまいりました。現在、一番信頼性のある検査法にカリエスリスクテスト(むし歯の危険度試験)というものがあります。これにより、個々のお子さんにあった適切な予防処置〔磨き方指導やフッ素塗布、キシリトールの使用、むし歯の除菌(3DS−特殊な薬を使ったむし歯菌の除菌)など〕を講じていけばカリエスフリーを達成することはそう難しいことではありません。
5. フッ素やキシリトールの効率的な使用
適切な濃度のフッ素やキシリトールを有効に使用することにより、むし歯の発症が抑制されることは、科学的に証明されています。かかりつけの歯科医院で適切なフッ素剤やキシリトール(フッ素入りの歯磨き粉やうがい薬、内服薬、キシリトール含有のうがい薬やガムなど)の効率的な使用法について詳しく教えて頂きましょう。
6. 口呼吸の原因となる耳鼻科的疾患や不正咬合の治療
口呼吸や不正咬合がむし歯のの原因であることはよく知られています。治療が可能であれば、できるで早期に治療をして予防していきましょう。
むし歯の痛みにより、子どもは情緒不安定になったり、集中力がなくなったりします。また、重症の乳歯のむし歯は、その後にはえてくる永久歯の歯質や歯並びに影響を与えます。無限の可能性を秘めたお子さんの将来のためにも、むし歯の発症抑制という考え方をご両親はもっと認識すべきではないでしょうか?