「深呼吸の必要」


監督:篠原哲雄
脚本:長谷川康夫
出演:香里奈 谷原章介 成宮寛貴 金子さやか 久遠さやか 長澤まさみ 大森南朋  北村三郎 吉田妙子


 最初から最後まで穏やかな、僕の好きなタイプの映画。大きな事件はほとんどおこらない。一人一人の想いやその姿だけで感動を伝える。CGも(おそらく)使用していない、ただただ役者とカメラだけで描いた傑作です。

 沖縄地方のとある島に、期間限定でサトウキビ刈りの住み込みアルバイトに集まった6人の若者達(あとから1人加わって7人に)。彼らの前に広がるのは見渡す限りの圧倒的な広さの畑に生えそろったサトウキビ。ただただサトウキビを刈りつづける生活の中、彼らは何を見つけるのか。
 彼ら1人1人にはそれぞれ地元を離れ、遠くの島で過ごしたいような理由がある。その理由は大小様々なものだと推察されるが、全員の過去が明らかになることはない。何人かについてはその傷が映し出されるけど、普通なら一番大きな問題を抱えててもいいはずの主人公的立場の女性ですら、その過去はほとんど明かされないのです。またそのそれぞれの傷がどう癒さされて問題がどう解決するのかというわけでもない。すなわちここで描かれるのは、ただひたすら作業に打ち込み仲間と触れ合うことで彼ら自身がどう変わっていくか、ということなのです。
 なにも起こらない映画です。でも一人一人の中では多くのことが起きているんですね。その一つ一つがゆるやかにしかも確実に伝わってくる、その描写がとにかく素晴らしいんだ。人によっては退屈な映画かとも思うけど、僕にはとても感動的でした。

 例えば1人が無神経に他のみんなの核心を突きかけるセリフを吐く際の空気の流れ。他の誰かの傷が明らかになる際の皆の優しさ。力を合わせて少しずつ刈り上げてサトウキビがだんだん減っていくことへの喜び。怪我をした仲間を皆で助けようとする一体感。みんなを見守るおじいとおばあの懐の広さ。そして最後のサトウキビを刈り上げるときの達成感。
 どれもみな、言葉もないほどの素晴らしさ。この映画は心に強く残りますね。

 役者的には長澤まさみさん&大森南朋さん目当てだったのですが、正直全然期待していなかった主役の香里奈さんがとてもよかった。どうもすみません。

 篠原監督は最近はあまりこれだ!と言うのがなかったけど、久しぶりによかった。そう言えばデビュー作はひたすら草を刈る「草の上の仕事」だったね。あれも面白かったけど、今回はこの路線の集大成って感じ。



2004.6