《 竜の眠る海2 》
剣の末裔
作者:金 蓮花
表紙・挿絵:珠黎皐夕
コバルト文庫 き6-15 1997年5月10日初刷
ISBN:4-08-614318-6
物語がオディロカナを襲った緑魔から始まるとすれば、舞台は一転して北の国にかわり、主人公達を襲うのも白魔となる。但し、霧が出てくるところは前回と同じですな。しかも、磁石が狂うのだそうだ。この、磁石を狂わせるものと霧というコンビネーション、いわゆる怪奇実話などでもお馴染みであったりします。例えば、UFO騒ぎでもよく聞く話だったりする。SFに使われた例だと、ノーマンの『ゴルの巨鳥戦士』冒頭で、そのものずばり……異星人の乗物が現れる前に磁石が滅茶苦茶に狂って……という情景が出て参ります。そういや、物語の根幹にある伝説、海底の城に眠る竜を阻んだイゾリア姫の祖先は天から降り立ったという記述がありましたね。すわ、ラン王家は異星人の末裔なのか?……という話になっていくかどうかはわかりませんが(^^;
相変わらず情景描写は美しいのですが、緑翠晶となる竜や、残されたその血を浴びて髪の色を喪うジェイの姿といったようなインパクトのあるものは、残念ながら、ありません。雪蜥蜴のシーンにしても、予告されていたとはいえ、前回の火蜥蜴と似たりよったりで、舞台は全く異なるものの、全体的には物語のコーダという感じは否めないのです。
但し、ダーシャやタニミナは物語の続きに大きく活躍すべき人々でもあるので、その点では前回つけきれなかった決着をつけ、次の物語に繋ぐ役割をはたしている部分と見なす事もできましょう。
さて。作中重要なモティーフとなる第二の昔話、北の曠野の女神(魔女)と騎士の話は、最初、北の国での客人のありようを説明するために語られます。客人を手厚くもてなす事、それに対して金銭や品物で報いようとしてはいけないという事(理由は作中でも説明されている通り、もてなしを贖う事になるから)という風習は、概して自然の厳しい地域ではみられるもののようです。簡単にいうと、野宿するのも比較的容易く、果物や漿果、とらえやすい小動物に満ちた土地であれば、手回り品の少ない旅人であってもさほど苦労をする事はないわけです。土地が厳しい場所であっても、街道が整備されていたり、町や村が近い場所なら状況はまぁ同じですね。ところが、土地そのものから生み出されるものが少なく、気候によって命を落とす危険が高い土地では、基本的に、助け合わないと生きていけません。このため、アラブやモンゴルの遊牧民族では、大概、「客は神の遣わされたものだとみなして鄭重にもてなせ。自分が旅人となった時、同じようにもてなしてもらえるように」という考え方をするようです。さらには、これに雅量という考え方が結びついて、自分の最も大切なものを手放してでも、客人をもてなす事が、美談として語られたりします。カディアの場合は、残念ながら、多様な差別感に結びついてしまっているようですが、もとは同じ様な考え方をしていたのではないか……と思うのですな。
〈198/12/16〉