トーベ・ヤンソン


Tove jansson

1914〜2001(享年86歳)
ヘルシンキ生まれ
彫刻家の父と挿絵画家の母をもつ
スウェーデン系フィンランド人
挿絵画家 風刺画家 短編作家
代表作はムーミンシリーズのほか
おとな向け小説 彫刻家の娘
少女ソフィアの夏、石の原野など

※写真はフィンランド湾沖に位置する
クルーヴ島にて泳ぐヤンソン
『島暮らしの記録』から



ムーミンシリーズ(単行本)


・小さなトロールと大きな洪水
・たのしいムーミン一家
・ムーミン谷の彗星
・ムーミン谷の夏まつり
・ムーミン谷の冬
・ムーミンパパの思い出
・ムーミン谷の仲間たち
・ムーミンパパ海へいく
・ムーミン谷の11月



ヤンソンとムーミン・トロール


トーベ・ヤンソンがムーミン・トロールを描きはじめたのは、1943年以降から。彼女は、15歳ごろからある辛口な政治風刺を身上とする雑誌に風刺画を描きおろすようになるのですが、後にその絵に彼女自身の分身としてサインがわりに登場するようになったマスコット、それがムーミン・トロールの前身です。上の挿し絵が少々そのころのトロールと近いのですが、当時のムーミンは、みなさんが御存じの丸まるとした姿とは似ても似つかない、痩せて無愛想なキャラクターでした。そのころ、ヨーロッパでは第二次世界大戦、ドイツ軍の侵入やソ連の空爆といった、暗い時代背景がありました。そんななか、彼女は反戦・反独裁を掲げる、先述した雑誌『ガルム』に、果敢に風刺画を描きつづけるのです。スターリン、ヒトラー、ミュンヘン会議といったテーマで揶揄した彼女の画は、次第にフィンランド国内の検閲に引っ掛かるようになり、描き直しを命じられたり、掲載許可が下りないといった圧力を受けるようになっていきます。そして彼女は、自分の無力さに落胆したのでした。
ヤンソンはそんな灰色の世界から抜け出すかのように、39年冬からおとぎ話を書きはじめます。それが、『小さなトロールと大きな洪水』です。そして1945年、戦争が終わった年にこの作品を仕上げ、世に送り出したのでした。わたしの解釈では、小さなトロールは無力な存在と感じていた自分を、洪水とは戦争を表しているのではないかと。ハッピーエンドを迎え、家族がふたたび幸せに暮らせる日々を、ヤンソンはこの物語のラストシーンに託したのではないかと思うのです。そして以前の痩せっぽちで怒った顔をしたムーミンも、ふっくらとし、明るい表情のムーミン・トロールへと変わっていきます。どんどん丸みを帯びていくムーミンの姿に、平和や安らぎの象徴を見い出すことができます。
ヤンソンの心情や願いを代弁するかのように、彼女によって生みだされたムーミントロール。ムーミン=ヤンソンであると、私は感じています。時に反戦を訴え、平和を希求し、独裁者たちを非難してきた彼女の姿そのものだと。そしてムーミン物語りの中では、ちょっぴり哲学的な彼女の思想、人間関係のむずかしさや楽しさを語る主人公として。彼女を知るうえで、欠かせない存在。それがムーミン・トロールなのです。



ムーミン・トロールとわたし


私がムーミン物語と出会ったのは、小学校2、3年生のころでした。ブルーの表紙で、当時の私にとったら、ちょっぴり分厚い本でした。おそらく8巻。すべて読破し、また数カ月後に全巻を読む。そんなことを繰り返していました。両親があまりテレビを見せない家庭でしたので、アニメのムーミンの存在をよく知らなかったこともあり、私にとってのムーミンとは、ムーミン・トロールというムーミン谷の住人でありました。おとずれる四季の変化と、ムーミン谷に住む個性ゆたかな住人たち、訪問者。ヤンソンの身近にいた人間をモデルに描かれたキャラクターも存在します。たとえば植物学者のヘムレンさんやトゥテッキ。トゥテッキはヤンソンの親友であり、画家のトゥーリッキ・ピエティラのことなのです。そして、この頁の末尾にとり上げてみたのですが、ムーミンママの手料理はとても美味しそうで、みんなを幸せな気分にさせてしまいます。ことにパンケーキは絶品のようで、物語中もっともよく出る料理。短い夏のあいだに、ムーミンママはたくさんのジャムやスープをストックし、長く厳しい冬に備えます。ムーミンたちは寒さに弱いため冬眠をするのですが、時にお腹を空かせて目を覚ますこともあるからです。ムーミンママのこしらえたパンケーキを、ムーミンママ特製の木いちごのジャムで食べてみたいと、本気で思っていました。
さて、そんな私も大人になり、インターネットという世界に触れるようになります。検索。この機能でまっ先に検索したのは、トーベ・ヤンソンでした。ムーミン物語を書いた彼女のことを、少女のころからずぅっと、知りたいと思っていましたから。そして、ヤンソンのことを少しずつ知るうちに、いつしかムーミン・トロールとトーベ・ヤンソンは、私のなかでシンクロしていくのです。その後、あれほど何度も読んだというのに、ムーミンシリーズを全9巻買いそろえました。少女のころに読んだのは8巻。1巻多いことになります。というのは、『小さなトロールと大きな洪水』が、当時は絶版になっていたから。表紙を入れてもたった48ページにしかならない小冊子であった本作は、当時書店に置いてもらえなかったそうなのです。それから21年もの月日を経、ヤンソンの序文をつけて再発行されました。ムーミン谷という地へ辿りつくまでの過程を知ることのできる序章的な作品。もしもムーミンシリーズを読む機会がありましたら、是非この物語りから読むことをお薦めします。

このムーミン谷は、フィンランドのどこかに存在すると、今も信じています。でも彼らはたいへん小さな生き物ですから、人間に見つかることはないかもしれません。冒頭で記しましたが、ヤンソンは既に逝去しております。けれど、ムーミン物語は世界で読みつがれていくでしょう。そして多くのかたが、ムーミンワールドやムーミン博物館を見に、ヤンソンの愛したフィンランドを訪れるはずだと。私もその一人。少女のころに出会ったムーミン・トロールに導かれるように。
(補足)どうしても見つからなかったヤンソンのお墓ですが、バルト海に散骨されたそうです。



ムーミンママの味


ムーミンママがこしらえた料理の数々。ムーミン物語のなかで、至る箇所に出てきます。そんな料理のレシピが載っている絵本のようなクッキングブック。わたしが唯一購入した料理本。先述した木いちごのジャム、パンケーキ、ちびのミイの大好きな蜂蜜味のおやつ、ヘムレンさんの大好物ヨーグルトケーキ、スニフの最高の肉だんご、スナフキンの物思いのスープ、ムーミントロールのうれしい味チーズサンド、ムーミンママのピクニックパイ、ムーミン谷のポテトサラダ・・と、ムーミンの世界そのもののメニューばかり。焼き菓子系はとくにオススメ。入手しにくい食材もありますが、読むだけでも満足できます。

作/サム・マリラ 絵と引用文/トーベ・ヤンソン 訳/渡部翠
講談社 \1800



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