《 竜の眠る海1 》

竜の眠る海

作者:金 蓮花

表紙・挿絵:珠黎皐夕

コバルト文庫 き6-14  1997年4月10日初刷

ISBN:4-08-614307-0


  都会には緑が少ない。緑がないと人間は生きていけない。ガーデニングが最近の流行。……なんて耳にするわけですが、植物。怖さを感じる事はないですか? 実際の話、花が活けてあったり、花束をもらったりすれば奇麗だと思うし、木製のものというのは好きです。でも、怖いんですよ。あれが密生しているところ。こちらが知らないうちに、じわじわと版図を拡げてくるところ。思わぬところにまで入り込んで根をおろすところ。だから、この物語を読み始めた時、こいつぁホラーだ……と、そう思いました。一夜にして緑に覆われた島。そこで不思議な眠りにつく人々。ヴァリエーションとしては茨姫なのでしょうが。主人公、リューイの立場に置かれたら、発狂しないでいられるという自信がありません(^^;
  この、密生する植物に対する恐怖というのは、暗闇に対する恐怖と同じで、かなり原始的なものではないかと思います。奥の方が暗い竹藪とか、人のいない雑木林、あるいは深山幽谷に一人立ち入った事があるなら、滴るような緑の薄闇に、人外のものがよこぎる様子を目にしたと思った事はないでしょうか? あるいはそれが、精霊とか妖精というものの一番最初の形なのかもしれません。そして、そこに発する恐怖、もしくは畏怖、そして感嘆する気持ちが、この物語には溢れているのです。
  伝えられる昔話の美しさと、そこから投影される物語への幻影、いわゆる竜と騎士と姫君の物語でありながら、手垢のついた西洋風の伝説ではない、幻想的な美しさというものもあります。そのあたりを詳しく語ってしまうのは野暮という事になりますか。
  小道具の地図、これがなかなか冴えておりまして、物語の区切りに、奇麗なアクセントを与えているのですな。あえて難をいえば、主人公の片割れ……傭兵の言葉遣いがいまひとつピンとこない。野卑、粗暴……というのではなく、どことなく女臭さを感じてしまう。キャラクターの特徴と割り切ってしまえば、それまでの話ですが。

〈1998/12/15〉