「高千穂神楽の夜は永く」

私的カグラー用語集

「謎」のページにまだ書いていないことを中心に随時追加しています。飲食の話が多いけど…気にしないように。


ア行

いりきじん(入貴神・入鬼神)

 神楽序盤(式三番)の「杉登」の舞は、素面二人舞を前後半に分け、その間に神面一人舞が挿入されるのが普通。この挿入される神面舞が「入貴(鬼)神(の舞)」で、その地区の氏神の降臨を表現しているようだ。同じ舞は、他に「舞い込み」でも見ることが出来るし、地区によっては「杉登」以外の舞にも入鬼神が挿入される。神面は普通、その地区の氏神を表徴するものが使われる。《関連語》うじがみきじんこうじん

うじがみ(氏神)

 各地区の住民を守る神、つまりその地区の守り神。その加護を受ける各住民が「氏子(うじこ)」。高千穂神楽は、氏子たちが神社から氏神を招いて開催する、氏神単位のまつりである。その氏神を表徴する神面がある地区が多く、これはその地区の夜神楽の要所で使われる。《関連語》いりきじんきじんこうじん

おなごし(女子衆)
 一般に「地域の女性たちの集まり」、今風に言えば「女性陣」とか「婦人会」くらいの意味。元来、夜神楽奉納は女性の手を借りない行事だったそうだが、現状では多くの地区で「まかない(料理の支度・接待)」に女性の手を借りている。地区の「婦人会」としてその任を担う例も多いようだ。神楽においてはそういった女性たちを指してこの言葉が使われる。

おみき(御神酒)

 焼酎文化圏の高千穂といえども、神事で使われる御神酒はやはり清酒で、延岡産の銘柄が多用される(高千穂に清酒メーカーは現存しない)。かつては自家製の酒(ドブロクのようなものだろう)が使われていたそうな。神楽奉納の前や合間に行われる祭式はもちろん、舞の中にもお神酒を飲む場面がある。《関連語》かっぽざけしょうちゅう

おやけ(御宅?)
 一般に使われる方言で、一家の家長、つまり世帯主のこと(男性のみ)。神楽においては神楽が開催されている家(公民館などでの開催なら、本来なら自宅を神楽宿として提供すべき立場にある家)の世帯主を指す。神楽のなかの神事などでも一定の役割を担う。なお、実質的な世帯主が女性の場合、帰省してきた長男や娘婿がその役を果たす。

カ行

かぐらせり(神楽競り)

 神楽宿に集まった「舞人」以外の若者たちが庭先で仲間同志で円陣を組み、神楽せり歌を歌いながら他のグループの円陣とぶつかり合う、というもの。このとき、地面に置かれた青竹を粉々に踏み割る慣わしなどがあった。かつては「舞人」以外の若者たちにとっての「見せ場」だったようだが、血気盛んな若者たちのこと。本格的なケンカに発展したり、勢い余って建具を壊したり…なんてこともあったようだ。若者人口の減少のためか、残念ながら今日この行事ほとんど見られない。神楽せり歌については「お囃子と歌の謎」参照

かぐらよばれ(神楽呼ばれ)

 夜神楽が開催される地区に住む知人に「まつり」に招かれること。通常、神楽宿ではなく、その人のお宅に用意された宴席(「おまつり」)への招待を指す。同じ地区の複数の人から招かれ、「はしご」する人も多い。招待してくれたお宅には神楽宿と同様焼酎2本程度を持参するのが慣例。ただし熨斗(のし)の上書きは「寸志」とすることが多い。《関連語》まつり

かっぽざけ(カッポ酒)

 青竹を徳利代りにして焚き火で燗をつけた焼酎や日本酒。竹節に開けた穴を酒が抜けるときにカポカポと音を立てることから、この名がついたようだ。竹の風味がしみ出し、美味。杯にも竹筒を使うのが一般的。もともと古くから伝わる山で茶を沸かす方法を応用したものとのことだが、実はカッポ酒自体が考案されたのはそれほど古い話ではないらしい。だが、すでに高千穂の名物となり、夜神楽のもてなしには欠かせない。なお、高千穂地方で「酒」と言えば普通「焼酎」。したがって「カッポ酒」の中身も、多くは焼酎だ。《関連語》しょうちゅう

カッポ酒でのもてなし。(2002年11月、押方五ヶ村神楽にて)


かまけわざ(感け技?)

 神楽の中で男女の神がエッチすること。各地方の神楽や伝統芸能にあるようだが、高千穂神楽では「御神体」の舞で見ることができる。高千穂神楽で性的な所作は他に一部地域の「八鉢」で見られ、神が男根を振りながら見物客に絡む。

「御神体」の舞で夫婦神が合体する「かまけわざ」のシーン。神楽宿は爆笑に包まれる。(2002年11月、押方五ヶ村神楽にて)

岩戸地域の「八鉢」では、「子宝を授ける」という「男根」が登場する。(2002年11月3日、岩戸神楽三十三番大公開祭にて)


きじん(鬼神・貴神)

 神を指す言葉の一つで、「杉登」の舞の途中に挿入される神面舞「入鬼(貴)神」や、「七鬼(貴)神」などの形でしばしば使われる。意味合いは恐らく「荒神」と同様だろう。神面も多くが「鬼の形相」である。今日角のある神面はごく限られているが(例;野方野地区石神神社の「牛神さま」)、実は多数の神面にかつて角が取り付けられていた形跡があるらしい。《類語》いりきじんうじがみこうじん

きもく

 焼酎をお湯で割ったり氷を入れたりせずに飲む「ストレート」。《用例》「きもくでいきない!」(ストレートで飲めよ!)《関連語》しょうちゅう

こうじん(荒神)

 神楽に登場する神々は、それぞれ「日本神話」に因んだ神名で呼ばれる(命づけ)ことが多いが、各地区の氏神は「荒神」とされることが多い。なぜ「荒い神」なのか?悪行を為したため退治される「鬼八伝説」の鬼八(きはち)にしても「荒ぶる神」である。良くはわからないが、少なくともキリスト教的な「神(=愛と善の象徴)vs 悪魔(=悪と死の象徴)」の対極的な宗教感とは異なる、日本的な「善悪両面を持った超越的存在」としての神がこのような形で表現されているのではないかと思う。稀に「幸神」の字を当てることもある。《関連語》いりきじんうじがみきじん

こてがわぜんじろう(小手川善次郎)

《人名》ここでは伝説的スーパーカグラー・五代目善次郎を指す。1889(明22)〜1957(昭32)。商人として高千穂に移り住んだ父・四代目善次郎の後を継ぎ商業を営んだ。その一方、篤志家として地域に貢献し、また郷土史家・民俗学研究家として多くの功績を残している。高千穂神楽についての遺稿集「高千穂神楽」はいわばカグラーのバイブル。今日でも高千穂神楽を語る上でなくてはならない資料である(残念ながら絶版)。

サ行

さとびと(里人)

 高千穂神楽の世界で言う「地域住民」のこと。氏神の加護を受ける「氏子」とほぼ同義だが、宗教的意味合いを抜いた言葉とも言えるかも。神楽奉納行事は、神楽宿に降臨してきた神々が、里人(氏子)たちとともに「舞い遊ぶ」という意味を持っている。このため、本来「見物人=里人」であった。行事の観光化が進むにつれ、「見物人=観光客≠里人」という現実とのギャップがさまざまな問題を引き起こしている。これを是正するためにも、観光客にも「一夜限りの里人」たらんとする姿勢が求められている。詳しくは「高千穂神楽拝観心得之条」参照。

しし(宍・猪・鹿・獅子)

 高千穂地方で日常「シシ」といえば一般にイノシシ(猪)を指すが、夜神楽で単に「シシ」と言えば舞に登場する「獅子舞」のシシ。岩戸地域では「住吉」、その他では「山森」の舞で登場するのが普通。地区により、1頭のシシを1人で舞うところと2人で舞うところ、登場するシシが1頭のところと2頭のところがある。地区によってはこのシシが集落の各戸を回る風習があり、これが独立の芸能としての「獅子舞」の原型とも言われる。 ちなみに古い日本語の「シシ(宍)」の原意は「獣(主にシカ、カモシカ、イノシシ)」または「獣肉」。「ライオン」を意味する漢語「獅子」と混同されやすいが、本来は別語のようだ。


シシが登場する「山森」の舞い(2002年1月、河内神楽にて)

ししなべ(猪鍋)

 イノシシの肉を使った雑炊。これも夜神楽の夜食などで出される料理の一つ。神楽開催期は猟期でもあるので、地元で仕留められたものであるのが普通。

しば(柴)

 神聖な樹木として神事一般に用いられるサカキ(榊)のこと。植物学的に厳密に言うと、ツバキ科の常緑樹・サカキとヒサカキの2種類が昔から神事に使われて来た。高千穂では「オジャカキ(雄榊)・メジャカキ(雌榊)」という呼び方があり、これが本来の「サカキ」とヒサカキのことのようだ。現在高千穂で使われている柴(榊)のほとんどはヒサカキのほうで、本来のサカキのほうは資源枯渇の状態。神楽では、外注連や内注連など神楽宿の飾り付け枝を束ねた「乗り柴」、小枝が舞の小道具(採り物)、神官がお祓いで使う大玉串、関係者が神前に捧げる玉串…と、いろいろな形で使われている。

  
柴を束ねた「乗り柴」の使われ方。右が「柴乗り」、右は「入れ柴」(いずれも2001年12月、浅ヶ部神楽)

しほう(四方)

 東西南北の方角。ただし、実際の地理的方角とは無関係に、神楽宿ではこの「四方」が二通り定められる。神楽宿は間口に向かって右を東、左を西とし、これに従って棟飾りが飾られる。また、神庭では神棚側が東で、見物人席側が西、したがって、神棚に向かって右が南、左が北となり、これに従って内注連が作られる。「飾り着けの謎」参照。《関連語》しほうわり

しほうわり(四方割り)

 神楽舞では同じような動きを何度も繰り返すことが多い。その多くが東西南北の四方の神々に対してそれぞれ同じ舞を奉納する「四方割り」と言う舞のパターンらしい。また舞が四方に加え「中央」にも向けられる「五方」、東西南北とそれぞれの間に向けられる「八方」というパターンもあるらしい(が、栗原にもまだ判別できない)。また、俗に「二方割り」と呼ばれるパターンもあるが、これは四方割りが省略されたもの。《関連語》しほう

しめ(注連)

 正月飾りの「しめなわ」の「しめ」だ。僕はそれを「注連」と書くことを知らなかった。そして、いわゆる注連縄以外にも様々な「注連」が存在することを、この神楽を通じて知った(外注連、内注連…)。正月飾りはあくまで「注連」の一型なのだ。一般には、聖域を区分けするもの…と考えてよいのだと思う。そういう意味で多用されれるのは「七五三の注連」と呼ばれるもので、高千穂では「七五三縄」と書いて「しめなわ」とも読む。詳しくは「飾り着けの謎」参照。

じゅっしゃだいみょうじん(十社大明神)

 今日の高千穂神社の旧称。「鬼八伝説」のヒーロー&ヒロインであるミケヌとウノメ、その8人の子神の計10神を祭ったことがその由来。かつては親しみを込めて「十社さん」と呼ばれたという。鬼八伝説については別項参照。

しょうちゅう(焼酎)

 高千穂に限らず、九州中南部で飲まれる代表的な酒類といえば焼酎。「いも」が主流になる南部各地と異なり、高千穂町一帯では「そば」「麦」「こめ」「とうきび」「いも」と、あらゆる材料が使った焼酎が町内各地のメーカーで生産されている。なお、宮崎県内では通常消費される焼酎は20度。焼酎が神事にお神酒として使われる事はないが、カグラーが持参する奉納品や「まかない・もてなし」として神楽においても欠かせない。奉納については「拝観心得之条」参照。《関連語》おみきかっぽざけきもく

酒店の店頭に二升を束ねた焼酎が並ぶのは、高千穂の夜神楽シーズンの風物詩。(撮影協力:小手川酒店)

せんぐまき(饌供撒き)

 一般に用いられる方言で、いわゆる「モチまき」のこと(「饌供」…食物の供え物)。神楽においては「御神体(酒こし)」の舞の直後や、すべての舞の奉納が終了した後などに、これが行う地区がある。モチは小さな四角い切り餅のことが多いが、地区によっては丸餅、専用の既製品(天岩戸神社には柔らかい餅菓子「御神饌/力餅」がある。オリジナル品?)、飴や菓子類やミカンなどがまかれることもある。地区によってはわざとモチ粉を過剰にまぶしたモチをまき、最前列に座っていると粉だらけにされる。

タ行

たからわたし(宝渡し)

 舞が終わった後、舞い手と神官(役の舞人)や神楽宿の主などが向き合って整列し、舞い手から舞いに使った小道具を宝として授かる儀式。「地固」・「弓正護」などの演目で最後に行われる。

だごじる(団子汁)

 高千穂地方などこの辺りの山間部各地に伝わる素朴な料理で、粉を練って作った「ダゴ」が入る。ただし、その内容は必ずしも一様では無い。「豚汁」の豚肉の代わりに粉を練り円盤形(球形ではない)に整えた「団子」が入っていたり、うどんのようなものだったりする(正直、栗原にもこの土地における「うどん」と「だごじる」の明確な区別がいまだにつかない)。神楽の席でまかないとして出されることもある。

とだて(戸立)

 神楽宿では一晩中間口を開け放してあるのが一般的で、これは「外注連」から「みどりの糸」を経て「内注連」へと神々が降臨するのを妨げないためらしい(「飾り付けの謎」参照)。また、行事の中でも「神楽せり」「柴入れ」「のり柴」など、屋外(外注連の周辺)で行われる部分もある。これに対して、屋外での行事を省略し、神楽宿の間口を閉め切ることを「戸立」と言い、一般にこれを嫌った。ただし、地区によっては「戸立」が標準だし、天候の関係で止む無く「戸立」となることも。《関連語》かぐらせり

ナ行

なおらい(直会)

 神に供えた御神酒や食物の「おさがり」を頂く席で、一般に神道の祭式に伴う飲食の席の総称。神楽では、舞人たちの食事(まれに簡単な御神酒上げだけのこともある)、特に「式三番」の後の神事に続いての席を指す(「日程の謎」参照)。その間は見物人にも何らかの飲食の便宜がはかられることも。ただ、それについては「高千穂神楽拝観心得之条」参照。《類語》よしゃく

夜神楽の途中で行われた直会。(2003年1月、黒仁田神楽にて)


にしめ(煮〆)

 厚揚げ、各種野菜、たけのこ、ゆで卵、昆布巻き…などの材料を煮込んで冷まして味を染ませた素朴な料理。高千穂地方では日常的な惣菜であると共に、神楽のまかないでも欠かせないもの。「高千穂料理で一番美味しいものは」と尋ねられたら、栗原は「夜神楽で出される煮〆」と答える。

ハ行

ぼうじゅつ(棒術)

 日本の伝統的武術の一つだが、高千穂には「高千穂棒術」と呼ばれる棒術の流派(戸田流ほか)が受け継がれている。高千穂神楽の一部地域では「神迎え」の「道行き」の隊列に警護役として参加するのが慣例。長刀(なぎなた)も使われる。「神迎え」については「日程の謎」参照

マ行

まい(舞)

 日本語には「舞踏」を意味する語として「舞」と「踊り」の二つの表現がある。辞書によると、元来は旋回的動作を主とするのが「舞」、跳躍的動作を主とするのが「踊り」、と呼んだらしい。高千穂神楽の場合、この意味では演目の多くが「舞」であるが、明らかに「踊り」に属する演目も含まれている(「八鉢」「杵舞」など)。ただ、神楽においてはそういった動作の違いに関わらず、全て「舞」と呼ぶのが慣例。

まいあげ(舞い上げ)

 各演目(番付)の舞の終盤の部分。特に一部の演目において(「岩潜」「本花」「五穀」「御神体」など)、複数の舞手で舞った後、最後にひとり舞が披露される事があるが、この部分を指して「舞い上げ」と呼ぶ事が多い。

まつり(祭)

 高千穂地方にはいろいろな伝統的な「祭」が残り、近年イベント的に企画されたものまで含めると、数は多い。だが、年間最大最重要の「まつり」といえば、それぞれの地区(村)の夜神楽奉納だ。で、地元の人々は夜神楽奉納行事を単に「おまつり」と言い表すことが多々ある。特に、神楽宿での行事とは別に、同集落の家々で他地区の縁者、時には初対面の観光客をも招いて開かれる宴席は「おまつり」と呼ばれるようだ。《関連語》かぐらよばれ

もんどう(問答)

 荒神(神面をつけた舞人)と神官(の役の舞人)が向き合って定型の文句で言葉を交わすシーン。「地割」や「御柴」の舞などで行われる。

ヤ行

よしゃく

 一般に使われる方言で、「飲食のまかない・もてなし」くらいの意味。もちろん神楽に際しても使われる。栗原は個人的に「神楽宿で撮影より飲食を重視する状況」を指して「よしゃくモード」と呼んでいる。ただし、神楽宿で見物人にあついもてなしがあるとは限らない。詳しくは「高千穂神楽拝観心得之条」参照。《用例》「よしゃくもでけませんで/よしゃくがわりいて、すまんの」(大したおもてなしもできず、申し訳ありません)・「こんうちは、よしゃくがええのぉ」(この家はもてなしが豪勢だ)《類語》なおらい

「高千穂神楽の夜は永く」表紙へ  「自然派宣言!」へ


このページに掲載されている文章、画像の無断転用・複製を禁じます。Copyright © 2002-7 Tomoaki Kurihara. All rights reserved. (Revised on 4, Nov., 2007)