芸術の秋特別企画
さいとうちほ/プチコミフラワーコミックス全6巻(1995年〜1997年)
いつもはちょっと昔の少女マンガを掘り返してご紹介、なんてやっておりますが、今回は比較的新しい作品をおひとつ。芸術の秋ということで音楽ものマンガ。「小学館漫画賞」受賞作品、さいとうちほ先生の「花音」を取り上げてみました。常々おもっておりましたが、「音楽」と「恋愛」の親密な関係、なんて言い過ぎですが、ほら良く言われるじゃない、
「愛のハーモニー」だの「愛のシンフォニー」だの。あれってあながち慣用句的な用法だけではなく結構ことばとして良いところをついていると思う。なんというか、音楽をやっていくうえでは共同作業みたいなものが欠かせなくて、おたがいの心と心をむき出しにしてすべてさらけ出して、けなしたり認めたり反発したり受け入れたり…おや何かに似てないだろうか…そう愛だの恋だのの過程に似ているような気がするのだ。
(余談だが、そんな訳で各種音楽サークル内では非常に内部でのレンアイが盛り上がるものである。で結婚にまで至って子供に「奏」(かなで・ソウ)「拓斗」(タクト)なんて名前をつけてしまう訳なんだなあ…海よりも深くうらやましいものである。)
「花音」ストーリー
ヒロインはヴァイオリンを天才的に弾きこなすモンゴル育ちの少女、花音。テレビ番組のテーマソング作曲の仕事でモンゴルを訪れた新進気鋭の作曲家、天童と出会い、自分の父親が音楽家であるとしかわからない花音はヴァイオリニストになれば父親が見つかるかもしれないと望みをかけ、天童とともに日本にやってくる。
日本で花音は若き天才マエストロ(例によって超絶美形)、三神と出会う。なにかと面倒を見てくれていた天童がアメリカに渡ってしまい、三神が理事長をつとめる音楽アカデミーの生徒となった花音。ふたりは当初は反発するもののおたがいに何かを感じる間柄となっていく。
華やかで陰謀渦巻くクラシック音楽業界を舞台に、花音の父親探しとめくるめく恋愛模様、天才音楽家たちの繰り広げる才能の競演、そして花音の成長などなどを詰め込んだ華麗なるストーリー。
みどころ
とにかくこのストーリーとキャラクター設定にやられてしまいました。上原きみこ先生の名作「まりちゃんシリーズ」をモダンに、大人風味の味付けをしたような感じで読み始めたらもう止まらない。サブキャラクタも個性的(だけどマンガの登場人物としては普通だけれど)で現実離れ加減が良い感じでうっとりさせてくれる。
ヒロイン花音は感情の起伏が非常に激しく、ショッキングなことがあるとやたら行方をくらましたり、ヴァイオリンが弾けなくなったりする。それを体を張ってなんとかしようとする三神。非常によろしい。
そして花音は自分の気持に非常に正直に言いたいことを言って、やりたいことをやる。恋する気持ちにも当然正直で、そんなところは悲しいくらいに女らしく、こういう役やってみたいよなぁと女の子なら憧れるであろう。
父親探しのストーリーも、3人の候補がいてそれを1人ずつ攻略…というか近づいて確かめにいくのだけれど決してルーチンワークにならないような仕掛けが施されていて、おもしろい。
おたのしみのラブシーンは、そこに至る展開とシチュエーションが美しすぎる。これを見る為だけでも価値はあるかもしれない。
また何といっても素晴らしいと思うのは「音楽」の描き方。
言葉、文章で「音楽」(どんなに素晴らしい演奏か、どんなに感動したか等など)を伝えるのは難しくて、結局のところは どんな形容詞を使うか、どんな比喩を使うか、というところにかかっていると思う。
この作品中でももちろん、花音の演奏シーンが見せ場になっているのだけれど、モノローグ、構図、それらが渾然一体となって訴えかけてくる。訴えかける努力をしている、というのか、何か伝わってくるものがある。
マエストロ三神と花音の曲作り(練習)の過程がまた、むしろ直接的なラブシーンよりもエロティックなものさえ感じさせて、いいんだこれが。台詞を紹介したいけれど読んでみた方が絶対に良いので書かないでおきます。
ストーリーは最後まで予断を許さない展開で、えらくタブーな領域に足を踏み入れたりもするのだけれど…ポイントは常に「音楽」というところ、不覚にもわたしは感動してしまった。
なにか音楽の活動をやっていた人はもちろん楽しめると思うし、これからクラシックのコンサートとか観にいくのに挑戦しようかな、と思っている人にはもっとお勧め。