《 竜の眠る海5 》
精霊の女王
作者:金 蓮花
表紙・挿絵:珠黎皐夕
コバルト文庫 き6-23 1998年12月10日初刷
ISBN:4-08-614530-8
最初に毒々しいほどの悪意ある態度を投げつけてくるのは、この作者の癖なのであろうか。気圧される、あるいは鼻白むほどの悪意、それとも敵意……それらは、しかしながら、大概何かを護るべき鎧の役割をはたしている。それも、深い愛情であったり、友情であったりするのだ。つまり、この登場人物達は大変内気であるのに違いない。それらをストレートに表す事ができないのだから。尤も、この一種ひねくれた情のよせ方が、作品の魅力であるともいえる。意地悪な美少女にうっかり夢中になってしまったが如く、読む事がやめられなくなってしまうのだ。最後にほろりとした心情になろうものなら、完全に負けですな。
さて、精霊の女王が今回リューイ達の出会う相手である。精霊、仙女、妖精、いろいろな呼び方をされるものだが、それらの正体は古代の神々の残響であったり、あるいは神になる事ができなかった自然の力の発露であったりする。前者として最も有名なのは、ケルトの妖精達であろうか。ここでも、精霊の女王の言葉のはしばしから、彼女がかつては神殿で崇められた女神であった事がうかがえる。ならば、彼女もまた、ケルトの妖精女王らと同じく、山、森、そして湖や泉を住居とした太古の豊饒の女神であったのかもしれない。彼女が愛し子のまわりに作り上げたのは、花盛りの仙郷ではなかったか。それは、山野の女神が織りなす、一般的な結界といえよう。また、彼女が道標とした白百合は、伝統的な豊饒女神のサインでもある。
ところで、精霊の女王が何故リューイ達を自分の住処へ招いたのか、という問題が最後に残る。それは彼らがイゾリア姫の魂を救った者達であるからだという。もし、精霊の女王の同様のものが、この世界に他にも存在しているのならば、今後もリューイ達は彼等の興味の的であり続けるのではなかろうか。それが良い事なのか、悪い事なのかは、当人達にしかわからないのだが。
〈1998/12/14〉