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構文・文法のような英語の土台がしっかりとしてきて英語の学習もペースに乗ってきたなと一安心する頃、学習者が強く自覚するのが語彙不足です。この時が語彙増強=ボキャブラリー・ビルディング(以降ボキャビルと呼びます)を開始するタイミングです。慌てないでください。基礎的な英語トレーニングをある程度積み、その過程で4000〜5000程度の基本単語を習得した時点で初めて、計画的なボキャビルに乗り出すのです。これ以前の独立したボキャビルは必要ではないし、またやるべきでもないと思います。

まともな学習をしていれば、4000〜5000程度の単語は自然に覚えてしまいます。短文暗唱や音読パッケージを中学レベルのテキストから始め、少しトレーニングが進んだ時点で2000〜3000くらいの単語は覚えてしまうし、これに精読をいくらかやれば単語数は4000〜5000語にすぐに増えるものです。単語の定着率が悪い人はバックアップとして、精読の際に同時にボキャ・リストを作り(精読の項参考)それを覚えていけば取りこぼしはありません。

私自身も大学受験時代、効果的なボキャビルの方法を全く知らなかったので、手持ちの語彙は英文解釈や文法の学習で自然に覚えたものだけでしたが、4000〜5000語は知っていました。またフランス語の学習した折の経験もこのことを裏打ちしてくれます。

私は、大学はフランス文学科に籍を置きましたが、ほとんどフランス語の勉強をしないまま中退、30代半ばになって、ゼロから学習し始めました。音読、短文暗唱、読解などの基礎トレーニングを1年くらい積んでから、そろそろボキャビルをやるか、と在学中に購入していた5000語収録の基礎語彙集を10数年ぶりに本棚から取り出しました。ところが、開いてみるとそこに載せられている単語の90パーセント以上は既に知っていたのです。

よく電車の中などで、受験生が単語集で英単語を暗記しようとしていますが、気の毒な思いがします。私も受験時代挑戦しましたがほとんど覚えられませんでした。たとえ覚えても、日の下の粉雪のようにはかない記憶で、すぐに消え去ってしまいます。単語をボキャビルによってどんどん定着させていけるのは、構文・文法・基礎語彙などが有機的に自分の中に取り込まれ、「英語体質」とでも言うべきものができ始めてからです。具体的に言えばTOEICで600点近くなった頃です。大学受験生でこのレベルにある人は少数ですから、ほとんどの場合ボキャビルをしようとしても徒労に終わります。土も無いところに種を蒔くようなものだからです。

使える英語を身につけるためには、明日のテストまでかろうじて覚えているだけという単語力では役に立ちません。われわれが必要とするのは永続的で瞬発力がありイメージ喚起力の強い、いきいきとしたボキャブラリーです。本項ではそうした単語力を手に入れるための合理的なボキャビル法を解説します。しかし、すでに申し上げたように本格的ボキャビルを開始するには基本的な力・英語体質が前提条件になりますから、まだ基礎力が無い人はすこし我慢して下地を作ってからボキャビルトレーニングに取り掛かってください。

 

 



ボキャビルの実際の手順に入る前に、私自身のボキャビル体験をお話しておきましょう。私の実際のボキャビルはこれから解説する方法の原型といえるものでした。原型ならではの強引さが目立ち、そのまま皆さんにお薦めできる方法ではありませんが、私の英語学習史のなかで数少ないはっきりとしたブレイク・スルーの体験であり、ボキャビルの大きな効果が例証にもなると思います。

当時私は23歳で、音読トレーニングなどを中心に英語のトレーニングが軌道に乗ってから1年半程経っていました。ただ語彙に関しては大学受験時代に覚えた4000〜5000の単語数でストップしていました。かねてよりお気に入りの英語圏の作家を原書で読みたいと思っていた私ですが、ページをめくっても語彙不足で読書を楽しむと言うわけには行きませんでした。

言語学者によると、英語に書かれた物はどんなものであれ、最初の5000語程度で使用されている全単語の95パーセントをカバーするそうです。確かにそれは統計的な事実なのですが、実感としては95パーセントをカバーしてくれるはずのその語彙力ではさっぱり読めないのです。ペーパーバックをベッドに寝転んで楽しみたいという私の夢はいつになっても果たされそうもありませんでした。とにかく単語不足で門前払いという感じでした。



23歳の夏の終わり、私は一挙に語彙を増やすべくボキャビルに取り組むことを決意しました。当時学習心理学の本などを読み、能率的な記憶の仕方などを知り染めた私は、学んだ理論を実践に移すことにしたのです。選んだテキストは14,000語弱を収録した、単語集というより小型の辞書と言ったていのテキストでした。

500ページを越すその単語集の1ページ目を開いたのは9月の初旬のことでした。私はその学習理論に従い、単語の意味をしゃにむに暗記しようとは考えず、しっかりと単語を発音しながら意味内容をイメージ化していきました。resentful「憤慨している」という単語の時はぷんぷんと怒っている人をbawl「どなる、わめく」はわけのわからないことをわめき散らしている酔っ払いを頭の中で映像化するのです。

日本語は一切口にしません。Bawlの訳が「どなる」と「わめく」の2つついていますが英単語そのものは一つなのです。辞書の編者によって訳語などさまざまになるだろうし、私にとってはbawlを見たり、聞いたりした時、感情に捕らわれ大きな声を出すことだと言うことが認識できればよいのですから。

私が使用した単語集は現在主流の頻度順の編集ではなくアルファベット順でした。しかし一般的な語頭ではなく、語末の文字による配列の「逆引き辞典」というものでした。したがって、隣接する単語が、lapse,elapse,relapse,eclipse,glimpse というように韻を踏むことになります。これは声を出す上で非常に心地よいものでした。



単語を発音しながら映像化する作業を繰り返し、テキスト全体を一回終えたのは9月の終わりでした。直ちに2回目にとりかかりました。ところが一回丁寧に影像を結んだはずでしたが、意味はさっぱり浮かんで来ませんでした。意味がわかるのは元々知っていた単語だけです。ほとんどの人が単語(だけに限りませんが)の学習に挫折するのはこの段階でしょう。一回暗記を試みて、しばらくしてその単語を忘れていると「自分は記憶力が備わっていないんだ」と諦めてしまうのです。

私はまったくショックを受けませんでした。なぜなら件の学習理論のおかげで、一回で覚えることなどないと知っていたからです。一回目は記憶の土壌を作る作業に過ぎないのです。意味がぱっとわからないにしろ、効果の兆しはすでに見えていました。語義を見れば,「ああ、そうだった、そうだった」と大半の単語について思い出すことができたからです。一回目に丁寧な作業をしていたから、影像を結び直すのも時間がかかりません。スピードが確実にアップしていました。一回目の作業には3週間程度を要しましたが、2回目を終えるのには10日程しかかかりませんでした。所要時間が半分になったわけです。

気をよくした私は3回目に取りかかりました。スピードはさらに増してきました。そのうえ、3回目になると意味がぱっと浮かんでくる単語がぽつぽつながら現れてきたのです。そんな時はそうした単語たちに「おまえたち、いいやつらだなあ」と呼びかけたい思いでした。3回目の作業は5〜6日しかかからなかったと思います。

4回,5回と回を重ねるにつれスピードがどんどんアップしていくとともに、思い出せる単語の数がぐんぐん増えてきました。この段階になると単語の意味が浮上してくることが面白く作業自体が一種のゲームのような感覚になってきました。脳がスピードと素早い知覚に快感を得て、「もっとやって、もっとやって」とねだっているようなのです。

10回目を越したあたりでは、単語集のほぼすべての単語が瞬間的に認識できるようになっていました。ただ休息に得た知識は忘れ去るのも速いですから、私は覚えきった後も熟成のためにしばらくその単語集を回し続けました。当時横浜に住んでいた私は渋谷で深夜のアルバイトをしていたのですが、その行き帰りのこの電車の中でテキスト全体のこの「熟成回し」が行えるようになっていました。トレーニングの開始時には一回終えるのに3週間要したことを考えるとすさまじいスピードアップです。



もうどのページを開いても、単語の意味がぱっと浮かび、記憶が完全に定着したと実感して、私はこの単語集によるボキャビルトレーニングを打ち上げました。11月の下旬のことでした。秋のはじまりにトレーニングを開始し、秋の終わりに終了したのです。短い期間でしたが、気持も乗っていて、トレーニングが佳境に入った頃には一心不乱という感じでした。

単語集を終えた時は充実感に一瞬包まれましたが、ボキャビルに入る直前にあきらめた本を再び手にした瞬間は、期待と不安が交錯しました。単に単語を覚えたというだけで、ほんの2〜3ヶ月前に歯が立たなかった本が読めるようになっているのかという疑念が頭をよぎったのです。英語に関してそれまで何度か経験した肩透かし、徒労感をまた味わうのではないか。もしそうだったら今度の精神的ダメージは甚大だぞ。その本はアメリカのSF作家レイ=ブラッドベリの短編集でしたが、不安を払拭しようと、私はままよとばかりにページを開きました。

風景がまったく変わっていました。以前は霧の中に取り残された感じだったのが、いまや英文の内容がスムーズに入ってくるのです。興奮しながら私はページをめくっていきました。しばらくするうちに、私はストーリーのなかに没入しており、純粋に読書を楽しんでいました。その日は寝るまで夢中でその短編集を読みふけっていました。

ボキャビルの効果は絶大でした。しかし、ボキャビルの効果を支える下地をすでに私がもっていたことも事実です。安定した文法・構文の知識、基礎語彙、大学受験期に培った遅くても正確な読解力。そして、英語学習者用に基本英単語だけを使って書き直された本を速読することによって、英文の流れに乗る体質も身につけていました。英語の本を読むために私に欠けていたのは語彙だけで、だからこそボキャビルがこれほど劇的な効果を上げたのだといえます。

ボキャビルによって英文読書に開眼した私は、次から次へとペーパーバックを読み飛ばしていきました。ブラッドベリの短編集を数日で読み終えると、次はサマーセット・モーム。モームはお気に入りの作家のひとりで、このときに長編・短編集あわせ彼の小説のほとんどを読んでしまいました。その後も単語不足で読めなかった飢えを満たすがごとく、夢中でペーパーバックを読んだものです。アルバイト代は、ほぼ100パーセント洋書購入で消えていきました。23歳の11月の末から翌年の夏くらいまでに、硬軟取り混ぜ40冊から50冊を読破したと記憶しています。

この多読のおかげで、覚えたと言っても語義だけを記憶したにすぎなかった単語が、実際の英文の中で認識することによって、実感、色合いを伴って定着していきました。ボキャビルは単語集で覚えるだけではだめで、実際に会話や読書の中で使うことによって辞書的な意味だけでなく、使われ方、ニュアンスなど単語のいわば個性がわかってきます。多読はこうした単語に対する実感作りにもっとも効力を発します。



私のボキャビル体験は、私個人にとっては大成功で英語学習上の数少ないブレイクスルーをもたらしてくれたのですが、かなりの荒療治で一般的な学習者にそのまま適応できる方法ではありません。

私は手持ちの単語が5,000語弱で13,000語以上収録の単語集を一秋でマスターしたのですが、これは3ヶ月弱で8,000語以上を記憶してしまったということになります。これはいくつかの条件が満たされてはじめて可能なことです。ひとつひとつ指摘してみましょう。

まず、23歳という若さがあったこと。次に暇だったということ。当時の私は大学に籍を置きながらほとんど学校に通わず好き勝手なことをしているという、オブローモフ的生活を送っていました。厳しい実社会に身を置かれているビジネス・マン、ビジネス・ウーマンや家庭を切り盛りし、その上パートに出ている主婦の方などからすれば腹が立つほどにお気楽なご身分でした。

次に高いモチベーションがあったこと。私は大好きな英語作家たちの本が読みたくて読みたくて仕方が無かったのです。翻訳はどれほど上手に訳していても翻訳に過ぎません。絶対に彼等の本をオリジナルで読まずには済まさない。なにがなんでも済まさない。私には燃えたぎるような願望がありました。

そして、ボキャビルの効果を最大限に発揮できる下地があったこと。私はすでにしっかりした構文・文法の基礎と基礎語彙を保有していました。その上、単語数を制限した本ではありましたが、数十冊の英語の本をすでに読んでいて、受験用の、わずかな分量の英語を舐めるように読んでいく英文解釈的読解を脱して、大量の英文の流れに乗っていく体質ができていたのです。

最後に個人的な体質。私は物事を少しずつこつこつとこなしていく長距離ランナー・タイプではなく、目標を決めると或る期間それに向けて徹底的にエネルギーを注ぐ完全なスプリンター・タイプです。この体質は急激なボキャビルなどには最適だったのです。

現在私が一般の学習者に薦めるボキャビルトレーニングでは、単語をレベル別に、1,000語ずつに身につけていきます。また、一冊の単語集を一気に回す方法ではなく、いくつかの部分=セグメントに分割して、セグメントごとにサイクル回しで完成します。また、私のように一気に数千の単語をマスターするケースは稀で、数年かけて語彙力をつけていくのが一般的です。

 

 



すでに述べたように独立したボキャビルトレーニングを開始するのは、基礎語彙といわれる4000〜5000語の単語を自然に習得してからです。その際、単語数を例えば1万語まで引き上げようとする時、功を焦り、残りの5,000を一気に征服しようとするより、段階ごとにだいたい1,000語ずつ消化していくのが無理のない方法です。

現在、「6,000語レベル」とか「7,000語レベル」などと銘打たれた単語集が数多く出版されていますから、このレベルごとの学習は至って実践が容易です。もちろん、これらの単語集には表示されている数字の単語数が収録されているわけではありません。例えば、「6,000語レベル」であれば、6,000の単語が載っているわけではなく、5,000語を既に知っていることを前提に、当然dogとかflowerなどの基礎単語は除外され、次の段階の1,000語ほどが収録されています。これはタイトルに一目瞭然に示されている場合もあるし、そうでなくとも前書きを読めばその単語集が扱っている単語のレベルはわかります。

 


単語のレベル分けの話が出てくれば、当然どのレベルまで覚えるべきなのかという疑問が湧くでしょう。これは、目的によって異なってきます。

大学受験ならば5,000で十分でしょう。このレベルの単語はすでに申し上げたようにボキャビル開始前にすでに知っておく単語です。従って、独立したボキャビルは必要ありませんね。

TOEICで高得点を取るためには8,000レベル単語をマスターしておけば十分です。TOEICではネイティブ・スピーカーが日常的に使う生活表現やビジネス用語など日本人の学習者の盲点に入りやすい単語が多少出てきますが、英検の一級のボキャパートでと問われるような奇妙に高踏的な単語は出てきません。8,000語を知っているというのは相当な語彙で英字新聞がかなりスムーズに読めるレベルでしょう。この当たりが英語学習者の語彙力の、最初の頭打ちになっているようです。

しかし、ペーパーバックを辞書無しに楽しんで読むためには一万から上の語彙力が欲しいものです。学習レベルを超えて、言語として英語を使いこなすためには、少し余裕を持たせて、まずは1万2千〜3千語のレベルを目指すことをお薦めします。私自身は一気にこのレベルに達したわけですが、劇的に英語の本が読めるようになりました。私はこのあたりにマジックラインがあるような気がしま。

8,000レベルまで語彙を積み上げてきたような人は、トレーニングを実行・継続する体質を持ち合わせていますから、ぜひ1万2〜3千まで語彙を増やしてください。ここでご紹介するボキャビル法を実践すれば、8,000語レベルまで到達するのに要したよりはるかに少ない労力、時間で語彙を2倍近くに増大することができます。

こうお薦めするわけは、このレベルに達するとは意識的なボキャビルをほとんどしていないのですが、読めるようになる→どんどん読む→単語が増える→さらに読む→単語がさらに増えると、いう好循環で、自然に語彙が膨れ上がっていくからです。

現在私の語彙は2万5千〜7千と思われますが、多読などの自然なボキャビルにまかせると、この当たりで語彙の伸びは止まるようで、ここ10年くらい同じレベルにとどまっています。大学卒のネイティブ・スピーカーの認識語彙は4〜5万といわれていますから、そのレベルとの開きはあるのですが、何を読んでもそれほどの支障を感じないので(これは私自身の大まかな性格にもよるのでしょうが)、当面はさらなるボキャビルの必要性を感じません。

文体と並び、語彙不足で敷居の高さを感じるTIMEやNewsweekなどの高級雑誌は、認識語彙が2万を越えるとぐっと身近に感じられるようになります。

 



語彙レベルが5,000を越えたあたりから、何を読んでも知っている単語の方が圧倒的に多くなってきますから、精読トレーニングなどに使用する読み物からボキャリストを作っても、集められる単語が少なくボキャビルのためには効率が悪くなってきます。

そのために、自分がターゲットにするレベルの単語を集めた単語集を使ってボキャビルトレーニングを行うのです。基礎語彙が完成している人にはこれは非常に効率的です。精読しながら、そこで出てきた未知の単語を覚える方法は手堅いものですが、8,000語レベルに達するのに数年くらいかかるでしょう。単語集を使ってシステマティックにボキャビルをやれば、このレベルは数ヶ月で達成できます。

自然なボキャビル一本だと、次の1万レベルに到達するのはさらに長期間かかります。ターゲット単語の出現頻度が著しく落ちていくからです。単語集を使ったボキャビルなら全く変わらぬペースで、やはり数ヶ月で達成できます。自然な出現にまかせず、人工的にターゲット単語を集中的に集めてしまうからです。

 


単語集は形式によって、文脈型単語集例文型単語集の2種類に大別することができます。

文脈型単語集

単語を覚えるのは文脈の中で覚えるのが最も理想的です。精読トレーニングの際、自分で作っていくボキャリストはそのままこの文脈型単語集になります。また、近年文脈型単語集が続々と出版されています。なんとまあ、英語学習者が恵まれているのでしょうか。こんな至れり尽せりの教材は他の言語では見つけようがありません。

文脈型単語集では、まず長文があり、その中で扱われたターゲット単語のリストがその直後に載せられるという形式を取ります。もっとも自然な語彙獲得法なのですが、問題はよいテキストは収録単語が5,000語前後のものが圧倒的に多いのです。そのレベルを超えると使われている文がいかにも難解で不自然なものになりがちです。どれほど高邁な内容の文章であれ、自然に書かれたものであるならば難解語ばかりが散りばめられているというわけにはいきません。どんな英文でも、使用される語彙の90パーセント以上は基礎単語であるというのは、確かに統計的事実です。したがって、文脈型単語集の利用は精読の際、単語リスト作成の労を省いて基礎単語を覚えるためなど省エネ的色合いが強くなるかもしれません。いずれにしても、市販の文脈型単語集で能率的に覚えられる単語は6,000からせいぜい7,000語レベルまでではないでしょうか。

例文型単語集

例文型単語集は、ターゲットの単語を単文の中で使う形式の単語集です。文脈型単語集と比べ、テキストの絶対数が多く、また高いレベルの単語群をターゲットにした単語集も求めやすいです。6,000語レベル以上のボキャビルを市販の単語集で行う場合、主にこの例文型単語集を使用することになります。

前後関係の無い単文が続く例文型単語集には、当然ながら自然な文脈がありませんから、単文が馴染み安く単語のイメージが掴みやすいものを選択する必要があります。書店に行けば多くの単語集が置いてありますが、ターゲット単語のレベルだけでなく、必ず中身に目を通し、さっぱり単語のイメージがつかめなかったり、いかにも不自然で切り貼り細工的な感じのする例文を使っているものは避けてください。

また、例文型単語集はさらに、一つの単文にターゲット単語がひとつ使われている従来のものと、一つの単文にターゲット単語が複数織り込まれているDUO型単語集の2つに分かれます。

DUO型単語集とはこの単語集「DUO」をそのまま単語集のタイプ名にしたものです。「DUO」は画期的な単語集で、一つの例文の中に複数の複数の単語を散りばめているので、単語を覚える時間と労力を著しく軽減してくれます。この秀逸な単語集の成功をみて、最近多くのDUO型単語集が出版されてきていますが、残念ながら、例文の質において本家本元のDUOに伍す単語集はまだ少ないようです。ただ、今後続々とすぐれたDUO型単語集が出版される可能性は高いですから期して待ちましょう。

 

 

 



使用する単語集が決まったら、音読パッケージや短文暗唱と同じくサイクル法でマスターします。単語集全体をいくつかのセグメントに分割して、セグメントごとにサイクル回しで完成し、すべてのセグメントが完成したら仕上げとしてテキスト全体のサイクル回しを行います。セグメントの区切り方は学習者個人で異なります。少なめなら200〜300前後、多めなら500語ぐらいが1セグメントになります。

 


それでは、実際の手順に入りましょう。使用するテキストは従来型の、1例文1ターゲット単語の単語集です。収録語数は約1,000語。全体を5セグメントに分割したとしましょう。

最初のセグメントは200語、単語の隣ページに例文が並んでいます。

1.
enhance [動](質・価値・美など)高める
2.
spontaneous [形]自然にでる,自発的な
   spontaneity [名]自然に現れること,自発
3.
homogenious [形]同種の,均質の
   homogeneity [名]均質(同質)性
   [反]hetrogeneous[形]
4.
triviral [形]ささいな,取るに足らない
5.
flammable [形]可燃性の
   flame [名]炎,火炎
   [反]nonflammable[形]不燃性の

             ・
             ・
             ・

195.
sob [動]むせび泣く,すすり泣く
196.
torture [名]拷問,責め苦
197.
resume [動]再び始める,再び続ける,取り戻す,〜を要約する
198.
department [名]部,課,省
199.
unprecedented [形]先例のない
200.
fare [名](乗り物の)料金,食べ物,(劇場などの)出し物

 

1.
Those clothes helped enhance his appearance. その服は彼の見てくれをよくするのに役立った。
2.
The cause of the fire was spontaneous combustion. 火事の原因は自然発火だった。
3.
People living in homogeneous communities are not used to foreigners. 均等な社会に暮らす人々は外国人に不慣れである。
4.
Do not worry about such a trivial matter. そんな取るに足りないことで心配するな。
5.
Do not bring flammable objects here. ここに可燃物を持ち込まないでください。
             ・
             ・
             ・
195.
I heard someone sob in the other room. 隣の部屋で誰かがすすり泣くのが聞こえた。
196.
The political prisoner died under torture. その政治犯は拷問で死んだ。
197.
After a coffee break, he resumed his work. コーヒーブレイクを取ってから、彼は再び仕事にかかった。
198.
My father works in the personnel departement of the company. 父はその会社の人事部で働いています。
199.
The country is faced with unprecedented levels of unemployment. その国は前例のないレベルの失業率に直面している。
200.
What is the bus fare to the station? 駅までのバスの運賃はいくらですか?


1
 例文を読み解く

まず、例文を読み理解します。読み解く時、もちろん単語の語義と訳を参考にしてかまいません。ただ、この際文の構造をしっかりとつかむようにして下さい。例文の訳は意訳が多いですから、英文そのものはどう言っているかを正確に把握します。例えば、最初の単語enhanceに対する例文の訳は「その服は彼の見てくれを良くするのに役立った」とやや意訳になっています。helpの支配を受ける原型不定詞としてenhanceが使われているので英文構造に」もっと忠実な直訳にすると「その服は彼の風采を高めるのを手伝った。」とでもなるでしょう。

例文を読む時、頭の中ではこうした構造をしっかりと理解していることが大切です。それを怠ると雰囲気だけの理解で、下手をするとenhanceの意味を「役に立つ」だと覚えたりすることも有り得ます。単語の意味はもちろん、例文の中でその単語がどのように機能しているかを完全につかみます。

このようにして、200の例文を丁寧に読み解いていきます。この作業で無理に単語を覚え込もうとする必要はありません。例文の中での意味と使い方を理解した後、単語の語義をもう一度確認し、イメージを結ぶだけで十分です。例文を正確に読み解いていくのは、それなりの時間と労力を要しますが、サイクル法を使うトレーニングでは、最初のサイクルでは丁寧に土台を築くのが原則です。これによって2回目以降のサイクルの能率が上がってきます。また、DUO型単語集では、一つの例文に複数のターゲット単語が織り込まれていますから同数の単語に対する例文数が数分の1に減りますから、例文を読み解く作業の時間と労力は著しく軽減できます。

2
 例文を繰り返し読む

セグメント全体の例文を丁寧に読み解いたら、2回目の読み解きに入ります。単語の意味はまだほとんど定着していないでしょうから、無理に思い出そうとせずに、単語の語義欄を見て下さい。しかし、一回目に丁寧に読み解いてありますから、例文を読んでいくスピードは一回目に比べはるかに速くなっているでしょう。

2回目が終われば、3回目、4回目と繰り返し例文を読み解いていきます。とはいっても、3回目4回目ともなると「読み解く」と言うような重さは無くなっているでしょう。すんなりと例文の意味が理解できるようになっているのではないでしょうか?ターゲット単語の意味も文と言う前後関係の中でなら、スムーズに理解できるようになっていると思います。この繰り返しの作業は例文が難なく読めるようになるまで繰り返しますが、平均的には3〜5回のサイクル回しで完了します。

3
 単語のサイクル回しを行う

例文が完璧に読めるようになったら、いよいよ単語のサイクル回しを行います。単語だけのページを使い、enhance を見てすぐにその意味 「高める」が浮かんでくるかをチェックします。意味がすぐに思い浮かばなかったら無理に思い出そうとはせず、例文を見て下さい。そうすれば、例文の中で使われていた、意味と品詞がすぐに蘇ります。例文を繰り返し読んだのはこの作業のための下準備だったのです。単語のサイクル回しでは、このように例文を台帳のように使います。

セグメントのすべての単語をについて、例文の分らない時は例文の助けを借りながら意味と使い方=品詞の確認をやり終えたら、次のサイクルに取り掛かります。このようにして、数サイクル回すうちに、すべての単語の意味と品詞が瞬間的に浮かび上がるようになります。

完全に意味、品詞が浮上するようになっても、淡白に切り上げず、楽になった状態で数サイクル回して記憶を半永久的に熟成させて下さい。

一つのセグメントが完成したら、次のセグメントに移り、1〜3のプロセスを繰り返します。そして、すべてのセグメントを終えたら、

4
 テキスト全体のサイクル回しを行う。

すべてのセグメントを終えたら、仕上げとして、単語集全体について、サイクル回しを行います。この際、例文読み解きはセグメントごとのトレーニングでやってありますから、全体のサイクル回しは単語だけについて行うだけでいいでしょう。

テキスト全体のサイクル回しといっても、例文の読み解きはやる必要は無く、単語のサイクル回しだけですし、すでにセグメントごとに完成した作業ですから、場合によっては1セグメントごとの1〜3のプロセスよりも楽の作業かもしれません。いずれにしても、自分のトレーニングの成果を確かめながら、わずかなとりこぼし単語を拾っていく程度の極めて容易、快適な作業になります。

 





すべての語義を覚えようとしない

単語集はボキャビル用テキストとして側面のほかに、簡単な辞書としての役割を持っていますから、ひとつの単語に対して、通常複数の語義を載せています。しかし、これを全部覚えようとするとボキャビルの能率が落ちてしまいます。ですから、不要な語義は見切ってしまうことが必要です。

もちろん、本来不要な語義などありませんから、便宜的に「不要」という言葉を使っています。きょうピアノを習い始めた人には、いますぐにはショパンのエチュードの楽譜は不要、ウェート・トレーニングの初心者には200キロのバーベルセットは不要というような意味です。では、具体的にはどのような語義が不要なのでしょうか?それは例文で使われていない語義です。覚える語義は、例文で使われた語義とそれから連想できる語義だけに限ってしまってください。

例えば、197.resumeの語義として、「再び始める」、「再び続ける」「再び取り戻す」「要約する」の4つが載せられています。例文で使われている語義は「再び始める」あるいは「再び続ける」です。次の「再び取り戻す」はどうでしょうか?比較的連想がつながりやすい語義ですね。でも、そこまで連想が及ばない、思い起こすのが面倒だと思えば気にせず見切ってください。最後の「要約する」。これは毛色の違う語義ですね。こうしたものは惜しむことなく捨ててください。この語義は違う単語集の例文や精読で出くわしたときに拾っていけばいいのです。

200.のfareも例文で使われている「(乗り物の)料金」のほかに「食べ物」「(道の端の)出し物」という語義が取り上げられています。どちらも例文の中での語義から連想がつながらないでしょう。いつの日か再会することを楽しみに、この時点ではぽいと捨ててしまいましょう。

間違っても、せっかく買った単語集だから一円分も無駄にしまい、あらゆる語義、同義語、反意語など、盛り込まれたすべての情報を覚えこむんだ、などと思わないで下さい。節約をするつもりが、ボキャビルが進捗せず、逆に大変な時間的ロスを被ってしまうでしょう。楽に、スピーディーに例文で使われた語義を覚え切ってしまえば、1,000〜2,000円程度で購入した単語集から十分な利益を得たことになります。


同レベルの複数の単語集を使う

単語集を使ってのボキャビルは自然な精読、多読などと異なり、原則的にある単語が出現するのは一つのセンテンスの中に限られます。単語を自然に覚える場合、さまざまな文、文脈の中で繰り返し出くわすことによりしだいに記憶に刷り込まれていきます。単語集によるボキャビルでは、「繰り返し出くわす」というポイントはサイクル法により押さえることができます。しかし、一冊の単語集では、単語は常に同じ例文の中にあるわけですから、「さまざまな文、文脈の中で」というポイントについては対処できません。

このため、あるレベルのターゲット単語をマスターするためには、同レベルの単語集を複数使うことをお薦めします。そうすれば、同じ単語を異なる文の中で覚えることにより、その単語の意味、使われ方がより立体的に、リアルに感じられるようになるからです。勤め先の同僚が仕事を離れた飲み会で意外な面を見せた。また、同じ同僚と休日に偶然出くわしお茶を一緒に飲んでだべってみると、さらに深くその人の人間性がわかってきた。これと同じようなことが単語の記憶についても言えるのです。

同レベルの単語を異なる単語集で学ぶと、ある単語集の例文では使われていなかった語義が、別の単語集の例文で使われていることもよくあります。この場合、ある単語集で捨てた語義を拾うことができます。

また、複数の単語集をマスターすることは、心配するほど大変なことではありません。多少収録単語に違いがあっても、同レベルの単語集なら大半の単語は共通のものです。従って2冊目をマスターするのは一冊目よりはるかに楽になるし、3冊目はさらに容易になります。こうして、共通の単語を違う例文の中でより記憶に深く刷り込んでいくとともに、ダブらない新しい単語を覚えることができます。実際、この章で紹介した方法で数冊の単語集を仕上げても、一冊の単語集に載っている単語のすべての語義、同義語、反意語を記憶するのに必要な数分の1の労力・時間しかかからないでしょう。どうぞ、ご安心あれ。


自分にあったレベルの単語集の選び方

単語集を選ぶ際、どれが適切なレベルのものか迷う方も多いでしょう。自分の正確な語彙のレベルがわからない場合もあるし、単語集の何前後レベルというコピーもすべてが信頼できるものではないからです。もっともいい方法は当然ながら、単語集を開いてみてその中に自分の知らない単語がどれだけ収められているのかチェックしてみることです。

もちろん、すべての単語をつぶさに調べる必要はありません。本文をぱらぱらめくるか、巻末のindexに目を通すだけの感覚的なチェックで構いません。

ボキャビルをする場合、知らない単語が35パーセントから60パーセントの幅で単語集を選ぶのがオーソドックスな方法です。知らない単語が35パーセントなら負荷の軽い単語集、60パーセントなら負荷の重い単語集になります。

「ボキャビルというのは知らない単語を覚えることだから、俺は知っている単語が一つも載ってない単語集を使うぞ」と張り切る人もいるかも入れません。その意気やよし、なのですが非常にきついトレーニングなるでしょう。負荷の重いトレーニングを目指すにしても、せいぜい知らない単語が70〜80パーセントの単語集にとどめておいた方がよいと思います。知らない単語の合間合間に知っている単語が入っているといい潤滑油の役目を果たしてくれてサイクルの回りがよく走るのです。

私の教室では、学習者が4000〜5000程度の基礎語彙を習得して、ボキャビルトレーニングをスタートする時、よく薦める単語集がDUOです。DUOは6,000語レベルの単語集ですが、4000〜5000語レベルの単語もかなり収録されていて、基礎語彙習得後使うと35〜40パーセントの軽めの負荷のトレーニングになります。あまり苦しまず、スムーズなサイクル回しができますので、ボキャビルトレーニングに馴染むのに最適だと思います。

 

 


独立したボキャビルトレーニングを開始するのは精読を始めとする他の基本トレーニングで4000〜5000語の基礎語彙が身についてからです。

その後は一般的には、段階的に千語ぐらいづつ覚えて行き、まず8000語のラインに到達してください。英字新聞などがかなり楽に読めるようになります。TOEICで使われる単語はこのレベルが上限だと言われています。

次に、12、000〜13、000を目標にします。このレベルに達すると、ペーパーバック、雑誌などもがたいていのものは楽しんで読めるようになります。また、いったんこのレベルの語彙を獲得すると、多読をすることによって、語彙は自然に2万語から3万語程度まで増えていきます。

 

 

 
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