「高千穂神楽の夜は永く」 高千穂神楽の謎(初歩的な…)

衣装の謎


 神楽の際、舞人(ほしゃ)たちは伝統的な衣装を身にまとう。これも地区ごとにバリエーションがあるようだが、だいたい舞の種類によってある程度パターンがあるようだ。全てをまとめるだけの知識はないが、とりあえず、主だったところを。

 基本は白い着物(白衣・はくい)に白い袴(はかま)の「白装束」だ。神事なのだから当然…と思いきや、聞くところによると「物質的に比較的ゆとりが出来た頃に白装束に統一された」らしい。

岩戸神楽の「繰降」の舞。鉢巻をしているだけのシンプルな白装束(岩)

 この上にさらに素襖(すおう)または舞衣(まいごろも)と称される衣装を羽織る舞も多い。素襖は袖の大きな衣装で、これをまとった舞は、袖などの動きがなかなか優美だ。さらに舞の中で腕を回転させて袖を腕に巻きつけたり、素襖を脱いで手に持って舞ったりと、独特の所作と関連している。

麻布製の素襖を羽織った岩戸神楽の「大神」の舞(岩)

 地区によるが、素襖や袴に薄茶色の荒い生地が使われている。これは麻布。実は、高千穂はかつて麻の産地だったそうな。その後、大麻規制のあおりで栽培が出来なくなり、現在では白木綿の素襖も使われている。

 羽織るものとしては、他に千早(ちはや)がある。袖のない「陣羽織」みたいな形状のものだ。美しい金糸の刺繍が施されているものが多いこともあり、格式のある「正装」のような印象。素襖の上からさらに羽織っていることが多い。狩衣(かりぎぬ・神官が祭式で正装として使う衣装)が千早と共に多用される地区もある。

上の写真と同じく「大神」の舞だが、浅ヶ部では「素襖」の上にさらに「千早」を羽織り、頭には烏帽子を被っていた(浅)

黒口神楽の「五穀」の舞。きらびやかな「狩衣」を着て、さらにその上から千早を着ているので、とても派手な印象。(黒)

 白い着物の上に何も羽織らず舞う場合、(たすき)をかけることが多い。赤布、白布か、後述の女帯を使う。背中で交差させて両腕にかけるスタイルが多いが、一部では「片タスキ」という一方の肩から反対側の脇の下に渡しただけのかけ方も見られる。

 女帯は、女人禁制のため神楽舞に参加できない女性たちが自分の着物の帯を使ってもらうもので、地区によっては多用される。安産を祈願するためのものとのこと。ある地区では、女帯の代用と思われる幅のある赤布のタスキが使われていた。

 

左は地元女性から提供された女帯のタスキ(岩)。右は帯状の太い赤タスキ(押)。

押方五ヶ村神楽の「柴引」の舞。白装束に片タスキ。神面舞にもこんなシンプルな衣装がある。(押)

 タスキは最初からかけた状態で舞い始めるだけでなく、舞の節目で舞を中断してかける場合、舞ながらかける場合がある。この場合は、その前に舞の小道具としてこのタスキが使われる(とくに神添系の舞に多い)。この他、一部の舞では、タスキの背中の交叉したところに「梵天(ぼんてん)」と呼ばれる白紙の飾りを付けることも。

 ハカマには通常の白ハカマのほかに、足首のところを絞った裁着袴(たっつけばかま)も使われる。このれは元来作業着や旅装束だったものそうで、確かに神楽舞の中でも何かの作業をしている様子を現した場面などで良く使われている。なぜか白ではなく色物・柄物の生地になる。また、必ず神面舞で使われるが、素襖や千早と組み合わされることはないようだ。

  

浅ヶ部神楽の「八鉢」の舞。裾を絞った裁着袴、女帯のタスキには梵天、神面の上から頭巾を被る。(浅)

 

 頭につけたり被ったりする「被り物」としては、「どっさり」、「毛笠(けがさ)」、烏帽子(えぼし)、鉢巻(はちまき)、一部の舞では頭巾(ずきん)、頬かむり、「帆立烏帽子(ほたてえぼし)」…とまぁ、これもいろいろだ(ただし、素面舞での「鉢巻」、神面舞の「どっさり」、一部「頬かむり」だけで、いたってシンプルな地域もある)。

 カツラの一種であるどっさりは神面と組み合わせて使われる。麻製で、そのままの色のものと、黒く着色したものとがある。いずれにせよ、その髪型はボサボサのダラダラ。良く言えばレゲエ調、悪く言えばホームレス調。日本の神様はよほど散髪がお嫌いと見える。

「戸取」の舞で、どっさりの黒く長い毛を左右に広げる「決め」のポーズ。裁着袴に赤タスキ(浅)

 毛笠は放射状に細長い毛(たぶん麻の繊維だろう)を植えたようなもので、神面とも素面とも組み合わされて、地区によっては「どっさり」よりも多用されている。被ると「カッパの頭」のような感じになる。これを嫌って、一部地域では烏帽子を代用するようになったという。私見だが、むしろ起源は逆で「カッパの頭」の原型こそこの毛笠ではないか、と思っているところだ。毛笠の毛を真上で束ねて「たまねぎ」みたいな形にしたものが「道化荒神」などで使われる。

  

左は河内神楽の毛笠。この地区は毛笠を多用する(河)。右は束ねた毛笠を被った「道化荒神」(押)。

 鉢巻は赤布が多く、素面の舞で使われる。額で折り返してコメカミのところに挟んで両端を垂らす「はさみ下げ」が多く、普通に後ろで結ぶ「後ろ鉢巻」、さらに烏帽子の上から巻いたり、「宝冠(ほうかん)」と呼ばれる白紙の飾りを立てるなど、これだけでもいろいろなスタイルがある。

     

赤鉢巻の巻き方。左から「はさみ下げ」(岩)、「後ろ鉢巻」(岩)、烏帽子+鉢巻の2例(浅・押)

 

  

鉢巻に「宝冠」を立てた「岩潜」の舞(浅) 右は「帆立烏帽子」(黒)

 

 足元は白足袋。一晩舞い明かすと新品の足袋が破れるといい、舞人(ほしゃ)への謝礼として足袋一足が贈られる風習がある。

 このように、神楽衣装というのは、パーツも、身に着け方や組み合わせ方も実に多様だ。一つ一つの着こなしにどんな意味があるのか(あるいは、意味などないのか)、栗原にもまだ良くはわからない。

 

 さて、舞人(ほしゃ)が身に着けるものは衣装だけではない。最も大切なものといえば神面。でもそれについてはまた別項で。(神面の謎)

<写真>(浅);2001年12月、浅ヶ部神楽にて。(河);2002年1月、河内神楽にて。(岩);2002年11月3日、岩戸神楽三十三番大公開祭にて。(押);2002年11月、押方五ヶ村神楽にて。(黒);2002年11月、上野黒口神楽にて。


「高千穂神楽の夜は永く」表紙へ  高千穂神楽の謎  「自然派宣言!」へ


このページに掲載されている文章、画像の無断転用・複製を禁じます。Copyright © 2002-200 Tomoaki Kurihara. All rights reserved. (Revised on 25, Nov., 2005)