《 夢の宮5 》
薔薇の名の王
作者:今野緒雪
表紙・挿絵:波津彬子
コバルト文庫こ7-6 1995年12月10日初刷
ISBN:4-08-614143-4
一見、山さ(「さ」は山査子をあらわす文字。JISにない。日本工業基準の馬鹿もの〜)が主人公のように見える本作ではあるが、実際には山さは話者というべきであり、主人公は月季であるといって良い。夢の宮を巡る人間模様を、鸞国の時代をかえて物語っていくこのシリーズでは珍しく、『薔薇の名の王』は複数タイトルにわたって物語が続いていく。そういう意味では、本作は物語のごくごくとばくちにあたる部分であると言うしかない。
表向きの主人公と真の主人公との二人がいるように、この物語は二重の存在に満ちているように見える。例えば、鸞の名宰相である要黐の二人の息子のうち、長子の款冬は誰が見ても父の後を継ぐにふさわしい優等生であり、次子の山さは、二十歳を越えても仕事せずに諸国を放浪してまわる、”放蕩息子”である。鸞王茨木が病弱であり、託宣により、夢の宮から出られないために、政治の場も思政宮と夢の宮の二箇所に中心が置かれている。この場合、対になるのは王である茨木と、宰相である要黐だといっても良い。更に、最も重要な二重存在として、鸞王茨木と月季があげられる。月季は、王族譜にすら名前が載せられていないが、実際には先王の子であり、茨木とは同じ乳を飲んで育った庶子なのだ。
この中では、特に茨木と月季の存在が緊密であり、不可分とも思えるのだが、何故そのようであるのかについては、まだ本作では明確にはされていない。それについては、続く『十六夜薔薇の残香』と『薔薇いくさ』を待たねばならない。
〈1998/09/04〉