監督:本広克行
脚本:戸田山雅司
出演:安藤政信 鈴木京香 内山理名 寺尾聰 八千草薫 松重豊
相手の気持ちが読めてしまう能力者の話はゴマンとありますが、その人の気持ちが他人に筒抜けでしかも本人はそれを知らないと言う設定は珍しくとても新鮮ですね。もし現実にそういう能力者”サトラレ”がいたとしたらまず間違いなく気味悪がられて世間から排除される存在になるでしょうが、そのサトラレは例外なく天才で、国家的にも財産であり保護されるべき存在であると言う設定がまたこの物語の妙を生んでいます。
国家はその財産であるサトラレが自分の能力を知り苦しむことを避けるために全力で知らないふりをし、まわりの人にもそれを徹底させます。サトラレの一生の間24時間体制で彼らを監視し、サポートしてその能力を伸ばすための陰なる努力をし続けているのです。そのサトラレ保護組織の面々が主人公のサトラレの安藤政信君が普通に(と、本人が思うように)暮らしていくために奮闘する様はとても楽しいです。あまりに漫画的でやりすぎの感じも多少あるのですが、それはそれとして気楽に観れば乗り越えられる範囲です。
話の中盤で安藤君がサトラレであるがゆえの悲劇に見舞われるのですが、本人はそれが自分がサトラレであるがゆえの悲劇だと言うことには気がついていません。その真の悲劇性に気がついているのは、本人以外の劇中の出演者たちすべてと、そして観客です。
この構図はとても興味深いものでした。普通どんな物語でも出演者のごく少人数だけの想いに観客はシンクロして笑ったり泣いたりするのですが、この映画では主人公以外のすべての出演者たちと観客の想いがシンクロするのです。これはクライマックスでより顕著になります。安藤君の想いがこぼれおちて他の人たちすべてを包んでいく過程は、スクリーンをも超えて観客も巻き込んだものとなっていきます。劇場で観ている観客と、劇中で見られている一人を除いたすべての出演者の想いがほぼ一致します。スクリーンと言う壁を取り除いたとも言えるでしょう。まさに体験する映画でした。
ただし、すべての人がこの体験をしたとは思いません。明らかに涙を誘うための演出です。それに乗ることができる人もいれば、引いてしまう人もいるでしょう。でもできれば、劇場中の人が劇中の人とシンクロしてみんなで泣けたらいいなと思いました。
この映画、設定が一番の勝利要因ではありますが、その上で成り立つストーリーとしても文句なく楽しめます。安藤君、鈴木京香さん、八千草薫さんら出演者たちもみなすばらしい。僕は大好きな映画です。多くの人に映画館で体験して欲しいです。