「高千穂神楽の夜は永く」 高千穂神楽拝観記

高千穂町向山「黒仁田神楽」

(拓ノ滝神社)

拝観日 場所 備考
2003/1/25-26 黒仁田公民館 全日程拝観

2003年1月25〜26日(「自然派宣言!/クマ探し日記」より抜粋)

 良い天気になった。この日開催される夜神楽の取材のため、昼過ぎに高千穂町南部の集落へ。ここは、恐らく同町でも屈指の険しい地形に発達した集落だろう。切り立った急斜面に貼り付くように家々と畑家が連なっている。路線バスが走っている事が信じがたい狭く曲がりくねった車道。さらにそこから一歩脇道に入れば、山慣れた僕でも悲鳴を上げたくなる急斜地だ。車を通り沿いに停めて、神楽宿である地区の公民館まで急な坂道を上り詰めた。

 この地区の夜神楽を拝観するのは僕は初めてだが、昨年拝観した近くの別の集落の夜神楽と同様、高千穂神楽としては非常に個性が強いことで知られている。この2地区の神楽は、高千穂神楽の主流とは別系統の神楽の影響を強く受けていると言われている。そして、険しい地形は人と文化の交流を制限し、それぞれの個性を保つ効果があったのだろう。さらに、その2地区の番付表を比較しただけでも、それぞれに違いが多く見つかる。

 別のある地域では、各集落の神楽の様式を意図的に統一しようとした歴史を持ち、現にどの集落の神楽も内容はほとんど同じで、統一の番付表が使われている。その対極にある例と言って良いだろう。

 神社への「神迎え」の儀式が始まったのは午後四時前。「神迎え」の写真はサボる事が多い僕だが、ここでは神社への往復は皆歩きだというし(車を使う地区も多い)、何よりその中の「宮神楽」が、神楽三十三番の中に組まれているので、ついていく。すると山の中の小道をあるいて森の中の神社へ。おお、これは絵になる。宮神楽、そして小道を歩いての「道行き」、神楽宿全体を使っての「舞込み」の舞…。山の坂道を走って先回りし、息を切らせながらの撮影。

 神楽宿に戻って、神楽舞は本番に。外は冷え込んだようだが、他地区と違い、一晩中神楽宿の間口を閉め切ってあったため暖かい。いや、神楽宿一杯の人(観光客より、地元の方が多い様子)で暑いくらいだ。これで退屈な神楽だったら、眠りこんでいただろう。幸い、この地区の舞は比較的テンポが早く、動きも激しく、見ているだけでも飽きない。個性的な内容ということもあり、写真を撮っていて楽しい。ついついオーバーペースになる。途中からフィルムが足りるかどうか、心配になるほどだった。

 さすがに睡魔に襲われた明け方には「気付」の焼酎をあおりながら、全演目を撮り終わった。フィルムの数は僕の夜神楽取材では2番目の多さとなる約19本(約700コマ)。

 だが僕は、後片付けの始まった神楽宿に留まることにした。見物客はもちろん、関係者も立ち会わず、最小限の人数だけで神社に神が送りとどけられる「神送り」の儀式を見届けたかったのだ。普段から神社を守っているという2人の老師が、神輿に神面の収まった箱を積んで、前日来た山道を静かに歩いて行く。僕も黙って、しかし2人の担いだ神輿の先回りをしながら、残ったフィルムで撮影。徹夜空けで山道を走るのは辛かったが、貴重な「神送り」体験となった。

(後略)

別項「日程の謎」では、この時の黒仁田神楽を例(写真)に使用しています。

「稲荷」の舞


2003年1月25〜26日の黒仁田神楽の番付

  番付表   実際の順番
宮神楽 宮神楽(拓ノ滝神社にて16:10頃開始)
      道行き・舞込み
    御小屋(前)
彦舞 彦舞
御小屋   御小屋(後)
鎮守 鎮守
東西 東西(とうせい)
杉登 杉登(前)
弁財天 弁財天(=拓ノ滝神社の祭神)
柴引   杉登(後)
      神事・直会
神颪 神颪(前)
10 若宮 若宮(=黒仁田神社の祭神)
      神颪(後)
11 地固 10 地固(前半)
12 荒神 11 荒神
      地固(中)
      座張り
      地固(後)
13 大神 12 大神(前)
14 八つ鉢 13 八つ鉢
      大神(後)
15 住吉 14 住吉(前)
16 稲荷 15 稲荷(=正一位中嶽稲荷神社の祭神)
      住吉(後)
      夕食
17 岩潜 16 岩潜(前)
18 入鬼神 17 入鬼神
      岩潜(後)
19 武智 18 武智
    19 田植神楽(下記演目名は仮称)
      ・牛の鋤引き
      ・鍬男
      ・田植え女
      ・杵舞
      ・箕舞
20 五天皇 20 五天皇(前)
21 田植神楽   入鬼神(女神)
22 沖逢   五天皇(後)
23 山森 21 山森(4人舞・前)
24 火の前   (山神)
25 七貴神   山森(4人舞・後)
26 弓正護 22 弓正護
    23 沖逢
27 注連口 24 注連口
    25 柴引き
28 鈿女 26 鈿女
29 手力雄 27 手力雄
30 伊勢神楽 28 伊勢神楽
31 戸取 29 戸取
32 舞開 30 舞開
33 雲下 31 雲下(午前8時ごろ終了)

 

 番付表は、地区専用のものが配布された。本文にある通り、高千穂神楽としては非常に個性のある内容。演目は同じ向山地域の山中神楽(尾狩地区)に似るが、番付の数え方などには、かなり差異がある。

 山中神楽と共通するのは、「素面舞(前半)・神面舞・素面舞(後半)」のパターンが全般に渡って繰り返されることや、「田植神楽」、「座張り」(番付表にはないが、内容は明らかに山中神楽のそれと同様)などの演目があること。

 ユニークなのは、拓ノ滝、黒仁田、正一位中嶽稲荷の3社の祭神が登場することだろう。ちなみに「神迎え」では、まず黒仁田神社に行き保管されている神面を神輿に積み込み、それを担いで拓ノ滝神社へ行って「宮神楽」を奉納。ここから「道行き」が始まって、神楽宿に向かった。この3社はもともとこの地の氏神で、3地区が統合した等ということではないそうだ。

 全般にテンポが速く、動きが激しい舞が多い。特に上述の「座張り」とこれに似た振り付けの「柴引き」が激しかった。

 番付上は「火の前」、「七鬼神」が省略された形だが、番付表にない「入鬼神」や「座張り」、5演目に細分化できる「田植神楽」などを考えると、遜色のない内容。

 あと、大人顔負けに大活躍する小学生の舞人の姿に見ほれた。将来が楽しみだ。

 本文にある通り、山中神楽と同様「戸立」が標準。戸口は閉めきってあるので寒くなかった。


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