2003年2月号


子どもの可能性を最大限に引き出すための援助(2)

−近代歯科医学の側面から−

不正咬合について

正常咬合や不正咬合(悪い咬み合せ)という言葉があります。その言葉が適切がどうかは多くの議論があります。咬み合わせというのは、本人や家族、周囲の人が悪いと感じなければ悪いとはいえないという意見もありますが、歯が一生を通してしっかりと機能し続けるためには、過酷な咬合力に耐えられるように、歯が適切な位置にあり、快適な噛み合わせで、清掃しやすい状況にある方が有利だということは明らかです。

 前突した歯、不揃いな歯、受け口などの悪い咬み合せは、次の3つの問題をもたらします。

 (1)歯と顔の審美性が損なわれていることに対する社会心理学的な問題(子どもの場合、いじめの対象になったり、消極的心理状態になりやすい)、
 (2)下顎運動障害(筋肉の不調和または痛み)、顎関節症、および咀嚼、嚥下、発音などの障害を含む口腔機能障害、
 (3)不正咬合に関連のある歯周病やむし歯。
 いずれにしても、子どもの心身の発達にとって、大きな影響を与える問題となり得ますので、本人だけではなくご両親も悩む場合が往々にして見受けられます。
 このような問題を解決する方法として、歯科矯正治療がありますが、治療費や治療期間、治療期間中の不快症状などの問題で躊躇(ちゅうちょ)される場合が多いのではないでしょうか。

 人の体は遺伝と環境のいずれか、あるいはその相互作用で決められています。最近では遺伝によって引き起こされる問題を人為的に操作することにより、改善していこうとする治療法が研究されていますが、多くの場合においていまだ治療上のむずかしい部分として残されています。一方、環境から引き起こされる問題については、それを改善することによって、解決できる場合も多く、予防可能な部分といえます。従って、今回私は不正咬合になりやすい環境とその予防法、さらにどうしても矯正治療が必要な場合、どのようなタイミングで治療を考えればよいのかについてお話をしたいと存じます。

不正咬合になりやすい環境(習慣や習癖など)と、その予防法

1. 吸引癖
 子どもによく見られる吸引癖は、指しゃぶりや唇しゃぶりなどです。一般に、乳歯列期(3〜4歳頃)によくみられますが、この頃の吸引癖は咬合の発達に長期にわたる影響を及ぼすことはありません。しかしながら、永久歯が生えてきても続くと、不正咬合を引き起こすことがあります。その持続時間が、問題となりますので、気がついたらなるべく止めるように注意してあげましょう。どうしても止められない場合、矯正科のある歯科医院でご相談なさってください。

2. 舌癖
 のみこむ時に上下の前歯間に舌先を突き出す動作をタングスラスト(舌前突)といいます。正常咬合者ではみられませんが、開咬症(臼歯だけで咬んでいて前歯では咬めない状態)の患者さんではよくみられ、不正咬合の原因の一つと考えられています。また。舌の姿勢位(習慣的な置き方)によっては、不正咬合が引き起こされることが知られています。これらは、筋機能訓練や簡単な装置で予防治療が可能です。6歳検診等で不正咬合が指摘された場合、矯正科のある歯科医院で詳しく診察してもらって早期に簡単な予防的治療ができないかどうか相談してみてください。

3. 口呼吸
 口呼吸が不正咬合の原因であることは、専門家の間ではよく知られています。耳鼻科的治療で改善が可能であれば、早期に治療をしましょう。

4. 小帯の付着異常
 上顎前歯の歯ぐきに突っ張ったように付いている組織を上唇小帯、舌の裏側の付け根に付いている同様の組織を舌小帯といいますが、これらが、大きくて歯に近い位置にまで付着していると、正中離開(上顎前歯のすきっ歯)や側方突出型の開咬症を来します。検診等で指摘されたら時期をみてかかりつけの歯科医院で適切な処置をしてもらいましょう。

5. 頬づえやうつ伏せ寝
 頬づえやうつ伏せ寝が顎変形症などの不正咬合の原因の一つと考えられています。特に成長期には影響が大きいので、気がついたら止めるように注意してあげましょう。

6. むし歯
 重症の乳歯のむし歯が不正咬合の原因であることはよく知られています。乳歯の時期からむし歯の発症抑制をこころがけましょう。(2003年1月号プラザ参照or Kid's 2003 Vol 1

7. その他
 舌の病気(血管腫、リンパ管腫など)で舌が肥大している場合、開咬症や受け口などの不正咬合となります。また、顎の骨の中に過剰に埋まっている歯(埋伏過剰歯)も不正咬合を引き起こします。検診等で指摘されたら、早期に専門の病院で治療をしましょう。

矯正治療のタイミング

 いくつになっても矯正治療は可能ですが、最適な時期というものがあります。上下の顎の骨のバランスが悪い(特に受け口や下のアゴが左右に曲がっている)場合、乳歯列期でも矯正治療が必要となることがあります。上下のアゴの骨のバランスを改善する場合は、アゴの骨が柔軟な時期でないとできません。ですから、このような場合、男児で13歳くらい、女児で11歳くらいまでが治療の限界となります。これ以降では、アゴの成長が止まってから外科的矯正治療の対象となることが多くなります。また指しゃぶりなどの悪い癖によって起こる不正咬合の場合にも、できるだけ早く原因を取り除くために予防治療をすることがあります。ただし、実際に矯正治療をすることに関しては、患児が治ろうという意識がない時期ですと強制しても装置を使ってもらえなくて効果が全くでないことがあります。そのような場合は、時期を待たなくてはいけませんが、6歳検診等で不正咬合が指摘されたら、まずは矯正科のある歯科医院で一度ご相談なさってはいかがでしょうか?

 以上2回に渡って子どものむし歯と不正咬合について述べさせて頂きました。
 むし歯のない天然の歯は、高級な白い陶磁器のような美しさがあります。むし歯のない白い歯を持ち、きれいな歯並びでかみ合わせのよい子どもは、自信に満ちたすばらしい笑顔を見せてくれます。そんな子どもに出会ったら、この子はご両親の愛情に育まれ、すくすくと育ち、自己管理が十分できる才能ある人になっていくのだろうなと感じます。子どもの可能性を最大限に引き出してあげるために、適切な援助をしてあげたいものです。