永井義男

2009年11月22日更新

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吠179 事業仕分け 

 このところ毎日のように、事業仕分けが報道されている。
 この事業仕分けに対し、当サイトの席亭氏が先日、言及していたような、
「物事は長い眼で見る必要もあるのでは」
 などという、文化人のもっともらしい、それでいて中身が空疎なコメントもある。
 さらには、先日のテレビのニュースで唖然としたのは、社民党の福島党首のコメントである。
「長い歴史や意義があるものもあり、そのあたりを考慮すべき」
 という意味のことを述べ、事業仕分けに婉曲に反対していた。
 いったい、この人は自分が内閣の一員という自覚があるのだろうか。
 過去に功績があった事業や歴史の長い外郭団体には、すでに存在意義がなくなっても永遠に予算を付け続けるというのだろうか。要するに、既得権益を保護し続けることにほかならない。
 福島氏のもっともらしい修辞は、かつての自民党の族議員の詭弁と同じではないか。

 さて、10年以上前のことである。
 拙宅から15分も歩くと、一面に田んぼが広がっている。
 田んぼの中を行く細い道があった。いわゆる農道で、土がむき出しの道だった。片側は農業用水路で、道の端に立ってのぞくとメダカやオタマジャクシが泳いでいるのが見えた。
 ある日、道路工事が始まった。
「いったい、どうするつもりだろうか。このままでもとくに不都合はないはずなのに」
 やや不審だった。

 3ヵ月ほどして行ってみて、仰天した。
 道路は幅が拡張され、しかもアスファルト舗装されていた。農業用水はコンクリートの護岸となっていた。道の途中にはあずま屋が建てられ、ベンチが整備されていた。
 まるで観光地の遊歩道である。
 筆者はあずまやにひとりで1時間くらい座っていたが、運送会社の小型トラックが1台と自転車が1台通り抜けただけだった。
 この道路整備も、いわゆる農道整備事業であろう。

 半年ほどして、また農道に行ってみた。
 コンクリートでおおわれた用水路は水がよどみ、あちこちに汚れたあぶくやゴミが浮いていた。もはや魚の影はない。しゃれたあずま屋には憩う人の姿はなく、ゴミが散乱し、ゴミのポイ捨て場と化していた。
 相変わらず、舗装された道路を通る車はほとんどない。1日で平均すれば、1時間にせいぜい1〜2台であろう。
 無惨である。
 これが、農道整備事業の実態である。
 
 いったい、誰のための農道整備なのだろうか。
 この農道整備によって周辺の農家の農作業が格段に効率化し、収入も増加し、子供が「農業を継ぐ」決心をしたとはとても思えない。
 これまでに、農業整備事業という錦の御旗のもと、全国で何千億円という税金が注ぎ込まれてきたはずである。もしかしたら兆の単位かもしれない。
 にもかかわらず、日本の食料自給率は低下し続けている。農業を継ぐ者も減り続け、耕作放棄地は増えるいっぽうである。

 巨額の費用を投じた農道整備事業でうるおった、あるいは利権を得たのはいったい誰なのか。
 まずは地元の土建業者。土建業者や農業団体を票田とし、農政を牛耳る族議員。それに、農道整備などを手がける外郭団体であろう。外郭団体にはキャリア官僚が天下りしているという構図である。
 たしかに、短期的には公共事業によって地元に雇用が生れるであろう。だが、こういう種類の雇用を持続させるには、次々とあらたな公共事業を捻出しなければならない。
 結果として、財政赤字は着々と増加する。

 筆者が身近に目撃し、紹介したのはささいな例である。全国で見れば数千倍、数万倍の規模の無駄な公共事業がおこなわれ、これまで税金が垂れ流されてきた。
 こういう政官財の癒着はしばしば指摘されてきたが、いつのまにかうやむやになった。批判を受けて廃止したと思わせておいて、実際には名称を変えて生き残っている事業や団体も多い。

 今回の事業仕分けで、ようやく農道整備事業は「廃止」となった。
 ようやく、である。
 自民党の族議員、官僚と天下り先の団体、特定の業界という癒着の構造に今回、事業仕分けによってようやくメスが入ったのである。
 拙速でも勇み足でもよい。ともかく大胆に切り込むべきである。


第1話〜第100話は、こちら

吠101 接待の構図は変わらない
吠102 勝海舟は片キンか
吠103 食品偽装はマンガ
吠104 ストーカーについて
吠105 けっきょくは運
吠106 朝風呂は爽快、朝飯もうまい
吠107 吉原の虚構
吠108 吉原350年
吠109 浄閑寺を訪ねて
吠110 江戸の69
吠111 屋上の露天風呂
吠112 三島を歩く
吠113 日本美術と五浦
吠114 滅び行く煮魚
吠115 官能小説の怪
吠116 聞くに堪えない発音
吠117 昔ながらの中華そば
吠118 三食、讃岐うどん
吠119 ペリーとハリス
吠120 食料自給率39%
吠121 もう、フロストを読めない
吠122 塔ノ沢でフランス料理
吠123 つまらない散歩
吠124 圏外の温泉
吠125 まさか、ラブホテル
吠126 秩父のサルスベリ
吠127 クサヤの干物
吠128 秘湯に行ってきた
吠129 武士の日常
吠130 武士の日常(2)
吠131 月代は若ハゲ
吠132 小汚い老人
吠133 宇都宮で餃子を食う
吠134 古河に永井寺があった
吠135 キャリアの醜聞愚行
吠136 恐怖の拷問写真
吠137 モンゴル族の馬術
吠138 香港で食ってはみたが
吠139 香港の不倫カップル
吠140 厄年
吠141 セックスレスの夫婦
吠142 大丈夫ですか症候群
吠143 夫が許せない
吠144 長瀞でぼたん鍋
吠145 60歳の娼婦
吠146 岩盤浴を初体験
吠147 桜にメジロ
吠148 江戸の相撲
吠149 H氏の自殺
吠150 花便り
吠151 奉行と代官に見習え
吠152 校正にインターネット
吠153 芝桜と岩藤
吠154 佐倉から花便り
吠155 日本語はどうなる
吠156 横浜開港150年
吠157 横浜山手便り
吠158 ことばを変えるな
吠159 千葉県から花便り
吠160 老化現象
吠161 箱根の関所
吠162 宿泊形態の変化
吠163 小伝馬町の牢屋敷
吠164 小伝馬町の牢屋敷・続
吠165 熟女の痴態
吠166 夏の花便り
吠167 江戸の男はなぜ元気だったか
吠168 東京・埼玉花便り
吠169 小塚原の刑場跡
吠170 鈴ケ森の刑場跡
吠171 江の島便り
吠172 巾着田の曼珠沙華
吠173 豚児
吠174 鼻血ブー
吠175 街の声
吠176 フーゾクの三分類
吠177 寝るのもつらい、のがつらい
吠178 逃亡の果て