ビューマスターを知ってますか


 左の写真がビューマスター(View Master)です。だいたいが玩具売り場にあるので、世の中ではおもちゃとして扱われているのですが、これがなかなか奥が深いのです。写真が飛び出して見える3Dの元祖みたいなものです。60年代にかなりはやったので、私の年代までの方はご存知とおもいます。最近はほとんどみかけませんが、それでもファミリーレストランのおもちゃコーナーにあったりします。レバーをかちゃかちゃ動かして画像を一枚ずつ送りながら見ていきます。リールと呼ばれる円盤一枚に七つの画像がはいっています。

 初めて見たのは小学生の時で、デパートのガラスケースに見本がのせてありました。手にとって覗いてみると、木の上から下を見ている写真で、地上には西洋人の少年が二人立っています。間近の枝には小鳥がとまっています。飛び出すように見える手前の葉の繁みを透かして、離れたところの子供達までの距離が立体的に見えます。音と動きのない像のなかで、時間が停止してしまった不思議な静けさを感じました。

 こういった静けさは、もうちょっと年齢が進んでから美術館などで感じるようになった感覚と似ています。札幌にいたころ、まだ古い建物だった道立美術館に三岸好太郎の絵を見に行きました。訪れる人もそれほど多くなく、普段は入場無料だったような気がします。歩くとぎしぎし音をたてる木の床から、なつかしい油のにおいがかすかにしました。札幌の乾いた空気のなかにはすがすがしい静けさがあります。それは、美術館の白い壁を通り抜け、ひろびろとした空間の彼方までつながっているように感じられます。そして、絵のなかにはいっそうの静寂があるのです。形から動きが取り去られ、時間は停止しています。それを眺めていると、自分もその時間の無い世界にはいりこんだような気になってきます。かすかに聞こえる空調の音が、無音であるよりもなおさら静けさを感じさせます。

 絵画がその静けさのなかに定着させているものはそう単純ではありません。それは、画家が持ち合わせているコンテクスト(「音楽の受容における食い違い」に音楽の例で説明しています)に基づいて視界のなかから読み出したものなのです。多義的な現実の姿から画家が選び出した視角は、画家の心の状態を画布に定着させたものでもあります。絵のなかの像の持っているこの確定的な性格がゆるぎない落ち着きにつながっています。

 それではビューマスターのもたらす静けさはなにかと言うと、それはまた少し違ったものです。ビューマスターのだいたいの像は、ごくありふれたアングルで世の中のものを単純に写しています。多義的な現実そのものの無性格的なところに、味の無い水のような安心感をがあります。そこには形や距離や色といったもの以上のものは含まれません。形がひとりぼっちになった静けさなのです。そして平面ではなく立体として見えてくることで、この形には不思議な存在感があります。気に入ったものを見ている時は、現実を忘れて仮想の世界に入っくことができます。

 私が持っているのは十年くらい前に海外で買ったもので、子供へのおみやげでした。上の写真のものです。子供は普通のおもちゃ程度にしか関心を示しませんでしたが、自分の方がはまってしまいました。それからは、あちこちの旅行先でリールを見かけては買い集めてきました。なかなか私の好みに合ったものがなく、一つのリールで一つか二つといったところでしょうか。それを少しでも集めようと、旅先のみやげ物屋などは必ずのぞいてきました。残念ながら最近はほとんど見かけなくなりましたが、こういった単純な仕掛けでは、これから広まることもないのでしょう。

 先日エッフェル塔の展望台で少し違った形のものを見つけました。右の写真がそれで、ご覧の通りたて型のスライドです。名前もLESTRADEとなっています。一緒に売っていたパリ観光のスライドをまとめ買いしたら結構な値段になってしまい、少しあわてました。早速覗いてみると、画像の具合はビューマスターと同じです。全部で数枚のスライドを買ったのですが、気に入った映像はやはり数種類くらいです。これも私が一風変わった物を見ようとしているからで、作っている人達のせいではありません。


(註) やっぱりありましたビューマスター関連サイト。そのなかから情報の充実しているアメリカのサイトを二つご紹介します。一番のおすすめは50年代からのモデルの変遷が貴重な写真で見られるもので、URLは以下のとおりです。リールのリストも充実しています。

   http://redwood.northcoast.com/~shojo/View/vm.html

もう一つはビューマスターの通信販売です。一台500円でした。URLは、

   http://www.circa.com/viewmaster/


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1997年10月4日