SARA is radical detecitive         
(石田咲良は迷探偵?)

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横山亜美は武士である。
剣は横山派一刀流の練士、その剣名は県下に轟く。

「体は乙女でも心は武士です」

と、うそぶく彼女はこと恋愛方面に関してはとんと疎かった。

誰々は誰々の事が好きらしい。
誰々と誰々はどうも付き合っているらしい。

そういうった話題になると隅っこで「へー、そうなんですか」
と、うなずくばかり。

興味がないわけではなかったが、そこまで積極的に人様の
色恋に首を突っ込む事もあるまい、と思っていた。

しかし、その様相が一変する。

クリスマスを目前に控えた12月20日。
敬愛する中隊長、石田咲良によって亜美の嗜好が変わったのである。




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石田咲良は最新最高性能を誇る指揮官型。

こと戦争に関してはクラウゼヴィツか大村益次郎かといった才媛である。

しかし、だがしかし。
それ以外に関してはまったく、これっぽっちも、からっきしダメであった。

なにせ生後3ヶ月。
赤ん坊でもようやく首がすわったくらいの時間しかたってない。
世界は未知の事態で溢れていた。

「ほらほら、息が白い」
そう無邪気にはしゃぐ中隊長に亜美は無私の情熱をもって
報いる事を誓ったものである。

咲良は咲良でそんな亜美の心遣いを敏感に感じ取り。

「ねえ、亜美。いいかな?」

と、なんとはなしに相談してくるようになってきた。
一方的に相談を受けるだけではあったが、
真摯に自分の話を聞く咲良はとても可愛く。
自分が男であれば放っておくまい、などと戯れた事を考えていた。

そして12月20日、その日の咲良はいつもと違っていた。

「ね、ねえ亜美。お願い、お話を聞いて」

思いつめたその表情から、すわ非常事態か!
と、意気込んだ亜美だが。
その質問は意外なものであった。

「小島がね、小島がアタシのコト好きだっていうんだ。どうしよう」



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小島航は優等生。

穏やかで優しく、誰の面倒もみる委員長肌。
やや決断力に欠けるものの同世代の男子の中では
小島の事を亜美は高く評価していた。

そしてあのサラサラ髪に整った顔立ち。
咲良には中々お似合いではないか、そう思った。

「どうしよう、とおっしゃられても中隊長は小島君の事をどう思っているんですか?」
「え、ど、どうって」
「中隊長は小島君の事はお好きなんですか?」

横山亜美に小細工は無用。
ただ正面から相手を一刀の元に斬って倒すだけである。

「そっ、それは」

うつむく咲良。顔がみるみるうちに朱に染まる。
その時、亜美は人が恋に落ちた瞬間を目撃した。

「好きだ、亜美と同じくらいに」

亜美は今すぐ小島に咲良を賭けた決闘を申し込みたいくらいだった。



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石田咲良と小島航は仲睦まじい彼氏彼女。

この状況にいたる過程の裏には、
切り込み隊長横山亜美の表に出せない奮闘があった。

なんといっても彼女の方は生後3ヶ月。
恋愛経験は掛け値なしのゼロ。

しかも彼氏の方も積極性と決断力に欠ける有様。
二人の進展は見ている亜美の方がやきもきするくらいスローだった。

「わかりました、中隊長」

亜美は頼もしく胸を叩く。

「亜美にお任せください。きっと小島君に嫌われないようにしてさしあげます」

ポケットから映画館のチケットを取り出すと、咲良に無理やり渡した。



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石田咲良は有頂天。

恋に恋するヒマもなく。いきなり恋の直中に身をゆだねることになった咲良。

「ねえ亜美、聞いて聞いて」

昨日、映画一緒に観たんだ。
昨日、一緒に帰ったんだ。
昨日、小島ったら可笑しかったんだ。

些細な事でも報告してくる咲良。
その喜ぶさまを見ていると亜美の方まで嬉しくなってくる。

小島め、中隊長を泣かしたらぶっとばす!そう思わずにはいられない。

しかし心のどこかで最近咲良に急接近しだした谷口竜馬に対する牽制のため
咲良と小島の間を強力にバックアップした事にわずかながら痛みを覚えた。

でもこの咲良の笑顔にその痛みはキレイさっぱり消え去った。
今の咲良は赴任当初のような強張った様子は消え、
部隊の全員に対して目が届くようになったのである。

「ねえ、亜美。ちょっと聞いてよ」

心に余裕ができると、今まで見えなかったものが見えるんだなと、亜美は気付いた。

「最近、葉月ってキレイになったと思わない?」

亜美はただうなずく事しか出来なかった。



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山口葉月は不沈空母。

すでに女子と言うより聖母かおっかさんといった威厳レベル。
明るく家庭的で優しくて料理上手。
ちょっと大柄な事を除けばなかなか魅力的な女性である。

そんな葉月に好意を寄せる男達もいないわけではなかったろうが、
葉月は常に回りに対して一線を引いている。

それは幼馴染の岩崎仲俊の存在があったからだ。

「俊くん、俊くん」

とかいがいしく世話を焼くさまは、あの咲良をして。

「みえみえよね」

と言わせしめる有様だった。

しかし運命の悪戯か、つい最近岩崎は別地方に転属。
太陽のように明るかった葉月はみるみる沈んでいった。

その葉月がキレイに?亜美にはまだ疑問だったが。

「いい、亜美。女はね」

自信たっぷりに咲良は断言した。

「恋をするとキレイになるのよ」

その一言でなんとなく納得した。



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横山亜美は興味津々。

恋をすればキレイになる。
使い古された言葉だが今の亜美には真実味を帯びた言葉だった。

どうだろう、小島航と付き合う前と付き合った後の中隊長は、
余裕というか優しさというか、確かにキレイになったのである。
それを考えれば咲良の論もうなずけなくもない。

「特売、特売」と駆けずりまわっていた葉月だったが、
言われて見れば最近は落ち着きを見せ始めた。

工藤などは高みから人を見下ろしている感じだと言っていたが、
確かに葉月の雰囲気はなんとなく変わってきている。

それが、恋。

私も恋をすればキレイになれるだろうか。
ふと、そう思った。

そんな様子を納得と見た咲良は悪戯っ子のように笑った。

「ね、亜美もそう思うでしょ。で、葉月と付き合ってる男って誰か気にならない?」

亜美は一も二もなくうなずいた。



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石田咲良は観察者。

咲良は部隊の誰よりも早く葉月の異変に気付いた。

葉月が誰かと付き合っている、そう結論づけた後ワクワクしてきたのだ。
いったい誰と付き合ってるんだろうと。

ゴシップ、興味本位といってもいいが、これは女性にはとって普通のたしなみだ。

亜美とて心は武士でも興味がまったくないわけではなく、
むしろ最近はこの放っておけない中隊長のせいもあって内心興味津々である。

「で、誰なんですか中隊長。浮沈空母山口葉月を撃沈したのは」
「それがねえ、サッパリ」

全然つかめないというのだ。

「だからね、それをこれから二人でこっそり調べるの、ワトソン君」

誰がワトソン君だ。そう思ったが、そのプランはなかなか魅力的だった。




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横山亜美はワトソン君。

名探偵には助手がつきもの。
シャーロック・ホームズにはワトソン君。
エルキュール・ポワロにはヘイスティングス君。
そして石田咲良には横山亜美というわけだ。

しかし残念ながら石田咲良は名探偵には程遠い。
ここで助手たる自分が事件解決にむけて自称名探偵を導かねばならない。

「そうなると、候補は5人ですね」

小隊全9名のうち男子は小島・谷口・竹内・野口・上田。
このうちの誰かが葉月を射止めた王子様だ。

「小島は外してもいいでしょ」

なるほど、もっともである。

「谷口さんも除外しますね」

これは亜美には自信があった、なにしろ谷口の視線は常に咲良を追っていたからだ。
まあ亜美はその谷口をずっと見ていたからわかったのだが。

「なんで、亜美?理由を述べよ」

楽しそうに咲良が笑う。

「なんでもです、とにかく候補は三人ですね」
「空先生は入れなくてもいいよね?」

亜美は激しくうなづいた。



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野口直也は候補者その1。

岩崎仲俊の転属にともない補充されたのが野口直也である。

どことなくとらえどころのない性格で亜美にはとても恋愛対象として見えなかったが、
整備班としての腕は確かだし、県代表に選ばれるほどの長距離ランナーだったらしい。

またあのズバ抜けた長身は自分が大柄な事を気にする葉月にはいいかもしれない。

「野口君なんてどうでしょうか?」
「さすがね亜美。私もそう思ってたの」

怪しいものである。 

「じゃあこれからそれとなく二人を観察して」
「亜美」

ちっちっちっ、と咲良は指を横に振る。

「そんなまだるっこしい事じゃダメよ。亜美、石田隊のモットーは」
「正面突破!」
「よろしい。行くわよ、亜美」
「はい、ぶっとばします」

名探偵への道まだ遠く。



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野口直也はマニアック。

野口直也は今日も整備の仕事に余念がない。

発言や行動にやや不審でマニアックなところがあるものの、
仕事に没頭する横顔はなかなか様になっている。

「え、葉月さんのことかい?」

自称名探偵の暴走を抑えて遠まわしに葉月について聞いてみた。

「そうだね、彼女はいい人っていうより凄く淋しがり屋なんだと思うよ。
 だからいつも誰かの面倒をみているのさ」

冷静かつ的確な評価。しかしそこには好意はカケラ程しかなかった。

「で、なんで僕にそんな事を聞くんだい?」

仕事中の不意の尋問に野口はやや不快気だった。
せめて整備班の仕事が終わってからと、亜美は主張したのだが。

「中隊長は私だ!」

と、押し切られたのだ。

実はですね、となるだけやんわりと聞いてみた。
同じ整備班の葉月の事だ、ひょっとしたらなにか知っているかもしれない。

「ああ、それなら」

ポンと手を叩いて野口は言った。

「竹内君なんかあやしくないか」

指名したのは同じ整備班の竹内優斗だった。



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竹内優斗は候補者その2。

確かに野口の言にはうなずけるところがある。
転属した岩崎仲俊と竹内優斗は大親友で、よく二人で遅くまで作業していた。

そんな竹内なら岩崎にかいがいしく世話する葉月の様子も見ていたし、
岩崎が居なくなって気落ちする葉月も傍で見ていたに違いない。

あの亜美から見ても「超が付くほどお人よしの竹内君」なら、
気落ちした葉月を慰めた事だろう。

それに岩崎が居なくなって淋しいのは竹内も一緒のはずだ。
同じ淋しさを持つもの同士がくっつく。

意外とこれはありえるかもしれない。

「中隊長、これは」
「亜美、私も今同じ事を考えていたわ」

怪しいものである。



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竹内優斗はお人よし。

しかも超がつくほど、メガトン級のお人よしである。
学兵の身でありながら戦争反対のビラを配るおばあちゃんの心配をする程だ。

また、ただのお人よしだけでなく何日も徹夜で損壊したキャリアや
ウォードレスを修復させる意志の強い仕事振り。
亜美には苦手なタイプだがその熱心さは買っている。

「え、葉月さん。ですか?」

唐突の問いに竹内は考え込んだ。

「そうですね、優しい人ですよ。優しいって事は勇気がある事だ。
 その点彼女は部隊随一の勇者だ」

勇者、その表現には好意がこもっていたが。
いかんせん恋愛感情には程遠かった。

「中隊長、これは」
「そうね、違うわ」

二人してため息をついた。

「いったい、どうしたんですか」

もっともな疑問なのでかいつまんで話す。
ひょっとしたら有力な情報が竹内から貰えるかもしれないからだ。

「残りは上田君ですか。でもそれは無いと思いますよ」

上田は片想いの相手が別方面に居るという。
今訓練に励んでいるのもその彼女の為だと竹内は聞いたらしい。

完全に道を見失った。
八方塞がりの亜美の目の前で咲良は目を輝かせた。

「わかった」

咲良は自信たっぷりに言った。

「わたしだ」

亜美はその迷探偵ぶりにクラクラしてきた。



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石田咲良は迷探偵。

とっさの発言に亜美は言葉を失っていた。

「そもそも葉月がキレイになったからといって、
 誰かと付き合っているって考えたのが早計だったのよ。
 いい、亜美。女は恋をすればキレイになるの。でも片想いだって恋は恋なの」

なるほど、それはそうだ。身をやつすほどの激しい片恋、それは確かに女を磨かせる。

「それに相手はあの葉月よ、葉月の好意なんてすっごくわかり易いじゃない」

そりゃあ中隊長曰く「みえみえよね」ですから。

「はたから見てれば普通気付くと思う。で、それがみんな気付かないという事は」

重々しく咲良は宣言した。

「相手が女性だからよ」

まあ確かにみんな葉月さんが他の女性に憧れてるなんて思わないでしょうが、
いったい何故に中隊長。

「葉月はこの間、私の部屋を掃除に来てくれて、ついでにご飯まで作ってくれたもん」

部屋を掃除してご飯を作ってくれる。確かに女性から男性にならわかり易い好意だが。

「でもダメ、私には小島がいるから」

葉月に言ってくる。と、中隊長は止める間もなく駆け出した。

ワトソン亜美には自称名探偵の推理に致命的な欠陥がある事を伝えられなかった。
だから急いで咲良を追った。

「中隊長、その推理は間違ってます」

亜美は祈るような気持ちで前方を疾走する咲良を追いかけた。

「だって葉月さん、私の部屋にも掃除しに来てくれましたもん」



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山口葉月は恋する乙女。

そう、いつだって誰もが誰か愛し愛されて生きている。
だからって葉月さんが中隊長を愛してる可能性は天文学的に低い。

「ね、ねえ葉月。最近あななキレイになったわ」

意外な中隊長の言葉に葉月は「あら」とか言って照れている。

「それは恋をしてるからでしょう」

ズバリと直球勝負。

「はい、そうなんです。実は俊くんから手紙が来て」

手紙?俊くん?
なんで転属した岩崎が出てくるのよう!

めいたんていはこんらんしている。

「転属の話は書類上の間違いで近々こっちに戻ってこれるかもしれないって」
「良かったですね」

迷探偵に代わってフォローを入れておく、まったく世話が焼けるんだから。
謎は全て解けたのだ。

名探偵としてのプライドをズタボロにされた咲良だが、
突然悪戯っ子のような笑みを浮かべると葉月の傍に向かった。
小声でなにか話しかける。

「はい、そうですね。わかりました万事ワトソン葉月におまかせ下さい」
「ちょっと、中隊長、葉月さん。なにを話してるんですか」

二人はとても楽しそうな表情をしていた。

「中隊長はね」

葉月は微笑んだ。その微笑みは恋に勝ち残った者の余裕が見えた。

岩崎くんは真っ先に彼女手紙を書いたのだろう。
だから葉月さんは待ってるって決めたんだ、自信をもって。

「今度は横山さんの想い人を探すんですって」

本気でそれは止めて下さい。
亜美はそう思わずに居られなかった。

fin





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