見上げる形の写真集 (増上寺の軒)
大きな屋根を下から見上げると、軒の内側に独特の気配があることがわかります。屋根の表面が外に向かっているのに対して、軒の内側は屋根によって囲われた内部なのです。軒の内側には屋根を支える梁などが見えることがありますが、それによって本当は隠されるべき内部が露出してしまったように感じられます。また、空間に張り出た軒は、大きければ大きいほど重力に逆らった不自然さとそれを保つ剛性を感じさせます。こういった性格が重なって軒はそれも見る人に独特の印象をもたらしますが、それをさらに強調するのが影です。影はいつでもやすらかな静けさをもって誘います。影のなかにはいるということは、押さえつけられていたものを人目から離れて解き放つことにつながるような気もします。ひそやかなよろこびを秘めた影が頭上にある時、形に特別の奥行きを与えるのです。
こういった軒の影を探しに芝の増上寺に行ってきました。下の写真は大門ですが、日陰が真っ暗に写ってしまいました。欄干がそこが内部であることを感じさせます。その上に大きく張り出した屋根がお寺の威厳を感じさせ、威圧的な影にしばし圧倒されます。
下の写真は鐘楼です。大門に比べてこじんまりしているため、差し出された軒もずっと親しげに見えます。ここの影の独特の静けさとゆったりとした気分を感じていただけるでしょうか。光の溢れた日向に対して、影は憩いと静止でもあるのです。それにしても、屋根の瓦というものは、なんとも意味ありげなものです。その下の空間を特別なものにする力は、瓦屋根の重みと独特の細かい形の反復です。
次は二枚は本堂の横の安国殿の軒です。普通の住居の軒に近い雰囲気があります。これを見上げていると、子供の頃に家の裏で感じた寂しさと、わくわくした気分を思い出します。壁によって隔絶された気分を屋根の重さが増幅させているのかもしれません。軒の頭上におおいかぶさって圧迫しますが、一方ではまわりから保護されている安堵でもあります。そういった壁と屋根の力にわくわくするのだと思います。
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家の裏手についての記憶は多分に個人的なものですが、軒の影には心の中に沈んでしまっているいろいろな想いを吸い上げる不思議な静けさがあるような気がします。
影について谷崎潤一郎が書いた文章があることがわかりました。「陰翳礼賛」で紹介しています。
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