捨犬


月島虎羽さん


■が龍麻視点で◆が京一視点。
京主パラレル


真っ黒な空。
ただ、何となくむかついて。
何となく、家を出てみた。
特に何が変わるでもなく、この心の中にある闇は広がって。

ただ、

行く宛もなく、雨に降られながら新宿という街をさまよっていた。


■■■
「んじゃ、留守番よろしくな」
そう言って男は部屋を出ていった。
家を出てから一週間。
俺は夜の新宿をさまよって、変な男達に絡まれた。
多少喧嘩は慣れていたから、太刀打ちできると思ったのに、大人と子供の力の差が余りにも大きすぎて。
俺は無様にもボコられた。
否、殺されかけたのかも知れない。
意識が朦朧としていたから、よくは覚えてなかったのだけれど、多分殺す気だったのだろう。
(だって、殺気感じたし。)
そこに、今の男が通りかかって助けられたのだ。
(屈辱。)
その上、そのまま家に居候までしている。
(最悪。)
それが、まだ誠実そうな奴だったら違ったのだろう。
けれど、彼奴は…マトモじゃない。
(ホストなんて、良くやるよ。本当。)
気が付いたら部屋の中で、手当までされてしまった。
(ムカツク。)
何をするでもなく、ただパウダークッションを抱きながらゴロゴロする。この感触が気持ち良い。
(煙草臭いけど。)
職業柄、仕事の時間は夜からになる。だからその間は自分の好き勝手に出来るのだが…。
「寝るしかねぇじゃんか。」
独りで呟いても誰かが返事をくれるわけじゃない。
溜め息を吐きながら、自分が主に寝ている部屋に足を運んだ。

事実、俺は彼奴に拾われた。
名前を蓬莱寺京一と言うらしい。
年は二十歳半ばで、少し赤茶のショートヘアーに鷲色の、(スゴク)目つきの悪い男だ。
けれど、その顔は綺麗に整っているから女にはモテるのだろう。
それに、彼奴の腕前は…認めてる。嫌だけど。

あの、狩りをする時の獣のような瞳が印象的で身体中がざわめく感じで…あの瞳に捕まったら…そう思うと息が詰まってしまう。
(って!何考えてんだよ俺!)
溜め息を吐きながらベッドに横になって眠りに落ちることにした。


◇◇◇
犬を拾った。
人というものに滅茶苦茶警戒していて、俺に対して嫌悪感さえ感じてるくせに、俺の家に居候している。
可愛いのか可愛くないのか判らない、生意気な小犬だ。

切っ掛けは夜の新宿の街を何となくふらついていた時だ。
たまたま休みを入れて、たまたま裏露地を歩いていたら、野郎共の殺気めいた氣を感じ取って、野次馬気分でその氣の場所まで足を向けた。

そこに居たのは5〜6人の中年とボロボロになったガキが一人、汚い道の上に倒れていた。
(あ〜ぁ、馬鹿だな。今時の親父はリストラで自棄になりやすいってのに。)
助ける気なんて更々無かった。
見ず知らずの野郎なんて興味無いし、こんな時間に出歩いたのが悪い。自業自得だ。
絡まれるのも面倒だったから、その場を離れるつもりだったのに、そのガキの氣の…諦めに似た物を感じた。
…感じ取ってしまったのだ。
だから、助けてやった。
それがそのガキにどんなに屈辱だったのかも、判っていた。
腕には自信があったんだろう。
その癖、自分の命を簡単に諦めてしまっている。
何と表現すればいいのだろう?
そう、まるで…自分の存在に対して憤りでも感じているような…そんな感じだった。
うずくまってただ俺を睨み付ける瞳が意外なほど綺麗で。
気を失った後も放っては置けないでいた。

名前を聞いても名乗りはしなかった。
だから、勝手に荷物(と言っても小さい鞄だけだったが)を漁って身分証明書を見つけた。
緋勇龍麻。
年は15で、中学3年だそうだ。
家は文京区のあたりで、入るのも難関だと言われる私立学校の制服を着ている。
写真の中の彼は随分と悲しそうな顔をしていた。

彼は何が不満だったのだろうか?         

□□□
朝、目が覚めて部屋を見回しても誰もいなかった。
(何だ。女の所泊まったのか。)
ぼうっとしながら顔を洗う。
今、この空間には自分だけなのだと、そう思うだけで何故だかホッとする。
もう、あの空間には戻らない。あの、暗闇には戻らない。
ギリリと歯を噛み締めて、鏡に映る自分の顔を覗き込む。
この胸にある暗闇は、何時になれば晴れるのだろうか?
考えるうちに下らなくなり、俺は朝食の支度を始めた。

一通りやることを終えてソファに横になる。
此処に泊めてもらう代わりに家事全般と留守番をする約束をしたがタメに、今では専業主婦も顔負けの技術を身につけた。
(嬉しくないっての)
そもそも、こんな広い部屋を一人で掃除するのだ。体力も消耗する。
(高級マンション…ね…)
話しによると女から貢がれたそうだが…
(馬鹿な女だよな。彼奴にしてみりゃ、客の一人なだけなのに。)
そんな事を考えているうちに睡魔に襲われた。
疲れもあったからそれに抗うこともしないで睡魔の波に身を任せた。


不意に、暖かい何かに包まれているのに気が付いた。
自分の体温にも似たその温もりに、もっと浸っていたくて身を擦り寄せた。
身体をスッポリと覆うようなソレに、何故だか安堵感を感じて、ソレの正体が気になり始めた。
身体を擦り寄せたら応えるような仕草で背中の方にも温もりが伝わってきて、近くに聞こえる音に耳を澄ませる。
(あぁ…心臓の…音だ。)
規則的な其れが気持ち良くて、もう少しこうして居たいと思った。
けれど…
(なんで心臓の音なんか…?)
ふとした疑問に身体が反応してしまって、開けたくもないのに瞳をゆっくりと開けた。
「よぅ、起きたのか?」
「!!??」
その声に身体はバッと反応して、咄嗟にソレと距離を置いた。
「なっ…なにして…」
青ざめる俺に気付いたのか、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてそいつは身体を起こした。
そこには蓬莱寺京一が居たのだ。
「何って、添い寝。だけど?」
じゃぁ、先刻の温もりも、心臓の音も…?
添い寝された事実よりも、俺にとってはソレを心地好く感じてしまったことがショックで…。
「最悪…。死ね!」
それだけ言って部屋を出てきてしまった。
もう、頭の中は真っ白だった。


NEXT

攻党TOP