前置き
今回は、チャップリン、キートンとともに三大喜劇王と称されるハロルド・ロイド(1893-1971)の特集です。他の二人と比べてロイドは明朗だから自分の好みには合わないと思っていたし、これまで他の二人ほどは評価されてこなかったし、70年代に見た彼の代表作「要心無用」が期待していたほどは面白くなかったしで、特に見たいと思ったことはなかったのですが、今度アメリカで発売されたボックスセットの圧倒的な量にたまげて、これで送料込み8千円少々なら損することもないだろうと思って購入しました。
全部をざっと見たところ、ドタバタは面白くなかったです。チャップリンやキートンに比べて面白くなかったのではなく、私自身がドタバタ物に食傷気味だからかもしれません。ドタバタの部分も工夫してあってよくできているんだけど、このところボックスセットでいろんなスラップスティックを見てきたせいか、ドタバタに対して不感症になっています(年齢のせいかも)。
意外だったのは、初々しいロマンスがよくできていることで、これにハマってしまいました。ロイドの相手役は、ビービー・ダニエルズやロイドの奥さんになるミルドレッド・デイヴィスが有名だけど、彼女たちは典型的な明るいアメリカ娘だし、単なる相手役としてそこにいるだけって感じです。私がハマったのはジョビナ・ラルストン
Jobyna Ralston という女優さんとの共演作です。彼女は、ロイドが大人気だった20年代中期に6本の長編に続けて共演しています。
この頃のロイド作品は、社会で一人前と認められていないロイドがちゃんとした社会人になるというのが中心的ストーリーです。それを補助するのがジョビナとのロマンスです。この中心的ストーリーとロマンスを組み合わせると次のようになります。内気な二人が互いに惹かれあっているんだけど、彼は一人前ではないので、思い切って好きだと言えないし、彼女もそれがわかっている。彼は社会の中で立派なことを成し遂げ、一人前の男性として認められ、彼は彼女にプロポーズする。
今回のボックスセットにはトーキー作品も収められているのですが、ドジな三枚目のロイドを強調していて、違和感があります。スラップスティックのコメディアンとしての地位が確立していたからだろうけど、二枚目としてケーリー・グラントのようなロマンチックコメディをやって欲しかったです。
チャップリンやキートンと違い、ロイドは模範的なアメリカ市民として生涯をまっとうしました。ボックスセットのオマケには、ものすごい金持ちぶりや幸福そうな家庭がたっぷり写っています。 |
ロイドの中編と長編
ジョビナ・ラルストン共演作以外はおざなりになってしまいました。
- A Sailor-Made Man (1921) 47分 「ロイドの水兵」
まったく物事に動じない悠然とした大金持ちのロイドがおかしい。このキャラクターは1926年の "For Heaven's Sake"
にも出てきます。ミルドレッド・デイヴィスの父親に彼女との結婚を申し出ると、「まず仕事を探しせ」と言われて海軍に入る。船上でのドタバタと異国でのドタバタがあります。
- Grandma's Boy (1922) 56分 「豪勇ロイド」
この作品あたりで、臆病な男が困難に立ち向かって一人前の男として認められるというパターンが確立したと思います。ミルドレッド・デイヴィス共演。
- Dr. Jack (1922) 60分 「ドクター・ジャック」
お金に無頓着な田舎のお医者。金持ちの娘ミルドレッド・デイヴィスが病気であると偽って彼女の専属医として居座るヨーロッパの医者を退治する。
- Safety Last (1923) 73分 「要心無用」
ロイドが高いビルの壁を登っていく有名な作品。ミルドレッド・デイヴィス最後の出演作で、このあとロイドは彼女と結婚します。
- Why Worry? (1923) 63分 「巨人征服」
金持ちのロイドは、病気にかかっているんじゃないかといつも心配している。看護婦ジョビナ・ラルストンはロイドのことが好きだけど、ロイドは恋愛には無頓着。ロイドは療養のためにジョビナと南米の島国に行くが、革命騒ぎに巻き込まれ、病気も忘れて奮起する。
これから6作続けてジョビナとの共演作が続きます。出会ったときから互いに好意を持ち、あとはロイドが一人前の男性になるかどうかというのがパターンです。この作品のロイドは金持ちで、生活にはまったく困らないけど、自分は病気だと思い込んで何もしないので、ちゃんとした社会人とは認められない。革命の中でジョビナのために奮闘するうちに、一人前の男性になっていく。
邦題の由来はJohn Aasen という2メートル67センチの巨漢が出ているからです。ロイドが彼の虫歯を抜いてやったので、彼がロイドの忠実な部下になって活躍します。
ちびっこギャングの "Dogs of War" という短編で、子供たちが撮影所を引っき回すのですが、ちょうどロイドがこの作品を撮影しているときだったので、ロイドが特別出演しているし、ジョビナ・ラルストンも一瞬出てきます。
- Girl Shy (1924) 80分 「猛進ロイド」
田舎に住むロイドはとても内気で、女性が苦手。そのかわり、次々と女性をものにするためのハウツー本を書くのが楽しみ。ある日、金持ち娘ジョビナと知り合い、互いに引かれあう。出版社に原稿を持っていくと、みんなに笑われ、断られる。意気消沈したロイドはジョビナとの恋をあきらめる。出版社では、みんながあれだけ笑ったのならと、ユーモアものとして出版することを決定し、ロイドに小切手を送る。ちょうどその頃、ジョビナは詐欺師と結婚式を挙げようとしている。
ジョビナとのロマンスが胸キュン。ロイドが最初にジョビナと出会ったのは、列車に乗るときで、そのときロイドは彼女の愛犬を助ける。2度目に会うシーンがとてもロマンチック。田舎の小川で二人が同じボートに乗る状況になり、相手のことをずっと思っていたことを示す品物をお互いが持っていることに気づき、さらに恋が深まる。
自分の本が出版社で馬鹿にされたあと、ジョビナとの恋をあきらめ、公園でジョビナに会ったとき、「君のことは何とも思っていない。君をだましてたのさ」と言って、たまたまそばにいた女性を連れて去っていくのですが、スラップスティックコメディとは思えないぐらい胸が痛みます。
とはいえ、結婚式を阻止できるかどうかというラストは、グリフィス風のカットバックでハラハラドキドキが高まるのではなく、結婚式のことを忘れて、ロイドが乗り物から乗り物へ移りながらドタバタをやることに熱中するので、やっぱりスラップスティックコメディなんだなあと少々ガッカリ。
- Hot Water (1924) 60分 「ロイドの初恋」
邦題が不適切です。ロイドとジョビナは会ったとたんに一目ぼれし、映画が始まってすぐに結婚します。その後、ジョビナは妻としてそこにいるだけで、二人の関係に変化は生じません。純粋なスラップスティックの短編を3本つないだような構成です。最初は、ジョビナの母親、兄、幼い弟に新居を引っかき回されるエピソード。二番目は、みんな一緒に新車でドライブに出かけ、散々な目にあうというエピソード。最後は、夕食時と就寝時の幽霊騒ぎ。
- The Freshman (1925) 76分 「ロイドの人気者」
「キートンの大学生(カレッジ・ライフ)」(1927)よりも先。田舎者ロイドがあこがれの大学生活を開始し、自分では人気者のつもりでいるけど、実は馬鹿にされているだけ。アメリカンフットボールで活躍し、本当の人気者になる。というストーリーで、練習、ダンスパーティー、試合などの場面でのドタバタが面白いです。また、ロイドが挨拶の握手をする前にジグのような踊りのステップを踏むのが滑稽で、たぶん当時のアメリカの観客たちは真似したんじゃないかと思います。
が、例によって、私が一番興味あるのはロマンスの部分。最初に二人が出会う列車の中で、クロスワードをしているジョビナの隣にロイドが座り、彼女が「一番最愛の人の呼び方」という問題を考えている最中、ロイドが隣から「ダーリンじゃないのかな」とか口出ししたあと、二人で最愛の人に対する呼称を列挙しだします。それをうしろで聞いていた夫人が誤解して、「若いカップルってうらやましいわね」と言うので、恥ずかしがり屋のロイドは一目散にその場から逃げます。
実は、ジョビナはロイドが下宿することになる家の娘なのです。ロイドが自分の部屋に到着して、曇った鏡を拭くと、ホウキを持ったジョビナが鏡に映っているショットなんて最高です。そのあと、彼女はロイドのシャツのボタンが取れているのに気づき、ロイドが着たままのシャツのボタンを縫います(つまり、二人の体が密着するということ)。ロイドがそっと上着のボタンをハサミで切り離すショットでこのシーンは終わります。
実は、ジョビナはホテルでクローク係のバイトもしているのです。ロイドがホテルのダンスパーティーに参加しているのを彼女が見守っているというシチュエーションは、チャップリンやキートンなど他のスラップスティックコメディアンの作品では出くわしそうにないです。ロイドがパーティーに参加する途中で花を購入し、クローク係をしているジョビナにプレゼントするのもうれしいし、彼女がクロークで花占いをしているのを、良い結果が出るように祈りながら、ロイドがパーティー会場から見ているのもいい感じ。
- For Heaven's Sake (1926) 58分 「ロイドの福の神」
金持ちのロイドが、貧しい人たちに福祉活動と伝道活動を行っているジョビナとその父親を助ける。最初、高級車を壊すとすぐ買い換えるロイドの超金持ちぶりが笑わせます。ジョビナたちの伝道活動に参加させようとロイドが街の荒くれ男どもを怒らせ、ロイドを追いかけさせて、伝道本部までつれてくるドタバタも面白いし、ロイドが酔っ払った男たちを乗り物に乗せて連れ帰ろうとするラストのテンヤワンヤも面白い。ただ、ジョビナとのロマンスが最後の結婚式まですんなり進行するのが物足りないです。
- Kid Brother (1927) 82分 「田吾作ロイド一番槍」
ジョビナとの最後の共演作。最初の共演から数年経過しており、かなり色っぽいお姉さんになって、純情可憐とは言いがたくなっています。ロイドは、たくましい父と兄弟二人と一緒に田舎で暮らしており、彼だけが一人前の大人して認められていない。最後に手柄を立て立派な社会人として認められるというロイドの典型的パターン。
廃船での格闘シーンが見もので、スラップスティックというより、ベルモンドやインディ・ジョーンズのようなコメディっぽいアクション。「猛進ロイド」では、ジョビナが詐欺師と結婚するのを食い止められるかどうかというハラハラドキドキがスラップスティックの口実でしかなかったけど、この映画では父親の処刑を食い止められるかというハラハラドキドキが持続しています。
とてもロマンティックなシーンがあります。ロイドは、森の中でジョビナが男に襲われそうになるのを助けたあと、ジョビナが小高い丘を降りていって見えなくなると、彼女が見える高さまで木に登り、大声で「名前は?」とたずねる。ジョビナが振り向いて答え、去っていく。彼女が見えなくなると、再び木を登り、「どこに住んでいるの?」とたずねる。小さくなった彼女が振り向いて答え、去っていく。ロイドはさらに木を登り、「さよなら」と叫ぶ。さらに小さくなった彼女が振り返り、「さよなら」と答える。有頂天になったロイドは木から落ちるが、それでもニヤニヤしている。
ラストシーンは、二人が画面の奥に去っていくのですが、彼女の背中に腕を回そうかどうしようかロイドが迷っていると、彼女のほうから腕を回してくるあたり、トリュフォーの「ピアニストを撃て」を思い起こさせます。
- Speedy (1928) 86分 「ロイドのスピーディ」
路面電車のように線路の上を運行する馬車がニューヨークにあったようで、悪徳鉄道会社からそれを守るお話です。相手がジョビナじゃなくて寂しい。
- Welcome Stranger (1929) 「危機大歓迎」
ボックスセットには収録されていません。
- Feet First (1930) 91分 「足が第一」
トーキー。音を拾わないといけないからか、テンポが遅くなる。「要心無用」のようにビルを登るのは二番煎じだけど、こっちのほうがリアルで怖い。
- Movie Crazy (1932) 96分 「ロイドの活動狂」
ハリウッドのスターを目指すロイドが撮影所でゴタゴタを巻き起こす。ロイドはどうしようもないドジな男だが、最後は偶然お偉方の目にとまり、俳優として契約してもらう。ジェリー・ルイスの元祖。あまりにドジすぎて、共感しづらいけど、映画自体はけっこう面白いです。
- The Cat's Paw (1934) 102分 「ロイドの大勝利」
ロイドが40を過ぎたからか、トーキーだからか、まったくドタバタの要素がないコメディです。中国で育ったロイドが、妻を見つけにアメリカに渡るんだけど、市長に祭り上げられ、悪を一掃するというお話。純朴な男が悪に利用されるけど、逆に悪がやられてしまうというパターンはフランク・キャプラの「オペラハット」や「スミス都へ行く」などを思い起こさせますが、実はキャプラのそれらの映画よりも先にできています。田舎育ちのロイドが都会であたふたする前半は面白いけど、後半はキャプラほどの説得力がなくて、もたつきます。キャバレーの歌手が乳首を隠すだけの上半身裸になってしまう出し物にビックリしました(こういうのハリウッドではタブーだと思ってたから)。
- The Milky Way (1936) 88分 「ロイドの牛乳屋」
「ロイドの牛乳屋」という邦題ですが、牛乳屋なのは一番最初だけで、ボクシングが話の中心です。監督が「新婚道中記」のレオ・マッケリーだからか、「ロイドの大勝利」よりずっと面白いです。トーキーのロイドってサイレント時代のロイドとイメージが違います。ドタバタ的要素がなくなって、会話が中心になるからかな。ドジなロイドを強調するけど、ケーリー・グラント風にコメディを加味したロマンスとして売ったほうが良かった気がします。
- Professor Beware (1938) 「ロイドのエジプト博士」
これはボックスセットに収録されていません。
- The Sin of Harold Diddlebock (1946) 別名 Mad Wednesday
これもボックスセントに収録されていません。久しぶりに映画に登場。プレストン・スタージェス監督。"The Freshman (ロイドの人気者)" の主人公のその後という内容らしいです。
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DVD: The Harold Lloyd Comedy Collection (New Line Home Entertainment)
全部で7枚。バラでも販売されている2枚組が3巻に、ボーナスDVDが1枚です。2枚組の各巻は、1枚が片面のみ、もう1枚が両面収録されており、3巻の合計が20数時間です。各巻に少しオマケが付いています。ボーナスDVDには、幸せな家庭を持つ金持ちロイドの私生活を撮影したホームムービー、本人や関係者のインタビューなどが含まれています。米アマゾンで注文すると、送料を含めて、1万円でおつりがきます。(リージョン1なので通常の日本製プレーヤーでは見ることができません。)
Volume 1 - Disc 1
- Safety Last! (1923) 73分
- An Eastern Westerner (1920) 24分
- Ask Father (1919) 13分
- Girl Shy (1924) 80分
- From Hand to Mouth (1919) 22分
Volume 1 - Disc 2
- The Cat's Paw (1934) 102分 Side A
- The Milky Way (1936) 88分
- Why Worry? (1923) 63分 SideB
Volume 2 - Disc 1
- Kid Brother (1927) 82分
- Bumping Into Broadway (1919) 26分
- The Freshman (1925) 76分
- Billy Blazes, Esq. (1919) 13分
Volume 2 - Disc 2
- Dr. Jack (1922) 60分 Side A
- Feet First (1930) 91分
- Grandma's Boy (1922) 56分 SideB
- Now or Never (1921) 36分
- High and Dizzy (1920) 26分
Volume 3 - Disc 1
- Speedy (1928) 86分
- Never Weaken (1921) 29分
- Haunted Spooks (1920) 25分
- Hot Water (1924) 60分
Volume 3 - Disc 2
- Movie Crazy (1932) 96分 Side A
- Get Out and Get Under (1920) 25分
- For Heaven's Sake (1926) 58分
- Number Please? (1920) 25分 SideB
- A Sailor-Made Man (1921) 47分
- Among Those Present (1921) 35分
- I Do (1921) 25分
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