暑さと給水不足


 今年の夏は格別に暑かった。

 例年だと、山里の朝夕の涼しさにいくらか助けられるのだが、今年は寝つけないほど蒸し暑い夜を何度も経験した。

 猛暑の影響で、全国的に「熱中症」で病院にかつぎ込まれる人が多かったようだ。「熱中症」とは高温や強い日差しなどが原因で起こる、いわゆる「熱射病」や「日射病」のこと。

 僕は熱中症では深刻な事態を経験したことはないが、一歩手前のひどい脱水状態なら一度経験している。あれは、3年間ほどアフリカで生活していたころだった。

 僕が勤務していた国立公園は低地にあったため、乾季の最高気温は40度に達した。強い日射しに照らされた地面は、本当にやけどしそうな熱さだ。

 空気は極端に乾燥し、汗は流れる間もなく蒸発する。じっとしていても身体から水分が抜けて行くのがわかる。

 一般に乾燥地では、日中は暑くても朝夕は涼しくなるものだ。だがこう暑いと、昼間に熱せられた地熱が夜になってもなかなか引かない。

 僕がその公園に赴任したのは、あいにくそういう一番暑い季節だった。連日の熱帯夜、夜中に暑さでうなされるようにして目が覚めた。最初は単に暑さに慣れていないせいだと考えたが、ある夜、またしても深夜のベッドの上で目覚めた僕は、もうろうとしつつも不思議なことに気がついた。

 いくら暑いとはいえ、日没から明け方に向かって徐々に気温は下がっているはずだ。より気温が下がった深夜に、なぜ暑さで目覚めるのか?

 無性にのどが乾いているのに気付き、ベッドから起き出してカップ一杯の水を飲んだ。ほっと一息ついて1〜2分後だったと思う。全身の毛穴から汗がザーッと噴き出すのを感じた。

 なんと、汗が完全に止っていたのだ。給水不足による脱水状態。日中の水分補給には気を付けていたのだが、夜は油断していた。次の夜から、寝る前にカップ2杯、500mlほどの水を飲むようすると、朝まで熟睡できるようになった。給水不足の恐ろしさを教えられた体験だ。以来、アフリカでも日本でも、僕は暑い季節の給水には人一倍気を付けるようになった。

 だが、周囲にはやはり水分補給が足りていない人も多い。そもそも給水の目安が分かっていないように思う。猛暑の夏に熱中症を引き起こしている要因のひとつだろう。僕からアドバイスする「猛暑時の給水の目安」はこうだ。

 「トイレに行かなくなったら、ヤバいと思え。」

 人間の身体と言うのは、時々尿意を覚えるくらいが健全な状態だ。長時間にわたって尿意を感じなくなったら、他に自覚症状がなくても、すでに脱水状態に入っていると考えたほうが良い。そうならない程度に、こまめに水分補給を心掛けることだ。

 ただ、トイレに行きにくい状況で意図的に水分補給を控える例もある。特にトイレで苦労する女性に多い。これは自ら脱水状態に身を置くのと同じで、とても危険だ。

 こまめに水分補給するに越したことはないが、どうしてもそれができない状況にあるひとには、こうアドバイスしたい。

 「せめて休憩時だけでも、トイレに行きたくなるまで給水を続けること。」

 こういう時に「のどを潤す程度」の補給では、身体が持つはずがない。尿意を感じるまで、しっかりと水分を取るようにしたい。


 余談になるが、誤解を招かないために、「アフリカは暑いところ」という一般的なイメージは、ここで明確に否定しておきたい。

 アフリカの都市の多くは内陸の標高の高い所にある。例えばケニアの首都ナイロビなど、海岸からは400kmも離れているし、標高は1700mほどもある。

 だから、空気は乾燥していて、夏でもカラッとした暑さ。猛暑になる標高500m以下の低地や沿岸地域は別として、日本の気候より過しやすいものだ。


 (夕刊デイリー新聞2004年9月11日「エッセーひろば」掲載)


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