「高千穂神楽の夜は永く」 高千穂神楽の謎(初歩的な…)

小道具の謎


 夜神楽の舞ではいろいろな小道具が登場する。

 特に舞手が手にとって使うものは「採り物(とりもの)」とも呼ばれ、いろいろな種類がある。これらは「依り代(よりしろ)」すなわち「神が宿るもの」という意味があるようで、プロカグラー(専門家)が言うところの「出雲系神楽」の特徴らしい。採り物各種を取り替えたり、持ち方を変えたりしながら、何度も同じような動きを繰り返す舞も多い。

 また、これら「採り物」に関連した儀式として、「地固」・「弓正護」などの舞が終わった後、舞い手と神官(役の舞人)や神楽宿の主などが向き合って整列し、舞い手から舞いに使った採り物を宝として授かる儀式「宝渡し」というのも各地で見られる。

 各種「採り物」一つ一つにどんな意味があるのか(無いのか)、まだよく理解できない。が、とりあえずモノだけでも紹介しておこう。

○鈴

 神楽では「神楽鈴」を指す。多数の鈴玉が房状に固定され、握りの末端から5色(白・緑・赤・紫・黄)の布の房がついている。神楽舞で最も多用される採り物の一つだろう。楽器としてお囃子と協調するし、また舞によって房が揺れ動き視覚的効果も著しく、複合的役割を持つ小道具と言えるだろう。

代表的な採り物・鈴と幣を手にした舞(2002年11月、上永之内神楽「幣神添」)

○幣(へい)

 丁寧に「ごへい(御幣)」と呼んだり、高千穂では「ひ」と訛ったりする。しきたりにしたがって切れこみを入れて折り曲げた白、赤、緑(地区によっては紫・黄を加えた五色)の紙を細竹の先に固定したもの。棟飾りや外注連の飾り付けなどにも使われるが、舞の「採り物」としても多用されている。

 で、これがまたいろいろな種類があって、楽屋にはそれがずらりと用意されている。多分、それ自体が神の象徴なのだろうとは思うが、大きさや紙飾りの形状の違いはナゼ?…なんて考え始めるとキリが無いので止めておこう。手に持つだけでなく「腰幣」と言って、小型の幣を腰のところに差して舞うこともある。

 目立つところでは、「大神」などで使われる「大幣」、「岩戸五番」の「伊勢」や「手力雄」で使われる大型の「岩戸幣」が大型かつ特徴的。

  

左は楽屋に用意された各種の幣。右は「大幣」を手にした「大神」の舞(いずれも2002年11月、上永之内神楽にて)

「岩戸」(画面左下)の前で舞われる「手力男命」の舞。左手の二本の大きな幣が「岩戸幣」(2002年11月、押方五ヶ村神楽)

○杖(つえ)

 「荒神杖」ともいう。長さ1mくらい、径2cmくらいの細竹の両端に房状の紙飾りがついたもの。中央付近にも白紙を巻く地区もある。「杖」と言っても、歩くのに使う杖のことではなさそうで、神面舞で「荒神」がくるくる回したりして使う。紙飾りが一方の端にのみついている短いものもある。

 これを使う「武智」の舞を地区によって「鞭(むち)かんぜ」などと呼ぶようで、本当は「杖」ではなく「ムチ」なのかもしれない。

 上記の一般的サイズのもののほか、極端に太く長い「大杖」が夜神楽の中で1度だけ登場する。これは「七貴神」の舞で親神が持っているもの。直径5cm以上、長さ150cmくらいの太竹が使われることが多いが、棒術の棒が使われる地区もある。「杖」が「荒神」を象徴する持ち物ということであれば、「七貴神」では「親神」と「子神」の立場の違い(親が子に舞の指導をする様子が表現されている)を表出するために親が特に大きな「杖」を使うのかも。

「七貴神」の舞。右の子神が普通の「杖」を、左の親神が「大杖」を手にしている。(2001年12月、浅ヶ部神楽)

○太刀

 いわゆる日本刀。「つば」のあるものだけでなく、「つば」のない「仕込み」の形状の物も使われる。特に「太刀神添」や「岩潜」の舞ではこれが主役になる。本来は全て真剣だったようだが、現在は神楽舞用の模造剣も使われているようだ。もちろん、まだ真剣も使われている。真剣と模造剣の双方が使われる地区では、刀身の質感もさることながら、それを握る舞い手の表情がガラリと変る。

太刀を使った「岩潜」の舞の舞い上げ。ここでは舞人一人で二本の太刀の刃を握って振り回している。(2001年12月、浅ヶ部神楽)

○弓矢

 しばしば用いられる小道具で、代表的なのは「弓正護」の舞。なぜか、矢は2本1組で使うのが普通。この他、棟飾りにも使われるが、いずれも弓道に使われるような「本物」ではないようだ。この弓矢から派生したものだと思うが、一部地区の「山森」の舞で採り物として「鉄砲」も登場する。

左手に弓と2本の矢、右手に鈴を手にした舞(2002年11月、上永之内神楽「弓正護」)

○柴(しば)

 高千穂神楽においては、ツバキ科の常緑樹・サカキ(榊)を指している。神道では一般に神聖な樹木であるとされ、高千穂神楽でもいろいろなところで使われている。舞の「採り物」としては、小枝がしばしば使われる。

 「式三番」の後の神事で関係者が神に奉納する「玉串」は榊の小枝に白紙の飾りが付けられたものだが、これが「採り物」に流用されたり、内注連の四隅の柱に固定されている「柴」から必要な小枝をちぎり取る姿も多々見られる。

 神官が地鎮祭とかで振っているのと同じ「大玉串」は大き目の枝に紙飾りがついているもので、「彦舞」や、神楽の中で行われる祭式での御払いで使われる。一種の「幣」と考えて良いだろうと思う。

左手に柴、右手に鈴を手にした舞(2002年11月、上永之内神楽「繰下」)

○扇

 白地に日の丸の扇が多いが、白無地や金の扇の地区も。閉じた状態で手に持って舞い、続いて開いて舞う(「開き扇」と呼ばれる)ことが多い。このほか、神庭中央に開いて置き、それを中心に舞う場面が「地固」の舞にある。このほか外注連と内注連をつないでいる「みどりの糸」に飾りとして下げられている。

扇を使った舞。ここでは開いている。(2002年1月、河内神楽「杉登」)

○鏡

 円形の鏡2枚、または「日月」(円形のものと三日月型のもの)の1対で使われる(金属製の「鏡」ではなく、それを模した物である場合もある)。これは他の採り物とは一線を画し、氏神の御神体と一緒に収められている。神官が取り出して舞い手の左右の手に渡される事が多い。「舞開」や「注連口」でこれをかかげて舞われる。

二枚の鏡を手にした舞(2002年11月、上永之内神楽「舞開」)

○五穀と膳

 「採り物」と考えて良いのかどうかわからないが、「膳(ぜん)」(=正方形のお盆)と、いわゆる「五穀」(穀種は地区によって異なるが、高千穂では一般に米・麦・豆・とうきび・あわ…が多いようだ。)が「五穀」や「本花」の舞で使われる。秋の収穫への感謝と翌年への豊穣の祈りが込められているのだろう。

 ただし膳に榊の葉や白米のみを入れる地区もあるし、「五穀」の舞で各神が手にしている穀種の状態も、穂の束であったり、穀種を白紙に包んで榊に結びつけた物だったり、お札のような形状の物だったり、いろいろである。

両手に「膳」を持った「本花」の舞い上げ。穀粒の入った膳を両手に回りながら舞う(2002年12月、野方野神楽)

 

 そのほか、これらは明らかに「衣装」の一部だが、素襖(すおう)やタスキ(「女帯」を含む)を手に持って舞う場面が多々ある。素襖は一般に、着ていたそれを脱いで手に持って舞い、タスキ・女帯は手に持って舞った後に、これをタスキとして掛けるのが普通。同じ衣装でも、千早や狩衣にはそういう使い方ないようだ。

 

 比較的大きな舞台装置として使われる小道具は…

○乗り柴(のりしば)

 榊の枝を太い束にしたもので、2本用意される(使わないときは外注連の左右に立てかけてある)。「御柴」の舞で2神がそれぞれこれにまたがり、柴ごと見物人に担がれる(柴乗り)。また、舞人たちがこの柴の束(神は乗せない)を抱え、掛け声をかけながら間口から神庭に向かって付き入れる所作は「入れ柴」などと呼ばれ、「杉登」の舞などで見られる。

 

左が「入れ柴」、右が「柴乗り」の場面。使われている「柴」は同じもの。(2001年12月、浅ヶ部神楽)

○斗枡(とます)・俵(たわら)

 斗枡とは、1斗=10升=100合=約18リットルの枡(ます)。一般には「彦舞」で中央に伏せて置かれ、舞い手はこれに乗って四方を向きながら舞う。「七貴神」では親神が、舞を練習する子神を見守るとき、俵の上に立つ。いずれも同じような使用目的であるにもかかわらず、わざわざ別の物が用意され使われるわけだ。両舞の起源がそれぞれ別のところにある表れではないかと思う。…ただし、双方で俵が使われる地区もあるし、「七貴神」で俵ではなく楽奏の太鼓に乗る地区もある。「地割」の舞の最後にある「問答」で、「カマド荒神」が腰掛けるのに俵を用意する地区もある。

○太鼓

 明らかに主目的はお囃子の楽奏なのだが、「八鉢」では神庭の中に移動して舞い手がこの上で逆立ちしたり、祈りの儀式(?)で使われたりする。「七貴神」で、これに親神が乗る地区も。「雲下」ではおろした「雲」を中央に移動させた太鼓の上に置く地区が多い。

 

 一部の舞ではもっと演劇的演出の目的で登場する小道具や舞台装置もある。

○岩戸(いわと)・柴

 岩戸は「岩戸五番」で使われるもので、「戸取」の舞でタヂカラオがこの岩戸を力強く持ち上げる場面で最高潮に達する。かつては神楽宿のふすまなどを使っていたとも聞くが、今はどの地区も専用の「岩戸」が用意されている。地区にもよるが、左右2枚、または1枚のみ用意されるのが一般的。御神体を取り囲むような形状の「岩戸」が用意されている地区もある。

 また同じく「岩戸五番」の「柴引」は、(岩戸の前に飾るため)天香久山で柴(榊の木)を根こそぎ引き抜く場面だが、小道具として大き目の柴(榊の枝)が用意されている。

2002年12月の野方野神楽では「岩戸」をイメージした舞台背景が用意された。これほど手の込んだ「岩戸」は珍しい。写真は「戸取」の舞。

○大蛇・剣

 「蛇切」(岩戸地域のみ)では、スサノオが退治する大蛇(オロチ)が登場する。目は光るが、残念ながら動かない。ここで前述の「採り物」と同じ太刀が2本使われるが、これは明らかに演出上の小道具だ。スサノオが武器として使う太刀と、オロチの体内から取り出される宝剣「草薙(くさなぎ)の剣」が登場する。

大蛇(右)に向かって太刀を振りかざすスサノオ(2002年12月、岩戸五ヶ村神楽「蛇切」)

○各種民具

 「御神体」の舞では「酒こし」のためのザル、オケ、「酒」を飲む椀、杵(きね・棒状または槌状のもの)、藁苞(わらづと=納豆などの食べ物などをワラの束で包んだもののことで、ここでは酒の原料を中から取り出したり、逆に入れたりする所作があったりもする。竹竿に差し槌状にして担いでいることが多い)など。杖も使われるが、上記の「(荒神)杖」だったり、写真のように歩行用の杖だったり。

 一部地区の「杵舞」で使われる杵(ここでは棒状のもの)、一部地域の「田植神楽」の「牛の鋤引き」では鋤(すき=牛に引かせて田を耕す農具。ここでは、もちろん模型)などが登場する。農民の生活に根ざした民具を多用するこれらの舞が、神事的芸能とは別の農民の芸能に起源している現われではないかと思う。

民具が小道具として登場する「御神体」。ここではザル、オケ、杵(棒状)、杖2本と、他に椀。(2002年11月、上永之内神楽にて)


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