《 夢の宮4 》
奇石の侍者
作者:今野緒雪
表紙・挿絵:波津彬子
コバルト文庫こ7-5 1995年8月10日初刷
ISBN:4-08-614103-5
これは一種の枠物語である。奇石、すなわち金緑石の一種で「砂漠の涙」と呼ばれる稀少な石を填めた玉珥を巡り、その行方をたずねる行商人/細工師が、鸞王に玉珥を巡る物語を語るという構成になっているからだ。当然、各々の挿話はシンプルなものだが、枠となっている物語と絡む事で、実は複雑な様相を見せているわけだ。
さて、最初の悲恋の物語が、玉珥がばらばらになった理由を語っている事は明白であり、最後の芸妓の物語が大団円を導き出すためのものである事は明らかだが、それでは間に挟まっている舞妓と老富豪の物語はどのような役目を果たしているのだろうか。それだけを取り出してみれば、たわいもない挿話に見えるが、老富豪の想い出話の中に重要かもしれない要素がある。すなわち、老富豪が片方の玉珥を手に入れたのは、幻夢の中での事であり、死を間近に控えて再びかつての幻夢に登場した姫を夢みた事。老富豪の話から、夢に登場した姫が奇石の精である事が推察される。あるいは、奇石に夢をかけた人々は、奇石の精に巡り会った事でその転機を得、その夢が奇石の夢と重なったとも言えるのではないか。
興味深い事がもう一つある。この物語については、かように夢が大きな役割を果たしている事は夢の宮の面目躍如でありながら、今まで語られてきた物語にあるような鸞神による夢の託宣は影を落としていない。そういう意味でも、シリーズ中で異彩を放つ一作であるように思われる。
〈1998/09/06〉