「高千穂神楽の夜は永く」
高千穂神楽拝観心得之条
…あなたは「里人」になれますか?
近年一部の団体観光客・マスコミ関係者・写真家のマナーの悪さが嘆かれている。今後の状況次第では、将来的には観光客の立ち入り規制や撮影・取材の拒絶といった事態に発展するおそれもある。ぐれぐれも地元の人々に不快感を与えることのないよう配慮されたい。
以下の注意事項は、栗原がこれまでの体験をもとにまとめたものであり、簡単に言えば「栗原が自主的に気を付けていること」や「他者の行為で不快に感じた事」である。各地の神楽保存会や地元関係機関の意向も汲んだつもりではあるが、直接の関係はない。
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一、高千穂夜神楽は「見世物」にあらず。「神事」なり。見物人は「賓客」にあらず。「参列者」なり。
- 「観光神楽」などは別として、夜神楽奉納行事は地域の人々の篤い信仰が守り伝えてきた伝統の「神事」であって「見世物」ではない。また、神楽宿において「賓客」に相当するのは「神々」であって見物人ではない。見物人は、神々(と同化して舞う舞人)の姿を「拝観」する「参列者」でなくてはならない。たとえ一夜限りであっても、「里人(さとびと)」=地域の一員になったつもりで参列すること。
- 神楽宿においては、舞人等の神楽関係者に絶対的権限がある。その指示には従うこと。一部に「夜神楽は無礼講」と思っている者もいるようだが、それは全くの誤解である。
- 観光客やマスコミ関係者に対する歓迎の度合いも地区により異なり、決して歓迎はしていないところもある。「客なのだから歓迎されて当然」という考えは捨てること。
- 神楽宿には「神事」ゆえの禁忌がある。舞いが奉納される正方形の空間「神庭(こうにわ)」は一般に女人禁制とされるが、男子と言えども関係者以外の者が安易に足を踏み入れることは許されない。神(と同化した舞人)が神庭に出入りする際の道(白布が敷かれることもある)も同様である。行事が始まる前であっても、神庭の中に立ち入る場合には関係者にひとこと許しを請うこと(もちろん、断られることもある)。また許可を得て立ち入るにしても相応の礼儀をわきまえること。マスコミ取材などでも例外ではない。
- 「神面」はそれ自体が御神体である。勝手に触るなどしてはならない。関係者は「おもてさま」、種類によっては「荒神(こうじん)さま」などと敬称している。関係者の前で気安く「めん」などと呼ばないこと。せめて「ごしんめん」と言おう。
- 神楽の途中には、たいてい1〜数回の神事(祭式)が行われる。座を正し静粛に。一般参列者にも「礼」「拍手(かしわで)」が求められた場合には指示に従うこと(作法は「二礼・二拍手・一礼」)。
- いろいろな地区の神楽を拝観して行けば、内容の違いや舞の技量の差が見えてくるものである。各人の好みもあろう。しかし、地元の人々にとって神楽は地域の「誇り」である。拝観中にその地区の神楽を批評・侮辱するような言葉を決して口にしてはならない。
神楽の途中で行われた神事。「式三番」の後に行われるのが一般的。(2001年12月、浅ヶ部神楽にて)
一、供物を奉納すべし。
- 供物を奉納するのは参列者としての礼儀である。各人焼酎2升、または現金で3000円程度(初穂料)がだいたいの目安。最初に神楽宿の「受付」に提出する。
- この供物は、例えば神社に参拝した時の「お賽銭」と同質のものであり、また夜神楽の開催・伝統継承に多大な苦労をされている神楽保存会や地元関係者に対する「寄付・寄進」の意味もある。「食事代」や「入場料」という意味ではないので注意。あなたの「感謝の気持ち」を包もう。
神楽宿には一般参列者を含めた供物奉納者の名前が張り出される。(2003年1月、黒仁田神楽にて)
- 供物を奉納しなかったからと言って、夜神楽への参列を断られることはない。しかし「手ぶら」の観光客(特に団体客)が増えたため赤字を抱え、行事の開催形式の変更を迫られた地区も現に存在する。同行者が家族である場合などでは必ずしも人数分を用意する必要はないが、団体での拝観であれば、相応の数・金額を用意すること。業務上の取材で便宜を図ってもらうなどした場合は、多めに奉納するのが道理であろう。
- 焼酎を持参する場合、現地産の銘柄が喜ばれる。神楽宿の地元(町内でも地域によって異なるので、神楽宿に近いほうが確実)の酒店で銘柄を選んでもらい、さらに「御神前」の熨斗(のし)を付けてもらうとよい。現金なら簡単なもので良いので熨斗袋(上書きは「御初穂」)を用意するのがよい。
酒店の店頭に2升を束ねた焼酎が並ぶのは、高千穂では夜神楽シーズンの風物詩。3升の束もある。(撮影協力:小手川酒店)
- 神楽宿ではなく、個人宅での「おまつり(=宴席)」に招かれた場合も上述程度の焼酎などを持参するのが礼儀である。この場合、熨斗の上書きは「御神前」ではなく「寸志」とするのが普通。現地での急な招きであついもてなしを受けた場合も、何らかのお礼を忘れずに。
- 地元の酒店では頼めば購入した焼酎を神楽宿に届けるてくれるが、これは主に地元の人々(特に後述の欠席者)が使うサービスである。他所からの拝観客は、出来るだけ自分の手に焼酎を下げて行くこと。若い都会出身者にとってはそれ自体が新鮮な体験になるだろう。
- 観光客などにはあまり関係ない話だろうが、地元では神楽宿にしても個人宅での「おまつり」にしても、招きを受けながら(あるいは当然出向くべき立場であるにもかかわらず)何らかの事情で欠礼する場合、焼酎だけは送り届けるのが礼儀とされている。
一、「もてなし」を期待するべからず。
- 「神楽宿では参列者に至れり尽せりのもてなしがある」というのは、全くの誤解である。確かに参列者にも開催者側の「好意」で飲食の便宜が図られるところが多いが、全く行わないところもあるし、また食事が出されるとしても多くは「神への供物のお下がりを頂く」という「直会」のための質素な料理である。かつては豪勢な接待を誇った地区でも、近年は簡素化の傾向にある。「食事が出されない」「料理が貧相だ」などと不満を漏らすなど、言語道断である。
直会で食事をする舞人と関係者たち。地区にもよるが、決して豪華な食事ではない。(2003年1月、黒仁田神楽にて)
- 飲食の「まかない」は舞人たちが最優先。同時に食事などが出された場合、舞人たちより先に箸をつけぬこと。そして、ひとことお礼を言おう。
- 神楽宿で振舞われる「酒」・「カッポ酒」は、一般に「焼酎」である。他地域では「安酒」という位置付けかもしれないが、焼酎産地である当地において焼酎は「自慢の産物」であり「美酒」である。焼酎のふるまいに対し「安酒を飲まされた」などと曲解しないように。
- 神事の場であるので、酩酊するまで酔って関係者や他の参列者に迷惑をかけぬこと。
- 混雑などが原因でせっかくのもてなしにもありつけない事はある。最低限の飲食は各自で用意すること。無駄になるかもしれないが、空腹のあまり気持ちにゆとりをなくすよりはマシであろう。
- 神楽宿は「惣菜屋」ではないのだから、出された煮〆を容器に詰めて持ち帰るなどというようなことのないように。笑い話のようだが、これも実例である(神楽終了時に余った分を頂いて帰るのは構わないだろうが…)。
- マスコミ関係者や観光関係者のみなさんには、上記の点を踏まえた適切な告知をお願いしたい。
一、神楽は撮影会にあらず(撮影や取材に伴う上記以外の注意)。
- 夜神楽が魅力的な被写体・取材対象である事には間違いないが、写真を撮らせるために行われている「撮影会」とは違う。あくまで地域の伝統行事であって、それを妨げない範囲での撮影が許されているだけである。撮影に夢中になるあまり、失礼な行動をとることのないように。
- 神楽舞の撮影自体には今のところ制限はない(ストロボ使用可)。ただし、三脚の使用・持ち込みを禁止する地区が増えている。マスコミ取材などであっても例外ではない。なぜこのような規制が設けられるようになったか、考えて欲しい。
- 三脚規制のない場合も、行事の進行や他の参列者の妨げにならないよう配慮し、特に混み合っているときは三脚の使用を控えること。(栗原の写真家としての私見だが、神楽の写真撮影では三脚は邪魔にはなっても役には立たない。使うなら一脚。ただし、一脚も禁止されている地区はある)。また同じ理由で、混み合っている時に移動しながら撮影したり、立ち上がって撮影することのないように。
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準備中の神楽宿に「場所取り」をする場合、置いた荷物などが作業の邪魔になりそうなら、すぐに移動させること。荷物を置いたまま他所に撮影・観光に行ったりしない(荷物番を置くなどの配慮を)。また、通常神庭の正面中央には神楽の開始直前に「舞い入れ」の道が作られるので、この位置での「場所取り」は要注意。特に三脚を放置して「場所取り」を主張する写真家が目立つが、そのような一部写真家たちだけの「暗黙の了解」は、神楽宿では通用しないので注意。
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舞人たちの肖像権に配慮すること。また、出番待ちの舞人たちや地元の子供たちに「ポーズ」などを求めるのもホドホドに(特に神事や神楽奉納の最中は慎重に)。神社から神楽宿への道行き(神幸)を自分たちの都合で隊列を足止めさせたり、舞を要求したりしないこと。地元の方々の好意に甘え過ぎてはいけない。
宮神楽を見守る少年舞人たちにポーズを求めようとするアマチュアカメラマン。モデル撮影会ではないのだから、ホドホドにしよう。(2003年1月、黒仁田神楽にて)
- 神楽宿の電源コンセントは関係者以外は使用禁止。ビデオカメラやデジタルカメラの愛用者は寒さを計算に入れた十分量のバッテリーを事前に用意すること。
- 地元住民から見て一部マスコミ関係者の行動が不愉快に写ることも多々ある。たとえ関係者の許可を得てのことであっても、多くの地元住民が見守っていることを忘れずに。
- マスコミとのトラブルが原因で夜神楽開催の情報を非公開とした地区が現に存在する。くれぐれも、地元関係者に対し「取材してやっている」というような不遜な態度をとることのないように。
一、転ばぬ先の杖(行程・車についての注意)
- 当日神楽開催地区まで行くと、立て札などで神楽宿への道程を指示してくれていたり、「ノボリ」や「しめなわ」が目印になることも多いが、それでも道に迷うことはある。迷ったかな、と思ったら、誰でもよいので地元の人に尋ねよう。一番確実なのは、地元の酒店で尋ねること。
- 狭く急峻な山道も多く、地区によってはとんでもない道を走ることになる。運転に自信のない人は慎重に。また天候・時間帯によっては積雪や路面凍結のおそれがある。特に夜間の移動では要注意。冬タイヤやチェーンの用意を。不安な人は、慣れた地元のタクシーを利用するほうが賢明。彼らは通常その日の神楽宿の場所は把握しているので「神楽宿へ行きたい」と告げればよい。ただし複数地区の神楽が同日開催される日は、どの地区に行きたいのかを正しく伝えること(特にこだわりがなければ、運転手に任せるのも手だが)。
- 参列者向けに駐車場が確保されていることが多い(刈取り後の田んぼが多いので、4WD車が望ましい)。必ずその指示に従い、違法駐車などで地元に迷惑をかけぬこと。特に神楽宿の周囲には安易に車を止めない事。関係者の出入りや、行事の進行の都合でわざと場所を空けてある場合も多々あるので、必ず関係者に尋ねよう。
- 徹夜の拝観となった場合、帰路の居眠り運転などにも注意。長時間の運転が必要なら、宿を取って十分に休息を。
一、備えあれば憂いなし
- ほとんどの地区の神楽宿は夜通し間口を開け放してあり、寒波が襲ったときなどは極寒に凍えることになる。石油ストーブなどを用意してあっても、数は限られている。暖かい服装(足腰の防寒に注意。ただし、窮屈な服装はまた辛い)、カイロ、膝掛け毛布など防寒対策は入念に。
- その他に持参したほうが良いもの
- 最低限の食べ物・飲み物(上述)
- お供え物(上述)
- 靴を入れて持って上がるための袋
- 蒔かれた餅などもって帰るための袋
- 長時間の拝観なら、携帯用座椅子(キャンプ用品)があると腰が疲れない
- 写真を撮るならフィルムは多め、ストロボ必携(予備電池も)
- もしあれば名刺(神楽宿は出会いの場でもある)
(おまけ)頂きものは縁起物
- 神楽宿の飾り付けに使われている御幣や彫り物が、神楽の終了と同時に参列者に分け与えられることが多い。ただし、地区の事情によって全く(または一部を)分け与えないこともあるので、確認した上で頂こう。
- これらは一種のお守り・縁起物であるから、大切に持ち帰り粗末にしないこと。部屋に飾ったり、御幣なら庭や田畑に突き立ててもよく、自宅に神棚がないからといって心配はいらない。ちなみに、高千穂では御幣を農閑期の田畑に立てた光景をよく見る。
冬の畑の中に立てられた御幣(岩戸で2004年1月)
- 古くなったこれらの縁起物をゴミに出したりしないこと。すこし大きな神社なら古いお守りやお札を納めるところがあるので、そこに一緒に納めるのが一番安心(大晦日などにまとめて焼き納めてくれる。神社は全国どこでもOK。)。正月飾りを焼く「どんど焼き」などの行事の際に一緒に焼いてもよいだろう。
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「高千穂神楽」が気軽に楽しめるイベント
上記のような地区ごとの神楽奉納行事に伴う「しきたり」などにとらわれることなく、「観光気分で楽しみたい」、「写真撮影に専念したい」などという向きには下記のような選択肢がある。いずれも舞人などは本物であるが、イベント性の強い行事なので、本番の神楽ほど気負わずに楽しむ事が出来るだろう。ただし、最低限のマナーは忘れずに。
- 「観光神楽」
- 伝承天岩戸夜神楽三十三番大公開祭(天岩戸神社・例年11月3日)
- 神話の高千穂夜神楽祭(高千穂神社・例年11月22・23日)
- 年始の神楽奉納(一部の神社・元旦未明)
- 各神社の例祭
- 地元神楽保存会とタイアップして行われる観光的ツアー
問い合わせは高千穂町役場の商工観光課へ
民間の旅行業者主催の団体ツアーの一環で開催された神楽の上演。地元の舞人たちが本業を休んで出演した。(2003年4月、岩戸五ヶ村「神楽の館」にて)
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