《 夢の宮1 》
竜のみた夢
作者:今野緒雪
表紙・挿絵:かわみなみ
コバルト文庫こ7-1 1994年3月10日初刷/1994年7月10日2刷
ISBN:4-08-611829-7
1 竜のみた夢
恋人を親友にさらわれた竜は、地の果てまで彼らをおいかけて食べてしまった。それが竜の食べた悲しみである。後には竜だけが残ったので、全ては夢となってしまった。だから悲しみはもう広がる事がない。老婆はそう語り終えると、三つのものを二つに分ける事はできない、と解題してみせる。この中編は、その寓話に絡んで二人の王子と一人の姫、そして姫の選んだ王子が王となる……という予言に始まり、それが引き起こす悲劇を淡々と描いているように見えるが、実はシリーズ全般に関わる重要なモチーフを内包している。すなわち、夢とかなしみの関係である。かなしみを食べてしまえば夢となる。その夢が良い夢であるかどうかは、わからない事だ。いずれにせよ、そうして紡がれてきた夢の織機であるのが夢の宮という場所なのだろう。
さて、瑛蘭は二人の王子を新床から喪ったかわりに、物語のラストで双子の王子を産み落とした。物語中で語られてはいないが、その王子達は果たして良い結末なのであろうか。あるいは、瑛蘭は必要な選択を先延ばしにしただけなのかもしれない。何故なら、彼女は本当は選ぶべき時に二人のうち一人を選ばなかったのだから。
2 眠りの妃
夢を見るという事は、大抵、その人は眠っているという事になる。この中編は、それが最もダイレクトに導入された作品であると言える。ただ一人の王子である芙蓉は、常々夢に見る少女に恋している。あまつさえ、夢の中で、その少女以外は決して妻にしないと誓ってすらいる。少年の無邪気な約束と言ってしまえばそれまでだが(でも、芙蓉は十八歳である。幼いとはいえない)、問題は、体が弱っていたらしい父が薨去してしまった事だ。当然芙蓉が王となるのだが、そうなってすら、夢の少女に執着しているのだ。王子がこんな浮世離れした事で良いのだろうか。
とはいえ無論、作品の主題はそういう事にあるのではない。芙蓉が睡蓮と名づけたその少女の正体が、解くべき謎であり、それが解けた時に物語は終わる。もしかすると、これはシリーズ中一番ストレートなロマンスかもしれない。
〈1998/09/04〉