本紙でも紹介して頂いたが、6月中旬、僕が住んでいる高千穂町岩戸の小学校に招かれ、3年生と4年生のみなさんを相手に講話を行った。「地元地域の野生動物」という講話のテーマは、子供たちからのリクエストだったそうだ。
小難しい話をしても、このくらいの子供たちには伝わりにくい。そこで僕が用意したのは今までの撮影活動で撮りためた高千穂の動物たちの写真、そして町教育委員会からお借りしたシカの角やニホンカモシカの頭骨などの標本資料。いろいろな動物たちの実際の姿を写真で見てもらったり、シカ角に実際に触ってもらうなどして、子供たちにできるだけ動物の印象が残るよう心がけた。
今回、写真で動物たちの姿を紹介するとき、僕はまず写真を見せて、子供たちが知っているかどうかを聞いてみた。すると、さすがは高千穂町でも山沿いの地区に暮らす子供たちで、シカ、イノシシ、タヌキ、キツネ、イタチ、ノウサギあたりは難なく言い当てた。特にシカは実物を見た経験のある子どもたちが多かった。
ニホンカモシカは大人でも実際に見たことのある人は少ないが、子供たちでも名前くらいは知っていたようだ。
イタチに似たテンはまったく知らないようだった。一般の大人が見ても「イタチのでかいやつ」としか思わないだろうから、これは仕方ない。
もう一つ、「ごく普通にいる動物だが、多分これは知らないだろう」と思っていたある動物の写真を見せると、予想通り誰からも答えが出て来ない。一見するとタヌキに似ているが、よく見れば顔立ちや毛の模様は全く違う。直前に本物のタヌキの写真を見せていたためか、誤解する子供たちはいなかった。
正解は「アナグマ」だ。
この動物の名前を出すと、「ラスカル」で知られる外国産のアライグマと勘違いする人も多いが、「アナグマ」はれっきとした日本産の野生動物だ。それも、身近な里山などに普通にいる、ごくありふれた動物。
にも関わらず、この動物の知名度は極端に低い。タヌキやキツネ、ウサギなどと異なり、アナグマは昔話にすら登場しない。昔から馴染みがなかった証拠だろう。子供たちが知らなかったのは当然だ。
イヌ科のタヌキとイタチ科のアナグマは生物学的にはかなり縁遠い動物なのだが、姿かたち、そして習性がとても似ている。そしてアナグマが掘った古い巣穴に、穴を掘らないタヌキが住み着くこともある。こういったことから、タヌキとアナグマは混同されやすい。
「タヌキには、ウマイのとマズイのがいる」なんて話もあるが、「タヌキ鍋」などで食用にしたり、「タヌキ油」と呼ばれる民間薬となったのは、どうやらアナグマのほうらしい。このタヌキとの混同こそが、アナグマの知名度の低さの原因のようだ。
タヌキとアナグマの混同を象徴するのが、「むじな(狢)」という呼び名だ。「同類」を意味する「同じ穴のムジナ」という言葉なら、お馴染みだろう。
だが地方によってタヌキを指したり、アナグマを指したり。一応、東日本ではタヌキ、西日本ではアナグマを指す傾向にはあるようだが、一概には言えず、地域によっては両種を指したりするので、厄介なこと極まりない。
アナグマの知名度の低さや「むじな」の語の混乱は、身近な自然や生き物に対する関心の低さを象徴しているのかも知れない。自然派の写真家として、また環境教育の指導者として、あるいはクマ探し屋として、僕が人々に伝えていきたいのは、まさにそんな「身近な自然の中の、みんなが知らない事実」なのだ。
3年前、高千穂町に移住したのを機に、自分の活動の拠点となる事務所を「MUZINA Press(むじなプレス)」と名付けたのは、そんな思いからだった。
僕の講話や写真を通し、子供たちの自然や野生動物への興味が少しでもふくらんでくれれば、この上なく嬉しい。先日の講話の後、学校から子供たちの感想文が届いた。それを見るかぎり、子供たちなりに僕の思いを十分に受け止めてくれたようだ。よーし、いいぞぉ!
(夕刊デイリー新聞2004年7月17日「エッセーひろば」掲載)
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