パンの大神
原題:THE GREAT GOD PAN
作者:アーサー・マッケン Arthur Machen
訳者:平井呈一
所収:怪奇小説傑作集1
創元推理文庫501-1 1969年2月21日初版/1983年10月14日44版
ISBN:4-488-50101-X
★ 他、「邪神の復活」というタイトルで「13人の鬼あそび」に収録(猪俣美江子訳)。
実をいうと、最初にこの物語を読んだ時には全くぴんとこなかった……と白状しなければならない。その当時は、パンという名前について、ギリシア神話に出てくる山羊足の神で、シュリンクスの発明者で、アポロと演奏の腕を競って負けたという事しか知らなかったのだ。つまり、パンという神がいったい何者であるかという知識なくしては、怖さがいまひとつ実感できない物語なのではないかと思う。
いやいや、ほんとに怖ろしい神なのですよ。何故ならば、「パニック(恐慌)」という言葉はこの神の名に由来しているんだから。
パンという神は、日本でいうヌシのようなものであったらしいです。山や森、沼、池などにいる精霊、あるいは一種の守り神であるところの「ヌシ」。恩恵を与えてくれる事もあるけど、祀り方(早い話がつきあい方)を間違えると、祟られちゃう。しかも、それらが八百万の神の一部として民衆に尊重されてきた日本と違って、キリスト教が席巻してからは、こういった群小の神や精霊、妖精といったものは、悪魔の同類とみなされていた。従って、キリスト教徒にとってのパンは、我々にとってより更に怖ろしい存在というわけなんだな。悪魔、すなわち信仰の敵であり、死んだ後に手に入るはずの永遠の幸福とか生命といったものを失う原因を作る存在というわけ。ここらへんをふまえて再読すると「なるほど、怖いのかあ……」という風に理解がいくわけだ。それでも、肌でその怖さを感じられないというのは、文化的な違いからくるもので、如何ともしがたいんだろうなあ。
〈1999/05/10〉