ノスタルジック少女漫画パート10
〜太刀掛 秀子先生特集その2〜
21世紀はじめてのマンガコーナー更新ですが、ふたたび太刀掛秀子先生の作品をいくつか紹介したいと思います。
何の先入観なしに読んでも、はっきり70年代〜80年代前半の作品と主張するシチュエーション、小道具使いと凝りまくったポエムのようなセリフ、モノローグ。そして優しく美しい絵柄で、繊細なラブストーリーをみせてくれる。この美しい世界を是非たんのうされることをお勧めします。今回はコミック文庫にも作品が収録されていて手に入りやすいかな、と思うものを中心に取り上げてみました。
雨の降る日はそばにいて(集英社文庫「ミルキーウェイ」収録・1977年「りぼん」連載)
恋に対して積極的になれないヒロイン、みちるはフォークソングクラブ部員である。そんなみちるを優しい目で見つめ、その心に飛び込んできた新入生、柴原くん(柴ちゃん)。二人はクラブの大会でデュエットを組むこともきっかけとなり急接近する。
そんなある日、クラブの仲間と出かけた先で柴ちゃんは発作を起こして倒れてしまう。2人の恋は、そして柴ちゃんの病状はどうなるのか……。
引っ込みじあんな自分の改革と肯定(全てとは言わないが大部分を恋愛に依存する)を軸に、フォークソング、病気、偽りの身分、という切ないアイテムがいやおうなしにドラマを盛り上げまくる。私が憧れ、今ではどこにも存在しないであろう美しい70年代の物語である。そして、柴ちゃん、きみはどうしてそんなに強く優しくいきられるのかい?と悲しくなってしまうほど、そして年齢にそぐわないくらい人間のできた登場人物たち。フィクションであることを忘れて強引に引き込まれてしまい、切なすぎる結末に向かって駆け抜けるストーリーの見事さにも感動してしまう。
妙に人間の出来た相談役、フォークソングクラブの先輩の伊勢さんのキャラクターにも注目だ。頼れるお兄さんキャラ。
自信をもってお勧めの作品。
6月のシロフォン(りぼんマスコットコミックス「ひとつの花もきみに」収録・1984年「りぼん」掲載)
もうタイトルからして美しすぎてたまりません。上記「雨の降る日はそばにいて」の続編のようなもの。
あれから3年後、まだまだみちるは柴ちゃんへの想いを断ち切れずにいた。ひょんなことから元気印のM大学のラグビー部員、六平くんと知り合ったみちるは彼のペースに戸惑いながらも、やがて彼のことが気になる存在になる。
柴ちゃんへの想いと六平くんへの想いの間で戸惑うみちるの姿を描いた感動ストーリー。
まんがでは多分定番のストーリーだが(その中には正直少しだけイライラするものもある)、死んだ恋人との話を読者が知っているだけあって、主人公みちるの苦悩が良く解る。あのステキな柴ちゃんをどうしたら忘れられるのか?と思うのだが、この六平くんというのがまた素晴らしくカッコイイ青年なんである。簡単に言えば文化系と体育会系のいいとこどりをした、って感じですが、本当に女の子の憧れを形にしたみたいなんである。そしてかなりの詩人で役者なんである。
憧れといえば、冒頭のみちるの美人ぶりもなかなかの見所である。上記作品とセットでお勧めします。
ひとつの花もきみに(集英社文庫「ふたつのうた時計」収録・1984年「りぼんオリジナル」掲載)
このタイトルも美しい。本当にいいタイトルなんだけれど、太刀掛先生作品のタイトルは口に出すのが少しだけはずかしく感じられるような気がしてしまいます。
あらかじめ分かっている結末を冒頭に、その経過を美しくゆっくりと回想していく形式のストーリー。
大学の映画制作部の先輩後輩(同郷の出身。ヒロインの方が名家のお嬢だったりする。)の愛と夢(映画)とで板挟みの同棲生活とその破綻を切なく描く。これまた薄暗いフォークの世界で非常によろしい。流石に「りぼん」なので生々しいトコロは巧妙にカットされているけれど、安い部屋でふたりつつましく生活するところ、親にそれがばれて猛烈な反対、などドキドキものである。
夢に近づくほどに破綻して行く2人の生活は、結末がわかっていることにより読んでいていっそう切なさを増す。特に大学生以上の人にお勧め。
ちゃむとたいせつなともだち(集英社文庫「ポポ先生がんばる」収録・1982年「りぼん」掲載)
いわゆる「動物もの」といえばいいのだろか。中学生の千夜美(愛称ちゃむ)と飼い犬「チム」との交流を、教育的なストーリーを交えつつこのうえなく可愛らしい絵で描く。
ひらがなのみのタイトルがほのぼのした印象を与えるが、まず初めに動物好きに自信がある人は読まない方が良いかもしれません、と言っておこう。いきなり最初からショッキングな結末を提示されます。そして過去を振り返って行くストーリー形式であるがもう辛いのなんの。「反則」「やりすぎ」という言葉で自分を落ち着けないと確実に泣けるし、へたをするとトラウマとかに発展しかねない。
だけどひっくり返せばそれくらい説得力があるということ。多分この作品を読むと無責任に動物を飼うということは出来なくなると思う。
また、獣医のお兄さん先生がとても魅力的。頼れる年上のお兄さんみたいな男性キャラクターが、太刀掛先生の作品にはよく出てくるけど、みなさん女の子から見た理想のお兄さんで素晴らしい。ちょっと惚れてしまう(笑)。