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| ECM New Series | Album cover reproduced by courtesy
of ECM Records, Munich |
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「神の道化師」あるいは「裸の声」 ――ジャン=リュック・ゴダール『映画史』サウンドトラックを聴く |
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| 硬質なオブジェのような、美しい本のかたちである。辞典みたいに大きな函に収められている。濃い藍色のつや消しの表紙に、白い文字でくっきりと JEAN‐LUC GODARD、緑がかった青の文字でほのかに HISTOIRE(S) DU CINEMA と浮かびあがっている。瀟洒な装丁の、四巻の「書物」。手にとって頁を繰ると、まずフランス語の原文のほかにドイツ語と英語に訳された本文のテクストがあり、そのうしろには、鮮明な写真のグラフィックがアルバムふうに配置されている。 | ||||||
| 白と黒のコンポジションを中心に、点在する鮮烈な色彩。さまざまなイメージの不思議な連鎖は、強く見るものの瞳を撃つ。古今の映画のイメージを絵画や写真と混ぜあわせ、多重にオーヴァーラップして、しばしば字幕のことばをかぶせた図像の数々。どれも決定的で、強い喚起力をもった、幻視(ヴィジョン)のような画面である。 | ||||||
| 本文のテクストはといえば、句読点もなく整然と詩のような列をなしている。幾何学的にデザインされた簡潔な外観は、ヴィジュアルな「本」としか見えないが、静謐なその装いのなかに、5枚のCDに凝縮されたきわめて特異な「音」と「声」のヴィジョン、まるで「神聖喜劇」(ダンテ)のような、冥府巡りの壮麗なヴィジョンが隠されているのだ。 | ||||||
| 心震わせる痛切な響きと、深い沈黙をその内部に宿した、「音声の書物」ともいうべきこの「本」こそ、映画作家ジャン=リュック・ゴダール [●注 1] の4時間半におよぶヴィデオ作品、『映画史』(1988〜99年製作)のサウンドトラックなのである。 |
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●注 1 |
1930年生まれ。スイス/フランス人。ヌーヴェルヴァーグの旗手となり、以来、美学的にも思想的にも、破格の作品を製作しつづける。映画の音について、たとえばラジオのインタヴューに答えて、こんなふうに語っている。「ぼくは音を目に見えるものにすることしかしていない…。おおかたの映画は、(中略)くだらない物音を手にしているわけだ。テーブルをたたけば音が出る。そしてぼくもそれを音と呼んでいる。でもそれをなにかにつくりあげるべきなんだ」(95年の発言、『ゴダール全評論・全発言V』より)。 | |||||
サウンドトラックといっても、いわゆる映画音楽を再編集し羅列しただけのものではない。台詞や環境音などもふくめ、作品の音声をことごとく収録した文字通りのコンプリート・サウンドトラック [●注 2] であり、ゴダール特有の音のモンタージュとミキシングを、そのままのかたちですべて聴くことができるのだ。 |
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●注 2 |
89〜90年製作の映画『ヌーヴェルヴァーグ』も、やはりECMからコンプリート(完全版)・サウンドトラックでリリースされている。この映画のダビングにあたり、ECMのマンフレート・アイヒャーから提供された音源をゴダールは多数使用、以後ECMとのコラボレーションが始まり、90年代以降ゴダール作品の音楽に、ECMの存在は欠かせないものとなっている。CDはアイヒャーがプロデュースし、ゴダール映画の録音技師フランソワ・ミュジーが、リミキシング作業にあたっている。ミュジーは81年の短篇『フレディ・ビュアシュへの手紙』と82年の長篇『パッション』から参加し、以後めざましい技術を発揮して、ゴダールの優れたスタッフでありつづけている。 |
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