:rarum 4 親しみやすい優しさと、自由かつ堅固な論理性の共存 |
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Album cover reproduced by courtesy of ECM
Records, Munich |
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Pat Metheny Selected Recordings Pat Metheny electric and acoustic guitars, guitar synthesizer, bass / Jaco Pastorius bass / Bob Moses drums / Lyle Mays piano, synthesizers, synclavier, autoharp / Dan Gottlieb drums / Michael Brecker tenor saxophone / Charlie Haden double-bass / Jack DeJohnette drums / Nana Vasconcelos percussion, voice / Steve Rodby basses / Pedro Aznar acoustic guitar, voice, bells, percussion / Paul Wertico drums / Billy Higgins drums Bright Size Life Bright Size Life / Phase Dance Pat Metheny Group / New Chautauqua New Chautauqua / Airstream American Garage / Everyday (I Thank You) 80/81 / "It's For You" As Falls Wichita,
So Falls Wichita Falls
/ Are You Going With Me? Travels / The First Circle First Circle / Lonely Woman Rejoicing |
| 「本作は2004年2月10日にアメリカ国内発売されるや瞬く間にビルボードのジャズ・トラディショナル・チャートに登場し、いまだチャート内に留まっている。ヴォーカル物か古い音源のリイシューばかりだった同チャートへの現役アーティストの登場は、シーンに活気を与えている」──これは、2004年4月6日付のECMホームページでの短信記事です。パット・メセニー[パット・メシーニ]がECM時代に録音した楽曲を自ら編纂した本作は、録音時期をみると1975年から84年までとなっており、古くは今から30年前に遡ります。〈ジャズ・トラディショナル・チャート〉に括られるのも、むべなるかなです。 | |||
![]() PA-4020 ECMスペシャルX パット・メセニー (トリオ・レコード) |
今から30年前が1975年、さらにそこから30年を遡れば1945年、すなわち第2次世界大戦の終結年です。同じ出来事であっても、人によって異なった時の流れを相対化しているわけですから、当然心象も違ったものとなるはずです。音楽も、出会ったその時その場所の記憶を刻印されて、意識の流れに委ねられると言えるでしょう。さまざまな函数や代数を含む相互関係の因果律を築きながら、それぞれ異なった風景が心の中に描かれていくのだと思います。 | ||
| さて、今回パット・メセニーの音楽をあらためて聴いてみて意外だったのは、収録曲がレコードとして発売された当時の私自身の生活情景や心象風景を想起するかと思いきや、どの曲も、まるでいま初めて出会ったかのような新鮮なイメージに溢れていたことでした。 《:rarum》シリーズのリマスターは、アナログ・テープからの高サンプリング変換によって音の微粒子の速度と反射率が良くなっていて、部屋の空気感を一変させます。なかでもメセニー盤は、AEOCやテリエ・リピダルと並んで、キリッとエッジの立った音と、響き全体を包み込む空気感(アンビエンス)のバランスが上手く整えられているように感じます。そのこともあってか、1曲目〈Bright Size Life〉が鳴り出した瞬間、初めて出会う風景が現われ、そのまま最後の曲まで耳が釘付けになりました。 メセニーの音楽の魅力が、聴き手ひとりひとりの内面と結びついた個人的パーソナルな夢やノスタルジーを刺激しながらも、それがそのまま、いつか、どこかで、だれかが見た匿名的アノニマスな夢やノスタルジーとつながっていくような、大きな広がりと抽象性──別のことばで言えば、親しみやすい優しさと自由かつ堅固な論理性の共存──によるものであることを、あらためて思います。 |
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| ブックレットにはパット・メセニー本人による長文ライナーノーツが掲載されています。音楽というものは、もちろん耳で聴いて味わうものですが、その音楽をつくった音楽家が何を考え、何を感じていたのか、を知ることで、同時に、音楽を聴く味わいが、さらに深まっていく場合もあるかと思います。今回のライナーノーツは、わたしたちリスナーが音楽の核心に一層近づくことを可能にさせるガイダンスとなっています。 では以下に、収録曲を聴いて思ったことを。 |
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Bright
Size Life パット・メセニーの音楽の魅力的な要素として、テーマ・メロディを複数の楽器(音色)のユニゾンで奏でる、ということがありますが、ここでも出だしの8音のユニゾンが印象的です。プールに飛び込む着水寸前の身体が有するしなやかな弾力性と緊張感、それがこのテーマ冒頭の音型にも認められます。3人の演奏は、安定感とは違った、中空で見えない糸で相互に支え合うかのような絶妙なバランスの上に進行していきます。ボブ・モーゼスが初期パットの音楽形成に果たした役割は意外と大きかったのではないでしょうか。 |
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Phase
Dance この曲のトリオ・レコード盤の邦題は「スーツをぬいで」でした。一見シンプルな音楽なのですが、なかなかに複雑な仕掛けが施されていて、アンサンブルとしてみると非常にアヴァンギャルドな指向性をもった作品。ギターは変則チューニングにより倍音の響きが計算され、多種のシンバル・ロールを中心としたリズム・アクセント、独立した声部として旋律的な動きを奏でるベース、またオートハープというコードボタン付きの小型楽器が──カントリー・ミュージックのカーター・ファミリーでも有名ですね──ピアノのライル・メイズによって奏でられます(口に咥えたピックを瞬時に手に持ち替えて、譜面台の向こうに設置したオートハープの弦を掻き鳴らすと、ピアノの内部弦とも共鳴して豊かな倍音が鳴り渡ります。ライヴではおなじみのシーンです)。
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New
Chautauqua この曲、および収録アルバム《New Chautauqua》の本質は、最近のPMG(パット・メセニー・グループ)のアルバム《Speaking of Now》──9・11以降の世界に向けた、複雑な矛盾する価値観を生きねばならない同時代的困難への示唆と平和への祈りに包まれた作品──につながるものと認識しています(もっとも《Speaking of Now》が音楽として十分成功しているかどうかといえばかなり疑問)。 1980年前後、「東京12チャンネル(現テレビ東京)」の平日夜11時からやっていた『日立サウンド・ブレイク』という10分間の週替わり帯番組を思い出します。毎回、視覚的なイメージをもつ楽曲が1、2曲、脱ジャンル的に選曲されて、さまざまな美しい映像が添えられていた興味深い番組でした。そこでアルバム《New Chautauqua》の4曲目〈Hermitage〉が取り上げられたのが、私が初めてメセニーの音楽を聴いた機会でした。他に〈Are You Going With Me ?〉の映像も印象的で、大きな脚立と女性ダンサーのシルエットの上に──マース・カニングハムのダンスのように──揺れる水のイメージがブレンドされていました。ECMでは、ジョン・サーマンの《Such Winters Of Memory》(ECM 1254)の1曲目〈Saturday Night〉などの映像も記憶に残っています。 |
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Airstream シンコペーションを巧妙に使ってつくられた曲。この遅いようで早いような微妙なテンポの演奏は相当難しいのでは……、なんともいえない心地よいグルーヴです。ときどき4拍子には聴こえないような「ゆらぎ」の仕掛けが施されているので、音の流れにそのまま身を委ねていると、まさにタイトルの「エアストリーム/高層気流」を感じたりもします。インターリュードのドラマティックなコード進行とあわせて、後の──ECMからゲフィン移籍後の──構築的PMGサウンドの萌芽でしょうか。収録アルバム《American Garage》は、録音といい音楽の指向性といい、ECM(アイヒャー)らしからぬ雰囲気に包まれていますが、前述した複雑な音楽的仕掛けと突き抜けるような広大なサウンド・スペースが共存している点が当時のリスナーから支持されて、ベスト・セラーを記録しました。 |
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Everyday
(I Thank You) この曲には...特別な何かがありますね。何度聴いても、新しいリスニング・ポイントが見つかりますし、これはもう、奇跡的な演奏といいますか。曲の構造もじつによく練られていて、そこに乗るマイケル・ブレッカーの演奏がとにかく神がかっております。最後に再びテーマが回帰するところで、全体がかちっとしたヴィジョンによって永遠へと開かれてゆく──。それにしても、なんと美しいメロディ、ヴォイシングでしょうか。眼を閉じて聴いていると自分が今どこにいるのか本当にわからなくなります。時を忘れます。アルバム《80/81》はECM全体を通じても特別な作品と呼べるでしょう。 |
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"It's
For You" いつにも増してヴィジュアリーに迫ってくる曲。冒頭のシンセサイザーが奏でる、絶妙なシンコペーションでたゆたう旋律が幻想的な情景を連想させます。この変ホ長調の第1パートに続いて、第2パートはロ長調のシークエンス。ここでのナナ・ヴァスコンセロスの声は素晴らしいですね。シンセサイザーとのカノン。ゆらぐ木々の影、永遠の波のイメージすら浮かびます。そして再び変ホ長調に戻って第3パート。疾走するヴァスコンセロスのパーカッションに乗って、メセニーのギター(現在は引退してしまった銘器)がどこまでも駈けていく。 この曲を収録した国内盤LP(トリオ・レコード)の邦題は《アメリカン・ドリーム》。当時、雑誌に出た広告コピーをご紹介しましょう。原田和男さんの制作です。 (原田さんによるECMトリオ・レコード盤の名コピー集はこちら ▼)
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Are You
Going With Me? トリオ・レコード盤の邦題曲名は「ついておいで」。初出アルバム《Offramp》の邦題は《愛のカフェ・オーレ》でした。キャッチ・コピーは、「胸をしめつける思い出の日々、心をかきたてる青春の夢、今、君と僕 パット・メセニー・グループ 愛のカフェ・オーレ」。 この曲は、ローランドのギター・シンセとメセニーとの出会いを「必然」と思わせるものですが、ライヴで演奏されるたびに非常に異なった表情を見せる点もまた注目すべきところで、パット自身、この曲だけを一日中弾いていても構わないと言うほど、究め難く、汲み尽くし難い世界をたたえている名曲といえます。ここに収録されたのは、《Offramp》からではなく、意識を遠い世界へと連れ去る傑作2枚組ライヴ・アルバム《Travels》に収録された、つとに評価の高いライヴ・ヴァージョンです。今回、リマスターの恩恵を大きく受けた曲といえるでしょう。 |
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The First Circle 冒頭の手拍子のパターンに加えて、八分音符の途切れない運動を続けるギター、そしてシンコペーションで鳴るグロッケンシュピールなど、全体的にスティーヴ・ライヒの直接的な影響を感じさせる曲です。しかし、構造的には、メセニーとメイズの二人による、マニエリスティックな彫琢が施された見事なオリジナル作品です。曲は基本的に、12/8+10/8拍子で書かれていて、22/8拍子でひとつの単位を構成しています。中間に登場する主要テーマ部分は、22/8拍子で進んだあと、6/8拍子と4/4拍子のロング・トーン部分が後半に現われて緊張感のあるコード進行でドラマティックな雰囲気を作り出します。このテーマ全体が繰り返される際、テーマ前半部では、清々しく晴々とした印象を受けるのですが、じつは拍子としては、この前半部分のほうが22/8拍子という不安定なリズムを刻んでいるという逆転した構図が仕組まれています。この曲が醸し出す、宙に浮いているような不思議な感覚や魅力は、こうした緻密な作曲法にも要因がありそうです。しかしながら、この曲をなにより印象深いものとしているのは何といってもライル・メイズのピアノ・ソロ。6/8拍子と4/4拍子の交代でひたひたと迫って来る夢幻的なメロディとハーモニーは不思議な魅力に満ちています。そして、まさに「天使の声」というべきペドロ・アスナールのヴォイス。 ペドロ・アスナールは、自分が音楽家として人生で影響を受けた相手として、音楽家ではビートルズ、モーリス・ラヴェル、エグベルト・ジスモンティ、そして作家では、オルダス・ハクスリー、ヘルマン・ヘッセ、フリオ・コルタサル、カルロス・カスタネダ、カート・ヴォネガット、パブロ・ネルーダ、ジョージ・オーウェル、ウィリアム・バロウズ、グルジェフ、の名前を挙げています。 |
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Lonely
Woman 年代順に並んできた本アルバムも、1984年発表アルバム《Rejoicing》のトップを飾ったこの曲(録音は1983年11月末)で最後となります。ドラムを叩いているビリー・ヒギンズは、2001年5月3日、肺炎による合併症のためロサンゼルス郊外の病院にて逝去。享年64歳。1936年10月11日生まれですから、この曲は彼の47歳時の演奏ということになります。かつてヒギンズは、ここでベースを弾いているチャーリー・ヘイデンとともに、パット・メセニーのアイドルでもある、オーネット・コールマンと一緒に演奏をしていました。振り返ってみれば、このトリオは、パットのオーネット本人へのアプローチにつながるワン・ステップだったと言えるかもしれません。事実、ECMを離れたメセニーは、ゲフィン移籍後、すかさずオーネット・コールマンとの共演作、とれたての果実のような瑞々しい名作《Song X》を録音しているからです──あのピカソ・ギターが初めて録音現場に姿を現わしたのは、アルバム《Song X》の2曲目〈Mob Job〉でした。 [この世に2台あるピカソ・ギターのうち、メセニー所有の楽器にだけシンクラヴィアのピック・アップが付いています] さて、この Horace Silver 作曲の〈ロンリー・ウーマン〉の演奏ですが、どうです、この深さ! 三者が瞬間的な気配の支え合いを持続するなかで、たとえば、枝葉に当たる光源の位置や色彩の具合を変化させたり、本物とエコー(反響)のようないくつもの音の序列を作り出したり──同じようなフレーズに聴こえても、そこには毎回違った意味が与えられているのですね──、演奏者自身の意識を超えたスピードで、おそらく考えるよりも早く、音として紡ぎ出されているものが反応し合い連続しながら「音楽」というかたちになり、ここに記録されています。瞬間的な化学変化によって響きの構築物を可変的に作り出していくジャズという音楽の、繊細な強靱さ、とでもいうべき可能性が、こうした超一流の演奏に耳をすますと果てしなく開かれていくように思います。今回このアルバムを通して聴いて、もっとも感銘を受けた一曲でした。 |
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| 本作は、ある程度のオーディオ装置で再生すると、現行オリジナル盤CDとは一味違う、深い響きの世界が楽しめることと思います。(もちろん、アナログLP以上のよい音が鳴ることはありませんが。)選曲もさすがに演奏者自身によるものだけにバランスもよく、注目すべきアルバムと言えるでしょう。 | |||
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