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シネシャモ

ニコニコ大会
2004年1月 第10回上映
第1回 Movies Begin 第2回 忘れじの面影 第3回 ピアニストを撃て
第4回 荒武者キートン 第5回 続・夕陽のガンマン 第6回 ヒズ・ガール・フライデー
第7回 新婚道中記 第8回 赤ちゃん教育 第9回 サムライ

Slapstick Encyclopedia というDVD5枚組ボックスセットを見ながらスラップスティック・コメディの歴史を概観する予定でしたが、そのボックスセットには50数本の短編が収められており、全部で18時間ほどあるので、それらを見るのが精一杯で、スラップスティックを体系的に勉強する余裕が無くなりました。

でも、18時間も見ていると、スラップスティック・コメディがどういうものか、なんとなく分かったような気がします。チャップリンやキートンの名作だけでなく、こういう、あまり洗練されていない雑多な作品も見ておいたほうが、ダイナミックにスラップスティックや当時の映画が理解できると思います。


今回一番のお気に入りはチャーリー・チェイスで、少々高かったけど彼の伝記を買いました。それから、マック・セネットやちびっ子ギャングの本も買うつもりです。実は、以前から何冊かスラップスティックの本を持っているのですが、今回はほとんど生かすことができませんでした。毎年正月にはニコニコ大会を行うつもりなので、こうした本は来年以降に生かすことにします。




スラップスティックとは

ドタバタ喜劇。体を張って笑わせる劇。スラップスティックとは「サーカスやパントマイムで道化師が相手役をひっぱたくのに使う、大袈裟な音がするように仕掛けしたステッキのことである」(双葉十三郎、キネ旬発行の世界の映画作家26「バスター・キートンと喜劇の黄金時代」の「アメリカ無声喜劇の展開」より)。「スラップスティック・コメディ」と言うこともあるけど、「スラップスティック」だけでドタバタ喜劇の意味になります。

人名辞典

マックス・ランデ Max Linder (1883-1925)
世界的に有名になった最初の喜劇映画スターと言われている。(今回、調べようと思いましたが、マック・セネットやチャーリー・チェイスに興味を持ったので、また機会があればということで。)

マック・セネット Mack Sennett (1880-1960)
カナダに住むアイルランド系の家庭に生まれる。17歳のとき、一家はアメリカに移住。鉄工所で働いていたが、オペラ歌手にあこがれて舞台俳優となり、1909年に映画界に入る。バイオグラフ社に所属し、同社のD.W.グリフィス監督と親交を深める。1911年から監督も努めるようになった。1912年、キーストン社が設立され、セネットが制作指揮を任された。
初期セネット作品の常連: フォード・スターリング、メイベル・ノーマンド、フレッド・メイス、ロスコー・アーバックル、マック・スウェイン、チャールズ・マーレイ、ボビー・バーノン。
特徴: おっかけ、パイ投げ、キーストン警察隊(コップス)、水着美人。

1914年、舞台で活躍していたチャップリンを映画界に呼ぶ。さらに、バスター・キートン、ベン・タービン、ハリー・ラングドンを輩出。

1915年、グリフィス、トマス・H・インスとともにトライアングル社に参加。1917年解散。

サイレント末期(1920年代終り)まで喜劇の王様だった。

マック・セネットとメイベル・ノーマンドは恋仲だと言われていたが、マック・セネットが同性愛者だということをカモフラージュするためだったという説あり。

即興。ストーリーはお構いなし。どんどん脱線していく。近くの池で水を抜く作業が行われるのを利用して、水を抜かれた泥の底でドタバタをやる。洪水のニュースを聞いて、役者二人を連れて現場で映画を撮ろうとしたトリュフォーに似ている(ちなみに、彼らが現場に向かったときは洪水が引いていて、いくらか映画を撮影したが作品になりそうにないので、ゴダールにフィルムを渡したら、ゴダールが完成させた)。


メイベル・ノーマンド Mabel Normand (1894-1930)
ぽっちゃりしてて、大きいタレ目の可愛いコメディエンヌ。演技が自然だし、動きも活発。画家のモデルを経て、1911年、16歳のときバイオグラフ社に入り、グリフィスの映画に出演。1912年、セネットがキーストンに参加するためにバイオグラフを離れると、彼女も一緒についていく。1917年までセネットの短編映画に100本以上出演する。1914年、弱冠20歳で自分が主演する作品の監督を始める。共演していたチャップリンは彼女に指図されるのを嫌い、キーストン社を離れる。チャップリンが去ったために、メイベルは1915年からロスコー・アーバックルとの共演が多くなる。彼女は長編に主演するのを望み、セネットから離れ、1918年にパラマウントで1本作り、その後MGMに移る。1922年にスキャンダルが起こる。監督ウィリアム・デスモンド・テイラーが殺された事件に巻き込まれたのである。それで人気が凋落。1930年に結核で死去。

ロスコー・アーバックル Roscoe “Fatty” Arbuckle (1887-1933)
伊集院光のように顔がツルンとしたデブで、大きな赤ちゃんみたい。ボードビル出身で、1913年ごろからマック・セネットの映画に主演し始める。1914年からは出演作の監督も行う。1917年に自らのプロダクションを設立し、ボードビルからキートンを引き入れる。1921年に新進女優の殺害容疑をかけられる。疑いは晴れたものの、人気は戻らなかった。

ハリー・ラングドン Harry Langdon (1884-1944)
白塗りの顔の写真を見ただけで、気味悪さが伝わってくる。アーバックルのように赤ちゃんがそのまま大きくなったような感じだけど、アーバックルが活発な赤ちゃんなのに対し、こっちは、いつもモジモジしていて、何かにおびえると、すぐ固まってしまう。その固まったときの間がおかしい。画面全体が凍りついた感じになる。

ハル・ローチ Hal Roach (1892-1992)
プロデューサー。1915年ごろからハロルド・ロイドの映画を制作。トーキーになってもスクリューボール・コメディなどをプロデュースした。セネットがスラップスティック喜劇映画の創始者なら、彼はそれを応用した。
常連俳優: ハロルド・ロイド Harold Lloyd、ちびっ子ギャング Our Gang/Little Rascals、チャーリー・チェイス Charley Chase、ローレルとハーディ Laurel & Hardy
常連監督:レオ・マッケリー Leo McCarey、ジョージ・マーシャル George Marshall、ジョージ・スティーブンズ George Stevens


チャーリー・チェイス Charley Chase (1893-1940)
この人はもっと評価されていいと思う。外見は似ていないけど、感じがケイリー・グラントに似ている。紳士だけど、おかしい。キザったらしいことをしても、キザに見えない。最初はマック・セネットの映画に出演し、1914年のチャップリン作品に何本か出演している。アーバックルやフォード・スターリングと共同監督も行う。1921年にハル・ローチと契約し、20年代中期にはレオ・マッケリーと共同監督でCrazy Like a Fox, Bad Boy, His Wooden Wedding, Mighty Like a Moose, Dog Shy といった短編を作る。トーキーになってからも出演を続けるが、酒好きがたたって1940年に46歳で死去。

Little Rascals または Our Gang
ちびっ子ギャング。(近いうちに本を買う予定です。ひょっとしたら来年1月に特集するかも。)


DVD Slapstick Encyclopedia
Slapstick Encyclopedia は5枚組DVDです。1枚に2巻ずつ収められており、全部で10巻あります。購入する前は、パイ投げシーンや追っかけシーンを編集したものなどが収録されたDVDと予想していたのですが、実際は、10分から20分ほどのノーカットの短編が50数本収められたものでした。10ページほどの小冊子が付いています。

Vol. 1: In the Beginning: Film Comedy Pioneers
(創生期: コメディ映画の先駆者たち)

1. One Too Many (1916)
ローレルとハーディのオリバー・ハーディがまだスタン・ローレルと組む前の作品。この作品までに、すでに94本の短編に出演。フロリダ州ジャクソンビルの Vim Comedy Film Co. という会社が制作。Plump and Runt シリーズの一作。Plump がハーディで、Runt は Billy Rage。おじがやってくるので、独身のハーディが妻と子供をどこかから調達しなければならないというお話。すぐ、なぐったりけったりする。舞台芸。作品全体は、せわしないだけで、話の展開もよく分からないので、疲れる。

2. The Wrong Mr. Fox (1917)
Klever Komedies 制作。Victor Moore 主演。ずんぐりした若い小男。いい加減な役者が牧師と間違えられテンヤワンヤ。

3. Mr. Flip (1909)
エッセネイ社制作。ベン・ターピン Ben Turpin 主演。女好きのベンが食堂や理髪店などで女従業員にセクハラするが、逆に相手からやっつけられる。

4. Alkali Ike's Auto (1911)
エッセネイ社。Augustus Gorney 扮するアルカリ・アイクは当時人気があったらしい。エノケンのように身が軽そうな小柄な男です。今回はカウボーイに扮しているけど、いつもカウボーイ役かどうかは不確か。一人の女性を二人の男が取り合う話で、アルカリ・アイクは、自分の馬二頭で自動車を入手し、彼女とドライブに出かける。途中、車が故障して修理していると、彼女を乗せたまま車が勝手に動き出し、最後には爆発する。大柄な彼女は小柄なアイクを抱え、お尻を叩いて、お仕置きをする。

5. Fox Trot Finesse (1915)
10年代に人気があったシドニー・ドリュー夫妻の作品。スラップスティックというよりシチュエーション・コメディとかホーム・コメディとかいうものに近い。奥さんがフォックス・トロットという、たぶん当時流行の踊りに夢中で、亭主と踊りたくてしょうがない。亭主はウンザリしていて、足を怪我したフリをして女房の誘いを避けようとする。女房は亭主の仮病に気づき、「母が看病に来る」と亭主に告げる。亭主は義母が大の苦手なので、しかたなく女房の踊りに付き合う。太めで明るい女房が踊りたくてしょうがない様子がとてもおかしい。

6. A Cure for Poleritis (1912)
「ポーカー病の治し方」。ジョン・バニーという太った中年コメディアンは10年代前半に大人気でした。彼が扮する亭主は、ポーカーに夢中。いつも帰りが遅いので、奥さんはプンプン。亭主は、二度とポーカーをしないと誓うが、会合に出かけるとウソをついて、また始める。亭主の寝言でそれに気づいた女房は、いとこに頼んで尾行してもらう。最後は、いとこと仲間たちが警官に扮して、ポーカーをやっている場所に踏み込み、亭主を仰天させる。

7. Be My Wife (1921)
マックス・ランデ主演。世界的に有名になった最初の映画コメディアンで、チャップリンらに影響を与える。口ひげを生やした身ぎれいな伊達男。この作品は、「女房欲しさに」という邦題の長編からの抜粋。マックスは、彼女に会いたいが、彼女の叔母に嫌われているため、会うことができない。案山子になったり、音楽教師に変装したりして、なんとか彼女に会おうとするが、いつも見破られて、飼い犬に追いかけられてしまう。最後は、カーテンの陰で、一人二役で強盗を退治したように見せかけて、叔母の信頼を得る。

8. A Natural Born Gambler (1916)
「生まれつきのギャンブラー」。バイオグラフ社。バート・ウィリアムズ主演。白人の芸人が顔を黒塗りにするミンストレル・ショーというのがありますが、バート・ウィリアムズは黒人なのに黒塗り!ポーカーをしている黒人たちが警察に捕まるというお話。ドタバタよりも、顔の表情とか細かい芸で笑わせます。


Vol. 2: Keystone Tonight: Mack Sennett Comedies
(今宵はキーストン社の作品で: マック・セネットのコメディ)

1. Mabel’s Dramatic Career (1913)
マック・セネット自身が主演しているのが珍しいです。セネット家のメイドをしているメイベルは、セネットと恋仲だけど、セネットが別の女性と親しくなったので、けんかして、メイドをクビになる。都会に出た彼女は映画女優になる。別の女性とうまくいかなくなったセネットがメイベルを探しに町に出ると、彼女が出演している作品が映画館で上映されている。セネットは、映画の世界と現実の世界の区別がつかないので、メイベルが悪漢に襲われるシーンになると劇場内で騒ぎ始める。挙句の果てにピストルを取り出して、スクリーンを撃ち始める。映画館でセネットの隣に座っているのがロスコー・アーバックルという贅沢な配役。

2. Barney Oldfield’s Race for a Life (1913)
バーニー・オールドフィールドは、実在の有名なレーサー。この作品にもマック・セネットが出演。メイベルが悪漢に襲われ、線路上で鎖につながれ放置される。それを知った恋人マック・セネットが彼女を救出するため、レーサーのバーニーに頼んで車をすっ飛ばす。汽車が次第に近づくのと、車が追いかけるのをグリフィス風に交互に見せて、サスペンスを盛り上げる。と言いたいところですが、さほどサスペンスは盛り上がりません。

3. The Rounders (1914)
珍しくも、ロスコー・アーバックルとチャップリンの共演作。二人とも正装して金持ち風だが、泥酔している。レストランで二人が酔っ払い芸を競うのをワン・ショットで見事にとらえています。ホテルのベルボーイ役のアル・セント・ジョンを含めて、みんな、よくうしろにひっくり返ります。こういう体を張った芸人、最近あまり見かけません。

4. A Muddy Romance (1913)
近くの池の水を抜くと聞きつけたセネットが即興で作った作品。トリュフォーとゴダールの短編「水の話」を思い起こさせます。メイベル・ノーマンドを好きなフォード・スターリングが、彼女と恋人との仲を邪魔しようとします。スターリングが追いかけてくるので、二人は神父を連れてボートで池に漕ぎ出し、ボート上で結婚式を挙げます。ところがオールが落ちてしまうので、警察(キーストン・コップス)が救助に向かいます。キーストン・コップスはむやみに発砲するだけで、ぜんぜん役に立ちません。スターリングが池の排水口を開けたので、メイベルも、恋人も、神父も、キーストン・コップスも、池の底の泥の中でのたうちまわります。

5. A Movie Star (1916)
映画スターやファンというものは当時も今もあまり変わらないようです。ニッケルオデオンと呼ばれる安い映画館に行列ができています。映画館の前には主演男優の写真が飾られています。そこに本人が現れ、自意識過剰気味に写真の横に立つと、それに気づいた人々が集まってきます。

スターは一番前の席に座ります。まわりの若奥さんやオバさんたちはソワソワですが、少しうしろに座ったシェークスピア男優はバカバカしいといった顔で様子を見ています。劇場側が「主演男優がご来場しているので、あいさつしていただきましょう」というアナウンスをします。最初は断るけど、結局あいさつするというのも、よくある光景。

映画が始まると、スターのまわりの女性たちは、ことあるごとに、ため息をついたり、拍手したり、泣いたりします。シェークスピア男優は、相変わらずバカバカしいといった顔をしています。新しい客が来たので、上映を中止して、またあいさつするというのがおかしい。

映画が終わり、スターが劇場を出ると、女性たちに取り囲まれ、ブロマイドを配り始めます。そこへ彼の奥さんがやってきて、傘でぶつというお仕置きをします。逃げるスターと追いかける女房の後姿で映画は終わります。

実は、このスターというのは、二枚目ではなく、マック・スウェインというコワイ顔をした大男です。だから、まわりの女性にもてる様子や、映画館で上映されるメロドラマ映画で主人公を演じている様子が、さらに面白いものになっています。

6. Teddy at the Throttle (1917)
タイトルは、「全開のテディ」という意味です。犬のテディが女主人を助けるためにフルスピードで走るからです。後年大女優になるグロリア・スワンソンが出演しています(さらに後年、「サンセット大通り」のグロテスク女優になります)。この映画で見ると、彼女は、頭の大きさのわりに体が小柄です。Internet Movie Database によると、身長は151センチです。主人公のコメディアン、ボビー・バーノン Bobby Vernon も同じ体型をしており、157センチです。この二人のコンビで、1916年と17年に9本のコメディ映画が作られたそうです。

ストーリーは金持ちの相続人であるグロリアとボビーが管財人に狙われるというものです。たぶんワイヤーを使っていると思いますが、大柄な女性を相手に小柄なボビーが宙に浮きながら踊るのが珍妙。暴風雨のシーンが「キートンの蒸気船」を思い出させたり、ボビーとグロリアがキスしようとすると飼い犬テディが二人の間に割り込んでくるのは「キートンのセブンチャンス」を思い出させたりします(もちろん、キートン作品のほうがあと)。

"Barney Oldfield’s Race for a Life" のメイベル・ノーマンドのように、グロリアも線路に鎖でつながれます。彼女が笛を吹くと、愛犬テディがすっ飛んできて、女主人の危険を知らせにいきます。犬が主人を助けるという映画は昔からあって、1905年にイギリスで作られた "Rescued by Rover (ローバーによる救出)" は、その様子を細かいカット割りで描いているために、映画の話法の発展上、重要な作品になっています。


Vol. 3: Sennett in the Twenties
(20年代のセネット)

1. Saturday Afternoon (1926)
こわがりの子供がそのまま大きくなったような白塗りのハリー・ラングトンは、最初不気味だけど、映画を見ているうちに、だんだん慣れてきて、可愛いとさえ思ってしまいます。ウーパールーパーみたいなものかな。20年代中期の作品ともなると、画面がきれいになって、より洗練された女性が出てきます。のちにアメリカの代表監督になるフランク・キャプラが脚本に参加しているので、話のつながりもいいし、かなり面白いです。

2. Super-Hooper-Dyne Lizzies (1925)
3. Wandering Willies (1926)
4. Circus Today (1926)

3本ともデル・ロード Del Lord が監督し、ビリー・ビーバン Billy Bevan が主演し、アンディ・クライド Andy Clyde が共演しています。ビーバンは、顔が丸くて、小太りのおっさんで、口ひげが口の下まで長く伸びています。10年代のものよりもお金がかかっているし、フランク・キャプラがギャグ作家として参加しているし、いろんなギャグや仕掛けがたっぷりありますが、新鮮味がないし、アナーキーな感じも薄れています。すでにチャップリンやキートンが洗練された長編を作っていたことを考えると、なんか野暮ったい感じがします。

5. His Marriage Wow (1925)
6. All Night Long (1925)

2作ともハリー・ラングドン主演。ラングドンは、チャップリン、キートン、ロイドの次ぐらいに位置するスラップスティックのコメディアンです。今までスチール写真でしか見たことなかったけど、映画で見ると、スチール写真ほどは気持ち悪くないです。まだキャラクターが定まっていないらしくて、1年後の "Saturday Afternoon" (上記1)よりは、まともな感じです。


Vol. 4: Funny Girls: Genders and Their Benders
(おかしな女性たち)

1. The Detectress (1919) Gale Henry
ゲイル・ヘンリー(1893-1972)は、ポパイのオリーブみたいに細い女性。サッパリした感じで好感が持てます。老人が自分の発明を書いた紙を中国人に盗まれ、女探偵ゲイルが中国料理店に潜入する。2階の床が開いて1階の水槽に落ちるのが何度も何度も繰り返されて、ようやるわって感じ。20代だった1914年から1920年代半ばぐらいまで、短編映画を数多く作っています。この映画は自分のプロダクションで自分が監督した作品ということなので、才女だったのかな。トーキーになってから映画に出演しなくなったようです。

2. One Wet Night (1924) Alice Howell
アリス・ハウエルは、ツバメの巣のような髪型以外は特に印象に残らないコメディエンヌ。裕福な家庭の奥さんで、主人や召使と一緒に、「ブラウン夫妻を夕食に招待したけど、まさか、こんな土砂降りの中をやって来たりしないわよねえ」などと話していると、ブラウン夫妻がやってくる。ブラウン氏が「弾は入ってないんだろ」と言いながら、天井に向けて鉄砲を撃つと、天井に穴が開いて雨がドバーと降ってくる。床が水浸しになったので、召使がドリルで床に穴を開けると、水道管に穴を開けてしまい、下からも水が吹き上げてくる。

3. Know Thy Wife (1918) Dorothy Devore
ドロシー・デボアは、この作品を見る限り、コメディエンヌというよりも、主演男優の相手役にしか見えない。作品もスラップスティックというより、シチュエーション・コメディ。結婚したことを隠して、新妻を男装させて、自分の友人だと両親に紹介する。母親が息子の部屋を開けると、男同士がキスしているのでビックリする。母親に事情を説明したあと、母親と男装の新妻が抱き合っていると、父親がそれを見て怒り始める。

4. Rowdy Ann (1918) Fay Tincher
男まさりのアンは、男を殴り倒したり、すぐ拳銃を撃ったりするので、女学校に入れられる。そこで教えられるクラシック・バレエが怪しげ。中年の男性教師が踊るのが珍妙だし、生徒が見につける衣装も薄いランジェリーみたいで変。アンは、その衣装を着て、カウボーイ・ハットをかぶり、腰にガン・ベルトを巻き、ブーツを履くのだから、ますます変。でも、こういう男っぽい女性は、女学校でもてるものです。

5. Hearts and Flowers (1919) Louise Fazenda
まずキザな指揮者の指揮ぶりが笑わせます。その指揮者を大好きなのがルイーズ・ファゼンダで、島田珠代のように、いつも指揮者にベッタリくっつこうとします。彼女の策略で彼女のことを大金持ちの相続人と思い込んだ指揮者は、我慢しながら彼女と付き合います。キーストン社の映画で、途中、意味もなく水着美人たちが登場します。


Vol. 5: Keaton, Arbckle, and St. John
(キートン、アーバックル、セント・ジョン)

1. Fatty and Mabel Adrift (1916)
キーストン社の作品で、見れば見るほど伊集院光に似ているロスコー・アーバックルとメイベル・ノーマンド主演で、アーバックルが監督しています。助演しているアル・セント・ジョンは、アーバックルの甥っ子です(映画の中ではなく、実際に)。顔も体も細くて、頭が刈上げなので、パンクバンドのリードボーカルみたいです。とても身が軽いです。お話は、新婚のアーバックルとメイベルが海辺の家に住むと、嵐が来て家が流され、さあ大変というものです。アーバックルが夕暮れ時に魚釣りをするシーンは、逆行で撮影されており、詩情があります。

2. Oh, Doctor! (1917)
アーバックルがキーストン社を離れて作った作品。キートンがアーバックルの息子役で登場。この頃は無表情ではなく、よく笑うし、よく泣く。キートンも、アル・セント・ジョン同様、とても身軽。

3. The Garage (1920)
アーバックル、キートン、セント・ジョンが働く車修理工場でのテンヤワンヤ。このメンバーの作品、もっと見たいです。

4. The Boat (1921)
キートン主演の傑作短編。妻と幼い子供二人と一緒にボート遊びに出かけ、散々な目に会う。ボートを車庫から出すときに家が壊れるし、ボートを進水させるときに車が海に落っこちるし、浮き輪は沈むし、錨は浮くしで、もう大変。

5. The Iron Mule (1925)
スキャンダルで人気が凋落したアーバックルが変名で作った映画。甥っ子のアル・セント・ジョンが主演。数年前の作品より、たくましくなっているが、相変わらず身は軽い。キートンが長編「荒武者キートン」(1923)で使用した列車が再登場。「荒武者キートン」の列車旅行の部分だけを取り出して短編にした感じで、さまざまなギャグを織り込んでいる。川を渡る際、車輪に大きな丸太を付けて、列車を川に浮かべる。そのシーンを見ていると、けっこうお金がかかっているんだなあと感心しました。


Vol. 6: Hal Roach’s All-Star Comedians
(ハル・ローチの有名なコメディアンたち)

1. Oranges and Lemons (1923)
ローレルとハーディのスタン・ローレル単独出演作品。このボックスセットの最初に1916年のオリバー・ハーディ作品が収められているように、個々の出演作は古くからあったようですが、ローレルとハーディがコンビを組んだのは1920年代後半と、他のスラップスティックのコメディアンたちよりかなり遅い。そのかわり、彼らはトーキーになってからも活躍しました。ローレルとハーディでのローレルはボケ役だと思うのですが、ここではツッコミ役で、オレンジ生産業者の作業場を引っかきまわします。職場をメチャクチャにするので、常識人としては眉をひそめてしまいます。スラップスティックの主人公たちのアナーキーぶりは、ときとして痛快な体制批判となることがあるけれど、中小企業を引っかきまわしても、チト笑えません。

2. Get Out and Get Under (1920)
ハロルド・ロイドは、メガネをかけた優等生タイプで、こざっぱりとスーツを着こなしているので、若手エリート弁護士みたいです。それまでのコメディアンが奇妙な風貌で注目を集めようとしたのに対し、彼は超まともな風貌で常識はずれのことをします。

出演する劇に遅れそうなので車を飛ばしているうちに起こるさまざまな出来事を描いています。最初のほうで、ガレージの裏にある隣の家の菜園を車でムチャクチャにするのは、菜園を作っているおじさんが悪い人じゃなく普通の人なので、笑えません。当時のスラップスティックの主人公たちが非常識なことをするのは当たり前なので、こんなことにいちいち眉をひそめているのはスラップスティックの観客の礼儀に反するのかな。長編に出演するようになってからのロイドは、もっと好青年だと思うのだけど。チャップリンも初期は意地悪な人物だったけど、次第にやさしい人物になりました。

いろいろギャグが詰まっていますが、一番印象的だったのは、車からカバンが落ちたので、車を走らせたまま、車から降りてカバンを取りにいって、全速力で走って戻ってきて、カバンを車に載せると、またカバンが落ちたので、再び取りにいって戻ってくるというギャグです。他に車が通っていない道で、コマ落しで撮影したものだけど、それでも感心します。、

ショックだったのは、街角で覚醒剤を注射する人物が登場することで、ロイドが彼のポケットからこっそり覚醒剤を盗んで、エンストしていた車に注射すると、車は元気よく動き出します。たぶん当時は映倫がなかったんだろうけど、今では考えられない反社会的なギャグです。

3. Mighty Like a Moose (1926)
チャーリー・チェイスが主演し、レオ・マッケリーと共同監督です。レオ・マッケリーといえばトーキーになってからの1937年に「新婚道中記」というスクリューボール・コメディの傑作を作っている人で、この短編もスラップスティックよりもスクリューボール・コメディに近い傑作です。チャーリー・チェイスはユーモアのある渋い紳士で、ケイリー・グラントやデイビッド・ニーブンの先祖といった感じです。

出っ歯の夫と鼻が高すぎる妻が、お互い内緒で整形手術をします。同じ病院で手術を行った二人は、病院を出るとき互いに惹かれあい、相手が自分の配偶者だと気づかずに恋に落ちます。そんなシチュエーションからギャグが生まれてくるからシチュエーション・コメディと言っていいのでしょう。スラップスティックのラストは収拾のつかないまま終わってしまう傾向があるけれど、ここでは丸く収まります。それにしても、たんに歯と鼻を直しただけで配偶者に気づかないというシチュエーションは、音がついて、映像がリアルになった今となっては、信じることができない状況ですね。

第4巻「おかしな女性たち」の最初の短編に登場したゲイル・ヘンリーが、ポルカしか踊れない女性としてダンスパーティのシーンに出演しています。まわりがムードたっぷりにスローなダンスを踊っているのに、彼女とチャーリー・チェイスが陽気にポルカを踊っているのが傑作です。ポルカにウンザリしたチェイスが別の女性を探しているうちに、またゲイルに捕まってしまうのを足元だけで表現するショットが見事。チェイスの足が女性の足に近寄っていくと、その女性の足がどこかに行ってしまい、別の女性の足が近づいてくる。両者の足がダンスをする体勢になり、最初のうちはスローな感じでステップを踏んでいるが、すぐにポルカのステップになるのです。

4. Big Moments from Little Pictures (1924)
当時の名作映画のパロディで、ウィル・ロジャーズ主演です。コケにされる映画は、バレンチノの「血と砂」、ダグラス・フェアバンクスの「ロビンフッド」、「オーバー・ザ・ヒル」、セネットのキーストン・コップスです。

ウィル・ロジャーズは、良き時代のアメリカのシンボルで、1932年には大統領候補として指名されたほどの人気者でした。サイレントなので何をしゃべっているかは字幕で表現するしかないのですが、カウボーイ風にロープをいじりながら、恥ずかしげにしゃべる様子から人柄が伝わってきます。

「血と砂」では闘牛士を演じていますが、バレンチノと違って、とても陽気。撮影が終わると、「危険な仕事は疲れる」と言いながらグッタリした様子で高級車に乗り込みますが、闘牛は普通の牛にニセの角をつけているだけだし、尻尾にロープを結んで、うしろからスタッフが引っ張っているので、主人公に危害が及ぶことはない撮影だったことがばらされます。

きっとフェアバンクスのロビンフッドはジャンプの名人だったのでしょう。ウィル・ロジャーズのロビンフッドも、スローモーションで大げさにジャンプしていますが、実際は、地面の上に1メートル弱の間隔で置いてある石をヨロヨロしながら飛び移っているだけです。弓矢の名人でもあり、トランプの真ん中に命中させた矢のお尻に、さらに別の矢を命中させます。実は本当の名人がそばから矢を放っているというトリックなのですが、それにしても、矢のお尻に別の矢を命中させるのがバカバカしい。

「オーバー・ザ・ヒル」は、体の悪い母親が掃除の仕事をしていると、金持ちになった息子がやってきて涙の対面をするというシーンを再現しています。監督が、「本当に涙を流すなんてすごいじゃないか」と息子役のロジャーズを大絶賛していると、柱の影でロジャーズが、「やむをえない事情により、給料を半額にさせてもらう」というハル・ローチの手紙を読みながら泣いています。

最後は、マック・セネットのキーストン・コップス(警察隊)のパロディなんですが、アナーキーなスラップスティックをパロって、さらに面白くするなんて無理。計算された真似事なので、即興のリアルな迫力がなくなっている分だけつまらなくなっています。

5. Haunted Spooks (1920)
この巻の2本目と同じくハロルド・ロイド主演。ロイドは、共演しているミルドレッド・デイビスと1923年に結婚し、彼女が1969年に亡くなるまで添い遂げ、彼自身も2年後に死去。この映画では、お互い知らないのに結婚を押しつけられたという設定で、二人が初々しくて、いい感じです。

前半、ロイドが失恋して、自殺しようとするエピソードが面白いです。橋から池に飛び降りると、足首ぐらいしか水がなかったり、人がこいでいるボートの上に落ちたりします。後半、化物屋敷が舞台になると面白くなくなります。キートンの短編にも化物屋敷の話があったけど、ギャグが似たり寄ったりだし、怖くもないのにおびえてばかりで、好きになれません。ビックリしたロイドの髪がゆっくり逆立つのが少し面白いぐらい。

この作品の撮影中、小道具の爆弾が爆発したため、右手の親指と人差し指を失くします。1923年の「ロイドの要心無用」でビルの壁を登りますが、そのときも義指を付けての撮影でした。


Vol. 7: Hal Roach: The Lot of Fun
(とても愉快なハル・ローチ作品)

1. Laurel and Hardy Laugh Toons
ローレルとハーディの短編を数本まとめたものです。ローレルがハーディの向うずねを蹴ると、それがドンドン広がっていって、町中の人がそばにいる人の向うずねを蹴る事態に発展します。このパターンは、パイ投げでも繰り返されます。脱獄した二人がズボンを履き替えようとするうちに建築中の高層ビルのてっぺんまで上ってしまい、高所恐怖症の人が失神しそうなギャグを展開するエピソードもあります。高校時代、満員の映画館で彼らの短編集を見たときは笑いすぎで死ぬかと思いましたが、こうやってメモを取りながら一人で見ていると、ちっとも面白くありません。

2. Dogs of War (1923)
ちびっ子ギャング主演。彼らは Our Gang とも Little Rascals とも呼ばれていたようです。会社は後者で売り出したのに、観客が前者で呼び始めたのかな。幼稚園から小学校低学年ぐらいの子供7人ぐらいの集団です。ドラえもんの体型をしているチビでデブの男の子(そこにいるだけでおかしい)、黒人の小さな女の子(歩く姿がおかしくて可愛い)、そばかすだらけの男の子などが印象的です。1920年代半ばには、ロイドとともにハル・ローチ・プロダクションの稼ぎ頭でした。

前半は戦争ごっこで、後半は映画撮影所をひっかきまわします。戦争ごっこの舞台は空き地のはずなのに、本格的な塹壕が掘ってあったりして、ほんとの戦地みたいです。装備や戦車なども、ガラクタで作っているけれど、子供が作れるはずがないぐらい、よくできています。たぶん小道具さんが嬉々として作ったのでしょう。

仲間の女の子が「これから撮影所に行って5ドルもらうの」と言いながら母親に連れて行かれるので、他の連中もコヅカイほしさに撮影所に行きます。当然、彼らは撮影の邪魔をすることになります。ハロルド・ロイドが友情出演しています。というのも、彼の妻ミルドレッド・デイビスの弟ジャック・デイビスがちびっ子ギャングのメンバーだったからです。

3. Fluttering Hearts (1927)
今回の上映で私のお気に入りになったチャーリー・チェイスの主演作です。どういう話なのか要約できません。バーゲン会場で女性たちにもみくちゃにされるシーンと、マネキン人形と踊るシーンが印象的です。本当の女性と踊っているように見せかけながら、そのマネキンに悪者オリバー・ハーディを誘惑させるという見事な芸を披露します。第6巻の3話 Mighty Like a Moose でもダンスシーンが印象的だったように、チャーリー・チェイスはダンディでスマートなコメディアンです。

4. It’s a Gift (1923)
変な口ひげをはやしたスナッブ(獅子っ鼻)・ポラード Snub Pollard の代表作。彼が発明した弾丸型の小さな車は、U字型の大きな磁石で前の車に引っ張られながら走る。磁石は前の車のうしろにピッタリくっつくのではなく、一定の距離を保っているので、方向を変えたければ、その方向に向かう車に磁石を向ければいい。Uターンしたければ、向こうから来る車に磁石を向ける。その様子をテンポよく描いているので、見てて心地よい。

最初に彼が起床するシーンで、ひもを引っ張れば朝食ができる工夫も、ベットを起こして壁にするのも、見飽きているけれど、その壁の暖炉に火がついているのにはタマゲました。彼が寝ている間ずっと、ベットの裏に火がついていたのだろうか。


Vol. 8: Chaplin and the Music Hall Tradition
(チャップリンとミュージックホールの伝統)

1. A Night in the Show (1915)
「チャップリンの寄席見物」。チャップリンは1914年にキーストン社を離れたあと、エッセネイ社と契約します。これは、そのエッセネイでの作品。酔っ払ったチャップリンがミュージックホールで騒ぎを起こします。第2巻の3話でアーバックルと共演した "The Rounders" も酔っ払い芸を披露しており、チャップリンが当時日本で「アルコール先生」と呼ばれていたのもうなずけます。

2. A Rare Chaplin Snippet (1916)
1分ほどの短いものです。正式な作品じゃなくて、慈善の催しに出演したのを記録したようです。細かいギャグを織り交ぜながらブラスバンドを指揮しています。エッセネイ社をやめて、ミューチュアル社と契約する直前の1916年2月に撮影されました。

3. The Rink (1916)
「チャップリンのスケート」。1914年に映画界に入ったチャップリンは、1915年半ばに世界中で熱狂的な人気を呼び、1916年にミューチュアル社と契約するときには多額の報酬を約束されました。これはミューチュアル社で作った12本のうち8番目の作品。前半レストランの給仕役でカクテルをシェイクする妙技を見せるし、、後半ローラースケートの妙技を見せます。10年代の他のコメディアンと比べると、圧倒的に芸が洗練されているし、作品自体も単に騒々しいだけというものではないので、当時見たら相当面白かったに違いない。ローラースケート場やローラースケート・パーティなるものが出てくるけど、当時ローラースケートが流行していたのだろうか。

4. Live Wires and Love Sparks (1916)
主演している Billie Ritchie という人は、チャップリンが映画界に入る前に在籍したカルノー一座の先輩らしいのですが、この作品はチャップリンにあやかろうとして作ったもののようです。チャップリンと違ってドタバタしているだけ。

5. He’s in Again (1918)
Billy West というコメディアンは格好も仕草もギャグも完全にチャップリンの真似。チャップリンと偽って作品を撮っていたのか、チャップリンの真似で売っていたのか。とても不愉快。

6. Pie-Eyed (1925)
ローレルとハーディのスタン・ローレルもチャップリンの真似から出発したようです。格好までは真似していないけど、酔っ払い芸は完全にチャップリンを参考にしています。

7. Only Me (1929)
Lupino Lane というコメディアンの作品。モンティ・パイソンのエリック・アイドルのような感じ。くだらない事をやっていること自体がおかしいというのは、なんか現代風。寄席の観客も芸人も彼一人で演じています。24役演じているらしいのですが、それ自体がくだらなくて、おかしい。歌や踊りや怪力男といった出し物がドンドン出てきて、どれも怪しげでくだらないんだけど、なんか面白い。


Vol. 9: The Race Is On
(追っかけこそが人生さ)

1. Water Wagons (1925)
マック・セネット制作で Del Lord 監督。この監督の作品は、このDVD5枚組の中に何作か収められており、セネットのお抱え監督の中でも優秀な人のようです。セネットは制作に乗り出して10年以上たっても、こんなスピーディな追っかけをやっているんだなあと感心。その間、特殊撮影などの技術が発達したので、漫画のようなギャグをうまく映像化しています。女性もかなり洗練されており、主人公の女性はインドか中近東のような衣装をまとい神秘的な感じさえします。そんな物静かな感じの女性でも、セネットの映画ではスピード狂になって、あれよあれよという間に自動車、オートバイ、列車、ボートへと乗り移ります。

2. Outbound (1924)
ストーリーが次々と展開していくので要約できません。自動車よりも速く自転車をこぐ人物が登場します。一番の見所は、トラックの荷台から突き出た2本の長い棒に、人が寝ているベットが引っかかり、車が崖の手前で停車したために、そのベットが崖の上で宙吊り状態になるシーンでのハラハラドキドキです。

3. Chasing Choo-Choos (1927)
モンティ・バンクス主演の有名な作品。モンティ・バンクスはチャップリンを小太りにした感じ。馬車、レースカー、列車へと乗り移る。高い山をクネクネと走る列車から落ちそうになるシーンは相当怖い。レースカーから列車に乗り移る場面もそうだけど、コマ落しで撮影しても、かなり危険に違いない。恋人役の女優がけっこう可愛いです。Virginia Lee Corbin といって1910年生まれで、1910年代半ばから子役として映画出演しており、この作品のときは、まだ17歳。1942年に心臓病で31歳の若さで亡くなっているようです。

4. Danger Ahead (1926)
会社も、監督も、俳優も知らない人ばかりです。1920年代半ばになると、追っかけだけの単なるドタバタはあきられてきたようで、ひねったギャグも必要になるし、話の面白さも要求されるようになります。特殊撮影の技術も発達し、たとえば、電柱の左右を別々に撮影して、歩いている人物が電柱を通り過ぎると車を運転しているというギャグもあります。ただ、夢中でスラップスティックを作っていた時代ではなくなって、スラップスティックを真似しているような感じなので、あまり面白くないです(たぶん俳優たちは寄席出身ではなく、スラップスティック映画を参考にして演技していると思う)。唯一、開閉式の橋で宙吊りになるのが面白かったぐらいです。この頃は列車の追っかけがかなりあるけど、そんなに簡単に安く列車や線路を借りることができたのだろうか。


Vol. 10: Tons of Fun: The Anarchic Fringe
(すごく愉快でアナーキーな無名のコメディアンたち)

1. Yukon Jake (1924)
マック・セネット制作といえば監督はデル・ロード。このDVDにはデル・ロードの監督作品が何作入っているのだろう。これまでぜんぜん知らなかったけど、すっかり覚えてしまいました。主演は、ベン・ターピン Ben Turpin。この人は映画の間ずっと寄り目なんだけど、実生活でも寄り目なんだろうか。Internet Movie Database によると、ベン・タービンは、万一寄り目が正常に戻ったときのことを考えて、ロンドンのロイズ保険会社と保険契約を結んでいたそうです。まあ、冗談でそうしたらしいんだけど。

前半は西部劇なのに、なぜか後半アラスカの雪景色になる。まさかこんなところにセネットの水着美女軍団は出てこないだろうと思っていたら、エスキモーの父親が娘たちに「今日は風呂に入る日だぞ」と言うと、娘たちがエスキモーの家から水着を着て出てくるじゃありませんか。しかも、どう見ても、エスキモーじゃなくて白人。この水気美女というのは、ストーリーと関係なく突然出てくるのがおかしい。

2. Three of a Kind (1926)
高級なナイトクラブが舞台。たいした芸人が出てこなくて、みんな退屈しているので、お相撲さんみたいな体格の男性歌手3人組がやってくる。歌手といっても、サイレントだから歌声は分からないし、振り付けもおとなしい。ホンジャマカ石塚やパパイヤ鈴木のように体が機敏なデブを見慣れている者としては、別にどおってことない感じ。

それよりも、男女ペアによるスピーディで荒っぽい踊りが面白いです。男性が女性を抱えて自分の体のまわりを数周させたり、女性の片手と片足を持って遠心力で振り回したりします。以前にもビデオアート展で、もっと荒っぽくてアクロバットのような男女の踊りを見たことあるけど、こういう踊りって、けっこう伝統があるのだろうか。もっと見たい。

3. Dry and Thirsty (1921)
酒が飲みたいのに飲めない男の話。ちょうどこの頃に禁酒法が施行されたみたいです。アメリカは1930年代初めまで禁酒時代だったらしいのですが、この頃本当にアメリカの一般市民は酒を飲んでいなかったの?

主演のビリー・ブレッチャー Billy Bletcher は、頭の大きさのわりに体が小柄で、私は植草甚一氏を連想しました。トーキー以降の30年代と40年代にはアニメの声優が主な仕事で、低いバリトンの声が悪役にピッタリだったらしいです。

4. Family Life (1924)
やせた夫と太った妻と太った子供の三人家族のドタバタ。郊外のプレハブ住宅、湖畔、海辺と舞台を変えながら、漫画のようなギャグを次々と見せてくれます。太った妻を茶化したギャグが一番面白く、車の後部座席に乗ると、前輪が宙に浮いて思う方向に進まなかったり、ボートの後部に乗ると、夫が乗っている前部が持ち上がってひっくり返ったり、木にくくりつけられたロープを持って岸に上がろうとすると、木が根こそぎはがれたりします。最後、危険な目に会った夫が無事だったので、夫に抱きつこうとすると、それに気づいていない夫が体を移動するので、加速度をつけて夫のそばを通り過ぎ、スカートをフワフワさせながら高い崖を落ちていきます(映画の途中にも、妻が崖を転がり落ちるのを上から撮影した異様なショットがありました)。それを見た夫が、妻を助けようと、大きなパラソルを持って崖から飛び降りようとすると、助走中にパラソルの上部が取れてしまい、まっさかさまに崖から落ちてしまいます。それでもかすり傷一つ負わないのが漫画的。

5. Now You Tell One (1926)
Charley Bowers という容姿も動きもキートンに似たコメディアンが主演。鉢に植えた小さい木に接ぎ木をすると、そこからいろんなものが生えてくる。たとえば、ナスビ (eggplant) が生えてきて、そのナスビの中に卵が入っているし、御丁寧に、容器に入った塩も出てくる。ひものように細い枝がグングン育って、靴の甲にからまって、靴ひもになる。何十匹もの猫が枝から生えてくる。きっと人形アニメのように、一コマずつ丹念に撮影したのだと思う。いろんなものが垂れ下がっている木や、猫が次々と枝から生えてくる様子は、とてもシュール。

6. The Grocery Clerk (1920)
食料雑貨店の店員ラリー・シーモン Larry Semon が店をひっかきまわす。ラリー・シーモンは、顔が白塗りでピエロっぽいし、マルセル・マルソーや「天井桟敷の人々」のジャン・ルイ・バローといったパントマイム役者を思い起こさせます。

次のギャグが一番面白かったです。ネバネバするものが塗ってある四角い紙(たぶんハエ取り紙)の上に猫が乗っかって、足に紙がくっついたので、シーモンがハサミでまわりを切り取ってやるが、足の裏にまだ紙片がくっついているので、なんか歩きにくそう。足を上げるたびに、紙片を振り落とそうとするかのように足を小刻みにふる。そんな猫が可愛いし、おかしい。

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村長 粟村彰義
 
(アワムラ アキヨシ)

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