栗原@MUZINA Pressのスライドショー

「アフリカゾウの話をしよう」

全体を1ページにまとめてあります。読みこんでからゆっくり読んで行ってください。


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(1)僕が南東部アフリカのマラウィという国に住んでいたころの話です。リウォンデ国立公園の野生生物調査のスタッフとして働いていました。(写真は公園職員の同僚たちと)

 

 

(2)アフリカの国立公園というと、ライオンとかキリンとかを思い浮かべるかもしれませんね。僕のいた公園で一番目立ち、そして人気のある動物はアフリカゾウでした。僕にとっても一番思いでぶかい動物です。ですから、この動物の話をしましょう。写真はこの公園で行われている「ボートサファリ」の様子です。

 

 

(3)これはオスのゾウたちの群れが、川辺でくつろいでいるところです。のんびり草を食んだり、水を飲んだり、水浴びをしたり…。特に雨の降らない乾季には、こういう光景が日常的にみられます。

 

 

(4)ゾウたちの群れが、川を泳いで渡っているところです。この公園では、いつの頃からかゾウたちの川渡りがみられるようになりました。ただ間近で見るチャンスは滅多になく、このときは20頭ほどの大きな群れが泳いでいるところにボートで近づくことができて、大変幸運でした。

 

 

(5)ゾウの交尾です。もちろんアフリカゾウも動物ですから、子どもを作るためには交尾をします。頭では分かっていても、本当にその姿を目の当たりにしたときには驚きと感動を感じました。身の丈2.5〜3mありますから、オスゾウの頭上は地上5mに達し、見上げるような感じでした。

 

 

(6)そして子どもが生まれます。これはまだ生後間もない赤ちゃんゾウがお母さんについて歩く姿です。僕が得意とする「無人撮影」という技術で撮りました。子どもを連れた母ゾウは大変気性が荒く、普通の方法ではこんな近いところから子どものゾウを撮る事はできません。

 

 

(7)さて、次にこのゾウを見ていただきましょう。身体が大きく、かなり年長のオスのようですが…実はこのゾウにはちょっと変わったところがあります。さて、お気づきですか?

 

 

(8)何が違うのか?判りにくければ、最初のほうで見てもらった水辺のオスゾウたちの姿と比べてもらいましょう。

 

 

(9)判りましたか?

 

 

(10)ヒントは…牙です。そして、違いは二つ。

 

 

(11)この写真のゾウの牙は、他のゾウのそれより明らかに「長い」ですね。そして…よ〜く見てください。「牙が1本」しかありません。

(12)「牙が1本だけ」である理由はよくわかりませんが、昔からこのような「片キバ」や牙のないゾウが少数ながらいたのは事実のようです。この片キバのゾウも、おそらく生まれつき、こうだったのだと思います。

 そして「牙が長い」ことですが…実は昔のゾウなら、このくらいの長い牙は別に珍しくなかったようです。古い写真や博物館などに保管されている牙を見ると、もっと立派な長い牙を持ったゾウもたくさんいたようです。

 

 

(13)逆にいうと、今普通にみられるこれらのゾウの牙が「短い」のです。いや、「短くなってしまった」のです。なぜそんなことになってしまったのでしょう?

 

 

(14)ある日この公園の責任者のオジサンが、管理事務所の倉庫の前でゾウの牙を並べていました。「何をしているの?」と尋ねると、彼はこう答えました。「密猟者から押収した象牙(ぞうげ)を整理しているんだよ」

 密猟というのは、違法な狩猟のことです。実はアフリカゾウは1970年ごろから各地で激しい密猟の被害にあい、数が減ってしまいました。その密猟の目当てがゾウの牙…「象牙」だったのです。ワシントン条約(希少な生物の商取引規制)のおかげで密猟は減りましたが、まだなくなったわけではなかったのです。ここに並んでいるのは、そんな密猟の犠牲になって死んだゾウたちの牙だったのです。

 

 

(15)密猟者たちは立派な長い牙を持ったゾウから順番に殺していきました。その結果、牙の長いゾウたちは数が減ってしまいました。今生き残っているゾウたちの牙が多くの場合「短い」のは、そのためなんです。

 

 

 

(16)一方、この「片キバ」ゾウがこれほど立派な牙を持っていながら殺されずにすんだのは、「片キバ」だったからです。密猟者からすれば、このゾウを殺しても手に入る象牙は1本だけですからね。

 こうして、長い牙の「血筋」が絶えていく一方で、「片キバ」や「キバなし」の「血筋」は増え、片キバや牙のないゾウが各地でみられるようになりました。この公園でも、この写真のゾウ以外に少なくとも「片キバ」がもう1頭、牙のないメスが1頭いました。密猟は長い牙を持ったゾウたちを殺しただけでなく、未来の世代のゾウたちの姿にも影響を与えたのです。

 ゾウは大人に成長するのが人間並に遅く、世代交代に長い期間がかかる動物です。今密猟が完全にななくなったとしても、わずかに残った長い牙の血筋によって元通り立派な牙のゾウたちが普通に見られるようになるには、何百年もかかるかもしれません。

 

 

(17)このような密猟から公園内の野生動物たちを守る仕事をしているのが、いわゆるレンジャーと呼ばれる人たち、分かり易くいうと「国立公園警備隊」です。写真はその射撃訓練の様子です。

(保安上の理由により、一部を画像加工してあります。)

 彼らが使っているのは動物を撃つための狩猟用の銃ではありません。軍用の、つまり人を撃つための銃です。

(18)この射撃訓練の標的は見ての通り人の形をしてます。これは敵=密猟者を射殺するための訓練なのです。なぜこのような銃や訓練が必要なのでしょうか?

 巨体のゾウを殺そうとする密猟者たちはしばしば高性能の軍用の銃を使っています。レンジャーたちは密猟者たちと銃撃戦を行うこともあります。過去には多くのレンジャーたちがそんな銃撃戦で命を落としました。レンジャーたちの命を守るためには、高性能の軍用銃と、十分な対人射撃訓練が必要なのです。

(19)もちろん銃撃戦で血を流すのはレンジャーたちばかりではありません。密猟者が射殺されることもあります。国によっては「公園内に銃を持ち込んだ不法侵入者は発見次第射殺」という強攻策をとるところもあります。それほど、密猟の被害と、密猟者による危険は深刻なのです。

 でも、忘れないでください。犯罪者である「密猟者」だって、多くはその貧しさ故に違法と知りながら密猟に手を出しているのです。そうでなければ、ただの村人だったのです。

 

 

(20)では、なぜ密猟者たちはそんな危険を犯してまで、象牙を欲しがるのでしょうか?ゾウの牙も人間の歯と同じようなものです。食べられるはずはありません。

 実は、象牙は「あるもの」の材料として、大変人気があるのです。だから、高い値段で売れます。象牙を密猟して売れば良いお金になる。それが密猟の動機です。

 

 

 

 では、その「あるもの」とは何でしょう?

 

 

 

(21)これは、みなさんご存知ですね。日本のハンコです。2本とも文房具店などで安く売られているプラスチック製で、僕が実際に使っているものです。しかし、プラスチックで出来ているのに、なぜハンコは決まってこんな色(白か黒)をしているのでしょう?

 実はどちらの色も、高級なハンコの真似なんです。黒いのは、水牛の角とか、黒檀という黒くて固い木材の真似。そして白…正確にはクリームがかったこの色…これが問題の象牙の真似なのです。

 

(22)そうです。象牙が材料になる「あるもの」とはハンコなんです。他にもアクセサリーとか彫刻品の材料にもなります。かつてはもっといろいろなものに使われたようです。しかし、高価な材料なので、今はあまり他のものには使われなくなりました。

 でも、「高価な材料で出来た立派なハンコ」は「高い地位」や「お金持ち」であることの象徴と考えられています。ですから、たとえ高価であっても、象牙のハンコを欲しがる人はいなくなりませんでした。

(23)では次の質問です。ハンコはどこの国の人が使いますか?もちろん僕たち日本人が使いますね。他には?…中国の人たちも使いますね。ちゃんと確認していないのですが、多分韓国の人たちも使うのではないかと思います。他には?アメリカの人やヨーロッパの人は使いますか?アフリカの人は使うでしょうか?

 

(24)アメリカやヨーロッパの人たちはハンコは普通使いません。アフリカの人たちも使いません。ハンコを使うのは日本人や中国人たちだけなんです。

 ということは…象牙で出来た立派なハンコを欲しがるのも、やっぱり日本人や中国人だけ、ですよね?

 だったら…ゾウたちが密猟で殺され続けている、レンジャーや密猟者たちの血が流れている…その原因を作っているのは、他でもない僕ら日本人であり、中国人たち…ということになりませんか?

 

(25)アフリカで密猟された象牙の多くが最終的には日本に密輸され、ハンコの材料になっていると考えられています。ゾウの密猟の問題は、決して「よそ」の問題ではないんです。まさに、日本と日本人の問題なんです。象牙のハンコを欲しがる一部の日本人たちは、ただ立派なハンコが欲しいだけかもしれません。でも、その「象牙が欲しい!」という気持ちが、間接的に沢山のゾウたちを、そして多くのレンジャーと密猟者たちを殺してきたんです。

(26)象牙密猟が「ワシントン条約」で下火になった、というのは前にお話しました。でも、会議の度に象牙の取引を再開するのかどうかでもめています。同じアフリカでも国によっては、象牙を合法的に売ってお金にしたいと思っているところと、そんなことをすれば「合法輸出品」を隠れ蓑にした密輸と密猟が再燃する、と反対する国があります。

(27)1997年のワシントン条約会議で、89年以降禁止されてきた象牙の取引について「試験的に日本に象牙を輸出してみよう」ということが決まりました。ところが、とたんに象牙の密輸品が見つかったり、アフリカ各地で密猟が急増したのです。合法な輸出品自体に問題がある訳ではないのですが、合法な取引を認めればその影で密猟と密輸が発生してしまうのです。現在は再び取引が停止されています。2002年11月に開催された会議で再び日本への試験的輸出が決まったそうです。

 

 

(28)アフリカゾウを密猟から守り、レンジャーたちを銃撃戦の恐怖から開放し、村人たちが密猟に手を染めないようにさせるにはどうしたら良いでしょうか?

 

 

 

 

(29)僕はこう考えます。「だれも象牙なんて欲しくないし、買わない」そうなれば良いはずです。そしてそうしなくてはならないのは、僕ら日本人です。それができるのも、僕ら日本人です。

 

(30)最後にもう一度この訓練の様子を見てください。

(保安上の理由により、一部を画像加工してあります。)

 彼らは僕の友人たちです。僕は彼らを死なせたくはありません。アフリカの公園をふたたび戦場にしたくはありません。(おわり)

栗原からの提案(最後に読んでね)


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