第28話 他人を鏡として
ここへ引越しをして、やっと3ヶ月が経つ。何軒かのアパートに囲まれ、毎週1回は灯油屋さんやパン屋さんがおかしなテーマソングと共にやって来る。何箇所か小道の曲がり角にはかわいいお地蔵さんがいて、近くの農家の人が作った野菜が無人販売所で売られている。大通りに面しコンビニやファミレスに並ぶ実家から、そんなに離れた場所ではないのだが、新居周辺のこの地区はどこか懐かしく、私の子供の頃の風景からぜんぜん変わっていない。また年末にはじめての家賃を大家さんに届けると、「これからお世話になるので」と一万円のお年玉袋。なにかあるごとにお祝いやお饅頭をくれる。電気屋さんの「ポイントが貯まるとキャッシュバックキャンペーン」より、ずっと得をしているが、広い部屋のわりには安い家賃ということもあり、母は「あなたの知らない世界を見なければいいね」と塩を撒いては心配する。夜は8時頃から静かになり、朝は5時頃から犬猫と共に人々は活動を始めるので、ゴミ出しは六時半に、洗濯機も掃除機もがんばって午前中に終わらせ眠くなれば昼寝をする。ロックスターにも絶対無理な生活だが、今までの私を知る家族や友人は、180度変わってしまった生活にたいへん驚き、そして自分も一番に動揺している。
「ところが……」が起きた。こんなにも努力しているにもかかわらず、夜の10時半頃、隣のアパートから「うるさい!」という女の人の声が聞こえた。最近ゲームの「三国無双」にはまっていて、かなり熱中していたが、テレビの音量レベルも1で、迷惑をかけていたつもりもなかったのだけれど、辺りには他の音が響いてもなく、仕方なくテレビ音を消した。私の弟もゲーム好きで、夜中のゲーム音で「眠りの妨げ戦争」を今まで何度もした事もあるから、他人のするゲームの音はかなりの騒音であることも理解したいが、隣のアパートの外に置いてある全室の洗濯機を、毎日どこかの部屋が12時近くまで、ジャンガラジャンガラと洗濯機を回している事はうるさくないのかと思うと、腹が立って眠れなかった。同じような話で、友人の住むマンションでは、ペットを飼っている家から、他の家のペットの声や爪の音がうるさいと苦情を出したり、他人の家の工事にヒステリックに乗り込んで来ても、自分の家の工事前には何もなかったように、笑顔でお菓子を持って挨拶しにくるおばさんがいるとか、毎月の会合はたいへんだと聞く。ルールを守ったり、気を使うことは大切にしたいが、少しはお互い様だという気持ちを持ってもらえるよう祈ってしまう。 普段、誰かの音楽やアーティストのコメントを聞く時も、友人や家族に対しても、自分の事は棚に上げて言いたい事を言っている。また、嫌な事をされたり他人の失敗には、何年でもグチグチしているのに、よく考えると自分もケッコウやってしまっている事がある。祖母にガミガミ怒っている母は、祖母によく似ている。また最近、そんな母に似てきた自分も、全く同じ事を繰り返してみる。人のボロは簡単に見つけられても、自分の溜まった埃にはちっとも気づかない。他人は自分の鏡だと言うが、自分と結び付けられない私は、ゆっくり自分を見つめて直して生きていかないといけないと、心に誓う。自分大好きのナルシストで、一日に何度も鏡中の私を覗いてはうっとりしているが、明日からはもっと奥の方まで考え直そう。 |