ライン

調査業と個人情報保護法


  「個人情報保護法」という法律の名前だけ聞くと、「調査業(探偵業)はやってはいけないのではないか」とか、「活動が大幅に制約されるのではないか」という印象を持ってしまいそうです。しかし、実際は違います。ここでは、調査業(探偵業)を例にとって、個人情報保護法を解説しています。


個人情報保護法とは。
個人情報保護法とは、どんな法律でしょうか。調査業社に対する監督機関はどこですか。
刑務所に行かされる場合は
聞き込みをしていたところ、調査対象者に発覚してしまい、「個人情報保護法違反で、公安委員会に告訴してやる」と言われました。私は刑務所に入らなければならないのでしょうか。
個人情報取扱事業者とは。
個人情報取扱事業者とは、どのような人をいうのか。例外はどのような場合か。
個人情報取扱事業者の義務
個人情報取扱事業者である場合には、どのような義務が課せられていますか。その義務に違反した場合には、どのような不利益を受けますか。
警察官に個人情報を話して良いか。
調査対象を尾行していたところストーカーに間違われて警察署に行きました。そこで、依頼者の氏名や住所、近隣から集めた聞き込み情報を聞かれています。これらの個人情報を、本人の承諾もなく、話してもいいのでしょうか。
近隣からの聞き取り調査
周辺住民から聞き取り調査をしていたところ、「何の目的で調査をしているのか。個人情報保護法では、利用目的を明示しなければならないはずだ。何のために調査をしているのかを言わなければ警察を呼ぶぞ。」といわれました。どう答えたらいいですか。
調査対象者からの開示請求に対して、どのように対応すればいのでしょうか。
調査対象者から「自分の情報を開示して欲しい。」と言われました。どうすればいいでしょうか。私が調べた情報には、氏名住所のみならず資産収入、交友関係、学歴、職歴、近隣での評判、情報提供者の名前があります。これらすべてを開示しなければならないのでしょうか。とりわけ情報提供者の名前は、開示したくないのですが、どうしたらいいですか。
情報漏洩が起こった。
委託先から情報が流れてしまいました。どうなるのでしょうか。


トップ アイコン
トップ



ライン


個人情報保護法とは。
個人情報保護法とは、どんな法律でしょうか。調査業務に対する監督機関はどこですか。これまで、どのような指針等が出ていますか。

1 意味
 個人情報保護法とは、「
高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」法律です。
 すなわち、同法は、個人情報の適正な取扱に関して、国及び地方公共団体の責務を定めると同時に、個人情報を取り扱う事業者の義務をも定めています。

2 背景
 (1)コンピューター処理による危険性
 情報を多量かつ迅速に扱うコンピューターは便利な道具ですが、その反面、個人情報が危険にさらされる可能性も増大します。そこで、個人情報が危険にさらされないように法律で対処する必要性が出てきます。
(2)個人情報保護意識の高まり
 昔は個人情報を保護すべきだと考える人が少ない状態でしたが、最近になって個人情報の重要性を認識する人が多くなり、個人情報を保護すべき意識が高まってきました。そこで、法律を制定して個人情報を保護すべきだという声が高くなったのです。
(3)OECDの8原則
 1980年9月に、OECD(経済協力開発機構)理事会が、個人情報を保護すべきだとして、8つの原則を発表しました。これを受けて、政府部内での検討が始まりました。

3 調査業への影響
 「個人情報保護法」という法律の名前だけ聞くと、「調査業はやれなくなるのではないか。」、「活動が大幅に制約されるのではないか。」という印象を持ってしまいそうです。
 そこでまず、義務が定められている「個人情報取扱事業者」とはどのような事業者がこれに該当するのかということと、個人情報取扱事業者にはどのような義務が課せられているのかを知る必要があります。

4 監督機関及び告示と要請
 調査業に関しては、国家公安委員会が主務大臣として個人情報取扱事業者を監督します。そして、国家公安委員会告示第31号(以下「公安告示31号」と呼ぶことにします)が、個人情報保護法第8条に基づいて、指針を定めています。この指針は、個人情報保護法8条により定められたものです。
(地方公共団体等への支援)
第八条  国は、地方公共団体が策定し、又は実施する個人情報の保護に関する施策及び国民又は事業者等が個人情報の適正な取扱いの確保に関して行う活動を支援するため、情報の提供、事業者等が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針の策定その他の必要な措置を講ずるものとする。
 さらには、 警察庁が社団法人日本調査業協会会長・全国調査業協同組合理事長・近畿日本探偵協同組合理事長あてに出した「興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置について(要請)」平成17年2月1日付警察庁丁生企発第27号〜第29号(以下「警察庁要請」と呼ぶことにします)が出ています。
 ただこれらは、役所の要請を記載したものにすぎず、義務を定めたものではありません。
刑務所に行かされる場合は
聞き込みをしていたところ、調査対象者に発覚してしまい、「個人情報保護法違反で、公安委員会に告訴してやる。」と言われました。私は刑務所に入らなければならないのでしょうか。

1 まず落ち着いて
 まずよく落ち着いてください。たしかにあなたが刑務所にはいるとあなたや家族の生活はたいへんでしょう。しかし、「告訴する」と言っただけで、簡単に刑務所に行くようにはなっていません。従って、まず落ち着いて、状況を判断しましょう。

2 刑罰の制裁があるときは限られている
(1)罰則は軽い
 個人情報保護法には、罰則を定めた条文は、第56条から59条までの4条にすぎません。しかも最高刑でも六月以下の懲役にすぎません。ですので、個人情報保護法違反で刑務所に入らなければならない人は、よほど違反の程度が悪質だったか、あるいは執行猶予期間中とかで反省の態度が全く見られない人など限られた人になるはずです。
(2)懲役刑は主務大臣の処置命令に違反したときだけ
 さらに、六月以下の懲役に処せられる場合は、「第三十四条第二項又は第三項の規定による命令に違反した者」ですから、主務大臣の処置命令に違反した場合だけです。したがって、主務大臣の処置命令が来てかつそれに違反した場合にのみ、個人情報保護法違反で刑務所にはいる可能性が出てくることになるのです。したがって、まだ主務大臣の処置命令が来ていない段階では、刑務所に入る心配はしなくていいのです。

3 刑事裁判の手続き
 告訴があっても、ほとんどの場合、警察や検察はすぐには動いてくれません。まず、告訴を受理すべきかどうかで時間がかかります。告訴が受理されても、捜査にも時間がかかります。従って、告訴があったからと言っても、すぐに刑務所にはいることはありません。

4 まず、自分が個人情報取扱事業者にあたるのかどうかを考えましょう。
 あなたの場合まず「個人情報取扱事業者」にあたるかどうかを考えましょう。零細企業の場合は、個人情報取扱事業者にあたらない場合が多いものです。あたらなければ刑罰はありませんので、刑務所に行くことはありません。
個人情報取扱事業者とは
個人情報取扱事業者とは、どのような人をいうのか。例外はどのような場合か。

1 個人情報取扱事業者とは
 個人情報取扱事業者の意味は、第二条 3項に定められています。
 この法律において「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
一  国の機関
二  地方公共団体
三  独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成十五年法律第五十九号)第二条第一項 に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)
四  地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)
五  その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者


 この第5号で定められている者は「小規模事業者」といわれています。したがって、民間部門に限れば、個人情報取扱事業者とは、個人情報データーベース等を事業の用に供している者で、小規模事業者にあたらない者ということになります。


 そして、「個人情報データーベース等」とは、第二条 2項に定められています。
 この法律において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるものをいう。
一  特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
二  前号に掲げるもののほか、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの


 この2号の政令は、次のように定めています。
(個人情報データベース等)
第一条  個人情報の保護に関する法律 (以下「法」という。)第二条第二項第二号 の政令で定めるものは、これに含まれる個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物であって、目次、索引その他検索を容易にするためのものを有するものをいう。

 つまり、名簿式の依頼者目録を作成している場合はもちろんのこと、事件全体を容易に検索できるようにロッカーで整理している場合も、そのロッカー全体が「個人情報データーベース等」に該当します。

2 小規模事業者

 ここで、調査業にとって重要なのは、第2条3項第5号の例外規定です。個人情報の保護に関する法律施行令(平成十五年十二月十日政令第五百七号)の第二条では次のように定められています。
(個人情報取扱事業者から除外される者)
第二条  法第二条第三項第五号 の政令で定める者は、その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数(当該個人情報データベース等の全部又は一部が他人の作成に係る個人情報データベース等で個人情報として氏名又は住所若しくは居所(地図上又は電子計算機の映像面上において住所又は居所の所在の場所を示す表示を含む。)若しくは電話番号のみが含まれる場合であって、これを編集し、又は加工することなくその事業の用に供するときは、当該個人情報データベース等の全部又は一部を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数を除く。)の合計が過去六月以内のいずれの日においても五千を超えない者とする。


 つまり第一として個人の数が五〇〇〇件を超えない場合、第二として電話帳や住宅地図を利用してる場合のように「当該個人情報データベース等の全部又は一部が他人の作成に係る個人情報データベース等で個人情報として氏名又は住所若しくは居所(地図上又は電子計算機の映像面上において住所又は居所の所在の場所を示す表示を含む。)若しくは電話番号のみが含まれる場合であって、これを編集し、又は加工することなくその事業の用に供するとき」には、量や利用方法から見て個人情報取扱事業者にはならないとしているのです。
 したがって、小規模の調査業者はこの例外規定により個人情報取扱事業者に当たらないと考えられます。
 では、住宅地図や電話帳を利用する場合はよいとして、その他の書籍(名簿)などはどうなるのでしょうか。
(1)インターネットの検索ソフトを使用している者は、説明方法に違いがありますが、当たらないとされています。
(2)卒業名簿や、高額所得者名簿、紳士録などの名簿は、氏名・住所・電話番号のみならず卒業年度や職業、納税額、役職などが記載されていますので、残念ながら当たります。したがって、個人情報取扱事業者として義務を負いたくなければ、破棄するという選択枝もありうるかと思います。
(3)また、誰でも見れるネット上に他人が置いてある名簿を利用するというのは当たりませんので、紙情報は破棄してネットの利用にとどめるというのは賢明かも知れません。

 このように個人情報保護法が義務を定めているのは、主体が個人情報取扱事業者の場合だけです。したがって、例外規定に該当する小規模の調査業の場合は、明示的には同法が定める義務を負いません。

 ただ、細かくいうと、「5000件の要件を満たしていないので個人情報取扱事業者ではない」という主張は、立証責任が主張者側にあることに注意が必要です。

3 個人情報取扱事業者に該当しなくても民事責任を負うことはある。

 「個人情報取扱事業者に該当しなければ、何も義務が定められていないのだから、何をやっても責任を負うことはない。」とはいえません。確かに、個人情報保護法が義務を負わせているのは個人情報取扱事業者だけです。そこで、個人情報取扱事業者にあたらなければ、主務大臣の監督を受けることもありませんし、個人情報保護法上の刑罰を科せられることもありません。しかし、何をやっても民事責任を負わないというわけにはいきません。個人情報保護法が成立前(この場合は個人情報保護法上の義務が成立していない)でも、個人情報を杜撰に取り扱えば民事責任を負うとした判例があります。したがって、民事上の責任を負わないようにしようとすると、個人情報取扱事業者の義務を参考にして行動することが必要になってきます。


個人情報取扱事業者の義務
個人情報取扱事業者である場合には、どのような義務が課せられていますか。その義務に違反した場合には、どのような不利益を受けますか。

1 義務の主体
 個人情報保護法で義務を定められているのは、国・地方公共団体等の行政主体を除くと、個人情報取扱事業者だけです。したがって、個人情報取扱事業者かどうかが、義務を負うかどうかの分かれ目になります。

2 義務の内容
 義務の内容を簡単に述べると、次のようになります。

 (1) 利用目的の特定、利用目的による制限(15条、16条)
  • 個人情報を取り扱うに当たり、その利用目的をできる限り特定
  • 特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えた個人情報の取扱いの原則禁止
 (2) 適正な取得、取得に際しての利用目的の通知等(17条、18条)
  • 偽りその他不正の手段による個人情報の取得の禁止
  • 個人情報を取得した際の利用目的の通知又は公表
  • 本人から直接個人情報を取得する場合の利用目的の明示
 (3) データ内容の正確性の確保(19条)
  • 利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの正確性、最新性を確保
 (4) 安全管理措置、従業者・委託先の監督(20条〜22条)
  • 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、従業者・委託先に対する 必要かつ適切な監督
 (5) 第三者提供の制限(23条)
  • 本人の同意を得ない個人データの第三者提供の原則禁止
  • 本人の求めに応じて第三者提供を停止することとしており、その旨その他一定の事項を通知等しているときは、第三者提供が可能
  • 委託の場合、合併等の場合、特定の者との共同利用の場合(共同利用する旨その他一定の事項を通知等している場合)は第三者提供とみなさない
 (6) 公表等、開示、訂正等、利用停止等(24条〜27条)
  • 保有個人データの利用目的、開示等に必要な手続等についての公表等
  • 保有個人データの本人からの求めに応じ、開示、訂正等、利用停止等
 (7) 苦情の処理(31条)
  • 個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理
 (8) 主務大臣の関与(32条〜35条)
  • この節の規定の施行に必要な限度における報告の徴収、必要な助言
  • 個人情報取扱事業者が義務規定(努力義務を除く)に違反し、個人の権利利益保護のため必要がある場合における勧告、勧告に従わない一定の場合の命令等
  • 主務大臣の権限の行使の制限(表現、学問、信教、政治活動の自由)
 (9) 主務大臣(36条)
  • 個人情報取扱事業者が行う事業等の所管大臣。規定の円滑な実施のために必要があるときは、内閣総理大臣が指定

3 違反の制裁
 これらの義務が定められているからといっても、違反に対する法律上の効果は弱いものです。
(1)刑事責任
 すなわちまず、刑事責任をみると、第五六条では主務大臣の命令に違反したときだけに六月以下の懲役又は三〇万円以下の罰金に処せられるだけです。また、主務大臣から報告を求められたときに報告をしなかったり虚偽の報告をしたときは三〇万円以下の罰金に処せられるだけです。
 このように個人情報保護法に定める義務に違反しただけで直ちに刑事責任が発生するのではなく、主務大臣の命令等等を介して刑事責任が課せられるので、「間接罰」といわれています。

違反行為 法定刑 条文
命令違反 6月以下の懲役、30万円以下の罰金 (法56条)
報告懈怠、虚偽報告 30万円以下の罰金 (法57条)
両罰規定 30万円以下の罰金 (法58条)
(2)民事責任
 次に民事上の責任ですが、これは義務に対応して被害者から損害賠償責任を負うことになります。
 しかし、たとえば利用目的を特定せずに個人情報を取得したとしても(第15条違反)、被害者一人あたりに支払う賠償額は、軽微な金額になると思います。
(3)社会的責任
 道義的責任や社会的責任が大きくなることを指摘する人がいます。たしかにヤフーなどの事件を見ると、賠償額より企業のイメージダウンとか改善のために支出された費用が大きいようです。
 ところが調査業の場合は、巨大で著名な会社が少ないために大きな社会的責任を引き起こす場合は少ないと思われます。危険なのは、誤った倒産情報が流れた場合などでしょうか(平成 4年 6月24日大阪高等裁判所民事第8部判決損害賠償等請求控訴事件)。

4 実例
裁判になった実例は、次の事件が有名です。

漏洩  宇治市住基情報漏洩事件(大阪高裁平成13年12月25日判決)
提供  江沢民講演会名簿事件(最高裁平成15年9月12日判決)

 いずれも一人あたりの賠償額は、前者の場合15000円、後者で5000円なので高額ではありません。ただコンピューターデーターの場合は紙情報と違って簡単に多量のデーターが扱えますので、簡単に多数の被害者が発生し、その結果集計した被害額が高額になる恐れがあります。


警察官に個人情報を話して良いか
 調査対象を尾行していたところストーカーに間違われて警察署に行きました。そこで、依頼者の氏名や住所、近隣から集めた聞き込み情報を聞かれています。これらの個人情報を、本人の承諾もなく、話してもいいのでしょうか。



1 問題
 調査業の調査の過程で警察に事情を聞かれる場合は、意外と多いと思います。その時に、次のような事項を警察官に話して良いのでしょうか。
(1)依頼者の氏名・住所・勤務先等の個人情報、依頼者の依頼の内容
(2)調査をした近隣住民などの氏名・住所
(3)近隣住民などから聞き取った内容、調査した内容


2 問題(1)について
 誰から依頼を受けているかを本人の同意を得ることなく警察官に話して良いでしょうか。

 依頼者との関係では、守秘義務を委任契約上負担しているかどうか、負担しているとして開示したときに義務違反となるかどうかが問題です。

 依頼者の氏名等や依頼内容の情報を第三者に提供しよいかについては、通常、委任契約書で決められています。したがって、委任契約書の当該条項(「守秘義務」などの表題がついていることが多い)の解釈により決まるということになります。
 そして委任契約書では、「どのような場合においても依頼内容等の情報を第三者に提供してはならない」となっておらず、「正当な理由がなく依頼内容等の情報を第三者に提供してはならない」などと例外が設けられている場合が多いと思います。この例外にあたるかどうかが、依頼者との間で契約違反の責任を負うかどうかの分かれ目になります。そして、「正当な理由がなく依頼内容等の情報を第三者に提供してはならない」と定められている場合に、警察官に情報を提供することは「正当な理由」があることになります。

 法第23条1項は、(第三者提供の制限)と題して、次のように定めています。
第二十三条  個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一  法令に基づく場合
二  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

 したがって、委任者が誰かなどを警察官に話すことは、この4号に該当します。すなわち、調査対象者の同意を得ていては(調査対象者は情報を提供しないでしょうから)警察の捜査に支障を及ぼす恐れがあるからです。
 そこで、委任契約書に、「正当な理由がなく依頼内容等の情報を第三者に提供してはならない」と定められている場合に、警察官に情報を提供することは「正当な理由」があることになります。
 もっとも、依頼者の利益を保護するためには、警察官があくまで任意の協力を求めている場合には、「本人の承諾を得てから答えます」と答えればよいことになります。

 契約書に何も記載がないときは、契約書以外の事由から、守秘義務を負担する契約があるかを決めます。そして、依頼者がどのような人物で、どのような調査を依頼したかは、依頼者にとって他人に知られたくないことであるのが普通でしょう。従って、依頼者と契約した調査業者は、契約書に守秘義務の条項がなくても、秘密保持義務を負っているのが普通だと思います。

 契約書に「警察官からの質問があった場合にも、委任者の氏名などを回答してはならない。」と記載されているときは、難しい問題です。
 ここでの問題は、「警官の質問にも答えないで欲しい」という秘密保持義務を正当な義務として認められるかということです。難しい問題ですが、警官の質問が任意の協力を求めるにすぎないものでかつ依頼者が違法な調査を依頼したものでないときには、正当な義務といって良いと思われます。
 したがって、警察官があくまで任意の協力を求めている場合には、「本人の承諾を得てから答えます」と答えればよいことになります。


3 問題(2)(3)について
 (2)調査対象者の周辺住民など聴き取りをしたところ、近隣住民などの氏名・住所を住民などの同意を得ることなく警察官に話して良いのでしょうか。
 (3)また、住民などから聞き取った調査対象者の言動を調査対象者の同意を得ることなく警察官に話してよいでしょうか。

 この問題は、調査対象者の情報を調査対象者の同意なく警察官に話してよいかという問題と、近隣住民の情報をその同意を得ないで警察課に話してよいかという問題に分かれます。

 いずれも、23条1項4号に該当し、近隣住民や調査対象者の同意がなくても、警察官には話してよいことになります。ただ、警察官の任意捜査が、直ちに、23条1項4号にあたるかという点については、異論を述べている人がいます。



近隣からの聞き取り調査
周辺住民から聞き取り調査をしていたところ、「何の目的で調査をしているのか。個人情報保護法では、利用目的を明示しなければならないはずだ。何のために調査をしているのかを言わなければ警察を呼ぶぞ。」といわれました。どう答えたらいいですか。

1 身分を明らかにする必要があるか
 聞き込み調査をするときには、自分の身分を明らかにしなければならないとした判例があります(昭和46年8月23日京都地裁判決)。すなわち、「
興信所の調査員が依頼された事項を調査する際には、被調査者の社会的地位や名誉を毀損しないよう最大限の配慮をすることはもちろんのこと、自分の身分を明らかにしたうえで第三者の協力を求め、それで協力が得られない場合には、調査依頼事項に相当する他の適当な調査方法を見出して調査を進めなければならない注意義務があると解するのが相当である。」と判断して、身分を明らかにせずに行った聞き込み調査を違法と評価して損害の賠償を認めています。
 この判例に従うと、身分を明らかにして聞き込みをする必要があります。具体的には、「〇〇興信所の〇〇という者です。」と言ってから、調査に協力してもらうことになります。
 しかし、身分を明らかにすることは、あまり現実的ではないかも知れません。嘘の身分や名前を告げたり、聞かれたとたんに逃げる調査業者も多のが現実かと思います。

2 調査目的を明らかにする必要があるか
(1)個人情報取扱事業者の場合

(適正な取得)
第十七条  個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。
 この規定からは、積極的に嘘を言って情報を取得することは出来ないことは明らかです。たとえば、セールスマンを装って訪問して内部の様子を探ろうとすることは許されません。
 では、消極的に利用目的を明らかにしないで近隣からの聞き込みが出来るでしょうか。すなわち、利用目的を明らかにしないで聞き込みをするのは「不正の手段により個人情報を取得する」ことになるのでしょうか。
 この場合は、積極的に嘘を言う場合と違って消極的に黙っているだけですから、「偽りの手段」を利用していません。そして、依頼者が調査目的を明らかにしないで欲しいという希望を持っている場合(ほとんどの場合この希望を持っているでしょう)や利用目的を明らかにしたら調査の目的が達成できない場合(浮気の調査といえば本当のことを話してもらえない場合)などには、調査目的を明らかにする必要がないというべきでしょう。

(2)個人情報取扱事業者にあたらない場合
 17条の規定の適用がありません。しかし、この場合でも、嘘を言って個人情報を取得することは許されません。そしておそらくは、調査目的を明ないしないで個人情報を取得することが出来ると考えます。

3 依頼者の名前を明らかにする必要があるか
 依頼者のとの関係では、守秘義務の検討が必要となります。

(1)依頼者との関係
(a)あらかじめ契約書にはっきりさせておく。
 依頼者との関係では、どのような場合に依頼者の名前を明らかにして良いかを契約書にはっきりさせておいた方がいいでしょう。たとえば、「近隣の聞き込み調査の際は、やむ終えない場合を除いて、依頼者の氏名を明らかにしない。」と定めておれば、やむ終えない場合でないと依頼者の名前を言えません。また、「やむ終えない場合でなければ、依頼者の氏名を開示してはならない。」との定めをおいていれば、聞き込み調査は困難となります。
 これとは反対に、「調査対象者の近隣や職場からの聞き込み調査をするときには、依頼者の氏名・依頼目的を近隣住民や職場の同僚に対して開示しても異議ありません。」という文面があれば、開示できます。

 なお、上記「警察庁
要請」によれば、「興信所業者は、第三者に提供される個人データに係る告示第4の2(5)エにより、依頼者の同意を得ずに依頼者の個人データを第三者に提供しようとするときは、あらかじめ告示第4の2(5)エ(ア)から(エ)までに掲げる事項を依頼者に直接通知すること。」と定められています。
 そして、この告示第4の2(5)エは次のような規定です。
「エ アにかかわらず、個人情報取扱事業者は、第三者に提供される個人データについて、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、次に掲げる事項のいずれもが、あらかじめ、本人に通知され、又は事務所の窓口に掲示される等本人が容易に知り得る状態に置かれているときは、当該個人データを第三者に提供するに当たり、あらかじめ本人の同意を得なくてよいこと。
(ア) 第三者への提供を利用目的とすること。
(イ) 第三者に提供される個人データの項目
(ウ) 第三者への提供の手段又は方法
(エ) 本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること。


 すなわち、事務所の窓口に掲示がある場合などを除いて、原則として、本人の同意が必要です。従って、契約書に、聞き込み調査をするときは依頼者の氏名を開示することに同意するという条項を入れておく必要があります。

(b)契約書に定めておかなかった場合
 困難な問題です。依頼目的や調査の方法などから、依頼者の氏名を明かして欲しくない場合と判断されたのなら、正当な理由がなく開示してはならない義務を負うというべきでしょう。

(2)調査対象者との関係
 調査対象者から直接でないと個人情報を取得してはならない、すなわち、他人などから個人情報を取得してはならない(直接取得の原則)を個人情報保護法はとりませんでした。したがって、調査対象者の近隣から調査対象者の個人情報を取得して良いことになります。

4 本人に通知・公表する必要があるか。
  近隣から取得した情報を、本人に通知する必要があるでしょうか。
(1)18条
  法18条は、次のように定めて、本人への通知又は公表を原則としています。

(取得に際しての利用目的の通知等)
第十八条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
2  個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。
3  個人情報取扱事業者は、利用目的を変更した場合は、変更された利用目的について、本人に通知し、又は公表しなければならない。
4  前三項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合
三  国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
四  取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合

 従って、原則として本人に通知しますが、通知も公表もしなくてよい場合としては、同条4項の二つがあり、通知したくなければ利用目的を公表しておくという方法があります。

 たとえば、浮気調査の場合は、利用目的(浮気を調査して離婚裁判の証拠として使うこと)を調査対象者本人に通知・公表すると浮気の証拠が集めにくくなって依頼者ひいては調査業者の利益が害されるので、 この4項2号により、調査対象者本人には利用目的を通知又は公表しなくてもよいことになります。

(2)「警察庁要請」第3の3の(3)
上記「警察庁要請」第3の3の(3)「利用目的の通知」によれば、法第18条第4項第1号に該当する場合として、次の場合が考え得るとしています。
  (ア)  対象者が依頼者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)である場合であって、当該対象者について民法(明治29年法律第89号)第752条の義務その他の法令上の義務の履行を確保するために必要な事項について調査を行うとき。
  (イ)  対象者が依頼者の親権に服する子である場合であって、依頼者が当該対象者に関し民法第820条の権利その他の法令上の権利を行使し、又は義務を履行するために必要な事項について調査を行うとき。
  (ウ)  対象者が依頼者の法律行為の相手方となろうとしている者である場合であって、当該法律行為をするかどうかの判断に必要な事項について調査を行うとき。
  (エ)   依頼者が犯罪その他の不正な行為による被害を受けている場合であって、当該被害を防止するために必要な事項について調査を行うとき。

(ア)は、「法令上の義務」という意味及び、「法令上の義務の履行を確保するために必要な事項について」という限定が、不明瞭です。
(イ)も、「法令上の権利」、「法令上の義務」の内容及び「法令上の権利を行使し、又は義務を履行するために必要な事項について」という限定が不明瞭です。


調査対象者からの開示請求に対して、どのように対応すればいのでしょうか。
調査対象者から「自分の情報を開示して欲しい」と言われました。どうすればいいでしょうか。私が調べた情報には、氏名住所のみならず資産収入、交友関係、学歴、職歴、近隣での評判、情報提供者の名前があります。これらすべてを開示しなければならないのでしょうか。とりわけ情報提供者の名前は、開示したくないのですが、どうしたらいいですか。

1 25条

 法第25条は、(開示)と題して、次のように定めています。
(開示)
第二十五条  個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一  本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二  当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三  他の法令に違反することとなる場合
2  個人情報取扱事業者は、前項の規定に基づき求められた保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
3  他の法令の規定により、本人に対し第一項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、同項の規定は、適用しない。


そして、個人情報の保護に関する法律施行令(平成十五年十二月十日政令第五百七号)第6条は次のように定めています。
(個人情報取扱事業者が保有個人データを開示する方法)
第六条  法第二十五条第一項の政令で定める方法は、書面の交付による方法(開示の求めを行った者が同意した方法があるときは、当該方法)とする。


2 具体的検討

(1)個人情報取扱事業者でないとき
 まず、個人情報取扱事業者でないときは、簡単です。「私は個人情報取扱事業者でないので、開示する義務は負っていません。」と回答すればたります。
 ただ細かくいえば、小規模事業者の場合は、自らが小規模事業者であることの証明責任があります。

(2)「個人情報データーベース等」に入れていない情報は開示しなくて良い。

 つぎに、開示の対象となるのは「保有個人データー」です。保有個人データーとは、2条項に定めがあります。
 この法律において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
 そしてこれを受けた政令は、次の定めとなっています。
(保有個人データから除外されるもの)
第三条  法第二条第五項 の政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一  当該個人データの存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が及ぶおそれがあるもの
二  当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの
三  当該個人データの存否が明らかになることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
四  当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの
(保有個人データから除外されるものの消去までの期間)
第四条  法第二条第五項 の政令で定める期間は、六月とする。

 「保有個人データー」は、「個人データー」の一種であります。そして、「個人データー」は4  この法律において「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。とされていますので、開示すべきなのは、「個人情報データーベース等」に入れてある情報のみです。したがって、たとえば顧客情報の氏名・住所・電話番号のみをコンピューター入力して使用し、その他の調査情報(調査対象者の氏名・生年月日・住所・職業、調査依頼の内容、調査の結果など)については、別のファイルにとじてあるときにおいて、調査対象者が開示を求めてきたときは、「あなたの個人情報は、私が有する保有個人データではありませんので、開示できません」と回答すれば足ります。

(3)個人情報取扱事業者の場合で、開示請求された個人情報を「個人情報データーベース等」で処理している場合
個人情報取扱事業者の場合で、開示請求された個人情報を「個人情報データーベース等」で処理している場合、たいへんです。主なものは次のとおりとなるでしょう。
(1)開示請求者の住所氏名

3 個人情報取扱事業者の場合で、開示請求された個人情報を「個人情報データーベース等」で処理している場合

まず、明確なのは、「住所・氏名」は開示すべきでしょう。

(2)情報提供者
また「情報提供者」は、通常、本人に情報が開示されるとは考えずに調査担当者に情報を提供しているので、情報提供者は開示を拒否できるでしょう。すなわち情報提供者が誰かというのは、開示すると「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」であるから、開示を拒否できます。

(3)依頼者
依頼人が誰かということも、開示すると「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合 」として、開示を拒否できます。

(4)開示請求者本人の利益を害する場合
 さらに、たとえば「本人がガン患者で余命幾ばくもない」という情報は、開示することにより「 本人の利益を害するおそれがある場合」に当たるので、開示を拒否できます。

(5)結論・警察庁の要請
 よって、収集された情報を個別に検討して開示を決めていくことになります。こうなると個別的に対応することが必要になり機械的に処理できないので、開示して良い情報とそうでない情報を区別して書面を作成する必要が出てきます。
個人情報取扱事業者となると、面倒ですね。

 なお警察庁の要請では(警察庁が社団法人日本調査業協会会長・全国調査業協同組合理事長・近畿日本探偵協同組合理事長あてに出した「興信所業者が講ずべき個人情報保護のための措置について(要請)」平成17年2月1日付警察庁丁生企発第27号〜第29号)、「
興信所業者は、対象者の個人情報について検索することができるように体系的に構成した個人情報データベース等を原則として保有しないこと。」として、開示の対象となる「個人情報データーベース等」を持たないように要請しています。
 しかし、今日、コンピューターによる情報処理は避けられないことからすると、この要請は現実的でないかもしれません。

情報漏洩が起こった
委託先から情報が流れてしまいました。どうなるのでしょうか。

1 依頼者に対する責任
 調査業の情報が漏洩してしまったときには、まず、依頼者に対して、責任を負う可能性があります。
(1)あらかじめ契約書にはっきりさせておく。
 どのような場合に責任を負うかを契約書にはっきりさせておいた方がいいでしょう。たとえば、「故意又は重過失についてのみ責任を負う」と定めておれば、軽過失の場合は責任を負いません。また、「契約金額の限度でのみ責任を負う」との定めをおいていれば、最大でも契約金額を返還すれば、それ以上の責任を負いません。
 ただ、依頼者が消費者の場合は、故意又は重過失による債務不履行・不法行為の責任を免除する旨の特約は無効とされます(消費者契約法8条1項2号・4号)。また、責任の全部を免除する特約も無効とされます(同法8条1号・3号)。
(2)契約書に定めておかなかった場合
 故意の場合はもちろん過失の場合でも、情報漏洩がから生じた損害を賠償する責任が生じます。
 ただ、裁判所の決める慰謝料の額は、一般人が考えている額よりも低額なことが多いです。

2 調査対象者に対する責任
 たとえば夫の浮気の調査をしていたところ、夫の浮気が判明して、報告書に記載していたところ、その報告書が夫の勤務先に漏洩していた場合に、調査会社は責任を負うのかということです。

個人情報保護法は次のように定めています。
(安全管理措置)
第二十条  個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
(従業者の監督)
第二十一条  個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
(委託先の監督)
第二十二条  個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

 このように「必要かつ適切な処置」(20条)「必要かつ適切な監督」(21条・22条)といわれても、具体的にどのような場合に責任を負うのかよくわかりません。たとえば、金庫に入れておいたのを盗まれたときは責任を負うのか、車の中においておいたときはどうか、長期間信頼していた従業員に裏切られたときはどうか、など明確ではありません。

 必要かつ適切な監理や監督がなかった場合には、情報漏洩がから生じた損害を賠償する責任が生じます。ただ、裁判所の決める慰謝料の額は、一般人が考えている額よりも低額なことが多いです。

 なお、この責任は、個人情報取扱事業者にあたる場合とあたらない場合とでは、大差がないと思われます。ただ、個人情報取扱事業者でないときは、個人情報取扱事業者である場合に比して、「必要かつ適切な処置」の内容が緩やかなものでよいことになるでしょう。つまり、個人情報取扱事業者には、個人情報取扱事業者でない調査業者に比して重い管理責任が生じるというべきです。



トップ アイコン
トップ

ライン