捨犬〜after〜

あんなにも別れを惜しむように抱き合ったのに、以外にも普通に生活ができて…
貴方が傍にいなくても特に何も感じなくなってしまった。

人というものはつくづく薄情なものだと、思わずには居られない。



□□□
高校卒業を果たした春。
俺はこれからの長期休みをどう過ごすか考えていた。
親の意思通りの高校にも入学し、無事に卒業した。
誰もが『エリート街道』をまっしぐらに進むと思ったことだろう。
けれど、俺の手元には留学の手続き書類ではなく…。

【美容学院】

美容なんて全然関係のない学校だったから、周囲は本当に驚いたけど、俺はあのマンションに居るときから決めていた。
理由は簡単。
美里さんの話に酷く興味を持ったからだ。

入学書類を机に置いて、俺は暫くベッドに横になった。

「京一…」

言葉にすればこんなにも甘く染み込むのに、あれ以来見ていない後ろ姿は次第に薄れていく。

逢いたい…

逢いたい。

(京一…!)



■□■
「え…?」

長期休みの初日、俺はあいつのマンションに又足を運んだ。
入口の番号を入力しても鍵が開かなくて、管理人に尋ねたら意外な答えが返ってきた。

『蓬莱寺さんね…3・4年前に引っ越されたのよ』

シワの入った口元に手を宛ながら管理人の女性は鳴り始めた電話を取りに奥に行ってしまった。
(居ない…どうして…?)
ドクドクと鳴り続ける心臓を押さえながら、熱い太陽の光を避けるように日陰に入ってズルズルと座り込んだ。

それから京一の行きそうな場所を何件も捜したが、答えは皆同じだった。
唯一、希望の見えそうな美里さんでも同じ答えだった。
『御免なさい…私には判らないわ…』
本当に申し訳なさそうに言うものだから、逆にこっちが申し訳なくなってしまった。
ついでだからと、お茶をごちそうになって、進路の報告もしてきた。
『そう、良かったわね。おめでとう』
ニコリと笑う笑顔に何処か影りがみえて、首を傾げたが問い正すことはしなかった。
きっと美里さんには美里さんなりの悩みがあるのだろうから。
最後、別れ際に
「京一に逢ったら伝えてください」
とだけ言って部屋を後にしてきてしまった。
最後に美里さんが何か言いたそうだったが、このまま残っていたら泣いてしまいそうだったので気付かない振りをした。

ねぇ、京一?
今…何処にいるの?

夜の新宿を一人フラフラと宛もなくさまよって、人の少ない袋小路で力なく座り込んでしまう。
キラリと光る左薬指のソレが月の光を反射する。
「馬鹿みてぇ…」
今だにこの証に縋りついている自分が惨めで、人の目も気にせずに声を出して泣いた。

あの時の約束は幻想だったのかと、不安を抑えられずに…。

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