新井・註・各種表の類は略した。後日パンフレット化された際に紹介するので求められたい。もしくは、東大阪市に問い合わせていただきたい。(00/9/6)
東大阪市における同和事業の終結に向けての意見書
2000年(平成12年)8月
東大阪市同和行政研究会
2000年8月16日
東大阪市長
長 尾 淳 三 様
東大阪市同和行政研究会
会長 杉 之 原 寿 一
東大阪市同和行政研究会は、1999年度第1回定例市議会における長尾市長の市政運営方針にもとづいて、「本市における同和事業の終結に向けて、現状を分析し、実態を踏まえて考え方を整理するとともに今後の方向性、課題等について研究するため」(設置要綱)に、1999年11月21日に設置されたものである。
本研究会は、東大阪市長より委嘱を受けた神戸大学名誉教授・杉之原寿一(会長)、立命館大学名誉教授・真田是(副会長)、弁護士・石川元也、龍谷大学教授・広原盛明、滋賀大学教授・梅田修の5名で構成され、同年11月21日に第1回研究会を開催して以来、今日まで15回にわたり研究会を重ねてきた結果、一応の結論を得るに至ったので、ここに「東大阪市における同和事業の終結に向けての意見書」としてとりまとめて提出することとした。
市長におかれては、本意見書を広く市民に公開し、市民的合意のもとに、本研究会の意見を尊重して、同和対策事業の終結、すなわち同和行政の終結に向けた措置を積極的に推進されるよう要望する。
東大阪市における同和事業の終結に向けての意見書
目 次
第1章 総 論
T 同和事業終結に向けての基本方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
U 同和事業を終結させなければならない理由・・・・・・・・・・・・・・ 7
1 同和地区の生活実態等にみられた格差の解消――同和事業の成果――
2 同和行政の本来の目的と性格――年限を定めた特別措置――
3 地方自治体行政の基本的原則
(1) 行政の主体性の原則
(2) 行政の公平性の原則
(3) 行政の役割とその限界
V 東大阪市の同和行政にみられる基本的な問題点の是正・・・・・・・・・12
1 「府同促・地区協方式」の廃止
2 自治体の管理責任(チェック機能)の確立
3 均衡を逸した同和事業の適正化・廃止
4 バランスのとれた自立・自治の“まちづくり”
W おわりに――同和行政の終結が意味するもの――・・・・・・・・・・・17
第2章 住宅・環境対策
T 基本視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
U 東大阪市同和行政における住宅・環境対策の到達点と問題点・・・・・・20
1 居住水準について
2 一般地区との移転・交流について
3 同和地区の一般地区化について
(1) 地区協議会による同和地区住民の推薦と認定
(2) 同和向市営住宅における不正入居と家賃滞納の常態化
V 東大阪市同和行政における住宅・環境対策の当面の改善方策について・・28
1 同和向市営住宅等の管理業務に関する「地区協方式」の即時廃止
2 家賃滞納、不正入居等の徹底解明と一掃
3 改良残事業の見直しと同和向市営住宅入居選考方式の抜本的是正
4 同和地区における清掃状況の改善
第3章 福祉・保健・医療対策
T 福祉・保健・医療行政と同和対策事業・・・・・・・・・・・・・・・・31
U 東大阪市における福祉・保健・医療の同和対策事業の概要・・・・・・・31
1 一般対策にない同和対策事業
2 一般対策に上乗せ補完している事業
V 同和対策事業としての福祉・保健・医療対策の終結・・・・・・・・・・33
1 同和対策事業として不適切になっているもの
2 同和対策事業ではなくなっていると思われるもの
W 東大阪市の福祉・保健・医療の同和対策事業が示したこと・・・・・・・36
1 格差是正の効果があがらなくなっている施策の問題
2 同和対策事業でなくなっている施策の問題
3 施設配置のアンバランスの是正
第4章 産業・就労対策と公的施設・経営体の管理運営
T 産業・就労対策について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
1 生活職業指導補助金
2 内職あっせん所補助金
3 技能養成講座
4 市営産業施設
5 市外特定会社からのタクシー借上げの廃止
6 嘱託員・アルバイトの雇用
U 各種補助金・委託料などについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
1 「地区協方式」と補助金の廃止
(1) 地区協議会に対する従来の東大阪市の取組み
(2) 地区協議会の役割の変化と行政の補助金の廃止
(3) 地区協議会への直接補助金の現状と今後の措置について
2 運動団体などへの補助金・負担金の廃止
3 各種施設の警備・清掃委託業務
V 公的施設・経営体の管理運営について・・・・・・・・・・・・・・・・46
1 解放会館
(1) 解放会館の設置目的と従来の活動
(2) 解放会館にかかわる支出および管理の問題点
(3) 同和事業の終結のもとでの会館の位置づけ
2 共同浴場
(1)現在の経営形態とその問題点
(2)公営浴場としての展望
3 診療所
(1) 診療所の概況
(2) 診療所の問題点
4 荒本斎場の廃止・統合
第5章 教育・啓発対策
T 教育対策について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
1 基本視点
2 教育対策の現状・問題点と課題
(1) 教育上の特別措置をめぐって
イ.特別措置の現状と問題点
ロ.特別措置の終結について
(2) 同和教育方針と学校教育・社会教育
イ.同和教育方針について
ロ.学校教育・社会教育活動にかかわって
(3) 教育施設
イ.学校教育施設
ロ.社会教育施設
3 人権教育への転換について
U 啓発対策について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
1 基本視点
(1) 啓発の2側面
(2) 「差別意識」の解消と啓発
2 啓発対策の現状・問題点と課題
(1) 啓発の現状と問題点
(2) 啓発に関する課題
イ.行政施策への理解
ロ.人権問題への理解
付表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
付表1 東大阪市の同和対策事業決算額の推移(1969〜1998年度)
付表2 東大阪市における個人給付的同和対策事業の推移(2000年度現在)
付表3 地区協議会等への補助金、地区内施設運営経費と
嘱託・アルバイト等の雇用状況(1999年度予算)
付表4 同和関係施設への職員配置状況(1999年5月現在)
資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
東大阪市同和行政研究会設置要綱
東大阪市同和行政研究会研究員名簿
東大阪市同和行政研究会開催状況
東大阪市における同和事業の終結に向けての意見書
第1章 総 論
T 同和事業終結に向けての基本方針
同和対策審議会「答申」(1965年8月)にもとづいて1969年7月に同和対策事
業特別措置法が施行されて以来、法律の名称は変更されたとはいえ、28年間にわた
って特別措置法体制のもとで同和対策事業が継続実施されてきた。その結果、総務
庁・地域改善対策協議会は1996(平成8)年5月の「意見具申」のなかで、「物的
な生活環境をはじめ様々な面で存在していた較差が大きく改善された」という認識
のもとに、「従来の対策を漫然と継続していたのでは同和問題の早期解決に至るこ
とは困難であり、これまでの特別対策については、おおむねその目的を達成できる
状況になったことから、現行法の期限である平成9年3月末をもって終了すること」
を提起した。これを受けて政府は、特別措置としての同和対策事業を1997年3月
末をもって基本的に終結させ、残務処理として一部の事業・施策について5〜8年
を限度に経過的措置を講じてきている。
本研究会は、こうした国レベルの動向をふまえ、東大阪市における同和地区の住
宅・居住環境や生活実態の現状、および同和対策事業の策定・執行・管理・運営の
実態をさまざまな角度から分析した結果、
@ 府登録物的残事業(1999年度現在32億4720万円)の内容を精査検討し、
必要最低限の残事業については2003年度末(平成16年3月31日)までに完
遂させるとともに、諸般の事情で早急な実施が困難な事業、および同和地区外
との均衡を勘案すべき事業などについては、全市的な観点から一般対策で対応
していくこと、
A 非物的事業については、同和事業の終結に向けて経過的措置を含めた年次別
実施計画を策定し、2003年度末までに行政自らの判断と責任において全面的
に終結させるとともに、同和対策にかかわる各種の条例・規則などについても、
その廃止を含めて見直しを行なうこと、
B 同和地区内の任意団体である地区協議会との協議にもとづいて同和事業を執
行・運営するという他府県には例をみない「地区協方式」をすみやかに廃止し、
行政の主体性と行政責任を確立するとともに、不正・不法行為の一掃はもとよ
り、各種の地区内組織に対する補助金などの適正化をはかること、
C 同和向市営住宅(改良住宅を含む)の家賃を3カ月以上(最長16年)滞納
しているものが、入居世帯の約半数を占めているという事実に象徴的に示され
ているような同和対策をめぐる不正・不法行為を一掃し、「同和」の枠から解
き放たれた美しく住みよい“まちづくり”を推進するためには、何よりもまず
地区住民自身が同和行政依存の生活意識・態度から自立し、民主的な地域社会
の形成者にふさわしい市民道徳を身につけることが必要であり、同和行政依存
の意識や態度を助長するような措置はすべて廃止すること、
D 同和地区内の公共施設はすべて開放し、周辺地域住民はもとより広く全市民
の自由な利用に供するだけでなく、将来的には全市的な社会公共施設の拡充・
整備計画とのかかわりのなかで、施設の再配置についても検討すること、
E すべての市民に健康で文化的な最低限度の生活を保障するため、一般対策の
拡充・整備とその行政水準の引上げをはかるとともに、いかなる形にせよ、同
和地区(住民)を特別扱いするような「同和」優先の措置を講じないこと、
F 人権問題についての市民の理解は、市民自身の自主的な学習活動を基礎にし
て高められていくものであり、行政はそのために必要な「環境を醸成する」(社
会教育法第3条)ことに責務をおっていること、との結論に達した。
これらの基本方針にもとづいて東大阪市における同和事業を終結させていく具体
的課題については、次章以下の各論のなかで、住宅・環境対策、福祉・保健・医療
対策、産業・就労対策、および教育・啓発対策の各分野に即して提起されるので、
ここでは総論として、上記の基本方針にかかわって若干のコメントをしておきたい。
U 同和事業を終結させなければならない理由
1 同和地区の生活実態等にみられた格差の解消――同和事業の成果――
1969年に同和対策事業特別措置法が施行されて以来、特別措置法のもとでの同和
行政が以前とは比較にならぬほど大きく前進し、同和地区住民自身の努力とも相俟
って、同和地区の住宅・居住環境や生活実態などにみられた格差(低位性)を是正
するうえで大きな役割を果たしてきた。
その結果、1993年に総務庁が全国的な規模で実施した「同和地区実態把握等調査」
の結果にも明らかに示されているように、同和地区の住宅・居住環境や生活実態な
どにみられた格差は、すでに多くの分野で解消されており、なお若干の分野でみら
れる多少の格差も、もはや短絡的に部落差別の結果とは言えなくなっているだけで
なく、同和地区内外への人口・世帯の転出入の増加、同和地区内外の婚姻の増加、
「部落民」としての帰属意識の稀薄化などにともなって、封建的身分差別の残滓と
しての「部落」は、すでに実体としては消滅してきており、同和対策を継続実施しなけ
ればならない根拠は、同和地区の現実のなかには存在しなくなっている。
東大阪市においても、例外ではない。東大阪市では、1969年度から1998年度ま
での30年間における同和対策事業決算額は、合わせて2157億6700万円(一般会
計総決算額の 7.2%)に達しており(付表1参照)、東大阪市の『同和対策事業対象
地域住民生活実態調査報告書』(1991年刊)、および『平成5年度・同和地区実態把
握等調査』(1996年刊)によると、東大阪市の同和地区の住宅・居住環境や生活実
態などにみられた格差も、すでに多くの分野で解消されている(たとえば家屋の密
集状況、狭小・劣悪な住宅の比率の高さ、住宅の居住密度の高さ、失業率の高さ、
職業構成の極端な歪み、傷病率の高さ、高校進学率の低さなど)ほか、同和地区の
居住人口のうち約40%が同和関係以外の人びとによって占められ、婚姻形態につい
てみても、同和地区に居住している夫婦(「夫婦とも一般地区生まれ」を除く)のう
ち「いずれか一方が同和地区以外」の夫婦が、夫が29歳以下の若い夫婦では73.0%
に達しているところからも知れるように、「差別意識が根深く存在する」ことを示す
ような現象もみられなくなっている。
もとより、なお若干の分野で多少の格差や課題がみられるが(たとえば高齢者世
帯、母子・父子世帯、生活保護世帯、初等教育修了者、「単純労働」従事者の比率の
高さや老齢化指数の高さ、事務的職業従事者の低さなど)、しかし、これらの格差や
課題の多くは、今日では部落差別の結果とは短絡的に言えなくなっており、特別措
置法のもとでの同和対策とのかかわりで新たに生みだされた問題、あるいは同和地
区内外を問わず特定の地域や階層に共通にみられる現象となっており、同和地区(住
民)だけを対象とした特別対策ではもはや是正できず、同様な課題をかかえている
市民のすべてに「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条)を保障する一般
対策の拡充・整備、その行政水準の引上げをはかるなかでしか解決しえないものと
なっている。
いずれにせよ、東大阪市においても、同和対策を継続実施しなければならない根
拠は、すでに同和地区の現実のなかには存在しなくなっている。すでに根拠を失っ
ている同和対策を継続実施することは、単に市民の理解と協力が得られないだけで
なく、実体としては消滅してきている「部落」を行政的に存続・再生産することに
なり、明らかに同和問題の解決を妨げることになる。
2 同和行政の本来の目的と性格――年限を定めた特別措置――
同和行政の本来の目的と性格からいっても、特別措置としての同和対策の終結は
必然的である。
同和地区の劣悪な住宅・居住環境や生活実態などを改善するための事業・施策(こ
れらを包括する用語として、一般に「同和行政」という語が用いられている)は、
特別措置法の制定以前、古くは1920(大正9)年から部落改善事業、地方改善事業、
融和事業、モデル地区事業、同和対策事業などの名のもとに一般対策のなかで実施
されてきた。
しかし、総理府・同和対策審議会の「答申」(1965年8月)のなかでも指摘され
ているように、行政水準の低い一般対策では、同和地区の住宅・居住環境や生活実
態などに見られた格差(低位性)を早急に是正することは困難であったので、一般
対策を補完する過渡的・特例的な行政上の特別措置が、1969年から特別措置法にも
とづく同和対策として実施されるに至ったのである。
同和対策が過渡的・特例的な行政上の特別措置であることは、特別措置法がいず
れも10〜5年の時限法であったところからも明らかであるが、総務庁・地域改善対
策協議会も、すでに1986年12月の「意見具申」のなかで「地域改善対策は、永続
的に講じられるべき性格のものではなく、迅速な事業の実施によって、できる限り
早期に目的の達成が図られ、可及的速やかに一般対策へ全面的に移行されるべき性
格のものである」と述べている。
また、同和対策は、特別措置の対象を確定するために特定の地域を「同和地区」
と指定し、その地域に事業や施策を重点的に実施する特別対策であるところから、
不可避的に同和地区を周辺地域から分離・隔離する性格を本来的にもっている。こ
うした性格を本来的にもっている同和対策を、一定期間以上にわたって継続実施す
るならば、同和地区を周辺地域から行政的に隔離・分離して固定化させることにな
り、同和地区内外を分け隔ててきた垣根を取り除いて社会的交流を促進させるどこ
ろか、逆にそれを妨げ、同和問題の解決に逆効果をもたらすことになる。この点か
らいっても、同和対策をできるだけ早急に終結させ、一般対策へ移行させることが
要請されているのである。
なお、上記のような特別措置法の制定経過からすれば、特別対策(同和対策)を
終結させることは、同和行政そのものを終結させることであり、特別措置法以前に
逆戻りして、一般対策のなかで同和地区だけを対象にした事業や施策を同和行政と
して再び実施することではありえない。したがって特別対策(同和対策)の終結後、
一般対策のなかに「同和枠」を設定して「同和優先」の事業・施策を実施し、同和
行政を実質的に継続させるようなことはすべきではない。こうした行政措置は、一
般対策への移行と称しながら実質的に「同和の特殊化・別格化」を継続することで
あり、同和地区内外に新たなミゾをつくり、同和問題の解決に逆行することになら
ざるをえない。
3 地方自治体行政の基本的原則
上記のようにすでに根拠を失っている同和対策を継続実施することは、地方自治
体行政の基本原則に照らしても許されることではない。
(1) 行政の主体性の原則
「地方公共団体の執行機関」は法令、条例、規則、規程にもとづく事務を「自ら
の判断と責任において、誠実に管理しおよび執行する義務を負う」と地方自治法に
明記されているように( 138条の2)、行政はすべて行政当局の主体性にもとづい
て、その責任において策定・執行されなければならないことは、行政一般の大原則
であり、同和行政も例外ではありえない。
ところが、1981年12月に出された総理府・同和対策協議会「意見具申」のなか
でも、「同和関係施策の実施に当たって行政機関のなかにはややもすると民間運動
団体の要望に押されてそれをそのまま施策として取り上げるものがあり・・・見過
ごすことのできない問題となってきた」と述べられているように、多くの地方自治
体が民間運動団体の圧力に屈して行政の主体性と責任を放棄し、特定の民間運動団
体の言いなりに同和対策事業を策定・執行するという不公正・乱脈な同和行政が、
全国的に拡大してきた。
このため、総務庁・地域改善対策協議会も1986年12月の「意見具申」のなかで、
「国及び地方公共団体は、民間運動団体の威圧的な態度に押し切られて、不適切な
行政運営を行うという傾向が一部にみられる」とし、「行政機関は、その基本姿勢と
して、常に主体性を保持し、き然として地域改善対策等の適正な執行を行わなけれ
ばならない」と指摘されたが、その後も「行政の主体性の確立」の必要性が、関係
各省庁の文書などのなかでも繰り返し強調されてきている。
ところが、のちに述べるように東大阪市の同和行政は、大阪府下の他の市町村に
おけると同様に、財団法人・大阪府同和事業促進協議会(「府同促」)の指導のもと
に各同和地区に設置されている同和事業促進○○地区協議会(「地区協」)との協議
・協力を基本方針として、いわゆる「府同促・地区協方式」と呼ばれる他に例をみな
い方式にもとづいて行なわれてきており、「府同促・地区協方式」のもとで行政の主
体性と責任が放棄され、不公正・乱脈な同和行政の要因となってきた点では変わり
ない。
(2) 行政の公平性の原則
地方自治法によれば、「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方
公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し・・・」(第10条)と規定され
ている。したがって総務庁・地域改善対策協議会も、1986年12月の「意見具申」
のなかで、「国民に対する行政施策の公平な適用という原則から考えれば、できる限
り一般対策の中で対応することが望ましい。地域改善対策といえども、結局は、国
民の租税負担によって賄われることを考えれば、地域改善対策を著しく優遇して、
一般対策と不均衡を生ずるようでは、容易に国民的合意は得難く、社会的公平を確
保するゆえんでもないからである」と述べるとともに、1991年12月の「意見具申」
のなかでは、「国民に対する行政施策の公平な適用という原則からしても、できるか
ぎり早期に目的の達成が図られ、一般対策へ移行することが肝要である」と述べて
いる。行政の公平性の原則からいっても、すでに根拠を失っている同和対策を早急
に終結させることは当然の帰結である。
また、地方自治法は、「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することにつ
いて、不当な差別的取扱いをしてはならない」( 244条)と規定しており、総理府・
同和対策協議会も、すでに1981年12月の「意見具申」のなかで、「物的施設の運
営に当たっては、周辺地域の人々の利用にも供するような配慮をする必要がある」
と指摘している。東大阪市の同和地区においても同和向市営住宅、解放会館(隣保
館)、保育所、青少年センター、老人センター、青少年運動広場、障害者解放センタ
ーなどの公共施設が整備されてきているが、同和対策事業の一環として建設された
公共施設だからといって、同和地区外住民の利用を禁止ないし制限することは、地
方自治法に違反するだけでなく、行政的に「同和」を別扱いすることによって同和
問題の解決にも逆行することになる。この点からいっても、同和対策を早期に終結
させて「同和」の線引きを廃止するとともに、施設の名称についても、「解放」の呼
称を廃止するなど、すべての市民に利用しやすいものにしていく必要がある。
(3) 行政の役割とその限界
一般に行政がなしうることは、問題解決のための条件整備であって、行政的措置
だけで問題を解決することはできない。同和行政も例外ではない。ところが、30年
以上も前に出された同和対策審議会「答申」(1965年8月)のなかで述べられてい
ることを、時の流れを無視して現在においても絶対視し、「部落差別が現存する限り
同和行政は積極的に推進されなければならない」とする硬直的な傾向が、行政当局
の間にも広範にみられる。
こうした硬直的な見解の背景には、部落差別の解消(=同和問題の解決)は行政
的措置によって達成できるとする「同和行政万能論」、したがってまた、その責任は
あげて行政当局にあるとする「行政無限責任論」とでも言うべき誤った認識が存在
している。しかし、同和対策によって住宅・居住環境の改善や生活の安定・向上の
ための条件整備は行なうことはできても、それを生かしきる同和地区住民の主体的
力量(自立意識や生活意欲の向上、民主的な市民道徳の涵養など)なしには、同和
地区の生活実態などにみられる格差の完全な解消も、同和問題の解決もありえない
し、逆に「同和地区」の解消を妨げる内在的要因になりかねない。
つまり、同和対策という行政上の特別措置だけで格差を完全になくし、同和問題
の解決をはかることはできないだけでなく、それは行政の当事者能力をこえたこと
である。総務庁・地域改善対策協議会が1984年6月の「意見具申」以来、同和地
区住民の自立への意欲が同和問題解決の重要な要素であることを繰り返し指摘して
きているのも、このためである。
V 東大阪市の同和行政にみられる基本的な問題点の是正
1 「府同促・地区協方式」の廃止
既述のように大阪府および府下の市町村における同和行政は、「府同促・地区協方
式」と呼ばれる他に例をみない方式を基本方針として実施されてきた結果、行政の
主体性と責任が放棄され、不公正・乱脈な同和行政の要因となってきた。東大阪市
でも荒本・蛇草両地区に、それぞれ地区協議会が「地区内の同和事業に関係を有す
る確固たる組織を会員として構成」され、任意団体であるにもかかわらず同和事業
の執行・管理をになう組織として機能している。すなわち、地区内公共施設が「地
元精通者」で組織されている管理運営委員会に委託されるなど、実質的に地区協議
会の管理のもとにおかれているだけでなく、地区協議会と協議し、その承認を得て
はじめて事業や施策が策定・執行されるという異常な事態になっている。
もとより、任意団体としての「府同促」や地区協議会の今後のあり方については、
その存廃を含めて「府同促」や地区協議会みずからが自主的に決定することである。
しかし「府同促・地区協方式」は、もともと同和事業の推進とのかかわりで生みだ
されたものであり、行政としては同和対策の終結にともなって必然的に廃止すべき
ものであるだけでなく、既述のように、行政はすべて行政当局の主体性と責任にお
いて公平に策定・執行・管理・運営されなければならないという地方自治法の大原
則に反しており、可及的速やかに破棄される必要がある。
したがって東大阪市においても、「府同促」に対する分担金(1999年度予算額 425
万円)はもとより、荒本・蛇草両地区協議会に対する運営補助金(各1170万円)
は、いずれも2003年度末(平成16年3月31日)をメドに段階的に廃止するとと
もに、各地区協の事務局に実質的に派遣されている市職員(荒本地区協4名、蛇草
地区協4名)は、ただちに引上げるべきである。
また、「部落解放基本法」制定要求国民運動東大阪実行委員会活動補助金(同上
30万円)、青年活動等補助金(同上 383万円)および女性活動等補助金(同上 204
万2000円)は、いずれも特定民間運動団体の組織内活動に対する補助金であるが、
民間運動団体の要求実現運動などへの行政職員の公費派遣も含めて、ただちに全面
的に廃止すべきである。
なお、同和事業推進大阪行政連絡協議会、大阪府解放会館連絡協議会、社団法人
同和地区人材雇用開発センター、大阪府福祉施設連絡協議会および大阪府同和地区
青少年会館・教育施設連絡協議会は、いずれも同和事業の推進にかかわって設置さ
れてきた組織であるので、これらの組織に対する分担金ないし負担金も、同和事業
の終結とともに廃止されるべきものと考える。
2 自治体の管理責任(チェック機能)の確立
行政の主体性の確立ともかかわって、同和行政における自治体当局の管理責任の
欠如がしばしば指摘されてきている。たとえば総務庁・地域改善対策協議会の1986
年12月の「意見具申」のなかでは、「民間運動団体に補助金等を支出していながら、
その適正な使用について指導・監督等を十分行っていない例がみられる」とし、
「地域改善行政に対して、行政のチェック機能が十分発揮されてこなかったことが、
不適切な運営実態が長く是正されないまま放置されてきた要因となっている」と述べ
られており、1996年5月の「意見具申」でも、「行政の監察・監査・会計検査等の
機能の一層の活用」の必要性が強調されている。
東大阪市においても、上記の地区協議会に対する補助金のほかに、さまざまな補
助金や管理委託料が同和地区内の関係運営(管理)委員会などの組織に毎年交付さ
れており(付表3参照)、しかもその金額が一般の類似の補助金などにくらべて著し
く多額であるにもかかわらず、これらの補助金などについて形式的な報告書が提出
されているのみで、実態は市として把握されていない。あるいは、同和地区内の同
和向市営住宅に対する管理機能の欠如が、家賃の滞納(1998年度現在の滞納率は、
繰越分を含めると47.9%、金額にして2億1453万円に達している)や不正入居(当
初の正規入居者以外の者が入居しているケース)を生む要因となっているが、その
実態も詳細には把握されていない。
いずれにせよ、こうしたチェックなき同和行政の実態を明らかにし、その早急な
是正をはかることも、同和対策の全面的な終結に向けて重要な課題である。この意
味において、住宅改良室の全職員が本年5月から2人1組、9班編成で、家賃滞納
一掃をめざして直接訪問に取り組みはじめたことは注目されるところである。
3 均衡を逸した同和事業の適正化・廃止
既述のように、多くの自治体が民間運動団体の圧力に押されて行政の主体性と責
任を放棄し、特定の民間運動団体の言いなりに同和対策事業を策定・執行するとい
う不公正・乱脈な同和行政が、全国的に拡大してきた。その結果、「ゆりかごから墓
場まで」と言われたほど同和対策の事業・施策の種類と内容が著しく肥大化するな
かで、同和地区外の住民の間には不公平感が広がるとともに、同和地区住民の間に
は自立意識どころか、逆に同和対策に依存して生活するという姿勢が強められると
いう弊害が生みだされるに至った。
したがって総務庁・地域改善対策協議会も、1986年12月の「意見具申」のなか
で、「これまでの対策においては、同和関係者の自立、向上の精神のかん養という視
点が軽視されてきたきらいがある。特に、個人給付的施策の安易な適用や、同和関
係者を過度に優遇するような施策の実施は、むしろ同和関係者の自立、向上を阻害
する面をもっているとともに、国民に不公平感を招来している」と述べるとともに、
関係各省事務次官通達など政府関係機関の文書のなかでも、「一般施策との均衡の
維持」や「周辺地域との一体性の確保」が繰り返し強調されてきている。
東大阪市においても、さまざまな個人給付的事業が同和対策として実施され、同
和地区住民の生活実態の改善に大きな成果をあげてきたが、同和修学奨励金(高校・
大学)などを除き、その多くはすでに目的を達成し、1994〜1998年度までに廃止
されている(付表2参照)。しかし、住宅・環境改善事業が進められるなかで東大阪
市の同和地区においても、中高層鉄筋の同和向市営住宅の建設と並行して解放会館
(隣保館)、保育所、青少年センター、老人センター、青少年運動広場、障害者解放
センターなどの公共施設が集中的に整備され、周辺地域とは異なる様相を呈するに
至っている。
したがって「同和」の線引きのない“まちづくり”のためには、既述のようにこ
れらの公共施設を開放し、すべての市民の利用に供するだけでなく、将来的には全
市的な社会公共施設の拡充・整備計画とのかかわりのなかで、同和地区に所在する
公共施設の再配置についても検討される必要があるとともに、これらの公共施設や
同和関係小・中学校に特に集中的に配置されている教職員についても(1999年5月
現在、地区公共施設への配置職員 296人。小・中学校への教職員配置については、
教職員1人あたり生徒数が、小学校では全市平均が20.2人であるのに対し同和関係
校では 9.5人、中学校では全市平均が16.3人であるのに対し同和関係校では 9.1
人)、その配置の適正化を段階的に図っていくべきである(付表4参照)。
なお、これらの公共施設などの警備・清掃業務が、東大阪市雇用開発センター
(1999年度予算では約7983万7000円)や特定の地元業者(同上2948万1000円)
に委託されているが、その在り方や委託料についても直ちに適正化が図られる必要
がある。
また、これらの公共施設には、かなりの地区住民が指導員、嘱託員などとして地
区協の推薦により採用されているほか、中高年齢者を中心に多数の地区住民が管理、
清掃、図書整理などの業務に嘱託員やアルバイトとして雇用されている(その賃金
総額は、1999年度予算で3億623万4000円。付表3参照)。しかし、同和地区だ
けを特別扱いした緊急避難的な雇用対策を漫然と継続していたのでは、地区住民の
就業意識や生活意欲の向上を妨げ、行政依存の姿勢からの脱却を困難にし、同和問
題の解決にも役立たないので、これらの雇用対策的な事業も2003年度をメドに段
階的に廃止し、中高年齢者の就労については、全市的に雇用対策を拡充・整備する
なかで対応していくべきである。
4 バランスのとれた自立・自治の“まちづくり”
都市の同和地区における住宅改善事業は、主として不良住宅を撤去して中高層鉄
筋の同和向市営住宅を建設するという方式で進められてきたため、最近建設された
ものでも60u前後という画一的な住宅規模にも制約されて、若年齢・高学歴層を
中心に経済的に自立しうる人びとが地区外に流出、逆に高年齢・低所得階層の人び
とが流入、その結果、年齢や収入・所得などの面で同和地区の人口・世帯構成のゆ
がみが進行してきており、東大阪市の同和地区においても例外ではない。
したがって、年齢・世帯構成・収入など多様な階層からなるバランスのとれた
“まちづくり”を進めるためには、同和地区内の同和向市営住宅の空き家についても、
「同和」の枠をはずして一般公募を促進するとともに、既存の同和向市営住宅の住戸
改善(建替、建増、2戸1化、3戸2化、メゾネット化など)を一般対策として
推進し、世帯構成などに応じて住み替えができるようにしていくことも必要であろ
う。しかし、既述のように行政の役割は、問題解決のための条件整備である。行政
的措置によって住宅・居住環境が整備されたとしても、それを生かしきる地区住民
の主体的力量(自立意識や生活意欲の向上、民主的な市民道徳の涵養など)なしに
は、住みよい“まちづくり”を推進することはできない。
たとえば東大阪市では、「まちの美化のために必要な事業である」として、蛇草・
荒本両地区に生活環境整備事業所(1999年5月現在、合わせて職員3名配置)が設
置され、地区内の道路や公園・空地などに不法投棄されたゴミや道路上の散乱ゴミ
の清掃、除草などの処理のために合わせて14名のアルバイトが雇用され、1999年
度予算ではアルバイト経費として8434万1000円が計上されている。しかし、まち
の美化のためには、何よりもまずゴミの不法投棄をしない自主的な取り組みを推進
することが基本であり、そのことを抜きにしてゴミ収集にいくら多額の経費を投入
しても、まちの美化にはつながらない。
いずれにせよ、住みよい“まちづくり”のためには、行政に要求すべきことと住
民みずからが自主的に取り組むべきこととを明確に区別し、すべてを行政に依存す
るのではなく、自分たちの住んでいるところは自分たちの力で住みよい町にしてい
くという自主的な取り組みを推進することが必要である。そのためには、町内会な
どのような住民の自治組織の役割がきわめて重要であると言わなければならない。
W おわりに――同和行政の終結が意味するもの――
21世紀に部落問題を持ち越さず、同和地区を継続させないことが、同和行政の基
本目標であり最終目標であるとするなら、同和行政の終結は、名実ともに部落・同
和地区を発展的解消に導くものでなければならないだろう。言い換えるなら、同和
行政が終結しても同和地区が依然として存続している、あるいは新しい形での「同
和地区」が再生産されているようでは、それは何よりも同和行政終結の基本趣旨に
もとるものといわなければならない。その意味で、東大阪市における同和行政の終
結は、同和地区の発展的解消を導くための市全体のまちづくり戦略やグランドデザ
インに基づくことが要求される。
東大阪市の都市構造の主たる特徴は、@合併による地域不均衡を避けるための政
治的配慮から、50万都市としての管理機能を機能的かつシンボル的に担う「都市核」
(シビックセンター)の形成が遅れた、Aその一方、合併前の各都市・各地域の個
性と魅力を生かした「地域コミュニティづくり」の視点が欠如していた、の2点に
集約されるであろう。このため、一方では都市構造の骨格となるインフラ(道路・
鉄道、上下水道、公園緑地、教育・福祉施設などの都市基盤施設)の計画的整備が
進まず、他方では全市域にわたる市街地のスプロール開発(虫食し状の無秩序な開
発)がなすところなく進行してきた。いわば東大阪市は、50万都市としての統一性
も個性も形成されないまま、無秩序な都市化の波に洗われてきたのである。
加えて、乱脈極まる同和行政と肥大化した同和事業が、この都市構造の歪みを一
層助長した。本来ならば、市全体の骨格形成の視点から計画的に推進されなければ
ならないインフラ整備が、同和地区中心に偏在的・集中的に実施された結果、東大
阪市におけるインフラ整備状況は著しく不均衡なものとなり、都市核の形成はもと
より秩序ある市街地形成に対しても多大な困難をもたらすものとなった。また、同
和地区を聖域視する同和行政・同和事業の跛行的展開が周辺地域との著しい環境格
差をもたらし、結果として調和のとれた地域コミュニティづくりを妨げてきた。誤
った同和行政の推進が、東大阪市の都市構造の歪みを一層拡大し固定化する役割を
果たしてきたのである。
21世紀は、わが国が歴史上初めて遭遇する「人口減少時代」であり、かつ都市間
の熾烈な「生き残り競争」が展開される時代である。1995年現在 880万人を擁す
る大阪府人口は、国立社会保障・人口問題研究所の『都道府県別将来人口、1997
年5月推計』によれば2025年には 727万人(82.6%)にまで、(財)日本統計協
会の『市町村の将来人口、1997年12月推計』によれば 740万人(84.1%)にまで
減少すると予測されている。これからの僅か25年間に、 140万人(15.9%)〜 153
万人(17.4%)もの大量人口が大阪府から失われると予測されているのである。
中でも東大阪市の場合は、後者の人口推計によれば、51万7000人(1995年)か
ら40万6000人(2025年、78.6%)にまで減少するとされており、30年間の人口
減少は11万1000人、減少率は大阪府平均を数ポイント上回る21.4%となっている。
この結果、東大阪市の人口順位は全国21位(1995年)から全国33位(2025年)
に転落することになる。
東大阪市の人口は、高度成長期の転入超過によって1955(昭和30)年から1975
(昭和50)年までの僅か20年間に26万3000人から52万5000人へと倍増する
など急激な成長を遂げた。しかしその後、1975年をピークに一転して減少傾向とな
り、阪神・淡路大震災にともない被災者が緊急避難してきた1995年と1996年を除
いては、現在まで人口減少がほぼ一貫して続いている。人口減少の主な原因は、一
時は年間最高2万4000人(1961年)に達した転入超過人口が1970年を境にして
マイナスに転じ、さらに1975年以降は自然増(出生人口と死亡人口の差)を上回
る転出超過が発生しているためである。よりよい居住環境を求めての人口流出が四
半世紀にわたって切れ目なく続いているのである。
現在人口の2割を上回る人口減少・流出は、東大阪市の将来にどのような影響を
及ぼすであろうか。それは一口で言って「空洞化した低質市街地の広がり」であり、
「衰退地域の深刻化」であろう。20世紀の高度成長期の都市問題は、人口急増にと
もなうインフラ不足・住宅不足という「ハコモノ」の問題であったが、21世紀の低
成長期においては、人口減少・人口空洞化にともなう地域経済の衰退、地域社会の
崩壊、そして市街地環境の荒廃化という「三位一体の地域衰退問題」(いわゆるイン
ナーシティ問題)が主たる都市問題として浮揚するからである。そして、もし東大
阪市が21世紀の早い時期に同和地区の発展的解消に成功しなければ、市街地衰退
化が一層加速されることはまず間違いない。
自治体行政にとって、人口は最重要の基本要素である。人口が減少するというこ
とは、その都市が市民の定住場所としての魅力を減じつつあることを意味する。魅
力のない都市が「市民によって捨てられる時代」がすでに現実のものとなりつつあ
る。東大阪市がこれ以上の人口減少の進行をくい止め、市街地の衰退化を防ぐため
には、なによりも福祉、教育、文化の振興によって魅力ある定住環境を取り戻すこ
とが求められている。東大阪市が同和地区の発展的解消と市街地の活性化を通して
「都市アメニティ」(快適な都市環境)を高め、市民参加のコミュニティづくりの推
進によって市民の「定住意識」を涵養し、都市の「持続的発展」(サステイナブル・
テベロップメント)の道を選ぶのか、それとも現状を追認して「都市衰退化への道」
を歩むのか、20世紀最後の決断に東大阪市の運命が委ねられている。
第2章 住宅・環境対策
T 基本視点
同和行政における住宅・環境対策は、これまで部落差別を解消するための最重要
施策のひとつであった。これは、歴史的には部落差別が身分・職業・居住地に関す
る三位一体の差別であり、戦後においても劣悪な地区環境の存続が差別解消を妨げ
る主たる要因であったためである。
したがって、同和地区の住宅・環境を改善することは、@地区住民の「健康で文
化的な最低限の住生活」を実現し(憲法第25条)、A一般地区と相互移転・交流を
促す「居住・移転の自由」を保障し(憲法第22条)、B同和地区の一般地区化すな
わち部落の解消を図り「改善された同和地区を再生産しない」(同対審答申調査報
告)という同和行政の基本目標に合致していた。
U 東大阪市同和行政における住宅・環境対策の到達点と問題点
1 居住水準について
政府が5年ごとに作成する住宅建設五箇年計画では、国民の住生活の向上を図る
上で達成すべき目標のひとつとして「居住水準」を定めている。「居住水準」(表1)
には、@健康で文化的な住生活の基礎であり、全国全ての世帯が確保すべき水準であ
る「最低居住水準」、A2000年度を目途に全国で半数の世帯が到達できるように
する「誘導居住水準」の2種類がある。前者は全国一律の基準であり、後者は立地
条件により、都市の中心およびその周辺における共同住宅居住を想定した「都市居
住型」ならびに都市の郊外および都市部以外の一般地域における戸建住宅居住を想
定した「一般型」に2区分されている。
この基準は固定化された絶対的基準でなく、国の住宅政策を遂行する上での政策
基準であり相対的基準であって、これまでも国民の住生活の向上に応じてその都度
改訂されてきた。したがって、現時点で居住水準が最低居住水準を超えている場合
には、健康で文化的な最低限の住生活が一応実現されていると考えられ、誘導居住
水準以上である場合には、全国平均以上の水準にあると見なすことができる。ここ
では東大阪市同和地区の居住水準を「都市居住型」基準を適用して検討してみたい。
表1 建設省第7期住宅建設5箇年計画(1996〜2000年度)における居住水準
(略)
東大阪市同和地区の居住水準(東大阪市住宅改良室調、2000年4月現在) を『平
成10年住宅・土地統計調査速報値』(総務庁、1998年10月現在)に基づき京阪神
大都市圏の居住水準と比較してみると、地区住民の大多数が計画的に建設された同
和向市営住宅(改良住宅を含む、以下同じ)に居住していることから、日照・通風・
道路・駐車場・公園・各種共同施設などの近隣環境条件はもとより、住宅の規模・
構造・設備などについても健康で文化的な最低限の住生活を保障する水準をほぼク
リアーしているといえる。
これを世帯人員別住戸規模から算出した「最低居住水準未満」、「最低居住水準以
上、誘導居住水準未満」、「誘導居住水準以上」に3区分して各々の世帯比率をみる
と、地区の居住水準は、京阪神大都市圏の持家を含む全世帯平均水準には劣るもの
の、公営借家世帯および民間借家世帯をやや上回る水準に位置していることがわか
る(表2〜3)。
2 一般地区との移転・交流について
『平成3年度同和対策事業地域住民生活実態調査報告書』(大阪府、1990年5月現
在)および『平成5年度同和地区実態把握等調査報告書』(総務庁、1993年11月現
在)によれば、居住・移転の自由に関しては、行政的に意図されたかどうかは別に
して、荒本・蛇草両地区ともすでに90年代当初から同和地区内外の移転・交流が
表2 東大阪市同和地区における世帯人員別住戸規模(略)
・最低居住水準未満 308世帯(14.0%)
・最低以上、誘導未満 1251世帯(56.8%)
・誘導居住水準以上 643世帯(29.2%)
表3 京阪神大都市圏における居住水準比較(略)
当程度進行し、同和地区としての実態が急速に薄れつつある状況が見て取れる。
90年5月調査では、「世帯主夫婦、その父母または祖父母のうち、一人でもこの
地区で生まれた者」がいる世帯を「原住世帯」、それ以外の世帯を「来住世帯」とし
て調査結果を公表している。その結果、来住世帯は荒本地区で4O.0%、蛇草地区で
54.2%を占め、地区全体でほぼ半数の49.2%が来住世帯である。そして来住世帯の
前住地の大半が「同和地区外」(荒本地区85.0%、蛇草地区89.7%)であることか
ら、地区全世帯のうち地区外出身世帯の割合は荒本地区34.0%、蛇草地区48.6%、
計43.5%となり、地区世帯の半数近くがすでに「地区外出身世帯」で占められてい
る(表4〜6)。
また、夫婦の出生地の組合せ別の割合をみると、「夫婦とも同和地区」が荒本地
区25.7%、蛇草地区21.8%、計23.2%、「夫婦の一方が同和地区」が荒本地区45.2%、
蛇草地区33.8%、計37.9%、「夫婦とも同和地区外」が荒本地区26.2%、蛇草地区
34.2%、計31.3%となり、夫婦とも同和地区の出生である世帯の割合はもはや全体
の1/4 以下の少数派となっている(表7)。
表4 原住・来住別同和地区世帯数(略)
表5 前住地別来住世帯数(略)
表6 同和地区・地区外出身別世帯数(略)
表7 夫婦の同和地区・地区外出身別世帯数(略)
3 同和地区の一般地区化について
最大の問題は、住宅・環境施策の結果が部落解消あるいは同和地区の一般地区化
という最終目標に向かうどころか、むしろ「部落の維持・継続」、「同和地区の再生
産」に向かって歴史的に逆行していることであろう。換言すれば、「実態としての部
落・同和地区」がいま現在歴史的に解消しつつあるにもかかわらず、「行政的に維
持・再生産された同和地区」ともいうべき「行政部落」が新たに生み出されている
のである。その根本原因は、いうまでもなく「府同促・地区協方式」といわれる東
大阪市同和行政の運営方式、とりわけ部落解放運動団体や地元精通者等から構成さ
れる地区協議会の「入居推薦」に基づく同和向市営住宅の入居者選考方式に起因し
ている。
(1) 地区協議会による同和地区住民の推薦と認定
東大阪市の同和行政は、これまで建前上は同和地区出身者であり、かつ地区居住
者である地区住民を同和事業の対象とする「属地属人主義」に基づくとされてきた。
しかし上述したように、すでに10年前から全世帯の 1/2近くが地区外出身世帯に
よって占められ、「夫婦とも同和地区」である世帯比率が全夫婦世帯の1/4 以下で
しかない事態が出現していることは、この「属地属人主義」の運用が当初目的から
根本的に変質していることを物語っている。その何よりの証左が「同和地区住民」
として行政から認定されている多数の「外国人登録者」の増加であろう。
同和地区改良事業の初期の段階においては、従前居住者としての外国人を一部改
良住宅に入居させることもあったと聞くが、その後90年 5月調査の段階では、荒
本地区で同和地区人口1895人のうち63人( 3.3%)、蛇草地区では3543人のうち
561人(15.8%)、計5438人のうち実に 624人(11.5%)もの「外国人国籍同和地
区住民」の存在が確認されている。また最近の『東大阪市行政資料』(2000年3月
現在)によれば、荒本地区1830人のうち69人( 3.8%)、蛇草地区3236人のうち
503人(15.5%)、計5066人のうち 572人(11.3%)が外国人登録者であることが
判明している。つまり、東大阪市の同和地区においては、地区外出身者はもとより
外国人登録者も「同和地区住民」として行政から認定されてきたのである。
この事態は、「属地属人主義を口実にした地区協議会による同和地区住民の認定」
ともいうべき極めて重大な内容をはらんでいる。なぜなら、同和向市営住宅の入居
者選考においては、これまで「属地属人主義」を理由に一般市民の応募・入居は拒
否しながら、地区協議会が入居者を「推薦」し、住宅改良室と「協議」すれば、行
政がこれを個人給付事業をはじめ各種同和事業の対象者となる「同和地区住民」と
して同和向市営住宅への入居を認めるという東大阪市特有の入居審査・決定方式が
まかり通ってきたからである。これは、地区協議会による同和向市営住宅入居者の
「事実上の選別」であり、同和向市営住宅が地区外住民や外国人を「同和地区住民
化」する役割を果たしているといえよう。
本来ならば、地区外住民の同和向市営住宅への入居は「混住化」を促進して同和
地区の解消を導くはずである。しかし、東大阪市においては逆に地区協議会と行政
が事実上共同して「同和地区住民」として、外国人や地区外住民を同和向市営住宅
に入居させ、同和地区を維持・再生産するシステムとして機能しているのである。
(2) 同和向市営住宅における不正入居と家賃滞納の常態化
同和事業のほとんど全てを地区協議会との協議を通して執行・運営する「地区協
方式」は、公営住宅法に基づく公的な同和向市営住宅の維持・管理業務を事実上の
「無法状態」と化してきた。「不正入居の蔓延」、「家賃滞納の常態化」という異常か
つ深刻極まる事態の横行がそれである。
同和向市営住宅における不正入居については、これまでしばしばその横行ぶりが
指摘されながら本格的な実態調査が一度として実施されず、また明け渡し請求など
必要な法的措置も全くとられてこなかった。このことは、当局が行政責任を放棄し、
無法状態を事実上野放しにしてきたことに他ならず、不正入居者はもとより行政当
事者としても厳しく批判されて然るべきである。
不正入居には、正当な事由なしに住宅を一定期間使用しない「不在」、入居権の
「無断承継」や「転貸し」あるいは「譲渡」など各種の態様がある。しかし、90年
5月調査時点において、不正入居の実態こそ調査されなかったものの、荒本地区では調
査対象 898世帯のうち 138世帯(15.4%)、蛇草地区では1578世帯のうち 138世
帯( 8.7%)、計2476世帯のうち 276 世帯(11.1%)が「長期不在」として「調
査不能世帯」にカウントされており、実態の一端は図らずもその時点で明らかにな
っていたのである。
今回、公営住宅法が1996年に45年ぶりに大改正され、家賃体系が従来の建設費
用原価に基づく「法定限度額方式」から入居者収入と当該住宅の便益に応じて決定
される「応能応益方式」に変更されることになった。すでに一般公営住宅において
は家賃改訂が実施済であり、同和向市営住宅においても2001年度から実施に移さ
れることになっている。入居者の収入を確定することなしには家賃を決定できない
仕組みになっているわけである。したがって当局としても、これまでのように名義
人と入居者が異なる状態を放置することは許されなくなり、最近になって漸く入居
者調査が行われることになった。だが、これまで不正入居を事実上野放しにしてき
たツケは大きく、調査は難航しており、結果は「調査中」と称して未だ公表されて
いない。
家賃滞納の実態にいたっては、これが法治国家の下での自治体行政とは到底信じ
られないような戦慄すべき状況が露呈している(表8〜10)。家賃滞納の原因とし
ては、入居者自身の「モラル・ハザード」(倫理観の喪失)はもとより、このような状
態を放置してきた行政側の無責任体制と組織的怠慢が厳しく批判されなければなら
ない。また、家賃納付を入居者責任において追求することなく、一部運動団体によ
る家賃集金と代理納付を安易に認めてきたこともその遠因として指摘できるであろ
う。住宅改良室の調査によれば、2000年3月末現在、3カ月以上の家賃滞納は件数
にして1011件、滞納額合計(延滞利子等は一切含めないで)は2億1000万円近く
の巨額に上っている。同和向市営住宅入居者2202世帯の実に半数近く(45.9%)
が滞納しているわけである。しかも、家賃滞納・不払者に対してはこれまで年4回
の形式的な催促状が郵送されるだけで、長期間にわたって住宅管理者が家賃徴収に
直接赴いたことがないという。今年度になって漸く滞納世帯への個別訪問が行われ、
一定の前進が見られたと聞くが、現在のところ全体的な結果は判明していない。
家賃滞納の内訳をみると、さらに驚愕すべき数字が並んでいる。3年以上5年未
満の滞納 108件、5年以上10年未満の滞納92件、10年以上の滞納31件である。
3年以上の家賃滞納・不払者が実に全世帯の10%を超える 231世帯に達している。
また「滞納月数ワーストテン」は最長 192カ月(16年)から 135カ月(11年3カ
月)まで、「滞納金額ワーストテン」は延滞利子等を一切含めないで最高 155万
5000円から 123万3000円までなど、まさに「天文学的数字」としか言いようの
ない数字が並んでいる。
加えて見逃すことができないのは、東大阪市の正規の公務員でありながら3カ月
以上滞納している入居者が67世帯、滞納金額にして1600万円に達していることで
ある。しかもその中には3年以上5年未満の滞納11件、5年以上10年未満の滞納
3件、計14件もの悪質極まりないケースが含まれている。市民の税金によって賃
金が支払われ、市民の公僕として市民福祉に服務しなければならない市職員多数が、
このような不正行為を重ねている事態は言語道断であり、絶対に許されない社会的
犯罪行為というべきである。
表8 東大阪市における同和向市営住宅家賃の滞納実態(2000年3月末現在)(略)
表9 うち東大阪市職員の同和向市営住宅家賃の滞納実態(200O年3月末現在)(略)
表10 東大阪市同和向市営住宅家賃の滞納月数、滞納金額ワーストテン
(2000年3月末現在)(略)
V 東大阪市同和行政における住宅・環境対策の当面の改善方策について
1 同和向市営住宅等の管理業務に関する「地区協方式」の即時廃止
これまで地区協議会との協議に基づいて同和対策事業を実施してきたいわゆる
「地区協方式」を即時廃止し、同和向市営住宅・付帯施設などに関する一切の管理
業務を公営住宅法に基づき行政が厳正に執行する体制に直ちに切り換えなければな
らない。とりわけ、入居者選考と家賃収納に関する業務は現行方式を即刻取り止め、
住宅改良室の厳正な直接管理のもとに置き、入居者本人への家賃納入通知書の送付
により金融機関窓口での納付あるいは口座振替納付に即刻改めるべきである。
2 家賃滞納、不正入居等の徹底解明と一掃
東大阪市営住宅条例(平成9年改正)によれば、第40条第1項(明け渡し請求)
において、市長が入居者に明け渡し請求を行使できる条項として、@入居者が不正
の行為によって入居したとき、A入居者が家賃を3カ月以上滞納したとき、B失火
等の過失により市営住宅または共同施設に著しい損害を生じさせたとき、C入居者
が市営住宅または共同施設を故意に棄損したとき、D他に住宅を取得し生活の本拠
を移したとき、または入居者が正当な事由によらないで15日以上市営住宅を使用
しないとき、E必要な同居承認や入居継承の承認を得なかったとき、などの「明け
渡し条項」が列挙されている。
公営住宅法第27条(入居者の保管義務等)2項の解説によれば、不正入居の中
でも「使用権の譲渡・転貸の禁止は絶対的な禁止であり、事業主体の承認によって
有効になることはない」と説明されている。つまり、公営住宅の使用権の譲渡や転
貸は、当局の行政裁量の及ばない絶対的不法行為だと断定しているわけである。そ
して同法第32条(公営住宅の明渡し)3項において、不正入居が判明した場合は、
明渡請求はもちろんのこと入居時から明渡し時までの期間中に得た利益、すなわち
近傍同種の住宅家賃と不正入居者がそれまでに支払った家賃との差額に年5分の利
息を付した額の金銭を当局が請求できること、さらに不正入居者が明渡請求後も退
去しない場合には、近傍同種の住宅家賃の2倍を上限とする損害賠償請求を行うこ
とができることが規定されている。
公営住宅法改正に基づく同和向市営住宅の家賃改訂が目前に迫った現在、家賃滞
納や空き家・不正入居等の実態を早急かつ徹底的に調査解明し、一件資料を即刻公
開する必要がある。その上で滞納家賃を一掃し、家賃支払いに応じない場合は明渡
請求に基づく差押えや退去等の法的対応を含めて毅然たる行政措置をとるべきであ
る。また不正入居の場合は、入居者の住宅事情や入居に至る経緯を考慮の上、悪質
な不正入居に対しては退去や損害賠償請求等の法的対応を含めて断固たる行政措置
をとるべきである。とりわけ悪質な家賃滞納者が東大阪市職員である場合は、地方
公務員服務規程に照らして懲戒処分を含む厳罰に処すべきである。
しかしながら留意すべきは、これら不正入居・家賃滞納等の実態は、東大阪市に
おける「積年の弊害」であり「歴史的負債」の一環である以上、事態の調査および
解明にあたっては住宅改良室など担当部局の現場対応にとどめず、市長を責任者と
する「特別対策本部」を設置するなど、市長以下市幹部職員が率先して問題解決に
取り組むことが必要であろう。
3 改良残事業の見直しと同和向市営住宅入居選考方式の抜本的是正
住宅地区改良に関する残事業は一時凍結して抜本的に見直し、必要最小限のもの
に限って実施すべきである。また、土地開発公社により先行取得した同和関連事業
用地は、現在利息等の債務が年々増加しているので、事業見直しにともない他用途
への転換可能性を検討するとともに、民間等への売却を含めて処分を急がなければ
ならない。
同和向市営住宅の入居選考方式については「属地属人方式」を即時廃止し、広く
市民に開かれた公営住宅として全市的に活用し再生させなければならない。このた
め新婚世帯や子育て世帯など若手を中心とする一般市民入居を優先し、そのための
住戸改善や家賃補助施策を積極的に検討すべきである。
4 同和地区における清掃状況の改善
同和地区内の各種施設および地区環境の清掃に関しては、多額の予算が計上され、
また清掃業務関連人員の特別配置が行われているにもかかわらず(41ページ、第4
章Tの6および44ページ、Uの3参照)、清掃状態や美化活動の水準は、随所でゴ
ミ放棄がみられるなど低質でまことに憂うべき状況にある。これは、地区住民の施
設管理や美化活動への主体的意識を涵養しないまま、当局が清掃管理業務を地区協
議会関連業者に安易に委託し、清掃費を一方的に肥大化させてきたことに根本的原
因がある。その結果、「清掃予算が増加するほどゴミ投棄が増える」という悪循環に
陥っているのである。
この憂うべき状態から脱却するには、まずもって行政が清掃管理業務に関する厳正
な点検・評価を行い、地区協議会関連業者に対する清掃管理業務の委託や清掃関連
人員の特別配置などを即刻取り止めるべきである。そして、地区住民が自らの意志
と責任において「美しい環境づくり」に参加できるよう様々な機会を設けるととも
に、まちづくりボランティアなど全市的な交流を通して、新しいライフスタイルの
構築に向けた取り組みを進めることが肝要であろう
第3章 福祉・保健・医療対策
T 福祉・保健・医療行政と同和対策事業
福祉・保健・医療行政は、貧困・低所得対策として出発している。一般階層と貧
困・低所得層の間の格差を緩和するための特別措置であった。同和対策事業も格差
是正のための特別措置である。したがって、福祉・保健・医療の同和対策事業とな
ると、二重の格差是正の特別措置ということになる。
今日の福祉・保健・医療行政は、貧困・低所得層に限定されなくなり、一般国民
を対象にした施策を多く含むようになっているが、同和地区住民の福祉・保健・医
療に関わる実態への対策としては、福祉・保健・医療行政のなかの貧困・低所得層
対策によって対応すれば、格差是正の特別措置を行なうことができる。
実際には、福祉・保健・医療行政に加えて、同和対策事業で福祉・保健・医療面
の特別措置を行なってきた。同和地区住民に押し付けられてきた格差を是正するの
には、福祉・保健・医療行政が低水準で、あまり効果が期待できなかったことと、
同和地区住民には身分差別の残滓が働いていたことによる。福祉・保健・医療行政
による個別の対応ではなく、地域・集団単位の対策で一挙に格差を是正する必要が
あった。
このような事情は福祉・保健・医療行政にかぎらず、格差是正の必要なその他の
行政にもいえたことから、地域・集団単位に総合的な格差是正が求められ、特別措
置がとられた。
福祉・保健・医療行政と同和対策事業のこのような関連からすると、格差是正が
進めば同和対策事業は終結すべきという一般的な方針以上に、同和地区住民の実態
が画一的に低所得・貧困というのではなくなれば、福祉・保健・医療は本来の個別
の実態に即した対策に移すべきものである。
この原則からするならば、以下に検討するように、東大阪市の同和対策事業で福
祉・保健・医療に関わるものはすでに終結させるべきものになっている。今後の課
題は、福祉・保健・医療の一般対策に関わるものになっている。
U 東大阪市における福祉・保健・医療の同和対策事業の概要
福祉・保健・医療の同和対策事業には、東大阪市の一般対策にはない施策と一般
対策に上乗せ補完している施策とがある。
1 一般対策にない同和対策事業
一般対策にはなく同和対策事業にある施策は整理されてはきたが、いまでも次の
ようなものがある。
@ 病児保育、保育料特別減免、「みな保育」と呼ばれる希望者全員入所、3歳
児以上主食費給付、乳児の貸しオムツ。
A 母子・寡婦および父子家庭へのホームヘルパー無料派遣。
B 障害児のための放課後施設および高校生との交流制度。
C 中高年齢者雇用対策(環境整備事業、小中校図書整理・介助・清掃)、老人
無料入浴券交付。
D 公営共同浴場。
2 一般対策に上乗せ補完している事業
ー般対策の施策としてあるものに、同和対策事業として上乗せした施策としては
次のようなものがある。
(1) 施設配置――老人センター、障害者センター、診療所、斎場。施設配置
での一般対策への上乗せは、同和地区への施設の重点配置として表れる。
(2) サービス・給付――福祉・保健・医療サービスや給付の上乗せ補完につ
いては次のようなものがある。
@ 老人研修・老人生きがい対策団体助成(1999年度予算 536万2000円)。
A 老人の健康増進・教養向上・親睦経費( 320万9000円。一般施策としては
1老人クラブ4万円の助成)。
B 大阪府福祉施設連絡協議会負担金(16万3000円)。
C 保育士同和加配(2000年度より廃止)。
D 診療所保健増進事業補助金(1060万円。運営費補助を含めると総額7360万
円)
E 国民健康保険料減免。
F 障害者医療費助成。
V 同和対策事業としての福祉・保健・医療対策の終結
同和対策事業の本来の役割は、一般施策に加えて集団単位・地区単位の施策とし
て各種の格差を是正することにあった。したがって、上記Uのように東大阪市にお
いて(1)一般対策にない同和対策事業、(2)一般対策の上乗せ補完事業がある。
これらが東大阪市の現実や同和地区の実態との関わりで、今日の段階で同和対策事
業の本来の役割・機能を発揮しているかどうかの検討が必要である。
1 同和対策事業として不適切になっているもの
[一般対策にない同和対策事業の施策]
@ 保育料特別減免、3歳児以上主食費給付、乳児の貸しオムツ
これらの施策は、同和地区と周辺地域との間の格差是正の進展からすると、
同和対策事業として一律に行うべきものではなくなっている。社会福祉の一般
対策として個々の実態に即して必要なケ一スに対して行われるべきものにな
っている。
A 老人無料入浴券交付事業
高齢者にとって入浴は、健康上も交流の場としても意味があるので、日や時
間を限って高齢者への浴場開放に補助金を出す例などもある。今後の高齢者福
祉の一環として無料入浴券は考えられるが、一般施策として検討し進めるべき
ものである。同和対策事業としては廃止すべきである。
[上乗せ・補完の施策]
B ホームヘルパ一無料派遣
各種の格差是正が進んでいることから、収入・所得や緊急事態などの個別の
要件に応じて適用されるべきで、同和対策事業としての特別措置は適切でなく
なっている。個別の実態に即した福祉行政の本来のもので対応すべきところに
きている。
ただ、一般施策の内容は市民全体の実態に合ったものではないという問題点
がある。ホームヘルパーの有料負担ができず利用していない例が多くあるのは、
へルパー派遣制度の改善が必要なことの表われであり、同和対策事業の終結と
ともに、ホームヘルパー無料派遣の範囲を広げるなど検討すべき課題である。
C 老人医療費助成、国民健康保険料減免
これらの特別措置も、格差是正が進んだ現在では同和対策事業として行なう
のは不適切になっている。一般対策の適用原理に従って個別実態に即して行な
うベきである。ただ、一般対策の減免措置のほかに、市民の実態を考慮して東
大阪市独自で減免措置を設けることは一向に構わない。医療費の一部負担がで
きずに「病人が患者になれない」ケースが報告されたり、保険料が払われない
ことにより資格証明書が交付される例もあることからすると、むしろ奨励され
るべき施策である。この場合は一般施策としてであって、すべての市民を対象
に行なうものでなくてはならない。
D 診療所
センター病院、広域病院があって診療所が小地域に行き渡っていることは望
ましいことである。三つしかない公設診療所の二つが同和地区にあることが検
討されなくてはならない。
二つの同和地区とその周辺地域は、民間の医療機関もあって、医療機関の過
疎地域というところではない。また、傷病者の比率が特に高いという地域でも
ない(二つの地区の傷病者率は平均で28.6だが、全国平均が25.4)。蛇草診療
所の場合は地区に病院があるのに、考え方の違いということで公設の診療所を
つくっている。実際に診療拒否を受けたということではないので、別に診療所
をつくるのは医療機関の配置の原則をはずれている。
このようなことのために、三つの公設診療所の利用状況は、一日平均患者数
でみると、荒本−113.0 人、蛇草−35.2人、東− 152.0人である。同和地区の
二つの診療所にも巨額の市費が毎年支出されているので、現在では同和対策と
してではなく一般対策としての公立診療所の点検をおこなって方針を出すべ
きところにきている(50ページ、第4章Vの3参照)。
E 斎場
歴史的には、差別によって葬祭も共にしなかったための対策として独自の斎
場を用意することになった。しかし、今日ではこのような必要性はまったくな
くなっている。全市的な配置計画にそって存廃を決めるべきである(52ページ、
第4章Vの4参照)。
F 公営共同浴場
同和対策事業で建てられた住宅は浴場がなかったので、公営共同浴場は必要
であった。浴場のある住宅が今日では普及しているが、それでも一般に高齢者
などは近くの共同浴場を利用する例が多い。社会的交流の重要な場になるから
である。
この場合も、同和対策事業で特別措置として赤字補填の補助を行なっている
ことを点検しなくてはならない。老人無料入浴券交付事業は2001年度から対
象年齢の引き上げなど見直しが予定されているが、このような検討の結果とみ
られる。
今日では、民営大衆浴場が通例で、これに補助金・助成金を支給するのが普
通の形になっている。だからといって公営を民営に移せというのではない。部
落問題の解決は同和地区内外の自由な社会的交流を実現することなので、現在
の公営・民営いずれでも共同浴場を周辺地域に開放するだけでなく、利用を広
げる工夫をすることが大事である(48ページ、第4章Vの2参照)。
G 老人対策団体助成、老人諸活動経費
老人団体への助成を特別措置として上乗せ補完をするのは、同和対策事業と
しても適切でないと思われる。特別措置は労働と生活の実態に即して行なわれ
るべきもので、団体への経費・活動費助成のようなものはなじまない。−般施
策と同じにすべきである。個々の活動について申請を受け検討して助成の当否
を決める方式にすべきであろう。
2 同和対策事業ではなくなっていると思われるもの
[一般対策にない同和対策事業の施策]
@ 病児保育、「みな保育」
いずれも今日の保育の一般施策で求められているもので、東大阪市でも一般
施策としては実現していない。こういう状況での特別措置は格差是正の同和対
策事業ではなく、一般施策としておこなわなくてはならないものを特別に行な
っていることになる。特別措置ではなく一般施策で実現すべき課題である。な
お、「みな保育」については児童福祉法での利用条件があるので簡単ではない。
A 障害児放課後施設および交流制度
これらも今日必要な施策である。しかし、格差是正の特別措置の機能はない。
一般市民が保障されていないものだからである。社会福祉の一般施策としてつ
くるベきものである。
B 中高年齢者雇用対策
今日の雇用情勢、とりわけ高齢者にきびしい現実や、高齢社会の進展で、こ
の施策も全市民的意味をもっており、格差是正の機能を発揮していない。特別
に行なうのではなく一般施策で必要な市民に保障すべきものである。
[上乗せ・補完の施策]
C 老人センター、障害者センター
老人センターは6箇所つくられているが、そのうち二つが同和地区につくら
れている。比率だけで言えば、同和地区は2533人(2000年3月現在)に1箇
所に対し、一般地区は12万8383人に1箇所になっている。これを65歳以上
の高齢人口で補正すると、同和地区は老人 432人に1箇所に対し、一般地域は
1万8196人に1箇所になる。
障害者センターは同和地区に2箇所で、一般地域では総合福祉センター内に
設置されているものが1箇所だけである。
東大阪市の現状では、老人センター・障害者センターの施設およびサービス
は、格差是正の機能を果たしていない。社会福祉として必要とするすべての市
民が保障されるべき施策が一般地区で不十分にしか保障されていない。一般市
民のなかで老人センター・障害者センターの施設およびサービスを必要として
いながら利用できないという社会福祉の一般施策のおくれが問題である。格差
是正とは逆のようなかたちになるのも一般施策のおくれのためである。
なお、老人福祉では、デイサービスの必要が今後ますます増えるので、要求
におくれることなく一般施策で全市的に計画的に施設を増設していくべきで
ある。障害者センターについても、三つのうち二つが同和地区に配置されてい
る上に、市の直営で市職員が合わせて28名(1999年5月現在、職員27名、
アルバイト1名)いるが、高井田障害者センターは、社会福祉事業団が委託を
受けて運営している。再検討すべきところにきている。
W 東大阪市の福祉・保健・医療の同和対策事業が示したこと
1 格差是正の効果があがらなくなっている施策の問題
いくつかの施策は格差是正の効果があがらなくなっている。効果があがらなくな
っている理由は、同和地区の労働や生活の実態が変化して、格差が改められてきた
ことにある。この変化は、同和対策事業やその他の部落問題解決の施策や運動が役
割を果たしてきたことによっている。
福祉・保健・医療の同和対策事業が役割を終えているのに、そのままで継続する
と、格差是正の効果はあげえないのだから、別の機能を発揮することになる。同和
地区のかさ上げ措置になる。このようなかさ上げ措置は、行政的に特別地区をつく
っていることで、部落問題解決に逆行する機能を発揮する。
格差是正の効果をなくした同和対策事業は、部落問題の解決を妨げるだけではな
く、自治体行政の公正・公平を侵すものにもなる。公共の財が行政目標と無関係に
なって浪費されていることになり、市民に損害を与えているからである。
2 同和対策事業でなくなっている施策の問題
この場合も、格差是正という行政目標と無関係なものになっていることでは、上
記1の格差是正の効果があがらなくなっている施策と同じ問題をもってきている。
終結すべき事業になっている。それに加えて次の点を指摘しなくてはならない。
これらの施策は、同和対策事業としては不適切なものだが、市民の実態からして
求められている福祉・保健・医療の施策である。市民が求めている施策はどこにで
もあるが、中身を具体的にみてきたように、とくに高い水準の施策を求めているの
ではない(格差是正の効果があがらなくなっている施策のところにも、一般施策の
おくれによるものがかなりあった。ホームヘルパー制度、国保減免や保険料の額、
老人医療費・国保医療費自己負担分減免、診療所配置など)。このことは、東大阪市
が福祉・保健・医療の低い行政水準の下に置かれてきて、同和地区だけがましな行
政サービスの下に置かれてきたことを意味する。福祉・保健・医療の一般行政水準
の引き上げが急務になっている。
3 施設配置のアンバランスの是正
福祉・保健・医療の施設配置が地域的にアンバランスになってきたことは指摘し
てきたとおりである。これは,一定の期間がかかるにしても是正しなくてはならな
い。このアンバランスには二つの側面が考えられる。ひとつは同和対策事業を優先・
重点施策にしてきた政策の面である。もう一つは福祉・保健・医療における一般行
政のおくれの面である。二つの面は無関係ではなく関連しあっている。
したがって、是正にも二つの側面がある。ひとつは福祉・保健・医療の施設によ
っては、同和地区の変化もあって過度の集中になっているものもあるかもしれない。
この場合は施設の移転も考えられる。しかし大都市地域の場合、土地問題もあって
移転で適切な再配置になることは不可能に近い。過度の集中になったものについて
は、移転も検討の余地があるにしても、可能なのは施設の開放ということになる。
東大阪市でも同和地区の福祉・保健・医療施設の一般への開放が行なわれてきてい
る。しかし、単純な開放だけではアンバランスの是正に有効でない場合もある。た
とえば、同和地区をはじめ周辺地域も高齢化が進んでくると、同和地区の保育所の
開放だけでは、周辺地域の子どもが利用しても定員にみたないことがある。このよ
うな場合には、乳児の中途入所とか延長保育とかで多少遠くとも利用するような制
度内容の工夫が必要であろう。
このことに関わって、福祉・保健・医療の施設を開放するということは、保育内
容での同和保育のような特別なものは行なわないのが当然で、それでなければ一般
開放の実はあがらない。
アンバランス是正のもう一つの方向は、福祉・保健・医療の施設を全市に早急に
配置をしていくことである。この点では東大阪市はかなりおくれているように思わ
れる。ただ、今日の状況では、すべてが公設公営でなくてはならないというのでは
ない。市民がサービスから疎外されている事態を改善しなくてはならない。
第4章 産業・就労対策と公的施設・経営体の管理運営
第1章の総論で述べたとおり、行政の主体性、公平性の原則を回復・確立するた
めには、これまでの同和対策事業の施行のなかで、これらの原則が歪められたり、
貫徹されなかったその根源にメスを入れ、その過去・現状を把握して、今日の同和
事業終結の観点から整理し、速やかにその是正の方策を確立することが必要である。
その是正は、行政の責任で直ちに実行に移すべきものであるが、問題の性質によっ
ては、一定の経過措置(3年程度)を考慮しなければならないものもあろう。いず
れにせよ、まず全廃するという確固たる決意でのぞむべきである。
T 産業・就労対策について
1 生活職業指導補助金
生活職業指導補助金は、「雇用の安定と就業の改善を図る」ことを事業目的とし、
1999年度予算では 480万円(蛇草・荒本各 240万円)が計上されているが、二つ
の地区協議会への団体助成であり、実質は、人件費であって、事業活動への補助で
はない。事業目的と内容が異なっているうえに、この事業目的も、今日の同和事業
としての必要性が消滅しているので廃止すべきである。
2 内職あっせん所補助金
「高齢者・母子家庭等の生活困窮者に内職をあっせんする」との事業目的で、蛇
草地区長瀬内職あっせん所への団体助成金として、1999年度予算では64万8000
円が支出されているが、今日の事業効果、必要性を検討して廃止へ向かうべきであ
る。
3 技能養成講座
「安定した職種に就労するため資格取得を奨励する」ことを目的として、調理師
については1981年から、簿記3級については1991年から実施され、1999年度予
算でも87万3000円が計上されているが、1997年と1998年は受講者ゼロであり、
1999年には9名が受講しているとはいえ、今日では存続させる必要性もなくなって
いるので廃止すべきである。
4 市営産業施設
荒本・蛇草の作業場・倉庫などの産業施設は、東大阪市営産業施設条例(1981
年条例17号)により、作業場・倉庫・事業所・車庫などの施設を市が設置し、こ
れを貸付けるものとされている。「同和地区産業の育成を図る」ためとして、現在
107戸の作業場等が設置され、その施設の管理運営経費として1999年度予算では
201万3000円が計上されている。
使用料収入は、年間1168万9500円である。この使用料(uあたり月 360円)
の適正化(施設の建設経費・維持管理費等による原価計算や近隣の同種施設の賃料
との対比など)を検討すること、納入率が81%という現状にかんがみ納入率の向上
をはかるなど、管理の厳正化をはかる必要がある。また、空き家が多くなっている
ことに加え、上記の同和事業目的が今日的意義を失っていることから、空き家の一
般公募を含め、市営産業施設の存続について、他への転用を含めて検討を加える必
要がある。
5 市外特定会社からのタクシー借上げの廃止
(1) 現状
1971年2月1日から「(財)大阪同和産業振興会の趣旨」にのっとり、東大阪市
においても、市外特定会社のタクシー4台を借上げる契約をしている。契約は、地
方自治法施行令 167条の2、1項2号の規定による随意契約である。契約内容は、
市長部局総務部3台、教育委員会1台、それぞれ1日拘束7時間30分、1日3万
6700円、年間 243日、2000年度の契約額は、総務部2675万4300円、教育委員
会 891万8100円、合計3567万2400円となる。
1999年度の利用状況は、総務部で3万3437q、乗車人員4725人、教育委員会
で8924q、乗車人員1569人である(これをタクシーなみの1q 330円として算
定すると、走行キロ分で1397万9130円となり、ほかに待メーター分が加算される
ことになる)。
(2) 問題点
(財)大阪同和産業振興会の設立目的・組織・性格・役員構成などは明らかにさ
れていない。また、振興会関連の企業の数や名称も明らかでなく、「市外特定タクシ
ー会社」の関連性や、その企業実態も不明である。
もともと「同和産業の振興」ということで、「特定会社からのタクシー借上げ」を
府下各自治体に相当台数の契約締結を割当てたこと、そして東大阪市がこれを受入
れてきたことに合理性・妥当性があったか疑問がある。今年度の契約期間の終了と
ともに、これを打ち切るべきである。
今後は、公用車の利用状況の検討の上に、一般タクシー利用の必要性の有無を検
討すべきであろう。
6 嘱託員・アルバイトの雇用
(1) 現在、東大阪市の同和地区で、地区協議会をはじめ各施設や各運営委員
会などに嘱託員、アルバイトとして雇用されている人の人数とその賃金は、1999
年度予算で 118人、年間3億0623万4000円に上っている(付表3参照)。
(2) これらについては、まず、それぞれについての事業目的、事業効果を点
検し、即時廃止すべきもの、3年を限度として廃止すべきものに振分けしつつ、こ
れらの事業に従事していたアルバイトについても、廃止を前提に3年程度の期間を
定めて就職あっせん等を行なうものとする。今日の経済情勢のもとで、雇用の確保
は、市行政の重点課題の一つであろうが、廃止すべき事業について雇用を継続する
ことは適切ではないからである。
(3) 市内全域を対象とする清掃事業(家庭ゴミ収集)は、市内4カ所の環境
事業所で取り扱われている。ところが、1973(昭和48)年、同和地区を対象に「地
域の美化と生活環境を整備すること」を目的として、荒本・蛇草の両地区に「生活
環境整備事業所」が設置され、地区内の不法投棄物対策と道路・公園の散乱ゴミの
清掃および除草などの処理を行っているが、地区内の家庭ゴミは、引続き上記4カ
所の事業所のうち両地区を所管する事業所で扱われているのである。そもそも「不
法投棄」が常態として存在することを前提に、その対策を事業目的とするという設
置の必要性そのものが、理解されがたいものであった。そのアルバイトとして両地
区で14名(1999年5月現在)が雇用され、年間8662万5000円の事業費(うち
8434万1000円が人件費)が投じられてきた。これらは、まちづくり、環境整備と
の関連で解決され、これらの同和地区に特別の事業所は、直ちに廃止されるべきで
ある。雇用されているアルバイトについては、上記4カ所の事業所に配置換えでき
るもの以外は、(2)と同じように解決されるべきである。
U 各種補助金・委託料などについて
1 「地区協方式」と補助金の廃止
ここで「地区協方式」の廃止というのは、地区協議会への行政権限の委譲、ある
いはこれと同視すべき実情を改め、行政として二つの地区への行政事務は、すべて
行政が主体的に取り組むこと、地区協議会は、その行政に対する住民の自主的組織
として、行政に協力する団体という本質(一般の町内会と同列視される)以上のも
のではないことを確認することである。
(1) 地区協議会に対する従来の東大阪市の取組み
従来、地区協議会については、「円滑公平に同和対策事業を進め、同和問題の解決
を目的として設置された地区協への運営補助」を内容とし、「運営費を補助すること
により、円滑かつ公平に同和対策事業を進める」ことが、事業効果であるとされて
いた。しかし、この名目のもとに、東大阪市の同和事業の執行における行政の主体
性が発揮されてこなかったことは、すでに指摘してきたとおりである
(2) 地区協議会の役割の変化と行政の補助金の廃止
こうして、同和対策事業そのものの執行に大きな変化を迎えている今日、地区協
議会が住民の自治組織として存続することは、住民の意思によるもので、行政とし
て関与するところではないが、行政が特別の団体として運営補助金を支出する理由
はなくなった。
(3) 地区協議会への直接補助金の現状と今後の措置について
a.1999年度予算では、荒本・蛇草の二つの地区協議会への団体補助金および集
会所・内職斡旋所補助金は、表11の通りである(両地区合計4917万6000円)。た
だし、2000年度予算では、地区協議会運営補助金をはじめ 736万円を削減してい
る。これらの各補助金の支出を受ける以上、地区協議会としては当然、各年次の予
算と決算をそえて報告書を市に提出すべきであるし、市としても、その提出を求め
るべきであったが、それはなされていない。わずかに各部局へ、その補助金分につ
いての形式的な(毎年ほぼ同一内容の)報告書が提出されているのみで、実態は市
として把握されていない。
b.今後の措置としては、
表11 地区協議会への直接補助金等(1999年度)(略)
@ 地区協議会への補助金は直ちに廃止する。
A 上記Tの1〜6の補助金のうち、人件費、アルバイト賃金分は直ちに廃止
し、これらの活動・事業の必要性の有無を、一般地区の同種活動・事業との
公平性を比較検討し、一般地区なみの補助にとどめるべきである。
B 地区協議会へ派遣している市の職員8名は、直ちに引上げるべきである。
2 運動団体などへの補助金・負担金の廃止
(1) 「部落解放基本法」制定要求国民運動東大阪実行委員会への活動補助金
として、年額30万円が支出されているが、行政として補助すべきものではなく、
直ちに廃止する。
(2) 1999年度・2000年度予算に計上されている次の各種負担金は、「府同促
方式」の見直しと関連するもので、検討し、廃止する方向で協議をはじめる。
@ 財団法人大阪府同和事業促進協議会負担金( 425万円、人権文化部)
A 同和事業推進大阪行政連絡協議会分担金(7万5000円、人権文化部)
B 大阪府解放会館連絡協議会分担金(37万7000円、人権文化部)
C 社団法人同和地区人材雇用開発センター負担金(19万3000円、経済部)
D 大阪府福祉施設連絡協議会負担金(16万3000円、福祉部)
E 大阪府(同和地区)青少年会館等・教育施設連絡協議会負担金(17万1000
円、教育委員会)
3 各種施設の警備・清掃委託業務
(1) 1999年度における各施設における警備・清掃業務の委託状況は、表12
の通りである。
(2) これらの委託先の主要な受託者である(財)東大阪市雇用開発センター
は、1979(昭和54)年4月1日に中高年齢者・心身障害者・同和地区住民・寡婦
に対する雇用の確保等を目的として設立され、今日、東大阪市から約30施設の警
備・清掃の委託を受けている。1999年度予算では、年間委託契約金額は4億4463
万5100円であり、そのうち東大阪市委託事業では3億3618万0600円、本件同和
対策事業では7983万7000円となっている。
この財団法人の役員構成、業務運営の実情は、必ずしも明らかにされていないが、
これだけの業務委託がされているのであるから、公的監査を強める必要がある。
表12 東大阪市同和地区における公共施設の警備・清掃業務等委託先別委託料
警備業務委託 (1999年度予算)(略)
これらにより雇用されている人数は85人、うち同和地区住民は42人という。こ
れらの警備・清掃などの委託業務の契約金額、委託業務内容、業務遂行の点検など
が、システムとして十分検討されているかについては疑問がある。民間業者との対
比、公開入札制度による透明性を確保すべきである。
(3) また、荒本解放会館をはじめ荒本地区の主要な公的施設の警備委託をほ
ぼ独占しているA地元業者についても、表12の通り総額で3005万6000円にのぼ
り相当高額でもあり、その契約額が適正であるか、委託業務の遂行度の点検システ
ムがどうなっているか、人的警備の必要性について検討するとともに、公開入札制
度の導入を含めて検討すべきである。
(4) 荒本解放会館については、1999年度で、施設管理費に2935万5000円
が計上され、警備委託費は、解放会館 409万6000円(A地元業者)、別館32万6000
円(C地区外業者)、旧荒本会館 378万5000円(B地区外業者)、合計 820万7000
円となっている。清掃業務は、窓ガラス清掃を委託(22万円)しているほか、会館
職員でしているという。
(5) 以上を通じて、解放会館およびその他の施設について、管理経費と業務
委託費など、その項目のたて方をより簡明にし、総合的に把握できるようにすると
ともに、業務委託については、行政として主体的検討を加える必要がある。
V 公的施設・経営体の管理運営について
1 解放会館
(1) 解放会館の設置目的と従来の活動
蛇草解放会館は1964年、荒本解放会館は1983年に開館され、東大阪市立解放会
館条例および同条例施行規則によると、その事業内容は、「地区住民の福祉の向上と
自立促進に向け、同和問題の解決の中心施設として生活全般にわたる各種啓発相談、
講習事業等をおこなう」とされている。
しかし、実際には、人権文化部、経済部、教育委員会などによる各種事業は、年
間を通じてそう多くは展開されておらず、前記の地区協議会への補助金による事業
を加えてもそう多くはない。
(2) 解放会館にかかわる支出および管理の問題点
解放会館にかかわる支出は、表13のとおりである。
@ 会館運営委員報酬がそれぞれ57万6000円計上されている。
A 蛇草解放会館事務補助経費として、1843万4000円計上され、アルバイト4
名の賃金となっているが、それだけの事務量があると思われない。これも廃止
すべきである。
B 現在、解放会館内に地区協議会専用事務室の使用が、1年ごとの申請で許可
され、開館以来永年の継続使用が認められている。
その使用面積は、蛇草解放会館 1864.20uのうち5室合計241.05u、荒本
解放会館(ホールを含めて)3280uのうち4室264.93u及び別館2室90.72
uの合計355.65uに達する。会館事務室の面積が、蛇草で約60u、荒本で
89.22uに対比しても過大である。
地区協議会の役割の変更、補助金の廃止にともない、2001年以降、段階的
に縮小するとともに、会館事務室面積を超える使用は認められるべきではない
だろう。
表13 解放会館の施設管理運営費等(1999年度予算)(略)
C この地区協事務室内に、許可条件に反して、部落解放同盟支部事務所がおか
れているようである。地区協には市職員各4名が派遣されているので、その実
態は把握されているはずである。この条件違反は、直ちに是正されなければな
らない。支部事務所の利用を禁止する。今後も実質的に継続されるなら、地区
協への使用許可も取消されなければならない。
(3) 同和事業の終結のもとでの会館の位置づけ
解放会館にかかる前記条例および施行規則は、当然変更・修正されなければなら
ない。そのポイントとしては、会館を、東大阪市内の7つの地域の行政の出先・サ
ービスコーナーとしての役割の一つとするとともに、地域住民のコミュニティセン
ターとしての役割と位置づけるべきであろう。そして、会館が「隣保館」として建
設されたという経緯に留意しつつも、今日では、公民館的運用をはかるべきであろ
う。
@ 会館の名称、性格、職員、運営委員会
地方自治法 244条の公の施設にふさわしい名称とし、「解放」の名を削る。
また地域における行政サービスの出張所の役割をもつこと。市職員をもって運
営することとし、条例10条の運営委員会、運営委員会規則は廃止する。経過
措置を講ずるものとすることも可。
A 会館の利用
地区内外の市民の平等利用の原則を厳守する。条例7条の使用料の無料制は
廃止し、他の公の施設と同等の適正な使用料を徴収する。
B 会館の継続使用・貸与
上記の地区協議会への事務室貸与の廃止を含めて見直す。解同支部への転貸
は認めない。
C 警備委託・清掃委託の見直し
他の施設のそれとあわせて検討する。(前記、Uの3のとおり)
D 会館における各種講習会等への補助
地区協議会の項で述べたように、一般地区における補助と同等に扱う。
2 共同浴場
(1)現在の経営形態とその問題点
荒本・蛇草の両地区とも、公営住宅に浴室がないのが大部分であることから、地
区内に共同浴場を設置する必要性は認められよう(東大阪市立共同浴場条例・1971
年)。しかし現在の経営形態には、次のような問題点がみられる。
@ 共同浴場の施設の維持管理は、同和対策室の所管とされ、管理および補修の
ための毎年の経費支出は多額であり、10年単位での改修も必要とされる。こ
うした支出は、1999年度で合計6393万円であり、2000年度には、そのほか
2000万円の改修費が計上されている。
表14 共同浴場管理委託料(1999年度予算)(略)
A 共同浴場の運営は、地区住民で組織する運営委員会に委託されている(この
運営委員会のメンバーが、地区協議会や各種運営委員会のメンバーと一部重な
っている)。
B 共同浴場の入浴料収入は、両共同浴場1999年度予算で合計2060万円(入浴
料は大人 200円)で、経費係数は 310(経費が収入の 3.1倍)にのぼってい
る。この経費係数の高さとともに、収入・経費が一元的に管理されていないこ
と、維持管理および補修・定期修繕も、経費扱いとされず、当然のように別枠
で市負担とされていることなどにも問題がある。
(2) 公営浴場としての展望
以上の問題点を是正し、公営浴場として行政の主体性にもとづいて管理運営して
いくためには、次の諸点に留意する必要がある。
@ 管理運営上、収入・経費の一元的管理をはかる。
A 経営改善のため、入浴料単価の改定と老人無料入浴券交付事業の見直しなど
福祉上の配慮を並行して行なうとともに、経営分析を浴場経営者組合などに委
託して行なう必要もあろう。
B 管理運営委員会への委託見直しを含め、大阪府下の大衆浴場経営者への経営
委託を公開入札で行なうことを検討する。
3 診療所
(1) 診療所の概況
荒本・蛇草の両地区には、それぞれ公設の診療所が設置されている。各診療所の
概況は、表15のとおりである。
(2) 診療所の問題点
@ 他の同和対策事業のほとんどすべてが、市条例を制定して行なわれているが、
診療所関係については、根拠条例が見あたらない。条例上の根拠なく、多額の
支出がなされているのは問題である。
また、地区住民で構成される「運営委員会」に対し、無償で使用を認める契約
をしていること及び蛇草に職員1名、嘱託1名、荒本に職員2名(1999年5
月現在)が派遣され、その人件費を市が負担していることも検討されなければ
ならない。
A 「同和対策事業のひとつとして、地域の保健医療に寄与」することを事業効
果にあげているが、蛇草地区には一つの病院、12の医院・診療所があり、市
費で新たに開設する必要性があったとは思われない。荒本地区にも、ほかに五
つの診療所がある。
B 上記のとおり、二つの診療所の開設経費は14億1707万1000円にのぼり、
無償貸付のうえ、無利子の貸付金13億8857万円の内、償還済の分も全額市
の補助金によるもので、なお8億9795万円が未償還となっており、毎年の赤
字を、全額補助金で埋めている状況で、この返還のメドは全くたっていない。
C しかも、現状の経費係数は、荒本 111、蛇草 184(1998年度)という数字で、
とくに蛇草は改善の見込みがたたない。
D 一方、一般地区の市立病院として、平成4年まで、二つの病院が存在したが、
経営赤字のため、平成4年に病院を廃止し、市立の東診療所として継続された。
E 市立診療所の維持経費は、今日の医療政策のもとで、相当困難をともなう事
業であるが、本来の市民の地域医療の確保という観点からすれば、民間の診療
所・医院等と公正な競合関係にあるはずのものである。とくに、蛇草診療所の
ように毎年多額の赤字を出し、それを全額市の補助金により補填することを余
儀なくされる事態は、同和事業の終結という観点とともに、公設・民営委託の
あり方という観点からも一日も早く見直しされなければならない。そのため、
a 診療所運営委員会への無償使用契約をあらため、市立病院、東診療所の運
表15 荒本・蛇草診療所の概況(略)
営にならい、当面、市立直営の診療所とすべきである。
b 経営形態の改革の以前にも、市民病院、東診療所の経営状況と対比しつつ、
医療専門家による診療収支についての分析を求める。
c 市民的合意を超える過大な支出を余儀なくされている蛇草診療所につい
ては、診療所の廃止、施設の転換を含め、抜本的検討をする。
4 荒本斎場の廃止・統合
(1) 現在荒本斎場には、管理委託料として1017万6000円(1999年度)の
予算が当てられ、うち2人分の人件費として 804万円が充てられている。年
間の利用者数は約20人ということである。
(2) 東大阪市内の斎場は七カ所あり、この荒本斎場を廃止し、一般斎場を利
用することが、市民意識の上でものぞましいものと思われる。
第5章 教育・啓発対策
T 教育対策について
1 基本視点
同和対策審議会「答申」(1965年8月11日)の具体化をはかった閣議了解「同和
対策長期計画」(1969年7月8日)以来、同和教育行政(学校教育・社会教育)は、
次の二つの課題を追求してきた。
A.教育上の格差の解消と教育・文化の水準の向上
B.国民の基本的人権尊重の精神を高めること
学校教育に即していえば、Aの課題の追求は、特に家庭の経済的事情・教育条件
の貧しさによって不利な状況に置かれていた同和地区児童・生徒の教育の機会均等
を保障するための取り組みであり、教育の機会均等(教育基本法第3条)を実質化
させていく取り組みの一環であったといえる。したがって、この課題の追求のため
にとられた特別措置は、格差是正の進行にしたがって、すみやかに廃止もしくは一
般対策に移行されていくべき性格のものである。
Bの課題は、教育実践(教育内容・方法)に直接関係しており、「教育目的を遂行
するに必要な諸条件の整備確立を目標」(教育基本法第10条)とする教育行政のか
かわりは、あくまでも慎重でなければならない。逆に言えば、教育関係者の創造的
で自由な教育実践に依拠するという基本姿勢に立って追求されるべき課題である。
2 教育対策の現状・問題点と課題
(1) 教育上の特別措置をめぐって
イ.特別措置の現状と問題点
東大阪市における特別措置については、国および大阪府の施策とも関連しながら、
現在次のような施策が実施されている。
a.同和加配教職員の配置
b.同和奨学金制度の実施
c.同和地区における夜間学習会の実施
a.同和加配教職員
いわゆる同和加配教職員は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の
標準に関する法律」の第15条を根拠に配置されているが、同和対策の一環として
加配されている教職員であることは間違いない。東大阪市にも、国および大阪府の
施策によって、同和校(4校)に同和加配教職員が、たとえば、1980年には59人、
1985年には58人、1990年には46人、1995年には4O人、1999年には30人が配
置されている(4校の合計人数)。
表16 同和校と同規模一般校との比較(略)
この5年の教職員配置の状況を同和校と同規模の一般校(同規模校とは、該当年
次において学級数が近似値である学校であり、学級数が同一の場合は児童・生徒数
が近似値である学校とした)の教職員数と比較すると、同和加配教職員の配置によ
って一般校との教職員数とは大きな違いがあることがわかる(表16)。
b.同和奨学金制度
従来、東大阪市において実施されてきた個人給付的同和対策事業のうち、教育関
係の事業は、「義務教育特別就学奨励金支給事業」と「高校・大学等修学奨励金支給
事業」の二つである。
このうち、「義務教育特別就学奨励金支給事業」(1972年度から施行)は、1994
年度をもって廃止されている。したがって、今日残されているのは「高校・大学等
修学奨励金支給事業」(以下、同和奨学金制度)のみである。実状は、表17の通り
である。
表17 修学奨励金制度(同和) (1999年度)(略)
表18 奨学資金制度(一般) (1999年度)(略)
同和奨学金制度は、国および大阪府の制度に依拠し、東大阪市として入学支度金
および高校(私立)奨学金において若干の市費負担をする形で運用されている。検
討点の多くは、大阪府の制度に関連している。
第1は、貸与の基準となる収入基準額は、国基準とは別に、府特別措置の基準が
設定されているだけでなく、この基準を超えても、「その他教育長が、その世帯の状
況等を考慮し、特に必要があると認めるもの」という項目によって、理由書を提出
すればほとんどが認められている。
第2は、奨学金(高校、大学・短大の場合)は貸与となっているが、これも「返
還債務免除の特別措置」の規定があり、一定の基準は示されているものの、この基
準を超えても、「その他教育長が、その世帯の状況等を考慮し、特に必要があると認
めるとき」という項目によって、理由書を提出すればほとんどが認められている(高
校の場合)。貸与という形式はとっているが、実質は給付と同様の状況になっている。
第3は、同和奨学金の利用資格の認定は、毎年1月頃地区協議会から提出される
「進学予定者名簿」によっておこなわれており、教育委員会としての判定基準はな
いに等しい。しかも、書類の受付や奨学金の支払いが解放会館でおこなわれるなど、
教育委員会の対応は奨学資金制度(一般)の対応と異なっている。
c.夜間学習会(地域補習)
荒本青少年教育センターや蛇草青少年児童センターなどでは夜間学習会がおこな
われ、中学校・高校の教師が兼業兼職の資格で参加している。1999年度は、表19
の通りである。しかも、荒本では青少年教育センターをはじめ2カ所で実施され、
中学生対象の学習会は「週2回実施、テスト前及び高校入試直前集中」、高校生対象
の学習会は「週2回実施、テスト前集中」という内容で実施されているように、実
際の内容は学校教育の予習・復習である。こうした地域補習は、同和地区外では実
施されていない。
表19 夜間学習会(地域補習) (1999年度実績) (略)
ロ.特別措置の終結について
教育上の特別措置は、基本的には教育上の格差の解消を目的に実施されてきたも
のである。当然のこととして、格差の解消にしたがって特別措置の廃止もしくは一
般対策への移行が検討されることは当然である。
ところが、東大阪市では、どの程度格差が解消されてきたのかを検証する手続き
がまったく不明である。児童・生徒を対象とした学力調査(教育委員会)も実施さ
れておらず、高校進学状況も、いわゆる「属地属人主義」の問題が影響して、正確
な統計も出されていない。同和奨学金の利用状況から推計される高校進学率は、表
20のような状況である。
格差解消のために実施されてきた施策の到達状況を検証する手続きを欠いたまま、
特別措置が漫然と実施されてきた可能性が高い。今日では、同和地区児童・生徒が
全体として学力が低いとか、高校進学が少ないとかいう根拠はなく、同和地区外と
表20 高校進学率の状況 (%)(略)
も共通して、学力問題・高校進学問題は、個別的階層的な問題となっている。また、
近年、高校進学率にかわって大学進学率の格差が問題にされているが、大学に進学
するか否かは、基本的に生徒の主体的な進路選択にかかわる問題であり、本人の意
思や努力、関係者との合意によって決定されていくべき性格の問題である。したが
って、大学進学率の格差自体は教育上の低位性を示すものではなく、教育行政上の
特別措置で対応しなければならない格差ではない。仮に、経済的な理由によって大
学進学率が困難な場合には、同和地区内外を問わず、「教育の機会均等」の理念から
奨学金制度の充実などによって解決されるべき問題である。
したがって、上記の特別措置は次のような方向にもとづいて廃止もしくは一般対
策へ移行することが必要である。
a.同和加配教職員
@ 同和加配教職員は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に
関する法律施行令」第5条に規定する他の加配教職員と同様に、いわゆる教育
困難校加配の一つとして配置されている。だが、今日同和校が特に教育困難校
であるとする根拠がなく、同和加配教職員制度自体が実状にあわなくなってい
る。実状にあわないままに、同和校という理由だけで加配されるとすれば、他
の学校とのバランスを著しく欠き、かえって部落問題の解決の障害となる。
したがって、同和を理由とした加配教職員は廃止し、実情に即した加配教職
員の配置に変更するように、国および大阪府に対して要求する必要がある。
A 人権擁護推進審議会「答申」(1999年7月29日)は、「現行のいわゆる同和
加配教員制度を、人権教育を推進するための教職員配置等に発展的に見直して
いく」ことを提起したため、国の同和加配教職員制度は近々に改組される可能
性が高くなっている。仮に、人権教育推進のための加配に改組された場合、同
和校に偏重した加配ではなく、今日の教育困難(登校拒否、いじめ問題など)
の解決に役立つ加配制度になるよう、大阪府に要求するとともに、東大阪市で
も追求する必要がある。
b.同和奨学金制度
@ 国のいわゆる同和奨学金制度は2002年3月で基本的に終了する(2002年4
月以降は新規の利用は認めない)。これに向けて、国および大阪府に対して、
一般の奨学金制度の充実を要求していく必要がある。
A 2002年4月以降に、東大阪市の奨学資金制度(市独自・一般)の大幅な拡充
(奨学金月額の大幅な引き上げと入学準備金の枠と額の拡大)を実現し、同和
地区内外に分け隔てない制度として確立することが望まれる。もちろん、選考
など市全体で一貫した方法が採用される必要がある。
c.夜間学習会(地域補習)
夜間学習会(地域補習)は、特定の地域に公費を使って教師が補習に出かけてい
るものである。同和地区の生徒のみを対象とした地域補習にはもはや合理的な根拠
がないだけでなく、行政の公平性の原則にも反し、ただちに予算支出は廃止すべき
である。地域補習が必要ならば、地域の自主的な努力の中で実施されていくべき性
格のものである。
(2) 同和教育方針と学校教育・社会教育
イ.同和教育方針について
学校教育・社会教育における同和教育は、東大阪市教育委員会「東大阪市同和教
育基本方針」(1968年6月15日)にもとづいて推進されてきた。この方針は、同
和対策の本格的な推進が開始される時期に制定されたものであって、方針が前提に
している教育実態は著しく改善され、方針が提起している課題も大きく解決されて
きている。したがって、この同和教育基本方針の歴史的役割は終わっている。
なお、その際、たとえば東大阪市教育委員会「学校教育一基本目標・重点目標」
(1999年度)の中で、「人間尊重の精神に徹し人権教育の実践を」が五つの重点目
標のーつに設定されていることは注目される(2000年度も同様)。ここでは、さま
ざまな人権問題が並列的にあげられ、それに対する正しい理解・認識・感性・態度
の育成が指摘されている。こうした状況を勘案すれば、もはや同和教育に関する独
自方針の必要性はほとんどない。
したがって、「東大阪市同和教育基本方針」は廃止し、部落問題に関する教育課題
は、一般的な教育方針の中に位置づけることが検討されるべきである。
ロ.学校教育・社会教育活動にかかわって
教育行政と教育実践(教育内容・方法)のかかわりで言えば、教育行政は「教育
の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」(教育基本法第10条)と「環境を醸
成する」(社会教育法第3条)責務をおっているのであって、教育実践そのものヘの
かかわりは慎重さが要求される。こうした教育実践にかかわっては、次の施策が検
討を要する。
@ 同和教育研究会への補助金など
現在、「東大阪市立学校園教育関係のすべての教職員」によって構成される
とする東大阪市同和教育研究会が存在し、学校における同和教育の推進をはか
っている。この研究会は、「本会の経費は、公費をもってあてる」(会則)とさ
れているように、東大阪市からの補助金(1999年度 144万円)で運営され、
指導主事も2名派遣されている。補助金が支出されている研究会は、これ以外
では東大阪市在日外国人教育研究協議会のみである。
学校教育関係者による研究組織は、本来任意の組織であって、運営経費もふ
くめて(若干の補助はあり得るとしても)自主的に組織・運営されるべきもの
である。状況に応じて教育行政が研究組織を立ち上げたり、特定の研究組織に
人的・財政的援助をおこなうことはあるとしても、その場合は、そうすること
の緊急性・必要性が教育関係者に理解されうるものであることが必要である。
同和教育研究会の発足当時はともかく、今日では同和教育方針と同様に、同
和教育研究会に対して特別の人的・財政的援助をおこなう緊急性と必要性は認
められない。同和教育研究会の活動自体、広く人権教育に転換している実状が
このことを示している。
したがって、補助金を大幅に削減し(若干の補助金はありうる)、指導主事
の派遣も廃止して、他の研究会と同様に自主的な研究組織として位置づけるこ
とが適切である。
A 同和教育副読本『にんげん』の無償配布(大阪府事業)
大阪府の事業として、同和教育副読本『にんげん』の無償配布がある。2000
年度は、教師用・学校用とともに、児童(小学生全員)・生徒用(中学1年生
全員)の副読本が無償配布されている。大阪府の事業ということで、毎年対象
となる児童・生徒全員に配布されてきたものである。
副読本はあくまでも教材のひとつである。どのような教材を選択してどのよ
うに教育するかは、すぐれて教師(教師集団)の専門職性にかかわる事柄であ
る。教師(教師集団)の求めに応じて、教育行政が配布することはありうると
しても、機械的に全員に配布するやり方は、どこまで活用されるのかという問
題もふくめて適切な方法ではない。
したがって、大阪府の事業がしばらく継続される場合でも、東大阪市として
は教師(教師集団)の求めに応じて必要部数を集約し、大阪府に報告するとい
うシステムに変更すべきである。
B 識字学級・婦人学級
非識字者解消を目的とした識字学級および女性を対象とした婦人学級は、い
ずれも同和地区住民を対象に解放会館で開催されている。解放会館のあり方と
かかわって、同和地区内外の住民が利用できる事業として工夫するとともに、
一般対策として実施されている「よみかき教室」「青少年婦人教養講座事業」
については、市民の要求をふまえた実施施設および予算拡充の検討が期待され
る。この中で、識字学級・婦人学級については一般対策として位置づけ、予算
規模の適正化も図る必要がある。
(3) 教育施設
イ.学校教育施設
教育対策の一環として、同和校4校(意岐部東小学校・意岐部中学校・長瀬北小
学校・金岡中学校)の校舎建築・校舎整備が進められてきた。こうした教育施設の
整備は、それによってかつて存在した劣悪な教育条件が改善されるだけでなく、他
の公共施設と同様に、同和地区内外の交流の促進に寄与することが期待されるので
ある。
この観点から四つの学校を検討すると、意岐部東小学校が特に検討すべき点が多
い。意岐部東小学校は、1999年度段階で市内の他の小学校と比較すると、敷地面積
(23,410u) はもっとも広く、設備も、体育館(1103u)はもっとも広く、特別教
室の数はずば抜けて多く(23教室、他の小学校は10教室未満)、プラネタリウムま
で存在する。しかし、その一方で、児童数( 143人)・学級数(6)は市内でもっ
とも少ない学校となっている。
このため、多くの工夫がおこなわれているにもかかわらず、校舎の有効活用は十
分機能していないだけでなく、校舎の管理に多大な労力がさかれている状況が見ら
れる。意岐部小学校の児童数の増大に伴って意岐部東小学校を新設(1976年度)し
たことは当然の施策であったとしても、意岐部東小学校の児童数および他の小学校
とのバランスにどれほど配慮したのかが問われる。
しかも、意岐部東小学校の児童に占める同和地区居住の児童の比率は、「義務教育
特別就学奨励金支給事業」(1972年度〜1994年度)の支給児童数をもとに検討する
と、1980年度は 411人中 208人(50.6%)、1985年度は 223人中 131人(58.7%)、
1990年度は 189人中 132人(69.8%)と次第に比率が高くなっている。1999年
度も、70%以上が同和地区居住の児童であることが推定できる(東大阪市行政資料、
200O年3月現在)。同和地区児童の減少に比べて、同和地区外児童の減少が大きい
(特に1980年度〜1985年度)。減少の要因は何であるかはともかくとして、結果
的に同和地区児童の比率の高い学校になっている。これは、同和地区内外の交流の
促進という観点からいって好ましい現象ではない。
以上の状況をふまえて、意岐部東小学校については、校区変更(他の校区も視野
に入れて)や校舎・敷地の有効利用などに関する検討委員会を組織し、そのあり方
について早急に検討を開始する必要がある。
ロ.社会教育施設
社会教育施設としては、青少年教育センター(荒本)と青少年児童センター(蛇
草)が設立されている。同様の施設は、市内には他に1施設 (青少年婦人センター)
しかなく、市内3施設の内2施設が同和地区に存在する。しかも、青少年児童セン
ター(蛇草)に地区外の児童・生徒が一定程度登録されてはいるが、2施設とも基
本的には同和地区の青少年・児童を対象にした活動を展開している。
したがって、現状は、同和地区内外の交流という点では十分機能していない。近
隣地域をはじめ全市的に開かれた施設として位置づけ直し、事業内容の検討と職員
数・予算の適正化が検討される必要がある。なお、荒本地域には、運動団体の分裂
を契機に子ども会活動が2箇所に分散されたことを理由として、青少年教育センタ
ーとは別にあらたなプレハブ施設が設置され、そこでの子ども会活動にも独自の職
員と予算が計上されている。こうした措置は、「子どもの健全育成を図るためには、
どちらの子どもたちにも分け隔てなく施策を行う」必要からであったと説明されて
いる。だが、公共施設(青少年教育センター)はもともと子どもを公平に扱うべき
責務がある。運動団体の分裂を理由に、公共施設が子どもを公平に扱えない状況に
なっているとすれば、それ自体が問題である。したがって、青少年教育センターへ
の一元化は、緊急の前提的措置である。
なお、こうした検討と並行して、東大阪市の子ども会( 260団体)への補助金
(「子ども会育成連絡協議会」の行事への補助)がここ数年68万4000円にとどま
っており、この拡充が検討されてもよい。
子ども会の活動内容に差異があるので、金額だけで単純に比較することは出来な
いとしても、ちなみに1999年度予算によると、荒本青少年教育センター経費、同
プレハブ施設経費及び蛇草青少年児童センター経費のうち、子ども会経費としてそ
れぞれ280万円、137万円、349万円、合計766万円が計上されている。
3 人権教育への転換について
前述したように、東大阪市教育委員会「学校教育−基本目標・重点目標」の中で、
「人間尊重の精神に徹し人権教育の実践を」が五つの重点目標の一つに設定されて
いる。
こうした方針を具体化するために、1997年度から教育委員会主催の「東大阪市人
権教育研究集会」の実施が計画され、そのための運営組織として、「東大阪市人権教
育研究集会推進協議会」(構成団体−教育委員会・市立学校園長会・同和教育研究会)
が組織されている。ここでは、「人権教育の創造をすべての学校園で追究」すること
とされ、全体集会とは別に実施されるエリア研究交流会(26中学校ブロックを5つ
のエリアに編成し、そのエリア毎に実施される分科会)には教員全員が参加するこ
ととされている。
同和教育としての独自的な課題がなくなってきている段階で、人権教育といった
より一般的な名称の実践を提起したものであるが、次の点に配慮した運営が望まれ
る。
第1は、人権教育という概念は日本においてそれほど定着した概念ではなく、多
様な解釈が可能な概念である。教育委員会などで、人権教育の推進の視点として提
起されている「個の確立」「他者との豊かな人間関係づくり」「地域子育て人権ネッ
トワークづくり」も、内容的には従来から学校教育において追求されてきた視点で
あり、人権教育に固有の視点とは言えない。これは、あくまでも、人権教育に関す
る一つの考え方を教育委員会として示したものである。
仮に教育委員会が人権教育という概念を採用し、一定の考え方を示したとしても、
学校や教師(教師集団)が別の概念や別の考え方をとることは当然ありうる。それ
ほど、人権教育は多様に考えられる。したがって、教育委員会としては、自らの見
解を示しつつも、学校や教師(教師集団)の多様な考え方を尊重するという姿勢を
とることが求められる。
第2は、したがって、「東大阪市人権教育研究集会」についても、全員を対象に呼
びかけ、参加要請をおこなうことはあるとしても、学校及び教師(教師集団)の参
加はあくまでも原則として自由であることを明確にした対応が求められる。
U.啓発対策について
1 基本視点
(1)啓発の2側面
1969年から本格的に実施された同和対策には、啓発活動が附随していた。当初か
ら啓発には二つの側面があった。一つは、行政が実施する同和対策について国民に
理解を求めるという側面(行政施策への理解)であり、二つめは、部落問題に関す
る国民の理解を高めるという側面(部落問題への理解)である。
「行政施策への理解」という場合、行政が実施する同和対策が啓発の内容となる。
なぜこの時期に、ここにこういう住宅を建てるのか、道路を整備するのかといった
理解を住民に得るということである。啓発の成否は、同和対策が住民の納得が得ら
れる合理性と手続きを備えているかにある。これに対し、「部落問題への理解」とい
う場合、部落問題にかんする国民の意識のありようが啓発の内容をきめる。啓発の
成否は、啓発の内容・方法が国民の意識状況に合致するかどうかにある。この二つ
の側面に配慮した啓発が求められてきた。
(2)「差別意識」の解消と啓発
だが、特に1987年以降は、啓発の2側面のうち「部落問題への理解」を求める
側面だけが重視され、国民の「差別意識」解消を目的とした啓発が強調されてきた。
こうした啓発の問題点は次の通りである。
第1は、「差別意識」を生みだす「新しい要因」の克服の無視または軽視である。
地域改善対策協議会「意見具申」(1986年)は、「新しい差別意識」を生みだす「新
しい要因」が存在するとして、「新しい要因による新たな意識は、その新しい要因が
克服されなければ解消されることは困難である」と指摘した。「新しい要因」とは、
次の四つである。
すなわち、@「行政の主体性」の欠如による「不適切な行政運営」が「国民の強
い批判と不信感」を招来していること、A「個人給付的施策の安易な適用や、同和
関係者を過度に優遇するような施策」が、「国民に不公平感」を招来していること、
Bえせ同和行為が「同和問題に対する誤った意識を植えつける大きな原因」となっ
ていること、C「同和問題について自由な意見交換ができる環境がない」ことが、
「差別意識の解消の促進を妨げている決定的な要因」となっていることである。
四つの要因のうち、@Aは行政施策に直接関係しており、Cも行政の実施する啓
発に関係している。こうした「新しい要因」の克服が、「差別意識」の解消にとって
不可欠だという指摘である。ところが、「新しい要因」の克服は、地域改善対策協議
会「意見具申」(1996年)が「差別意識を生む新たな要因を克服するための施策の
適正化」とわずかに指摘した以外は、1987年以降はほとんど問題にされてこなかっ
たのである。
第2は、国民の「差別意識」を問題にすることから、行政が国民一人一人の意識
をあれこれ詮索・評価することによって、国民の「内心の自由」を侵害する危険性
を内包しているということである。
したがって、国民の意識は、基本的には自主的な学習活動を基礎にして高められ
ていくものであり、行政は、そのために必要な情報提供や「環境を醸成する」(社会
教育法第3条)ことに責務をおっているという立場を明確にしてとりくむ必要があ
る。
第3は、教育と啓発の異同である。同和対策が本格的に展開されだした当初、教
育と啓発はまったく別の活動として説明されていた。ところが、特に1987年以降、
国民の「差別意識」解消を目的とした啓発が強調されてくるにしたがって、「国民の
基本的人権尊重の精神」の高揚を目的とした教育と区別がつかなくなってきた。そ
の結果、文部省も1990年代に入ってから啓発にもふれるようになってきたのであ
る。
だが、学校教育では、啓発という概念はなじみがないだけでなく、内容的には教
育という概念で十分説明できるものであり、あえて使う必要のない概念である。し
たがって、啓発概念は、学校教育にかかわっては使用することはやめて、市民対象
の活動に限定して使用することが望ましい。
2 啓発の現状・問題点と課題
(1)啓発の現状と問題点
これまで、同和対策に関連した東大阪市の啓発事業は、人権文化部・人権啓発室、
人権文化部・同和対策室、経済部・労政室、教育委員会・人権教育室などを中心に
啓発冊子の作成、啓発用機材の購入、啓発講座の開催という形で実施されてきた。
これらは、いずれも同和地区住民に対する「差別意識」がまだ残されているという
認識を前提にして、「差別意識」解消を目的に実施されてきたものである。
そして、1999年度及び2000年度からは、国の方針の転換ともかかわって、東大
阪市でも同和問題を人権問題の一つとしてとらえ、人権問題全体の啓発(人権啓発)
の中に位置づけることが進められてきている。
だが、これは、啓発の一つの側面(部落問題への理解)に関する対応であって、
もう一つの側面(行政施策への理解)に関する課題は大幅に残されている。すなわ
ち、@「行政の主体性」の欠如による「不適切な行政運営」が「国民の強い批判と
不信感」を招来し、A「個人給付的施策の安易な適用や、同和関係者を過度に優遇
するような施策」が「国民に不公平感」を招来しているという状況は、東大阪市に
おいても少なからず存在する以上、これらの問題の解決は啓発の推進にとっても不
可欠だということである。
逆に言えば、「不適切な行政運営」や「個人給付的施策の安易な適用や、同和関係
者を過度に優遇するような施策」を改善し、改善した状況を積極的に市民に示すこ
と(啓発)が、市民の「不信感」や「不公平感」の克服、ひいては部落問題の理解
にもつながるはずである。
(2)啓発に関する課題
イ.行政施策への理解
現在、同和行政の終結と一般対策への移行のとりくみがおこなわれている以上、
その内容や到達状況を市民につたえ、意見を聴取することは重要な啓発課題である。
したがって、次の二つの内容を同和対策に関する啓発として実施する必要がある。
@ 今後さらに明確にされる同和行政の終結と一般対策への移行の方針を市民に公
表し、意見を聴取すること。
A 方針の具体化の状況と到達点をその都度市民に公表し、意見を聴取すること。
ロ.人権問題への理解
今後の啓発として、「人権問題への理解」を内容とする人権啓発が提起されている。
こうした人権啓発にとって、次の点が課題である。
@ 人権に対する市民の理解は不十分であるという認識を前提にした、行政があた
かも市民の意識変革を担うかのような啓発はやめるべきである。意識変革の主体は
あくまでも市民であって、人権問題についての理解も基本的には市民自身の自主的
な学習活動を基礎にして高められていくものである。
A したがって、行政としてできることは、第1に、学習会・講演会などの開催を
通して、人権問題に対する多様なものの見方・考え方、知識などを提供(情報提供・
広報)して、市民の参考にしてもらうということである。その際、当然のこととし
て、自主的な参加と発言の自由が保障されることが条件となる。
第2は、より積極的には、市民の自主的な学習活動の発展を援助するための条件整
備を進めることである。
行政は、こうした市民の自主的学習を促す機会を提供したり、自主的学習そのもの
の発展を援助したりする活動が求められるということである。この点で、社会教育
の役割は大きいといえる。
付 表(略)
資 料
東大阪市同和行政研究会設置要綱
(設置)
第1条 本市における同和事業の終結に向けて、現状を分析し、実態を踏まえて考
え方を整理するとともに今後の方向性、課題等について研究するため東大阪市同
和行政研究会(以下「研究会」という。)を設置する。
(担任事務)
第2条 研究会は、次の各号に掲げる事項について調査し、及び研究するものとす
る。
@ 本市の同和行政の現状の整理及び分析に関すること。
A 本市の同和事業の終結に向けての方向性及び課題に関すること。
B 前2号に掲げるもののほか本市の今後の同和行政に関すること。
(組織)
第3条 研究会は、市長が設置する同和行政の今後の基本方針に係る専門委員(以
下「研究員」という。)をもって組織する。
2 研究会に会長及び副会長を置き、研究員の互選により定める。
3 研究会の会議は、会長が招集し、主宰する。
4 研究会は、会議に職員その他の関係者の出席を求め、意見又は説明を聴くこ
とができる。
(任期)
第4条 研究員の任期は、前条第1項の専門委員の任期による。
(庶務)
第5条 研究会の庶務は、市長公室において処理する。
(委任)
第6条 この要綱に定めるもののほか、研究会の運営に関し必要な事項は、会長が
定める。
附 則
1 この要綱は、平成11年11月21日から実施する。
2 この要綱の実施後最初に行われる研究会の会議は、第3条第3項の規定にか
かわらず、市長が招集する。
同和行政研究会 研究員(専門委員)名簿
氏 名
会 長 神戸大学名誉教授 杉之原 寿 一
副会長 立命館大学名誉教授 真 田 是
研究員 弁護士 石 川 元 也
研究員 滋賀大学教授 梅 田 修
研究員 龍谷大学教授 広 原 盛 明
(研究員:五十音順)
東 大 阪 市 同 和 行 政 研 究 会 開 催 経 過
回 数
開 催 日
検 討 項 目
第 1回研究会
平成11年
11月21日(日)
委嘱式、今後の進め方等
第 2回研究会
12月27日(月)
人権文化部、教育委員会ヒアリング
第 3回研究会
平成12年
1月18日(火)
経済部、環境事業部、保健衛生部、建設局建
築部ヒアリング
第 4回研究会
1月31日(月)
福祉部、児童部ヒアリング
施設見学会(荒本解放会館、荒本障害者セン
ター、荒本共同浴場、市営荒本住宅、蛇草診
療所、蛇草老人センター、蛇草共同作業所)
第 5回研究会
2月21日(月)
研究員によるミーティング
第 6回研究会
2月22日(火)
研究員によるミーティング
第 7回研究会
3月16日(木)
研究員によるミーティング
第 8回研究会
4月 3日(月)
研究員によるミーティング
第 9回研究会
4月27日(木)
午前 市長、助役等との意見交換会
午後 研究員によるミーティング
第10回研究会
5月19日(金)
研究員によるミーティング
第11回研究会
6月 5日(月)
研究員によるミーティング
第12回研究会
6月19日(月)
研究員によるミーティング
第13回研究会
7月10日(月)
午前 研究員によるミーティング
午後 関係部長からの再ヒアリング
第14回研究会
7月17日(月)
午前 関係部長からの再ヒアリング
午後 研究員によるミーティング
第15回研究会
8月 7日(月)
研究員によるミーティング
8月16日(水) 市長に意見書の提出