第42話 吉原](その二)
しみったれな客
しわん坊の客には、こう言うとよい。 「あなたのようなしっかりしたお方の女房になりましたら、一生不自由はいたしますまい。わたしは女郎の浮ついた暮らしはいやで、一日も早くこの花街(さと)を出たいと願っております。それにつけましても、つい先日、あるお客からわたしを請け出して女房にしたいというご相談もあったのですが、そのお人は山師とやら、相場師とやらいう稼業で、気ばっかり大きくて堅実なところがございませんので、とても長く夫婦として添い遂げることはできまいと思い、見世の親方を通じて、お断わりいたしました。やはり、連れ添うならば、つつましい、物堅いお方でなくてはなりません。実の父さんや母さんからくる手紙でも、針仕事や洗濯、飯炊きの稽古をしておくようにと、きびしく言われております。わたしは女郎こそしておりますが、世帯の持ちようの稽古もしておるつもりでございます」 と、真実らしく述べる。 すると、客はすばやく頭のなかで勘定し、納得する。 「女郎に似合わぬ、堅実な女だ。このような女であれば、世帯を持ってもぜいたくはするまい。それに、親の教えもなかなかよい。もとは、それなりの身分だったのであろう。こういう女だからこそ、俺のような男に真実惚れるのだろうな」 あとは、一文惜しみの百知らずになり、せっせと通い詰めて、けちなくせに大金を投じる結果となる。 通人ぶった客 粋な江戸っ子を気取って、あちこちで聞きかじったことをさも得意げにペラペラしゃべる客は、このようにあしらうとよい。 「あなたは本当に、なんでも知っておざんす。さすが江戸っ子でございますね。わたしなど、しょせん田舎者。あなたのような通人には、さぞあちこちに熱をあげている女がいるでございましょう。ほかにたくさんお相手がいるのは重々承知の上ですが、わたくしのような者のところにも、時々はおたずねなすってくださいまし」 このように下手に出て、物知りぶりに感心してやり、通人で江戸っ子だといううぬぼれをくすぐってやる。 そうすると、客は女郎が自分に惚れたと思い込んで有頂天になり、あとはせっせと通ってくるものだ。 金持ちの客 金持ちの客には、はっきり金のありがたさを言うのがよい。 「わたしは、世の中に金ほどたっといものはないと存じます。地面屋敷や食べ物、衣装は申すに及ばず、地獄の沙汰も金次第というたとえもあるくらいで、金さえあれば命も助かるというのが、この世ではございませんか。あなたのようなお金持ちのお側で一生暮らすのこそ女の本望でございますが、とてもわたしなどお気に入りますまい。ホンに、じれったいことでございます」 このように、まともに金の値打ちを認め、ほめそやす。 客はこう思う。 「俺の気っ風に惚れたなどというのは、嘘くさい。けきょく、金が目当ということが多い。しかし、このようにあからさまに俺が金を持っていることをほめるのを見ると、正直な女だな。けっきょく、金を持っている俺に惚れたということだ」 そして、熱を上げて通ってくるようになるものだ。 まだまだそのほかに、色々様々なお客あるゆえ、酒好きは酒の相手、下戸のお客は下戸のようにあしらい、よくよく心得、お客を大切にいたし申すべし。穴かしこ、穴かしこ。 (終わり) 第43話へ |