先だって高千穂町に「インターネットカフェ」がオープンした。宮崎県北初だという。そしてネットカフェとしての営業に併せて、パソコン教室も始めたようだ。インターネットどころか、パソコンにすら馴染みのない住民が多い高千穂にあって、パソコンを購入しなくてもパソコンとインターネットを体験できるのだから、画期的と言って良いだろう。
僕がパソコンに電話回線をつないで「電子メール」を利用するようになって約8年になる。そんな僕でも、近年のパソコンとインターネットの普及の早さには、正直驚いている。コストは安くなり、扱いも容易になった。パソコンと通信システムの高性能化は、音声や動画など、パソコンとインターネットの利用のあり方をも変えようとしている。
今どきのインターネットを快適に利用しようと思えば、通信容量が桁違いに大きく常時接続が可能な高速通信回線「ブロードバンド」が欲しい。延岡市などではすでにケーブルテレビ回線を使ったブロードバンド接続が普及しているようで、本当にうらやましい。一方、高千穂で本格的なブロードバンド網が全域に整備されるにはまだ数年を要しそうな気配だ。
地方は都市部に比べ物流、情報、各種サービスなどの点でいろいろ不便が多いものだ。道路をどんなに整備しても都市との物理的距離は縮まらないし、どんなに都市化を進めてもやはり都市の便利さにはかなわない。便利さだけを求めるなら、はっきり言って都市に出たほうが良い。
そんな中で僕は福岡から高千穂に移り住んだ。それはもちろん、僕が求めているもの(クマ、そして自然と野生動物)が都市になく、ここにはあるからだ。
だが、駆け出しの写真家としては、まず自分の作品を世間に認めてもらう必要がある。売れない本を出版したり、金にならない写真展を開いたり…出版社やマスコミ相手の売り込み活動が不可欠だ。だが、地方に拠点を置いたのではそれは難しい。無名の写真家が地方に移り住むなんて無茶な話だ。…インターネットがない時代はそうだった。
僕は、インターネット上に開設しているホームページで、「クマ探し」の進行状況や撮影した写真を一般公開している。これは僕にとって看板や店舗の代わりだ。読者からのメッセージは、日本全国はもちろん、時には海外からも届く。このホームページを通じて、マスコミ各社は僕の活動に注目してくれた。全国のクマ関係者は「九州の栗原」を認知してくれた。着実にファンも増えている。
見ず知らずの相手から、仕事や取材の依頼が電子メールで来ることも今や珍しくない。原稿や写真ならメールで送ることも可能なので、インターネット上のやり取りだけで仕事が完結する事だってある。相手が遠方でも電話代や送料は気にならない。
ひとたびインターネットの世界に入れば、相手が東京だろうが、ロンドンだろうが、そこに物理的距離感も、立地の優劣もない。地方で仕事をしたい人間にとって、これは強力な武器だ。だからこそ、インターネットを中心とした「情報技術(IT)革命」は地方にこそ大きな意義がある。
この町には都市にはない魅力があふれている。さらに余所者に対しても寛大な気質。僕のようにこの地に移り住み、仕事をしたいと考える人は他にもいるはずだ。そういう人たちが集えば、今までこの町になかった新しい産業を生み出すかもしれない。新しい方法論で既存の産業を発展させるかもしれない。
しかし、そのためにどうしても今整備しなくてはならないもの…それは安くて快適なインターネット環境・ブロードバンド網だ。
IT革命は地方から。新しい「地方のあり方」を創りあげるためにも。
(夕刊デイリー新聞2002年4月6日「エッセーひろば」掲載)
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